異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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59皿目 アサリの酒蒸し

「……ん……店長、これでどうでしょうか?」

 

「どれどれ……ん、美味い。これなら、大丈夫だ。上げよう」

 

明久が小さな皿を店長に手渡すと、店長はその皿の汁を飲んで、頷いた。それを聞いた明久は

 

「アレッタちゃん! これを、二階のレオンハートさんに届けてきて!」

 

「はい! 分かりました!」

 

明久の指示を受けて、アレッタは料理を乗せたカートを押してエレベーターに入った。二階のベーカリーきむらの隣の店。レオンハートに届けに行った。レオンハートは夕方から開くおしゃれなバーで、マスターは夕方から深夜まで開く前の腹ごしらえとして、夕方に料理の注文をしてくる。注文内容はその度に変わるが、大抵はお酒に合う料理だ。そして、ねこやで出されるお酒は、そのマスターが選んだ物だ。二店で同時に購入するので、お得意様価格で買えるので、安い値段で提供出来るのだ。

すると店長は、明久が作った料理を見て

 

「ふむ……これを、酒のつまみのオススメにするか」

 

「あ、これなら、あのドワーフの人達が喜びそうですね」

 

明久の言葉に、店長は頷いた。このねこやに来る客の中でも、特に酒好きな客達だ。酒に合う料理が有るなら、よく注文する。

そう予想した店長は、アルトリウスが書いたメニューの中からそれをピックアップし、黒板に書いた。

この1ヶ月程来てない、あの二人のドワーフを思い出しながら。

それから、約二時間後。

 

「まったく! 寒くて敵わんわい!」

 

「ほれ、もう少しじゃ! 頑張らんかい!」

 

雪が深く積もる山を、ガルドとギレムは登っていた。彼等が住む地方は、豪雪地帯と呼べる雪山で、この1ヶ月の間は特に吹雪が酷く、彼等は泣く泣くねこやに来るのを断念していた。

いくら頑丈さが取り柄のドワーフだろうが、吹雪の中での登山はあまりにもリスキーだった。

そうして、今日。奇跡的に快晴となり、彼等はねこやに向かうために深い雪の中を進んでいた。武器としても使えるシャベルを振り回し、道を掘り進めながら。

 

「火の神から危うく空の神に鞍替えしようかと思ったわい」

 

「気持ちは分かるわい……儂も同じじゃったわい」

 

二人して火を扱う仕事なために、赤の神を信仰している。しかし、こうも長い間吹雪が続けば、天候を司る空の神に鞍替えしようかと思ってしまったのだ。

 

「実に、20日は経ったかの……今日は晴れたから、行けなかったら悔やみきれんわい!」

 

「分かったから、シャベルを振り回せ! 雪を掻き分けるんじゃ!!」

 

山に入って、早数時間。二人はシャベルを振り回し続け、漸くあの山小屋に到着した。以前とは違い、木製から石小屋になっている。木製だったら、雪の重みで潰れていただろう。二人で建て直して、正解だった。

 

「一緒に建て替えて、正解じゃったわい」

 

「あんな家、長持ちしないと分かった時は、慌てたぞ! 急いで近くの岩場から石を調達したり……お前も火を使うんじゃから、木材の目利き位出来るようにならんかい!」

 

ガルドの言葉に、ギレムは後頭部を掻いた。確かにギレムは建築は門外漢な為に、よく見れば隙間があるわ、釘の長さが不揃いだわ、木材も強度が低いのだったりと、まあ適当だった。それを知ったガルドは、建築も出来たので、急いで石小屋への改築を始めた。ギレムを徹底的に使い走りにして材料を運ばせ、設計図通りに置かせた。その甲斐あって、頑丈な石小屋が完成。今も、高さ2mの雪の重さに耐えている。

そして、目的のねこやのドアがある場所。そこは、ドワーフでも諦めかける金属。超硬金属(アダマンダイト)を使って作ったドアを使って封鎖されている。

鍵も特別製の物を使用し、二人が持つ鍵でしか開けられないようにした。二人がよほどのうっかりをしない限り、使われる可能性は無いだろう。

そして二人は、着ていた熊の毛皮のコートを脱ぎ、コート掛けに掛けると、そのドアを開けて、中に入ってドアを閉めた。

そして、目的のねこやのドアを見ると、笑みを浮かべてドアを開け

 

「おう! 来たぞ!」

 

「とりあえず、ビールを大ジョッキで3杯じゃ!」

 

と声を大にして、注文した。

そして手近な席に座ると、早速置かれたビールを二杯速攻で飲み干し、三杯目を少しずつ飲みながら

 

「さて、今日は寒いからのう……何を飲むか……」

 

「じゃったら、アツカンが良さそうじゃな。量が少ないのが難点じゃが……さて、嬢ちゃん! 今日の酒のつまみはなんじゃ?」

 

ギレムの問いかけに、早希は

 

「今日は、アサリの酒蒸しですよ」

 

と説明した。

 

「ほう! 初めて聞くわい!」

 

「そんじゃあ、そのアサリのサカムシというやつを大皿で二つとアツカンを二本頼むわ!」

 

「はい、分かりました」

 

注文を受けて、早希はキッチンに向かった。そして、少しすると

 

「お待たせしました! 熱燗とアサリの酒蒸しです! 此方の醤油を使っても、美味しいですよ」

 

とアレッタが、料理を運んできた。

 

「ほお……これが、アサリのサカムシか……」

 

「随分と小さい貝じゃが……」

 

二人はアサリの小ささに目を引かれたようだが、すぐに鼻に入ってくる酒の匂いに気付き

 

「これは、随分と酒の匂いがするわい」

 

「しかし、酒精は見えん……風味付け用かの?」

 

二人はそう言いながら、アサリを一つずつ取り、中の身を取り出して、口に運んだ。その直後、目を見開き

 

「これは、旨い! 確かに、酒によう合うわい!!」

 

「そうじゃな!! しかし、量が少ないのが難点じゃ! 嬢ちゃん、どんどん持ってきてくれ!」

 

と興奮しながら、一皿目を完食した。そして、二皿目を食べようとした時

 

「そういえば、このショウユとやらを使うと美味しいと言っておったな」

 

とガルドは、ショウユを取り、皿全体にくるりと円を描くように掛けた。

 

「ふむ……中々香ばしい匂いじゃが……」

 

「問題は味じゃが……」

 

先ほどまでは、二人好みの酒の風味が口の中に広がった。次はどうなのか。二人は期待しながら、アサリの身を口に運んだ。次の瞬間、酒の風味と磯の風味が見事に調和して口の中に広がった。

 

「ほおー! こりゃ美味いわい!」

 

「本当じゃわい! おぉい! アツカンの追加を頼むわい!」

 

「はぁい! 分かりました!」

 

味に満足した二人は、更に追加注文。その結果、閉店間際まで飲み食いしたのであった。

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