異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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39皿目 ツナマヨコーンパン

「……ん、よし! 上手く出来た!」

 

そう意気込んだのは、オーブンから焼きたてのパンの乗った鉄板を出した少年。

木村将太(きむらしょうた)である。彼はオーブンから出したパンを、手早く入れ物に詰めていく。その中、一つのパンを持って

 

「……焼きムラ、焦げ……無し!」

 

と確認してから、それだけは別に紙の袋に入れた。そして、数を数えてから

 

「父ちゃん! ねこやに行ってくるね!」

 

と告げてから、エレベーターに向かった。

 

ベーカリーきむら

 

ねこやビルの二階に店舗を構えるパン屋で、街で知らぬ人は居ないと言われていて、ねこやと提携を結んでおり、ねこやで提供されるパンは全てそこで作られている。

将太はそこの一人息子で、将来は店を継ごうと小学生の頃からパン作りの修行を始め、少しずつだが任されるようになってきた若きパン職人だ。

 

(今日も居るかな、あの子……!)

 

将太は台車をゴロゴロと押しながらエレベーターに乗ると、ねこやのある地下一階に向かった。

本来なら、ねこやは休みの筈の土曜日。

そこに数ヵ月前に新しく雇われた、外国人らしい少女。整った目鼻に、少し変わった髪飾りをしているが、綺麗な金髪が特徴の少女。アレッタ。

 

「こんにちはー! ベーカリーきむらです!」

 

エレベーターから降りると、将太は奥に向かって声を上げた。少しすると、奥から

 

『明久、対応頼んだ』

 

『はい、分かりました』

 

と声が聞こえて、明久が現れた。

 

「おはよう、将太くん」

 

「あ、はい。おはようございます!」

 

明久が出てきたことを残念に思いながら、将太は礼儀として挨拶した。

礼儀に関しては、両親から厳しく叩き込まれた将太は、ありし日のことを思い出して頭頂部を擦った。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

明久が問い掛けると、将太は素早く答えた。

そして明久は、一つの箱の蓋を開けて

 

「ん、今日もいい出来だね……流石」

 

とパンの出来を確認した。パンの出来を確認した明久は、将太が出した紙にねこやのスタンプを捺して

 

「ただ、まだ仕込みが出来てないからね……アレッタちゃん! 手伝ってあげて!」

 

と奥に声を掛けた。すると

 

「はい、分かりました!」

 

と直ぐにアレッタが現れた。

いきなりアレッタが姿を現したことで、将太が固まっていると

 

「パンの納入を手伝ってあげて」

 

「はい! 将太さん、着いてきてください!」

 

「は、はい!」

 

アレッタの先導に、将太は緊張しながら着いていった。

 

「んー……青春……?」

 

「明久さん? どうしました?」

 

「いやいや、なんでも……」

 

お皿を持って現れた早希が問い掛けると、明久はそそくさと厨房に戻った。

その間、アレッタと将太は

 

「それじゃあ、直ぐに使う分は直接貰いますね」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

アレッタは別途用意したゴンドラに、コッペパンや食パン、バターロールを乗せていく。実はこの時、まだ焼きたてパンからはいい匂いがしていて、それがアレッタの食欲を刺激。

朝食がまだだったアレッタのお腹が、小さく鳴っていたのだが、将太は緊張から気付かなかった。

そしてアレッタは、内心で

 

(うわぁぁぁぁぁ……今の、聞こえたかなぁ……恥ずかしいよぉぉぉ……)

 

と頭を抱えて、身悶えていた。

アレッタは確認の意味を含めて、将太の方に視線を向けた。この時将太は、半ば無我の境地でパンを次々と仕舞っていた。それが終わると、将太は一つ残った紙袋を掴み

 

「あ、あの! アレッタさん!」

 

とアレッタの方に向いた。

 

「は、はい! なんでしょうか?」

 

いきなり呼ばれたことに驚きながらも、アレッタは体を将太の方に向けた。すると将太は、持っていた紙袋を差し出しながら

 

「こ、これ! 俺が作りました! 親父にも、店に出しても問題ないって許可は貰いました! どうぞ、食べてください!」

 

と告げて、頭を下げた。

 

「え、えっと……」

 

とりあえずといった様子でアレッタは、その紙袋を受け取った。すると将太は、台車の取っ手を掴んで

 

「で、では……失礼しましたぁぁぁぁぁ!!」

 

と叫びながら、エレベーターの方に駆け出した。

 

「あ、しょ、将太さん!?」

 

アレッタが慌てて呼び止めるが、将太はその勢いのままエレベーターに突っ込み、姿を消した。

 

「え、えっと……」

 

「何事だ?」

 

そこに通り掛かったのは、トイレから戻ってきたらしい店長だった。

 

「あの、実は……」

 

困っていたアレッタは、経緯を店長に話した。

すると店長は

 

「なるほどな……食べてやったらいいんじゃないか?」

 

とアレッタに告げた。

するとアレッタは、困惑した様子で

 

「で、でも……お店で出す食べ物を、食べてもいいんですか?」

 

と問い掛けた。

 

「いいんだよ。それ、将太くんから直接貰ったんだろ? だったら、食ってやれって。ベーカリーきむらの惣菜パンって、近所じゃ知らない人は居ないほど美味しいんだ。しかも、お店で出しても問題ないって許可貰ったんだろ? なら、食ってやれって」

 

「は、はい……」

 

店長に言われて、アレッタは紙袋の中からそのパンを取り出した。

ツナマヨコーンパンである。

 

「おお、これを任されるようになったのか。上達したんだな、将太くん」

 

店長はそう言うと、仕込みへと戻っていった。

ツナマヨコーンパンはベーカリーきむらでは人気商品の一つで、それを任されるようになったということは、将太の腕が上達したことの証拠である。

 

「そ、それじゃあ……」

 

一足早い朝食に気が引ける思いだが、アレッタはツナマヨコーンパンを一口食べた。すると、口の中に様々な味が広がった。

ツナの魚の風味とマヨネーズの濃い卵の風味。そしてコーンのしゃきしゃきとしながらも仄かな甘み。それらが一気に口の中に広がり、それらをパンの塩気が上手く纏めている。

 

「あ、美味しい……」

 

その美味しさに、アレッタは思わず感想を溢し、パンを食べ始めた。食べる度に、新たな旨味が口の中に広がっていく。しかも、それを作ったのが自分と大して変わらない少年の将太なのだから、アレッタとしては驚きだった。

 

「ん、美味しかった……」

 

そう呟きながらアレッタは、紙袋を丁寧に畳んだ。そこから、アレッタの性格が伺える。

そこに、パンを取りに来たらしい早希が

 

「ん、どうしたの?」

 

と問い掛けてきた。一瞬驚いたアレッタだったが、すぐに詳細を説明。すると早希は

 

「……青春だなぁ」

 

と先ほどの明久と、同じように呟いた。

その言葉の意味が分からず、アレッタが首を傾げていると

 

「ううん、なんでもないよ……」

 

と早希は首を振った。実は、この時内心で

 

(将太くん……頑張れ)

 

と早希は、将太にエールを送り、その将太はくしゃみをして、父親に殴られたとか。

そして早希は、アレッタに

 

「その感想は、ちゃんと将太くんに言ってあげてね」

 

と告げて、ゴンドラを押していったのだった。

そしてアレッタは、ツナマヨコーンパンが入っていた紙袋を見ながら

 

「次は……お昼頃かな?」

 

と将太が来るかもしれない時間を思い出していた。

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