冬に差し迫ったある秋の日、エルフの森の山を二人の子供が少し大きな籠を背負って走っていた。
人間の子供ではなく、獣と人の特徴が入り交じった種族だ。
その二人の名前は、リチとトト。ある獣人の集落に住む双子の姉妹である。
双子は今、冬越えのために食料を集めているところだ。二人が住む集落は嫌戦的な者達ばかりで、狩りすら必要最低限しかしない。しかし、今年はどうにも狩りが上手くいかず、森の実りを集めないと冬を越せないということが分かったために、まだ幼い姉妹だったリチとトトも駆り出された。
「ねえ、リチ……むこうから、なにかくる……たぶん、くま」
「かくれよう、トト。いまそうぐうしたら、アザルをとられる」
トトはそう言いながら、近くの巨木の根元の洞を指差した。そこに、二人は隠れた。入り口は狭いために熊は入ってこれないだろう。しかし、二人はどうしようと考えながら洞の中を見回した。
そして、それを見つけた。
「トト、へんなのがある」
「うん、きのうまではなかった」
二人が見つけたのは、黒いドアだった。
二人はここ数日、今居る場所で実りを回収し続けていた。それにより、今居る場所近辺の地形や木の本数まで把握している。しかし、今二人の目前にあるドアのことは知らない。
「どうする? くま、ちかいよ?」
「このうらがわにかくれよう」
リチはそう言いながら、ドアノブに手を伸ばした。すると、ドアノブが動くことに、リチは気付いた。
「あれ、うごくよ?」
「うごく?」
「うん。こうやって」
トトの問い掛けに、リチは手首をグルリと捻ってドアノブを動かした。それを見ようとトトがリチの背中に乗っかると、それで押されて、ドアが開いた。
「わわっ」
「うわわっ」
バランスを崩して前に転びながら、二人はドアを潜った。
「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこ……そ?」
そんな二人を最初に出迎えたのは、アレッタだったが、アレッタは首を傾げた。
まず、二人が幼い子供だったこと。そして何より、二人の種族を知らなかったからだ。種族的には、アレッタと同じ半魔族になる。
「あれ? ここどこ?」
「よーしょくのねこや? って、なに?」
リチとトトの二人は、突然違う場所に出たのが不思議らしく、周囲をキョロキョロと見回した。
流石に幼い双子にどう接すればいいのか分からず、アレッタだけでなく早希も固まった。そこに、たまたま料理を提供するためにフロアに出ていた店長と明久が近寄り
「ここはね、めしを出すところなんだ」
「君たちが知らない料理が、いっぱい有るよ」
と説明した。
「めしって……ごはん?」
「ここで、たべられるの?」
「ああ、そうだよ」
「その林檎……じゃなかった。アザルを使ったアップルパイもあるよ」
「アップルパイってなに?」
「甘いお菓子ってところだな」
店長の説明を聞いて、二人は目を輝かせながら
「あまいの!?」
「たべたい!」
と尻尾を振った。そんな双子を見て、店長と明久は微笑ましく思いながら
「わかった。アップルパイを持ってくるな」
「だから、そこの椅子にお行儀よく座って、待っててね」
と双子を、近くの席に座らせた。
双子が椅子に座ったのを見た店長は、早希とアレッタに
「あのドアな。たまに子供だけを呼ぶことがあるんだ。まあその時は、今みたいに普通に案内してくれ」
と教えた。
その後、双子に水を出した。そして
「お待たせしました。アップルパイです!」
とアレッタが、アップルパイを乗せたお皿を双子の前に置いた。
「これが、アップルパイ?」
「あかくもしろくもないよ?」
「これはね、甘く煮たアザルを使ったケーキなんだ。この黄色いのが、そうだよ」
まるで親戚の子供に話し掛けるように、早希はリチとトトにそう教え、それを聞いた二人は興味深い様子だ。
しばらく見た後、双子は
『いただきます』
とアップルパイを一口食べた。
そして、驚いた。
「おいしい!」
「うん、おいしい!」
口に含んだ時、最初に感じたのはサクサクとした食感。しかしすぐに、ほのかな酸味を含んだ甘さが口の中いっぱいに広がった。
リチとトトは即座に、その味に魅了されて夢中で食べ、その光景を、たまたま先に来ていた他の客達は微笑みながら見ていた。
「おいしいかったね、リチ!」
「そうだね、トト!」
初めて食べた味に、二人はすっかり魅了され、尻尾をユラユラと揺らしていた。そこに、店長が来て
「美味しかったかい?」
と問い掛けた。双子が満面の笑みで頷くと、店長は
「今回はサービスにしとくから、次からはこのお金を持ってきてくれるかな? そうすれば、もっと食べることが出来るからな」
と言いながら、銀貨を双子に見せた。
双子は少しの間銀貨を見ると、あっと声を挙げて
「これ、みたことある!」
「うん、しってる!」
とはしゃいだ。お金を知っているようだ。それを聞いた店長は
「じゃあ、持ってきてくれな。そうすれば、もっと美味しい料理も食べることが出来るからな」
と言って、双子の頭を撫でた。その後、双子に異世界食堂は7日に一度開くことを教えて、一同は見送った。
戻った双子は、熊が居ないことを匂いと音で確認してから、洞の外に出た。
そして
「そういえばおかねだけど、いろがちがったけどだいじょうぶかな? あのひとがみせてくれたのはしろだったけど、しってるのはきいろだったよ?」
「うーん……まあ、ちがうのはいろだけで、まったくおなじだったから、だいじょうぶだよ!」
と言いながら、アザルが入った籠を背負い直して、集落に向かった。
この双子が言っているのは、双子が住む集落の近くの洞窟で見つけたお金で、かなりの量がある。しかし、集落ではお金という知識が無かったので、それがお金と分からず、ずっと放置されていた。
そして、無知だったが故に、それが遥か過去にあるエルフが使っていた研究所跡だと知らず、そこにはまた使えるようにと莫大な財産が隠されていたのだ。
しかも、全て金貨で、最も希少かつ価値が高い古代エルフ金貨。それ一枚で、普通の金貨10枚分に匹敵するという金貨。
彼女達がそれを知るのは、7日後に行って、たまたま居合わせたトマスが見てからになる。
その後、ある集落では7日に一度。アップルパイが集落に住む人達全員に振る舞われるようになったというのは、余談である。