「……空いた口が塞がらないとは、このことだな、兄上……なにしてるんだ……暗殺者と戦うだなんて」
「仕方ないだろう、アーデルハイト姫の居る離宮には兵士なんて居なかったんだ」
「でも、シャリーフ様が居たおかげで、私は助かりました……」
ラナーは、兄のシャリーフとその恋人となったアーデルハイトの話を聞いて、愕然とした。それは、今から三日程前に、アーデルハイドの離宮に暗殺者が侵入し、アーデルハイドを殺そうとした。しかしそこに、見舞いに来ていたシャリーフが駆けつけ、持っていた魔道具で戦闘の末に捕縛した。
アーデルハイドの住む離宮は、元々が避暑地(表向き。本当は、前皇帝がねこやのドアを確保するために建てた)なので、兵隊は常駐していない。
前皇帝が亡くなってからは、皇族の避暑地という扱いで管理しており、そこにアーデルハイドは貧民殺しが治まるまで逗留することになっている。
そしてシャリーフは、今は帝国において魔道具の開発のための指導に就いており、言わば客将扱いとなっている。そしてその日は、新しく開発した魔道具を見せるためと見舞いのために離宮に来ていた。
そして到着して直ぐに、シャリーフは異常に気付いた。何時もなら、出迎えに来るメイドが姿を見せない。だからシャリーフは、非常用にと持っていた戦闘用の魔道具を片手に走り出した。
そして、アーデルハイドの部屋のドアを蹴破って中に入ると、暗殺者がナイフ片手にアーデルハイトに馬乗りになっていた。それを見たシャリーフは、戦闘用魔道具を起動させ、その暗殺者を吹き飛ばした。
最初の一撃は、アーデルハイドの安全性を考えて最小出力で運用した。その甲斐あり、アーデルハイドは無事。シャリーフは一気にアーデルハイドに駆け寄ると、素早く背後に隠した。そして、態勢を立て直した暗殺者と一戦を交えることになった。
シャリーフは祖国たる砂の国でも、盗賊や蛮族、他国からの侵攻といった事態に、最前線で指揮を執ったことがあり、その経験から戦闘もある程度はこなせる。
だからシャリーフは、暗殺者が落としたナイフを逆手に持ち、暗殺者を迎え撃った。
何度も刃を交え、アーデルハイドに降りかかろうとした刃を迎撃し、シャリーフは一瞬の隙を突いて、暗殺者を無力化し捕縛。
見事、アーデルハイトを守りきったのだ。
異常に気付いた兵士が来たのは、シャリーフが暗殺者を無力化した約二時間後のことだった。
なお、メイド達は全員無事が確認された。そして今回の事が理由で、シャリーフの開発した戦闘用魔道具の有用さが立証され、軍部でも導入案が検討されているという。
「つまり、その顔の傷はその勲章と……よく奮闘しましたね、強力な毒があったかもしれないのに」
シャリーフを称賛したのは、話を聞いていたヴィクトリアだ。最近は、今居るメンツで談笑しながら食事している。特にシャリーフは、ラナーから砂の国の現状を聞く場としている。
「ははは……アーデルハイト姫を守らないとっと考えたら自然と……」
シャリーフは苦笑いを浮かべながら、頬の傷跡を触れた。暗殺者は何回もアーデルハイトを狙い、投剣を投擲しており、殆んどは弾いたが一本が頬をかすっていた。
幸いにも手足が痺れる程度の毒だったから、シャリーフは死にはしなかったが、暗殺者を捕縛した後は、兵士達が来るまでアーデルハイトの隣で立っているのがやっとだった。
その後は、兵士と一緒に来た魔法使いにより治療を受けた。
「では、そんなシャリーフさんの奮闘を記念しまして、サービスです」
そう言って現れたのは、明久だった。明久は全員の前にひとつずつあるデザートが乗った皿を置いた。
「これは……」
「シュークリームです。どうぞ、ごゆっくり」
明久は一礼すると、ゆっくりとその場から離れた。
「久しぶりに見たわね、シュークリーム」
そう語ったのは、ヴィクトリアだった。ヴィクトリアはデザート類のメニューを作る際に、一度食べた以来にシュークリームを見た。
「シュークリーム……何やら、固そうですね……」
「いえ、むしろ柔らかいわ」
ラナーが様々な角度からシュークリームを見ていると、ヴィクトリアはそう言いながらシュークリームを持ち上げて、二つに割った。
ヴィクトリアが言った通り、シュークリームは簡単に割れ、中からカスタードクリームが出てきた。
「はむ……んっ、甘いです!」
「これは、確かに……アイスクリームとは、また違った風味だ」
シュークリームを食べて、アーデルハイトとシャリーフはそう声を挙げた。
少しサクサクとした生地に、中に詰められたカスタードクリームがよく合い、口の中に濃厚な風味が広がる。
「ここには、本当に様々なデザートが有るのですね」
「確かに……また新しい味に会えました」
アーデルハイトの言葉に、ラナーは同意しながらまた一口とシュークリームを頬張った。
そうしてまた、談笑に花が咲いていく。