異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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六皿目 ミートソーススパゲッティ

「ここは……」

 

「ここが、異世界食堂さ……さ、座るぞ」

 

シリウスが呆然としていると、トマスがそう言った

そこに、アレッタが近寄り

 

「いらっしゃいませ! ねこやにようこそ!」

 

と出迎えた

そのアレッタの姿を見て

 

「ん? 君は……」

 

とトマスは、僅かに固まった

そこに、店長が現れて

 

「新しく雇った給仕ですよ。トマスさん。お好きな席に座ってください」

 

と言った

すると、遅れて明久が現れて

 

「こちら、預かりますね」

 

と言って、トマスが持っていた袋を預かった

それを見たトマスは、興味津々といった様子で見回すシリウスに

 

「お前ならば分かるだろ、シリウス。ここが、異世界だとな」

 

と言った

それを聞いて、シリウスも

 

「はい……見たこともない物が、多数……」

 

と呟いた

シリウスが見ていたのは、電気やラジオだった

そこに、店長が現れて

 

「どうぞ、今月の売り上げです」

 

と言って、トマスの前に持ち運び式の金庫を置いた

 

「ん」

 

トマスは短く返答すると、その金庫の中を確認した

 

(ふむ……先月より、上がってるか……)

 

トマスは目算で売り上げを確認すると、店長に顔を向けて

 

「では、何時も通りに」

 

と言って、その中から数枚取った

それを見た店長は、金庫の蓋を閉めると奥に消えた

それと入れ替わるように、トレイを持ったアレッタが現れて

 

「お水とメニューをお持ちしました」

 

と差し出した

しかしトマスは、コップは受け取ったら

 

「すまんが、頼む物は既に決まっているんだ」

 

と言った

そして

 

「儂はミートソーススパゲッティの大盛りを」

 

と注文した

 

「シリウスも、それでいいな?」

 

「あ、はい!」

 

トマスが問い掛けると、シリウスは背筋を伸ばして返答した

それを聞いたトマスは

 

「では、ミートソーススパゲッティの大盛りを二つと、食後にコーヒーを一つ」

 

と注文した

それを聞いたアレッタは

 

「はい、承りました!」

 

と言って、奥に入っていった

それを見送ると、トマスは

 

「さて、シリウス。ここではな、様々な料理が出てくる」

 

とシリウスに語りかけた

 

「様々な料理……」

 

「うむ。そのどれもが、とてつもなく美味い。よく勉強しなさい」

 

トマスの言葉に、シリウスは神妙そうな表情を浮かべて頷いた

だが、内心では

 

(どういう意味だろ……)

 

と首を傾げていた

そして、十数分後

 

「お待たせしました。ミートソーススパゲッティの大盛りです!」

 

とアレッタが、二人の前に皿を置いた

 

「こちらの二つは、自由に使ってください。では、ごゆっくり」

 

アレッタはそこまで言うと、手を上げている別の客の方に向かった

それを見送ると、トマスは

 

「さあ、食べようか」

 

と言って、フォークを持った

 

「は、はい!」

 

トマスの言葉に、シリウスもフォークを持った

その間にトマスは、フォークで麺を巻き取り口に運んでいた

 

(ふむ……やはり、まだまだか……)

 

「んっ!?」

 

そしてシリウスは、その美味しさに目を見開いた

 

(酸味のあるソースがベースだけど、その中に細かい良質な肉と、細かく刻んだ野菜があり、それらが見事に調和してる!)

 

シリウスはそう思うと、フォークでソースの表面を僅かに掻いた

そこから見えたのは、細かく刻んだ具

それらを包んでいるのは、赤いペースト

その正体に行き着いて、シリウスは

 

「お祖父様! なぜ、この料理に我が商会が独占しているマルメットが使われているのですか?」

 

とトマスに問い掛けた

更に、シリウスは

 

「それだけじゃありません……この味……より洗練されてますが……商会で売っているソースに似ています!」

 

と言った

それを聞いたトマスは

 

「……やはり、気づいたか……シリウス、儂はな……この味をここ以外でも食べたかっただけなんだ」

 

と言った

それを聞いたシリウスが、固まっていると

 

「料理発明の天才……人々は儂をそう呼ぶがな、そんなのはただの虚名だ……」

 

と語り出した

 

「もう、30年も前になるか……儂はたまたま、倉の奥に、ここに繋がる扉を見つけた……そして、出会ったのだよ。ここの料理に……」

 

その言葉には、懐かしさが感じられた

だからか、シリウスは思わず聞き入っていた

 

「それから儂は、ここの料理……特に、儂らアルフェイド商会の主力商品の麺料理の再現を始めた……そうして、あれだけのソースを売り出したが……まだ、納得していないのが実状だ」

 

確かに、余りにも味が違うことはシリウスにも分かった

素材レベルだけでなく、調理技術

それらが重なって出来上がるのが、ソースの出来

 

「しかし、儂ももう年だ……商会からは、身を退いている……だからな、シリウス……お前が、舵を執れ」

 

「つっ!? 僕がですか!?」

 

トマスの言葉に、シリウスは驚いた

すると、トマスは頷き

 

「うむ……儂よりも、舌が味に敏感だ……お前ならば、ここの味に近付けることが出来る筈だ」

 

と言った

確かに、約30年前よりも料理の味は洗練されてきていて、シリウスはそれに慣れている

ならば、そこから違いに気づける筈だと、トマスは思ったのだ

それを聞いたシリウスは

 

「分かりました、お祖父様」

 

と真剣な表情で頷いた

それを、カウンター越しから見ていた明久は、その姿を過去の自分と重ねていた

今やねこやのキッチンに立っているが、明久も味の探求のために様々な店に行ったりしていた

その中で、このねこやに行き着き、働かせてもらっている

 

「頑張れ、少年……」

 

明久はそう言うと、調理に意識を戻したのだった

そしてこの後、このシリウスが新たな目玉商品を開発し売り出すことになるが、それはまた別の話


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