異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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43皿目 ホワイトシチュー

「そうよ! 豆腐よ!」

 

と声を上げながら入店してきたのは、エルフのファルダニアだった。

 

「わわっ!?」

 

「ファルダニアさん!? どうしたんですか!?」

 

アレッタは驚き、早希が呼び掛けるがファルダニアは

 

「私が寄ったお店で、乳も肉も卵も使わないシチューがあったのよ! その味が、豆腐に凄く似ていたのよ!!」

 

と言いながら、クロが差し出したメニューを奪うようにして取り、机に置いて見始めた。

 

「豆の風味がするシチュー……ああ」

 

明久は何か気付いたらしく指を鳴らし、店長は

 

「ああ、それは恐らく……」

 

先代店長(大樹)から聞いた話を思い出した。

それは、今から約20年程前になる。

 

「ここに来るのも、今日が最後ね……」

 

と言いながら、一人の冒険者の女性がねこやのドアを開けた。彼女はハーフエルフ、それも取り替え子(チェンジリング)ではなく、人間の父親とエルフの母親の間に産まれた、純粋なハーフエルフだ。

 

「いらっしゃい、メリルさん。待ってたよ」

 

出迎えた先代店長は、そう言いながらメリルを席に座らせた。

 

「悪いな、メリルさん。帰るの遅らせちまって」

 

「いえ、それは構わないのだけど……」

 

今は一人のメリルだが、少し前まで仲間達とパーティーを組んで冒険していた。その仲間達とは10年近い付き合いで、冒険の最中に発見したねこやには、何か起きる度に一緒に来ていた。

大きな冒険が成功し、全員無事に生還した時。仲間の一人が死んだ時、新しい仲間を迎えた時。そして、パーティーが解散すると決まった時。

解散に至った理由は、リーダーとサブリーダーの結婚だった。

二人は十年の間、互いに補佐しあっている間に惹かれあったらしい。ハーフエルフのメリルにとっては瞬きに等しい期間だが、人間にとっては長い十年だ。

それを聞いた仲間達で、結婚を祝福するパーティー兼解散前の最後の食事となった。

解散した後は、全員それぞれの道を歩むことにした。

結婚する二人は、旅行を兼ねて世界各地を巡る冒険になるらしく、一人は別のパーティーに入れてもらうことに。そしてメリルは、故郷に帰って宿屋兼料理屋の母親の手伝いをすることに決めた。

それを聞いた先代店長は

 

「悪いんだが、帰るの七日間待ってくんねぇか? お前さんに食わせたい料理があるんだ」

 

と言って、メリルに留まるように頼んだ。最初はすぐに帰るつもりだったが、頼まれたので七日間だけ残った。

そして、七日後

 

「いらっしゃい、待ってたよ。さ、座ってくんな」

 

「あの……私に出したい料理とは……」

 

メリルが問い掛けると、先代店長はキッチンから一台のカートで鍋を運んできたのだが

 

「こいつだ」

 

と言って、皿によそった。それは、ホワイトシチューだ。

 

「ホワイトシチュー……」

 

ホワイトシチューは、メリルがよく好んで食べていた料理だ。メリルはハーフエルフだが、エルフの母親の影響かエルフと同じように肉や牛乳、卵を食べることに忌避感を覚えていた。

だがそんな彼女でも食べられたのが、ねこやのホワイトシチューだった。それを考えると、食べられなくなるというのは、少し辛いところだった。

 

「あれ、この匂い……何時もと、少し違う……」

 

それは、本当に些細な違和感だった。パーティーでは料理当番をしていたからかもしれない。

 

「まさに、お前さんの為に作った料理だ」

 

先代店長はそう言って、ホワイトシチューを皿によそった。そして、最初に気付いたのは

 

「……お肉が、ない……」

 

ホワイトシチューでも余り食べられなかった肉が入っておらず、代わりに野菜が多めに入っている。

 

「ほれ、冷めないうちに食べてくんな」

 

「あ、はい……」

 

先代店長の言葉に同意したメリルは、スプーンを持って一口食べて、驚いた。

 

「このホワイトシチュー……お肉だけじゃなく、乳と卵も使ってない!?」

 

もう何回も食べたからこそ、違いに気付いた。何時も食べていたホワイトシチューと、近い風味だが、全く違ったのだ。しかも、何処か懐かしさを感じる味だった。

それを確かめるために、メリルは更にそのホワイトシチューを食べた。肉の代わりに入っている肉厚なマッシュルームを食べるが、それよりもシチューの味に意識を集中させた。

そして、懐かしい味に思い至った。

 

「この味……エルフ豆……?」

 

それは、冒険者になるために故郷を離れる前のことだ。母親が実家兼料理屋兼宿屋の中庭で、エルフ豆を栽培し、家族に料理を振る舞っていたのだ。その味に、非常に似ていた。

 

「お、気付いたか。お前さん達からお代として貰ったお金で、お前さん達の世界の食材を買って作ってみたんだ。俺達の世界には、精進料理っつう肉や卵を使わない料理があってな。こいつは、そちらのエルフ豆ってやつを使って作ったホワイトシチューなんだ。豆乳っつう素材だな」

 

「豆を使った乳!」

 

それを聞いたメリルは、思わず立ち上がった。これならば、宿屋兼料理屋の新しい看板料理になるし、何よりもエルフの母親でも食べられると。

しかし先代店長は、右手を掲げて

 

「悪いが、ヒントはここまでだ。料理人なら、自分でこいつを作ってみな。料理人にとって、レシピは最高の秘密……だろ?」

 

と言った。

 

「はい! 必ず、再現してみせます!」

 

メリルは胸元で拳を握り締めながら、そう宣言。小さいが鍋一杯のホワイトシチューを全て食べて退店し、故郷に帰った。

そして、ファルダニアの言葉を聞く限りでは、どうやら再現出来たらしい。

それを悟った店長は、今居るフロアーからは見えないが、先代店長の写真が掲げてある位置に視線を向けて

 

「良かったな、じいさん……気掛かりが一つ無くなって」

 

と言いながら、ファルダニアの注文を聞きにいった。

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