異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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51皿目 キノコスパ

そこは、地図にも乗っていない小さな町。

その外れ、森の中にて薬師を営む一人の少女。アリサは、ようやく現れた黒いドアを前に、ふんわりと微笑みを浮かべ

 

「ああ、よかった……」

 

と呟いた。そのドアが現れるのは、決まって薬草を育ててる中庭の一角。唐突に現れたので、同じように現れなくなるのではないか。と危惧していたが、杞憂に終わった。アリサは調合に失敗した薬の残骸も一緒に片付けてから、そのドアを潜った。アリサがドアを閉めた直後に、ドアが開き

 

「あ、アリサ! 今来たっすか?」

 

「うん、メイメイ。今来たの」

 

頭に白い山羊の角があり、褐色の肌に黒い髪が特徴の半魔族の少女。メイメイが現れた。

二人は、忙しそうに店内を駆けているウェイトレス達を見ながら、近くの席に座った。

そこに、二人分の水を持った明久が現れ

 

「ご注文は、何時もので?」

 

と問い掛けた。この数年、二人が注文する物は決まっている。

 

「はい、ワフーキノコスパをお願いします」

 

「うん。私には、キノコクリームスパ! あ、お箸着けてね」

 

「承りました」

 

注文を受けた明久は、近くの机から空の容器を回収してからキッチンに消えた。アリサとメイメイは、そんな明久を見送ってから

 

「ねえねえ、この七日間どうだった?」

 

「んー、何時も通りだったかな? 薬草を育てて、その薬草から薬を作って、町の人達に売って……うん、何時も通りだね」

 

メイメイの問い掛けに、アリサは顎に手を添えて思い出しながら答えた。アリサにとって、この異世界食堂は居心地が良かった。友達のメイメイは半魔族だが、東大陸では未だに根強く魔族への差別意識が強い。

だから、森に捨てられていた赤ちゃんだったアリサを拾い育てた師匠は、全身を包帯でグルグル巻きにして、半魔族の証拠だった全身の鱗を見せないようにしていた。

その師匠と一緒に、今居る異世界食堂に来るようになり、そこでなら気構えせずに済むと気付いた。

だから、アリサはメイメイと談笑しながら視線だけで回りを見た。

初めてこの異世界食堂に来た時は、衝撃的だった。

半魔族だけでなく魔族までもが来店し、あまつさえ人間と一緒に楽しそうに食事をしている。

本来だったら、有り得ない光景。しかし、この異世界食堂ではそれが普通。

だからこそ、アリサはここでメイメイと出会った。

陽気な性格で、初めての友達のメイメイと。

町の人達は商売相手という認識が強く、しかも年上ばかり。だからどうにも、友達を作ろうという気持ちにはならなかった。

そこに

 

「和風キノコスパとキノコクリームスパです、お待たせしました」

 

とアレッタが、二人が注文した料理を持ってきた。そうして、アリサの前に和風キノコスパ、メイメイの前にキノコクリームスパを置いてから、箸を置いて

 

「それでは、ごゆっくり」

 

と言って、下がっていった。アレッタを見送りながらアリサは、アレッタが働き始めた時を思い出した。

まさか、半魔族がレストランで働くとは、アリサにも予想していなかったのだ。

 

「さて、食べますか」

 

「そうね」

 

メイメイの提案に従い、アリサは和風キノコスパを食べ始めた。アリサが和風キノコスパを食べる切っ掛けになったのは、自分からしたら慣れ親しんだキノコを使った料理だからだ。

森で薬師として過ごしていると、食べる食材も非常に限られる。

肉も食べるが、町には狩人が二人しか居ないので、狩る数が限られ、その殆どが町に回されて、自分の所に回るのは稀だ。

だから森の中で自生している薬草やキノコを採取し、川に設置した罠で捕まえた、魚を食べる。

だから、メニューの中から慣れ親しんだ食材のキノコを使った料理の、和風キノコスパを選んだ。

メイメイも似たり寄ったりで、山の方で住んでいるらしく、慣れ親しんだキノコの料理たるキノコクリームスパを選択。

それが、二人の馴れ初めになる。同じ席で似た料理、しかも歳も近い。最初は、どちらから喋りかけたか。

気付けば意気投合し、仲良くなっていた。

そうして二人は、約束した。異世界食堂に来たら、一緒に食事しよう。その時に、自分の近況を話そうね、と。

だから、先に来た方はもう一人を待つという暗黙の了解も出来ていた。

そうしてアリサは、和風キノコスパをフォークで巻いてから一口食べて

 

(うん……やっぱり美味しい)

 

口の中に広がるキノコ独特の風味と醤油と呼ばれる調味料の風味が、アリサは好きだった。今でも思い出すのは、初めて食べた時の衝撃。

食べ慣れている筈のキノコが、調理法でこんなに変わるのかと思った。

アリサがよく食べていたのは、キノコとハーブを使ったスープだった。

だからまさか、炒めると美味しくなるとは思わなかった。

 

「ねえ、アリサ。半分こ、忘れないでね!」

 

「分かってるよ、メイメイ」

 

メイメイの言葉に、アリサは頷いた。メイメイは、箸を器用に使ってキノコクリームスパを食べている。

アリサは過去に一回使ってみたが、上手く使えなかった記憶がある。

 

(よく使えるなあ)

 

メイメイはどうやら使い慣れているらしく、苦もなく箸を使って食べている。その様子からアリサは、メイメイが東大陸の東端の方の出身だと判断した。

アリサも東大陸だが、メイメイとは真反対の西端。

やはり、そこまでとなると、文化も大分違うのだろう。

そうして、和風キノコスパを半分ほど食べたら、メイメイと目を合わせて

 

『半分こ』

 

と、お互いの料理を交換した。これの始まりは、初めて食べた時に、メイメイがアリサの和風キノコスパに興味を持ったからだ。実を言えばアリサも興味があったから、渡りに船だった。

丁度半分ほど食べていたので、交換。そこから、今の半分こが始まった。

それ以来の、二人の間の約束。

 

「んー! この味、ワフーキノコも美味しいね!」

 

「キノコクリームスパもね」

 

キノコクリームスパは、和風と違って口の中に乳の風味が濃く広がる。しかも、キノコの風味もきちんとある。

 

(あの料理人さん達、凄いなあ……)

 

アリサは素直に、料理人たる店長と明久を称賛した。

自分には到底作れないだろう料理を、二人は作れている。はっきり言って、憧れの念すら抱く。

そうして気付けば、二人は料理を食べ終わっていた。二人はお金を机の上に置いて

 

「それじゃあ、また七日後にね」

 

「うん! また七日後に!」

 

二人はそう約束すると、同時に扉を潜った。一瞬眩しさを感じ、気付けば中庭に立っていた。隣に視線を向けても、メイメイの姿は無い。

それを残念に思いながらも、アリサはまた七日後に異世界食堂に行くためのお金を稼ぐために、薬の調合をすることにした。

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