異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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57皿目 おでん

その日は、雪が降る日だった。東大陸の東端のある山に、人食い鬼が出るという話があった。しかも、一体だけではなく二体。それも、夫婦という話だった。

更には、その鬼の夫婦が現れるのはよく人が通る山道だった。

その鬼夫婦は、賢かった。山道を見張り、単独か少人数の旅人や行商人を狙い、襲っていた。そうすることで事態が露見するのを遅らせられるからだ。

しかし、気付かれれば冒険者を差し向けられるのが道理。

その鬼夫婦を討伐しようと、数多くの冒険者が向かったが、誰も帰らず、武器だけが見つかるという事態が多発していた。

のだが、ある日を境にその活動がピタリと止んだ。誰かに討たれた、というのが主だった噂だが、確証はなかった。

しかして実際は、異世界食堂の常連となっていた。

 

「おー寒い寒い……ほれ、早ぅ中さ入れ」

 

「すまんな、アンタ」

 

鬼夫婦、タツジとオトラは山の中に建っている少し大きめの小屋に入った。その小屋の奥に、異世界食堂に通じるドアがあった。

二人は体に付着していた雪を払い落としてから、ドアを開けた。

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

そんな二人を、早希が出迎えた。なお初めて出迎えた時は、驚きと恐怖心で固まったのを、早希は今も覚えている。

 

「おう、嬢ちゃん。何時ものローストチキンを大皿で頼む」

 

「それと、今日は酒じゃなく、ライスを頼むわ」

 

「はい、承りました」

 

二人の注文を受けて、早希はキッチンへと向かった。何時もならばタツジとオトラは、ローストチキンのお供に酒を注文する。だが最近は、少し控えるようになってきたが、その理由は後述する。

 

「相変わらず、ここは暖っけぇな」

 

「本当に」

 

直前まで雪の中に居たために、今の二人は体が芯まで冷えきっている。しかしねこやの中は、空調で暖かい空気が満ちているので、少しずつだが体が暖まる。

そうして先ずは水が置かれ、少し待つとローストチキンが大皿で二人の前に置かれた。

それを食べようとしたタツジだが、フとあることを思い出した。それは、来始めてから少しした時に、常連の老魔法使い(アルトリウス)から聞いたこと。

 

『内容にもよるが、鍋料理を鍋ごと持ち帰ることも出来る』

 

という話だった。最近は山での食糧調達が捗らず、下手すれば食べないことすらある。それを思い出したタツジは、偶々近くを通ったアレッタに

 

「おう、嬢ちゃん。ちぃっと聞きたいことがあるんだがよ」

 

と声を掛けた。

 

「はい、どうしました?」

 

「前に、この店じゃあ金を払えば鍋料理を持って帰ることが出来るって聞いたが、どうなんだ?」

 

アレッタが振り向くと、タツジはそう問い掛けた。するとアレッタは、僅かに悩んでから

 

「少々お待ちください。店長さん達に聞いてきます」

 

と告げてから、キッチンの方に向かった。

それから少しすると、明久が出てきて

 

「鍋料理を持ち帰るということですが、内容によりますが出来ますよ」

 

と答えた。それを聞いたタツジは

 

「それじゃあ悪いが、ひとつ適当に頼んでもいいだか? ああ、急ぎじゃねぇから、ゆっくりで構わねぇよ」

 

「では、こちらにお任せ。ということで、構いませんか?」

 

「ああ、俺達は料理はさっぱりだからな。頼むわ」

 

「分かりました。今から作りますので、少々お時間を頂きますが、ご了承ください」

 

明久はそう言って、キッチンに戻った。

 

(さて、何を作ろうかな……あの人達が居るのは確か、東の方の山だって話だったな……だったらおでんで、もう一度煮ることを考えて……)

 

明久はそう考えながら、おでんの調理を始めた。

そして、約一時間後。

 

「すいません、お待たせしました」

 

「おう、悪ぃな」

 

タツジは銀色のお鍋をクロから受け取り、お金を支払うとオトラと一緒にねこやを後にした。

そして翌日の朝。タツジは、いい匂いで目が覚めた。

 

「起きたね、アンタ。丁度温まったとこさ」

 

「おう、悪い。腹が大きくなってきたのに」

 

タツジは急いで起きると、器を用意した。

実はオトラのお腹には、二人の子供が居るのだ。だから最近、お酒は控えるようにしてきたのだ。

 

「まだ産まれるには、ちぃっとばかり掛かるけどね」

 

「それでも、後少しだ。大事にせんとな」

 

オトラと変わったタツジは、鍋を少しかき混ぜてから、器によそい始めた。汁は薄いきつね色で、いい匂いが空腹を刺激する。適当によそうと、タツジはオトラの隣に腰掛け

 

「んじゃ、食うか」

 

「んだな」

 

と二人して食べ始めた。

 

「見た目は薄そうだが、いい出汁が出てるだな。この料理は!」

 

「おでんって言うらしいで、アンタ」

 

最初に汁を一口啜ったタツジは、驚いた。器の底が見えるのに、濃厚な味わいが口いっぱいに広がったからだ。そして最初に口に運んだのは、餅巾着だ。

お揚げで作った巾着もだが、中のお餅も出汁をよく吸っていて、味わい深い。

 

「このお餅。村で買うやつとは、全然違うな!」

 

「んだな。こっちの方が柔らけぇ」

 

二人が知るお餅は、少し茶色く固い。しかしねこやで出されたお餅は、モチモチとして柔らかい。

 

「こっちの具……肉かと思えば、違うな」

 

「んだな。豆か?」

 

二人が食べたのは、がんもどきだ。その名前の由来は、昔がんと呼ばれた鳥の肉を模して作られたらしく、その食感は非常に似ていると言われている。いわゆる、精進料理のひとつだ。次に二人が食べたのは、白く柔らかい、はんぺんだった。

 

「この白いの、プルプルしてるぞ」

 

「おお、面白い食感だ!」

 

今まで食べたことのない食材ばかりで、二人は驚き、楽しみながら鍋の中のおでんを食べていく。そして、半分ほど食べると

 

「んじゃ、俺は動物を捕まえに行くから、おめえは」

 

「薪割りでもしてるさ」

 

二人はそう会話すると、一日を始める。

元人食い鬼の、山で生きる一日を。

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