異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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40皿目 クレープ

「陛下!」

 

「分かっています……我等の領内の出来事に、私が気づかない訳がありません」

 

文字通り飛んできた部下の言葉を遮る形で、玉座に座っていた人物。

フェアリーの女王、ティアナ・シルバリオ16世は険しい表情を浮かべながらそう返した。

フェアリー、掌に乗るサイズの小さな体と背中にある蝶を彷彿させる翅による飛行が特徴的で、更には卓越した魔力と魔術を使う種族で、東大陸の人の手が一切入っていない常花の国と呼ばれる小さな国に住んでいる。

その国は千年という長い間栄えた国であり、約100年前に起きた邪神戦争の時には、人間の連合騎士軍と魔族軍が前線基地建設のための土地にと、常花の国に侵攻した。だがフェアリーは、双方の軍に多大な被害を与えた。一回の侵攻の度に、数百以上の騎士と魔族が次々と死んでいき、少しすればそこは双方から禁止区域として指定され、以後は誰も入らなくなった。

その後は百年間、平和に過ごしていた。

しかし、今から数年前から近くに奇妙な魔力を感じるようになっていき、とうとうティアナが居る王城の前にそれが現れた。

彼女達から見れば、巨大な扉。ねこやの扉である。

 

 

「陛下、如何いたしましょう……」

 

「……調べましょう。もし何者かによる侵攻ならば、この扉を破壊します」

 

部下からの問い掛けに、ティアナはキッと扉を見詰めながらそう返答。そして魔術により、ゴーレムを作った。

草花を編んで作られたゴーレム。見た目通り非力だが、扉を開ける位は造作もない。

そして開けられた扉、余りにゆっくりと開けられたからか、カウベルも鳴らず、フェアリー達が入ってきたことに気づいた人物はほぼ居なかった。

 

「ここは……」

 

呆然と呟いたのは、部下の誰か。しかし、その気持ちはティアナにも分かるものだった。

そこでは、人と魔族、半魔族、問わずに料理を食べているからだ。

 

「ふむ……あの人物に聞いてみよう」

 

ティアナがそう言って近づいたのは、プリン・ア・ラ・モードを食べていたハーフエルフの王女。ヴィクトリアだった。

 

「そこの者。見たところ、腕のある魔術師と推察する。我は花の国の女王。ティアナ・シルバリオ16世。もし良ければ、ここがどういう場所か教えてはいただけぬだろうか?」

 

「私は、サマナーク公国王女。ヴィクトリア・サマナーク。花の国の女王に出会えて、光栄に思う……そしてここは通称、異世界食堂。異世界のねこやにあの扉を通じて繋がり、食事をする場所」

 

最初はティアナ達に驚いたヴィクトリアだったが、すぐに名乗ってから、異世界食堂のことを説明。

なお、ヴィクトリアが驚くのも無理ないのだ。フェアリーはいささか閉鎖的な種族で、極希に外に旅に出る者が居る程度。ハーフエルフとして長く生きているヴィクトリアでも、初めて出会ったからだ。

 

「なるほど……調理された食べ物を供する場所か……そういえば、旅から戻ったものに聞いたな」

 

ヴィクトリアからの説明を聞いたティアナは、腕組みしながらそう呟いた。

そこに、料理を持った明久が現れて

 

「っと、お客様! すいません、気づかなくて」

 

とティアナ達に気づいた。

 

「洋食のねこやにようこそ、お客様」

 

明久の声に気づいたらしく、早希がメニューを持って現れた。

すると、ヴィクトリアが

 

「彼女達には、クレープのフルーツミックス。ホットケーキのように、小さく刻んでくれるとありがたい」

 

と頼んできた。

フェアリーだが、好んで食べるのは花の蜜や花畑になる果実。それを考えると、甘いのは確定する。そうなると一番確実なのはパフェだが、底が深いので駄目。次にプリンだが、カラメルソースが苦いために、苦味が苦手なフェアリーには受け入れられないだろう。

そうなると、フルーツが最適になる。しかし、人間サイズのフルーツでは食べられない。

だから、細かく切ったフルーツを使うクレープのフルーツミックスが最適なのだ。

 

「承りました。少々お待ちください」

 

注文を受けた明久は、早希と一緒に下がった。

そして、数分後。

 

「お待たせしました、クレープのフルーツミックスです」

 

とフェアリー達の前に、細かく切ったクレープの皿が置かれた。切る際にフルーツが無い箇所が無いように、細心の注意を払って切ってある。

 

「では、ごゆっくり」

 

早希はそう言って、下がっていく。

 

(ほう、これがクレープか……人間は面白い物を考えるな)

 

ティアナは更に盛られているクレープを見ると、近寄り

 

「では、我が食べる」

 

「そんな! 毒があるかもしれないんですよ!?」

 

「だからこそ、だ。我の魔術の前に、あらゆる毒は意味を為さない」

 

歴代でも随一と呼ばれる魔力の量と魔術の腕を誇るティアナは、そう言ってからクレープを1つ取ってから口に運んだ。

実際は、料理人たるプライドで毒なんて入れる訳がないのだが。

 

(む? 味がしないが……)

 

そう思いながらティアナは、更に一口。生クリームの部分を食べた。すると、目を見開き

 

(素晴らしい! 濃厚な味だが甘さがしつこくない!

それに、この果実は……甘い果実を更に甘い水に漬け込んだ物か!?)

 

ティアナが知る限りでは最高に甘い果実を、更に甘くした果実を包み込んだクレープ。先に食べたのは、橙色の果実(ミカン)だったが

 

「まさか……」

 

その推測を確かめるためにティアナは、今度は真っ赤な果実を包み込んだクレープを手に取り、食べて

 

(やはり! 一つ一つが、全く違う工夫で甘くされている! なんという技巧だ!)

 

赤い果実(いちご)は貴重な砂糖で甘くトロトロになるまで煮詰められており、時々来る酸っぱさで口の中の甘さが洗われる。

そんな味、ティアナは初めて食べた。

 

(ああ……これは、まさに毒よ……魅了の毒……)

 

ティアナは既に、クレープに魅了されていた。そこに、部下の一人が

 

「へ、陛下……如何でしょうか……?」

 

と問い掛けてきた。

 

「ああ、問題ない……食べてよいぞ」

 

ティアナがそう言うと、部下達は1つずつクレープを取り、食べ始めた。そうすると、眼を輝かせながらクレープを食べている。それを横目に見ながら、ティアナは一緒の机でプリンを食べていたヴィクトリアに

 

「……ヴィクトリア王女よ、感謝する。これは礼だ。とっておくがよい」

 

と腰の袋から、常花の国の秘宝たる花の種を差し出した。

 

「これは、我が国で取れた花の種……お前ならば、その意味は分かろう?」

 

「……いいの?」

 

一見、何処にでも有るように見える花の種。しかしその花は、遥か昔に常花の国以外では全滅したとされており、それを煎じて飲めば一歳若返り、更には強力な魔術や薬品の触媒にも使える品。

その種から溢れる膨大な魔力に、ヴィクトリアはその種が本物と分かった。もし市場に流通すれば、正に天文学的な金額が付けられる品で、サマナーク公国の宝物庫にも一粒だけが、厳重な警備で保管されている。

 

「ああ、構わぬ。人間達にとっては貴重と聞くが、我にとっては相応に手に入る代物でな」

 

「……分かった。ならこちらは、以後貴女方の料理の代金を支払うことを確約する」

 

僅か数粒だが、貰った物を考えれば、それでも足りないだろう。ヴィクトリアも人間離れした年数を生きるが、それでも貰った物を超える金額を払えるとは思えなかった。

 

「重ね重ね、感謝する」

 

人間との交流が殆ど無い常花の国では、貨幣が無い。支払いを危惧していたティアナだったが、はからずも解決したことに安堵した。

それから7日に一度行くのは決まったのだが、常花の国に住む数千に及ぶフェアリーが押し掛けては、流石に迷惑だろうと、一回に行くのは、二百人まで。それも、厳選な抽選で選ばれた者のみとなった。

そしてティアナを悩ませることになったのは、7日毎に開かれる通称ねこや会議で、どれを注文するかという会議になるのだが、この時は知るよしも無かったのだった。

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