異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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今回は短めです


41皿目 タンメン

「さて……今日のまかないはどうするか……」

 

「旅小人のお客さんが何人か来たから、食材が粗方無いですね……」

 

お昼を小一時間程過ぎたねこやのキッチンで、店長と明久は揃って腕組みしていた。

少し前に旅小人が数人程来店し、怒涛に注文。小柄な体の何処に消えるのか、と思うほどの量の料理を完食していった。それにより、冷蔵庫は見事にすっからかん。アレッタとクロには倉庫に行ってもらって残りの食材を運んでもらうことにして、早希には食材の買い付けを頼んだ。その間店長と明久は、お昼の賄いをどうしようか考えていた。

すっからかんになった冷蔵庫に残っている食材は、野菜が幾つか。キッチンには、二人前分のごはんとチキンカレー。

しかし、チキンカレーはクロが食べることに決まっている。

明久は何かないかと、キッチンの様々な棚を開けては食材を探した。

 

「あ、店長!」

 

そして明久は、それを見つけた。

それは、生麺。幸い、消費期限はまだ先となっている。しかも、スープの素も付属していた。

 

「うし、決まりだな」

 

「はい、タンメンですね」

 

二人は頷くと、すぐさま調理を始めた。とはいっても、数分もすれば野菜の下ごしらえは終わる。そこからは、役割分担だ。明久が野菜を炒めて、店長が麺を煮る。

 

「たまにですけど、こういうの食べたくなりますよねぇ」

 

「だな」

 

本当にたまにだが、ラーメンが無性に食べたくなる。そういう時のために、インスタントが幾つか買って置いてあり、今回明久が見つけたのは、その最後の一つだった。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりー」

 

「食材はどうした?」

 

「量が量だから、後で配達してくれるそうです」

 

店長の問い掛けに、早希はそう答えた。確かに、一人で運ぶには余りにも量が多い。配達してもらった方が、何かと確実だろう。

 

「今日のまかないは……タンメン、ですか?」

 

「そ、たまたま残ってた野菜と、生麺を見つけてね」

 

「もう少しで出来るから、器の用意を頼む」

 

「わかりました」

 

店長の言葉を聞いて、早希はカレー用のお皿とラーメン用のどんぶりを取りに行った。そこに、エレベーターが開き

 

「店長! お野菜とベーコンを見つけました!」

 

(量は、この位です)

 

とアレッタとクロが、台車を押して出てきた。

 

「おーう、お疲れ」

 

「そこに置いておいて、後で確認するから」

 

アレッタとクロにそう答えると、二人は煮た麺と炒めた野菜をどんぶりに盛っていく。

そうして

 

「ほい、昼のまかないだ!」

 

「お待たせ」

 

と二人は、計四人分のどんぶりとチキンカレーを休憩室に運んだ。

 

「クロさんは、チキンカレー……で、僕たちは」

 

「タンメンだ」

 

タンメン、たっぷりの野菜を使ったラーメンだ。

 

「では、いただきます」

 

アレッタは何時もの祈りを捧げた後、まずは野菜を口に運んだ。野菜はシャキシャキ感を残し、味付けは塩と胡椒が中心となり、塩味のスープと見事にマッチしている。

次に麺を啜ると、塩味のスープが見事に絡み、どんどん食べたくなる。

 

(やっぱり、店長と明久さんは凄いなあ)

 

アレッタは心中で二人を称賛しながら、野菜を口に運ぶ。素材からして、アレッタの世界より上。そこに、更に上の技術力を有する料理人たる二人の腕が組合わさり、アレッタの想像の上を行く料理を作り提供している。異世界食堂(そこ)で働かせてもらっているのは、何とも奇妙に思えたが、それよりももっと働きたいと思った。

そうして、クロは何時も通りにチキンカレーをお代わりし、四人はタンメンを食べ終わった。すると、早希が

 

「では、私がお皿やお鍋、フライパンを洗いますね」

 

と言いながら、器を回収。アレッタとクロは、素早く布巾で机を拭いた。まだまだ、閉店まで頑張ろうと、意気込みながら。

 


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