「えっと……これで、大丈夫のはず……」
「だよな……一応、パソコンにあったのを、そのまま出力したからな……」
明久と店長が見ているのは、一枚の張り紙。明久と店長には読めないが、ある世界の言語でこう書かれている。
《カキフライ、始めました》
カキフライ。それはねこやに於いては、先代から続く冬季限定人気メニューである。月曜日に張り出してからは、注文が殺到している。特に、古馴染みの客はよく注文する。
「あのドワーフ達は、確実に注文するな」
「多目に用意しましょう」
二人はそう会話すると、キッチンに入っていった。それから、約一時間後。
「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ! あ、ハインリヒさん」
「おお、アレッタ嬢。注文は……」
出迎えたアレッタに注文を言おうとしたが
「おーう! 来たぞ!」
「おおっと、邪魔じゃい! どけい!」
とハインリヒの背後から、騒がしい声。振り向けば、二人のドワーフが居た。
「お前達か……」
「おう、騎士か! 退いてくれるかの?」
ギレムに言われて、ハインリヒは二人に道を譲るために半身になった。その際に、ギレムはハインリヒに隠れて見えなかった張り紙に気づいて
「おお!? 今日からカキフライが食えるんか!!」
と興奮し始めた。
(カキフライ? フライと言うからには、エビフライと同じあげた料理なのだろうが……)
「ギレムよ、カキフライとはなんじゃ?」
「冬の間に出される料理での、これもまた美味いんじゃ! 酒によく合うんじゃ!」
ガルドの問い掛けに、ギレムはそう言いながら椅子に座って
「嬢ちゃん! 何時ものシーフードフライの盛り合わせとビールの大ジョッキ、それとカキフライを頼むわい!」
「はい! 分かりました!」
(ほう、冬にしか出されない料理か……)
ギレムの説明を聞きながらハインリヒは、椅子に座った。最初はエビフライを頼もうと思っていたハインリヒだったが、少し悩んでから
「すまぬが、私もカキフライとやらを頼む」
「はい、分かりました」
注文を聞いて、早希はキッチンに入っていった。
(カキフライ……どのような料理なのだろうか……)
初めて食べるカキフライを、ハインリヒは期待しながら待つこと数分後
「お待たせしました、カキフライです」
とハインリヒの前に、お皿が置かれた。
「ほお、これがカキフライっちゅうやつか……」
「おうよ! 独特の風味がたまらんのじゃ!!」
どうやらギレム達にも出されたらしく、ガルドは何やら興味深く見ていて、ギレムはフォークで突き刺すとタルタルソースを着けていた。
ハインリヒもフォークで刺すと
(ふむ……一口で食べられる大きさだな……)
最初の一個目は、なにも着けないで口に運んだ。
(むっ!? こ、これは!?)
「っほおー! これは美味いわい!」
「そうじゃろ、そうじゃろ! 少し苦味はあるが、それがまた美味いんじゃ!」
ガルドの言った通り、ほんの少し苦味がある。しかし、濃厚でクリーミーな味が口の中に広がっていく。
次にハインリヒは、タルタルソースを着けて食べた。
(やはり、フライはタルタルソースとよく合う!)
タルタルソースを着けたカキフライを食べたハインリヒは、そう確信した。タルタルソースにより、フライのサクサクとした衣がいくらか柔らかくなり、更にはその衣にタルタルソースの味が絡まり、口の中でカキの独特な味と複雑に絡まる。
(素晴らしい! まさか、エビフライ以外にこのような料理に出会えるとは!!)
ハインリヒは新たな料理に出会えたことに感謝しつつ、更にカキフライを食べた。カキフライを一皿食べた後は、何時ものエビフライを注文。食べ終わり
(カキフライか……惜しむらくは冬にしか食べられないということだが……しかし、むしろそれが楽しみになる……一年間、必ずや生きようと)
最近、ハインリヒが指揮官の砦の近くに、魔物の群の巣があることが判明し、度々襲撃してくる。今はなんとか撃退しているが、近い内に増援がその砦に入ってくることになっている。
そして、その魔物の巣を撃滅する。それが何時になるかは不明だが、必ず為し遂げる。ハインリヒはそう気合いを入れて、退店した。
また必ず、カキフライを食べるために。