異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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48皿目 デミグラスハンバーグ

西大陸の東側の端に、海の国と呼ばれる一つの国がある。その国は、沿岸部にある首都と、人や獣人、魔族が住む無数の小さな島々からなっている国だ。

小さな島々というのは、人が住んでる島も有れば、人が住んでいない無人島。更には、人が住むには適さない島。そして、魔獣が支配する島もある。

その島の一つに、一人の少年が漁師として住む島があった。

その少年の名前は、ロウケイ。先に述べたように、漁師として生活している少年だ。そのロウケイは、一人の少女に先導されてある島に到着した。

その少女の名前は、アルテ。なんでも、南方から来た人魚(マーメイド)らしい。そのアルテと出会った切っ掛けは、今から数日前のことだった。ロウケイが漁をしている最中に、急激に天候が悪化。急いで戻るも間に合わず、嵐に巻き込まれて海に落下。あわや溺れ死ぬかと思っていた矢先に、アルテが素早くロウケイを助けたのだ。その後、アルテのおかげで一命をとりとめただけでなく、船まで回収してもらったロウケイは、お礼をすることにし、何をしてほしいか聞いた。

ロウケイはアルテの美貌と優しさに惚れていたが、要求されたのは、銀貨10枚という色々と台無しなものだった。どうして銀貨だったのか気になったロウケイは、どうして銀貨を要求したのか問い掛けた。

すると、アルテは

 

『知ってるお店への支払い』

 

と言った。それを聞いて、ロウケイは驚いた。

人魚だけでなく、人間社会で生きる魔族、半魔族以外は、お金に価値を見いださないからだ。そこからロウケイは、アルテが行くだろうお店が気になり、案内を頼んだ。

その場所が、無人島だった。

 

「ここ?」

 

「そう……この先の森の中……少し、待ってて」

 

アルテはそう言うと、目を瞑り、両手を組んだ。すると、アルテの下半身が人間の足になった。

 

「なっ!?」

 

「……青の神に祈れば、この位は出来る……まだ、翼は無理だけど」

 

そう言ったアルテは、立ち上がって足の調子を確認した後、ロウケイの案内を始めた。その数分後、大きめの木の根元に、その扉はあった。

 

「この扉は……」

 

「異世界食堂……美味しい料理……デミグラスハンバーグが食べられるお店」

 

アルテはそう言うと、ロウケイを伴って扉を開けた。

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

「おや、アルテさん。お久し振りですね……おや、お連れも一緒とは」

 

そんな二人を出迎えたのは、早希と明久だった。早希は両手に空のお皿を持ったまま、奥に消えた。そしてアルテは、手近な机に座ると

 

「デミグラスハンバーグを二つお願い。ライスで」

 

と明久に注文した。

 

「承りました。少々お待ちください」

 

注文を受けた明久は、早希と入れ替わる形で厨房に消えた。早希は二人の前に水の注がれたコップを置き、離れた。それを見送ったロウケイは、物珍し気に異世界食堂の店内を見回した。

見たことの無い店内の調度品に、明かり。そして何より、店内に居る様々な種族や見た目の客達。

 

(異世界食堂……凄いところだ)

 

全員に平等に接する店員にも、驚く他なかった。漁で獲った魚を時々大きな街に卸しに行くと、たまにバカにされたり買い取りの値段で足下を見られたりしたことがあるロウケイだったが、明久や早希は丁寧に接してきた。そして、十数分後。

 

「お待たせしました。デミグラスハンバーグです。ライスはお代わり自由です。どうぞ、ごゆっくり」

 

運んできたアレッタは、鉄板に乗せられたデミグラスハンバーグとお皿に盛られたライスを置いてから下がった。

見たことの無い料理に、ロウケイは興味津々と言った様子で、デミグラスハンバーグを見た。漁師のロウケイは、やはり魚を焼いた料理か干物が食事の中心だ。たまに狩人が獲った鹿か猪の肉も食べるが、本当にたまにである。しかも、ただ焼いただけだ。ハンバーグといった料理すら知らなかった。

 

「食べましょう」

 

「お、おう」

 

アルテに促されて、ロウケイはフォークとナイフを持った。そして、見よう見まねでアルテと同じようにハンバーグを切ってみた。すると、切り口から脂。肉汁が溢れた。

 

「うわ……」

 

溢れる肉汁に、思わず声が漏れた。それを見ながらロウケイは、ハンバーグを口に運んだ。その瞬間、口の中に広がる肉の濃厚な味。そして、濃厚なデミグラスソースの味が混じり合い、ロウケイは驚きで目を見開いた。

 

「旨っ!」

 

そこからは、ロウケイは無我夢中でハンバーグを食べた。付け合わせのダンシャク(じゃがいも)と特殊な形に切られたカリュート(ニンジン)も、ハンバーグの引き立て役として美味だった。そしてライス。ロウケイはライスをフォークでかきこんでいた。

噛む度に仄かな甘さを感じるライス。初めて食べる料理に、ロウケイは驚くしかなかった。

 

「どうだった?」

 

「凄く旨かった……」

 

アルテの短い問い掛けに、ロウケイはそう答える他無かった。それしか、言葉が浮かばなかったのだ。

 

「お代」

 

「あ、はい」

 

アルテが立ち上がると、偶々近くに居た早希がアルテから銀貨を受け取った。そして、初めて訪れたロウケイに

 

「当店は、七日に一度開いておりますので、またお越しくださいませ」

 

と告げてきた。それを聞いてから退店したロウケイが見たのは、徐々に消えていく扉。それを見ていると、アルテが

 

「また、来たい?」

 

とロウケイに問い掛けた。ロウケイが無言で頷くと、アルテが

 

「だったら、また七日後に会いましょう……それまでに、お金も工面しないと」

 

と呟いた。それを聞いたロウケイは、アルテの手を掴んだ。それにアルテが振り向くと、ロウケイは

 

「その……一緒に……」

 

と呟くように誘った。確かに、ドアの都合上一緒に来るしかないのだが、ロウケイはそれ以外の意味でも誘っていた。アルテは、少し間を置いてから

 

「……ん、分かった」

 

と頷きながら微笑み、その微笑みを見たロウケイは顔を赤くしたのだった。

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