「席、空いてる!?」
勢いよく入店してきたのは、エルフの若い女性。ファルダニアだった。
「わぁ!? ファ、ファルダニアさん!?」
真後ろからの大声に驚いたアレッタだったが、そのファルダニアの後ろに見慣れない少女のエルフが居ることに気づいた。するとファルダニアは、その少女の手を引きながら
「空いてる席に座らせてもらうわよ」
と言って、適当に空いていた席に座った。
そこに、霊夢が来てメニューを差し出そうとしたが、それを早希が止めて
「何時ものように、こちらにお任せで構いませんね?」
「ええ、お願い。あ、この子の分も私と同じようにしてちょうだい」
「承りました」
そう返答した早希は、霊夢を伴ってキッチンの方に下がった。恐らく、エルフのことに関して説明するのだろう。
そしてファルダニアは、目前の少女エルフ。
アリスを見た。
(まったく……ハーフエルフの隠れ里の人達なんでしょうけど……酷いことをするわね……)
一人旅をしていたファルダニアは、今は公国外れのある山間部に来ていた。夜に差し掛かり、高い木々もあってかファルダニアの居た山間部はあっという間に暗くなった。そんな山間部を、アリスは一人で寂しそうに歩いていたのだ。
エルフだから分かり難いが、アリスは恐らくまだ30歳程で、言動から見てもまだ幼いと言える。
そんなアリスが、親も居ない状況で山の中を一人歩いていた。
となると、考えられるのは一つしかなかった。
(……
それは、人間同士やエルフ同士が交わっても時折、ハーフエルフが産まれることがある。
そう言った場合は、多少特殊な環境下にはなるが、住むことに不都合は無い。
しかし、
ハーフエルフ同士が交わった時、時々エルフが産まれるのだ。
エルフはハーフエルフよりも長生きなために、成長が遅い。そのせいで、ハーフエルフの里では持て余していたのだろう。
そこに拍車を掛けたのが、アリスの不器用さと少々頭の回転が悪いこと。
アリスと出会って1日経ったが、ファルダニアから見てもかなり不器用だと思う。
(頭の回転が悪いのは、まだ30年しか生きてないから……100年は経たないと頭の回転もだけど精神的に未熟な面が目立つ……それに、多分だけど……いい教師役が居なかったのね……)
教育面でも、ハーフエルフとエルフでは全く違う。
ハーフエルフは人間社会に生きることができるが、エルフではそれは難しい。食生活や価値観が違うのだ。
(……多分、この子の親が亡くなったから面倒を見る気が失くなって、隠れ里から放逐したのね……私が出会ってなかったら、最悪は奴隷にされてたかしら……)
エルフは見目麗しく、極一部の貴族達の間では森の宝石と呼ばれていて、奴隷として入手すれば箔が付くとすら言われている。
(とはいっても、どうしよう……私、子守りの経験なんて無いのよね……)
ファルダニアが担当していたのは、主に調理と異変の対応。これはまあ、ファルダニアが未婚だったからという理由があるのだが。
そしてアリスは、霊夢が置いたレモン水をゆっくりと飲んでいる。その飲み方は、子供そのものだ。
(どうしようかしら……)
とファルダニアが考えていると、霊夢がやってきて
「お待たせしました……きんぴらかき揚げのライスバーガーです……えっと、衣には卵は使ってないので、ご安心ください……こちらのお味噌汁はお代わり自由です……では、ごゆっくり」
たどたどしく言って、二人の前にお皿が置かれた。
そして霊夢は、アリスのコップにレモン水を注いでから去った。それを見送ったファルダニアは、皿の上に置かれてある2つのライスバーガーを見て
「本当に、この店のレパートリーは多いのね……」
と呟いた。
豆腐ステーキ、納豆スパゲッティーと納豆ご飯、更には豆乳シチューだけでなく、新たな料理だ。
元々いたエルフの里で料理担当だったファルダニアからしても、結構なレパートリーになる。
「これは、根菜ね……幾つかの根菜を揚げてるのね……って」
ファルダニアはライスバーガーを観察していたが、気付けばアリスがムシャムシャと食べていた。しかも、その顔にはキラキラとした表情が貼り付いている。
(まあ、仕方ないか……私があげたミソシル以外、丸1日は何も食べてなかったみたいだし……)
ファルダニアがアリスを見つけたのは1日前だが、聞いた話では2日前からアリスは一人で山をさ迷っていたらしい。
しかも、アリスの不器用さも相俟って食糧は中々見つからず。
結果アリスは、ファルダニアが作って余った味噌汁以外は食べてなかったのだ。(なお味噌は、クリスティアンから貰った味噌)
そこに、見事な料理が並べば我慢出来ないのも仕方ないだろう。
(ライスバーガーってことは、ライスを使ってるのよね……この揚げ物を挟んでるのがライスかしら……)
ファルダニアは観察しながら、1つ目を食べ始めた。ファルダニアの予想通り、かき揚げを挟んであるのがご飯を焼き固めたものだが、表面には出汁醤油が塗られてあり、口の中に出汁醤油の風味が広がり、そこにご飯本来の甘味が交わる。
ファルダニアからしたら、それだけでも十分に美味しいが、そこにゴボウとニンジン。後はファルダニアが知らないゴマを使った料理。きんぴらごぼうの味が合わさり、今まで知らなかった味が広がる。
(くっ……こんな料理、知らなかったわ……今度、食材を入手したら、挑戦しないと……)
料理研究家たるファルダニアは、その負けず嫌いな性格から更に料理研究する決意を固める。
ファルダニアだが、旅の最中にエルフとしての知識を使って薬の調合を手伝ったり、冒険依頼を受けて旅の資金を稼いでいる。
それはさておき、ファルダニアが吟味しながら1つ目を食べている間に、アリスは味噌汁をお代わりし、2つ目も食べている。
(やっぱり、お腹空いてたわよね……次からは、二人分作るしかないわね……資金稼ぎ、頑張らないと)
ファルダニアはそう考えながら、2つ目も食べ始めた。
そして数分後、ファルダニアが財布からお金を出していると
「どうぞ、ファルダニアさん。おにぎりは詰め合わせです。そちらの子の分もありますよ。あ、サービスですので」
と明久が、ファルダニアの前に紙の箱を二つ置いた。
「ありがとう、貰うわ……」
感謝の言葉を言いながら、ファルダニアは紙の箱をカバンに仕舞ってからアリスと一緒に退店した。
アリスは消えるドアを見ながら
「ファルダニアさん。わたしも、りょうりのことしりたい」
と言ってきた。それを聞いたファルダニアは
(まあ、公国にはエルフは居ないし……ハーフエルフの隠れ里なんて知らないし……仕方ないわね)
と考えてから、アリスを見た。
「いいけど、ちゃんと私の話を聞いてね? 怪我とか毒には注意しないといけないから」
「うん!」
ファルダニアの言葉を聞いて、アリスは嬉しそうに頷いた。
なおファルダニアは、アリスを引き取り一緒に料理研究の旅をすることを手紙で父親に報せたのだが、その手紙を読んだ父親が驚きの余りに椅子から転げ落ちるのだが、ファルダニアからしたら知ったことではない。