異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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64皿目 お子様ランチ

古くからある大きな城の片隅。そこに、顔立ちが良く似た双子が居た。

双子が居るのは、普段から危ないと言われて更には見張りの兵隊が居る高い塔だ。しかし双子は、兵隊が交代のタイミングを見計らってやってきた。その甲斐あって、兵隊の姿は無い。

 

「アルフ、どう?」

 

「だいじょうぶ、みはりはいないよ、マリー」

 

王族の双子、アルフとマリーはその塔に入るためのドアをゆっくりと開けてから、滑り込むように入った。長い螺旋階段を登りながら双子は、これまで聞いた噂を思いだし

 

「ねぇ、ほんとうにだいじょうぶだよね?」

 

「それを、これからたしかめるんだよ」

 

怖がってるマリーの問い掛けに、アルフは少年らしい好奇心旺盛という表情で答えた。マリーは不安に駈られながら、アルフの後を追い掛けた。暫くすると、二人の前にドアが姿を見せた。

アルフ、一度マリーを見て

 

「あけるよ」

 

と言ってから、ドアを開けた。部屋を見た二人は、少しの間その場で固まった。

双子からは用途が分からない道具が多数置いてあり、何をしているのかが分からなかった。そうして、双子が恐怖で動けなくなっていた時

 

「誰か居るの?」

 

と声が聞こえて、双子は振り向いた。その先に居たのは、双子の伯母に当たる女性。ヴィクトリア王女だった。

 

「ヴィクトリアおばさま!」

 

「なんで、ここに?」

 

双子が問い掛けると、ヴィクトリアは視線の高さを合わせて

 

「なんでって、ここは私の研究室だからよ……それより、お母様達からここに入るなって言われなかったの? 危ないからって」

 

「たしかにいわれたけど……」

 

「おばさまがいるなら、だいじょうぶ!」

 

マリーの健気な言葉に、ヴィクトリアは固まった。同じ王族内でも、腫れ物を扱うような感じだったが、どうやら双子はハーフエルフに対する差別意識は無いらしい。

そこはやはり、年代差というべきものかもしれない。

今の公国の民の過半数はハーフエルフに対して、強い嫌悪感を抱いている。しかし、アルフやマリーといった子供世代はそうではない。

実際、公国産まれでもようやく10代前半辺りの世代はハーフエルフに対する差別意識が無いのが確認されており、例え他国でハーフエルフに出会っても普通に会話したりしているらしい。

それはさておき、アルフとマリーの言葉に毒気を抜かれたヴィクトリアは、軽くため息を吐いた。そして、双子を見て

 

「そういえば、お昼は?」

 

と問い掛けた。ヴィクトリアの記憶力違いでなければ、国王と王妃は貴族達との会食をしていて、他の兄妹達は諸外国との外交の最中だった筈だ。

 

「あ……」

 

「まだなの……」

 

双子がそう言った直後、小さく腹の音が鳴り、それを聞いたヴィクトリアは

 

「……仕方ないか」

 

と言って、指を鳴らした。その直後、部屋の端辺り。床に魔法陣が書かれている辺りに一つの黒いドアが現れて

 

「わっ」

 

「おばさま。あのドアは……」

 

「異世界食堂に行くためのドアよ」

 

双子からの問い掛けに答えながら、ヴィクトリアは双子を伴いながらドアを開けて潜った。

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ」

 

そんな三人を出迎えたのは、霊夢だった。まだ緊張した表情で三人を出迎え、そんな霊夢を初めて見たヴィクトリアは新しく雇ったのか、と判断した。

すると、霊夢は

 

「空いている席にご案内します」

 

と言って、三人を手近な席に案内。そこに、アレッタが来て

 

「いらっしゃいませ、ヴィクトリアさん。あ、こちらの二人は……」

 

「はじめまして。サマナークこうこくおうぞくまっしの、アルフ・サマナークです」

 

「おなじく、マリー・サマナークです」

 

アレッタが視線を向けると、アルフとマリーは王族らしく優雅な仕草で挨拶した。そんな双子を見たアレッタは

 

「可愛い方達ですね! ご兄弟ですか?」

 

「双子の甥と姪よ……私には、何時ものようにプリン・ア・ラ・モードを……双子には、お子様ランチをお願い」

 

「分かりました! あ、霊夢さん、あちらのお客様をお願いします!」

 

「分かったわ」

 

ヴィクトリアから注文を聞いたアレッタは、霊夢に新しく入ってきたお客を任せて、キッチンに向かった。すると、アルフとマリーは珍しそうに店内を見回している。

 

「ここは、異世界食堂って言って……美味しい料理を出してくれるのよ」

 

ヴィクトリアの説明を聞いたアルフとマリーは頷いてから、店内の調度品を見た。双子も幼いとはいえ王族なために、高級品には慣れている。しかしそんな双子からしても、ねこやの調度品は見たことが無い物ばかりだった。その時

 

「あ、おじいちゃんだ!」

 

「ほんとだ!」

 

と双子は、アルトリウスに気付いた。

 

「ぬあっ!? なんで双子がここに……ヴィクトリア!?」

 

「たまたま、私の研究室に来たから連れてきたのよ、師匠」

 

アルトリウスが驚いた表情でヴィクトリアを見ると、ヴィクトリアは淡々と答えた。アルトリウスは魔王討伐後、公国に請われて王宮付きの魔法使いになり、途中からは若い世代への育成を始め、ヴィクトリアが最後の愛弟子になる。

そんなアルトリウスだが、子供が全般的に苦手らしい。ヴィクトリアが過去に聞いたのは、どう接していいか分からず、更には下手に魔法を発動させてしまい、ケガさせるのが怖いのだとか。

そして、双子がアルトリウスやライオネルにじゃれていた時

 

「えっと……料理をお持ちしましたが……」

 

霊夢と早希の二人が、三人分の料理を持ってきた。それを見て、ヴィクトリアが

 

「アルフ、マリー、戻ってきなさい」

 

と双子に声を掛けた。ヴィクトリアに呼ばれた双子は戻ると、席に座った。なおライオネルだが、意外と子供には慣れているらしい。そこはやはり、魔族の国で大人気の剣闘士だからだろう。

それはさておき、霊夢と早希は料理を置き

 

「こちらが、プリン・ア・ラ・モードです」

 

「こちらが、お子様ランチになります。ごゆっくり」

 

と告げてから、離れた。ヴィクトリアの前には、慣れたプリン。そしてアルフとマリーの前には、数種類の料理が乗せられたお皿が置かれている。

そのお皿の上にある料理は、オムライス、ハンバーグ、エビフライ、サラダ。そしてプリンが乗っている。

なお、小さい子どもが食べることを考えて、全て小さめサイズだ。

そのお皿を見て、双子は

 

「おばさま! こんなりょうり、はじめてみました!」

 

「おしろのりょうりにんたちより、おいしそうです!」

 

「……彼らも一生懸命作ってるのよ」

 

子供の無邪気さは、時に見えない刃になる。もし宮廷料理人達が聞いたら、立ち直れないかもしれない。

その宮廷料理人達も、公国内では有数の腕を持っているのは確かである。

ヴィクトリアの私見だが、色んな分野で技術力の差があるので、そこはどうしようもないと思っている。

それはさておき、アルフとマリーは最初にスプーンを持つと、王族らしいテーブルマナーで料理を食べ始めた。

最初に食べたのは、オムライスだ。

 

「ふわぁ!」

 

「このりょうり、なかにライスがはいってる! おいしい!」

 

双子は初めて食べたオムライスに、眼を輝かせている。店長や明久の世界では、オムライスは子供からお年寄り世代まで広い人気の料理の一つである。今回のお子様ランチのは、少し甘めに味付けしてあり、子供でも食べられるように調整してある。

次に双子が食べたのは、ハンバーグだ。

この料理もまた、幅広い年齢層に人気の料理だ。こちらも、子供が食べることを考えて胡椒は控えめにしてある。

 

「このりょうりもおいしい!」

 

「はじめてたべました!」

 

興奮気味に語る双子の目は、キラキラと輝いている。そんな双子を見て、あまり表情が変わらないヴィクトリアも微笑んでいる。もし、ハインリヒが見ていたら、顔を赤くして固まっていただろう。(まだ来てない)

そして双子は、エビフライ(小さめ)を食べて

 

「ん! このシュライプ、すごくおいしい!」

 

「こんなシュライプ、はじめて!」

 

と絶賛した。もし、ハインリヒが居たら感激していたかもしれない。気付けば、周りに居る客達は和んでいる。無邪気な子供故か。

そして、野菜を食べてから最後に

 

「おばさま、このりょうりは……」

 

「プリンって言うのよ……甘いわ」

 

双子はヴィクトリアの説明を聞いて、少し渋面を浮かべた。以前にも説明したが、彼らの世界の甘味はかなり甘さがくどく、子供からは不評なのである。

双子もその例に漏れず、甘い料理に苦手意識があるようだ。そこに、ヴィクトリアが

 

「大丈夫よ……このお店のはね……」

 

そう言って、自分から一口食べた。それを見て、アルフとマリーも食べて、驚いた。確かに甘いが、程よい甘いに僅かに苦味が混じるキャラメルソースがその甘さを補助する。

 

「これもおいしい!」

 

「うん!」

 

双子は満面の笑みを浮かべながら、顔を見合わせた。

そして、食べ終わると

 

「では、こちらは何時ものです」

 

と明久が、ヴィクトリアにプリンの入った箱を差し出した。そしてついでに

 

「君たちには、こっちをあげるね」

 

と言って、小さな箱を差し出した。

 

「これは……」

 

「なんですか……?」

 

「クッキーっていう焼き菓子だよ。サービスであげるね」

 

双子が問い掛けると、明久はそう言って双子の頭を撫でた。中身を見た双子は、一度箱を机に置いてから

 

「ありがとうございます」

 

「また、このおみせにきます」

 

と礼儀正しくお辞儀した。

 

「はい、お待ちしてます」

 

そうしている間に、ヴィクトリアがお会計を済ませて、退店した。その後、ヴィクトリアが

 

「異世界食堂は、7日に一度行ける……来たくなったら、また私の所に来なさい……見つからないようにね」

 

と言って、双子の頭を撫でた。

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