異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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すいません、お待たせしました


69皿目 スコッチエッグ

その日、彼。エミリオは朝から緊張していた。まず、エミリオの目の前に居るのが、彼が信奉する赤の神に使える神官の中でも大物のルシアだということ。

 

「よくいらして下さいました。貴方のことを、私達は心から歓迎します」

 

「は、はい……自分のような修行中の身の若輩者が、神聖なこの地で修行させてもらうことを、光栄に思います」

 

当代屈指の大神官、ルシアは緊張しているエミリオの頭を、彼の身長の三倍以上はある尾で優しく撫でた。

ルシアは、人ではなく亜人の一種たるラミアだ。女性の上半身に大蛇の下半身の一族で、女性しか存在しない。

そんなルシアの一族は、長い間赤の神に使えてきた一族で、エミリオの聞いた話では今から約1000年以上昔にあったエルフの一族との戦争において、赤の神から与えられた強大な力でエルフを焼き尽くし、ルシア自身も今から約10年近く前に起きた他の神の神官戦士との戦でたった一人で相手を撃滅させたという逸話がある。

そんなルシアの年齢は50を超えている筈なのだが、肌の艶も色香も、全くそう思えない程に若々しかった。

その理由は、赤の神から直々に与えられた一滴の血によりエルフに近い不老長寿を得たからだ。

 

(やはり、僕は……)

 

その時、ふとエミリオの心中は暗くなった。

神官としては未熟なエミリオだが、他には無い才能が確かにあった。それは、《少女のような可憐な容姿》だ。

何時も男らしさを求めるエミリオからしたら、どうしても無視出来ないのだ。

男と気付かれなかったり、《男だと認識しながらも》愛を囁かれたことが何回もある。男らしさに憧れて、髪を短くしたり男らしい服装をしたりとしてみたが、今のところ効果は無い。

ルシアがそういった面を見たのならば、エミリオからしたら複雑だ。

 

「大丈夫ですよ……貴方は、確かに私が見込んだのですか」

 

ルシアはそう言って、再び尾でエミリオの頭を撫でた。先に述べたが、ルシアはラミアであり、そしてラミアは、女性しか存在しない種族の亜人だ。

どうやって子を為すかというと、定期的に人の男性と交わって卵を産み、それから産まれるのだ。

そしてここ、赤の神殿の総本山とも言うべき聖殻神殿には、ルシアを含めて多くのラミアが保護され、繁殖している。

しかし、単独で繁殖出来ないために、ある地方のラミアは危険な存在として大多数が討たれてしまい、絶滅の危機にあるらしい。

そしてエミリオは、ルシアの案内で聖殻神殿の奥へと進んでいく。すると、ある場所に入れば多くのラミアが人間の赤ちゃんサイズの卵を抱えてトグロを巻いている姿が見えた。

 

「今日は特別な日……特別に、聖地へとご案内いたしますわ」

 

そう言って、ルシアはエミリオを先導して進んでいく。

 

「せ、聖地ですか?」

 

「ええ……私達にとっても……そして、貴方にとっても特別な聖地ですわ」

 

エミリオが困惑した様子で問い掛けると、ルシアは愛を囁くように耳元で囁いた。

すると、何人かのラミアが

 

「ほら、あれがルシア様が仰っていた方よ」

 

「まあ、素敵。流石はルシア様ね」

 

「あら、あちらは……ああ、今日はドヨウの日だったのね」

 

と会話していた。

 

(ドヨウの日?)

 

初めて聞く言葉に、エミリオは困惑しながらもルシアの後に続いた。そうして進んでいると、神殿に居るとは思えない場所。洞窟に入った。

 

「ここが……いえ、納得しました……濃密な、赤の神のお力を感じます」

 

如何に未熟とはいえ、エミリオも赤の神官。自身が信奉する赤の神の気配と力に気付かない訳がなかった。

 

「ええ、そうでしょうね……では、案内をします……着いてきて下さいね」

 

「は、はい」

 

ルシアの後に続き、エミリオも洞窟に入った。どうやらある程度は手入れされているようで、歩くのには困らない。

 

「なるほど……大切な物とは……」

 

進んでいく内に、どんどん強くなる赤の神の力。恐らくは、遥か太古に混沌と戦い、剥がれ落ちた赤の神の鱗。そして、もう1つが

 

「はい……私達の娘です」

 

そこには、まだお腹が大きいラミアや、小さなラミアを抱えたラミアが居た。

 

「あの娘達が抱えている卵は、孵るのに時間が掛かります……季節が3つは経たないと、産まれてきません……」

 

ルシアはそう言って、一人のラミアに近づいた。すると、そのラミアは振り向いて

 

「ああ、お祖母様……どうかされましたか?」

 

とルシアに問い掛けた。どうやら、孫娘のようだ。

 

「楽にして頂戴、ルーミア……今日は、貴女が行く予定だったと思うけど……今日はお客様をお連れしたのよ」

 

ルーミアは、ルシアの言葉でエミリオに気付いたようで

 

「初めまして……ルーミアと申します。よろしくお願いしますね、神官殿」

 

と優雅に一礼した。

 

「それでね、ルーミア……」

 

「大丈夫ですよ、お祖母様……その代わりに」

 

「ええ、アレね……分かっているわ」

 

ルーミアの言いたいことを察し、ルシアは優しくルーミアの頭を撫でた。

 

「あの……アレ、とは……?」

 

「すぐに分かりますわ」

 

話に着いていけないエミリオは混乱しているが、ルシアはそんなエミリオの手を握り、更に奥へと進んだ。すると、あまりにも場違いな物を見つけた。

 

「え……なんで、こんな所にドアが……?」

 

「ふふ……これは、今から約10年前に私どもの信じる神が授けてくださった神の地へと繋がるドアですわ」

 

ルシアはそう言って、ドアの取っ手を掴んで引いた。

そして、ドアが開いた直後

 

「うわっ!? なんだ、この濃密な赤の神の力は!?」

 

エミリオは、まるで粘液のような濃密な赤の神の力に驚いた。そんなエミリオに、ルシアは微笑み

 

「覚悟してくださいね……このドアの先は、我らが赤の神から与えられた神のごとき料理が提供される場所なのですから」

 

と言って、エミリオの手を引いてドアを潜った。すると、心地よいベルが鳴ったかと思えば

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやへ。空いてる席にご案内します」

 

そんな二人を、霊夢が出迎えた。そして霊夢の案内で、二人は近くの空いてる席に案内されて、座った。

そして、エミリオは周囲を見回してから

 

「……色々な方がいらっしゃってるんですね……」

 

と驚いた。ライオネルにガガンポ、タツゴロウにアルトリウス。そして何よりも、途中と奥に居る光の高位神官達。あまりにも、統一性が無い。

 

「ここは、通称異世界食堂……私達からしたら、異世界の食べ物屋になります……」

 

ルシアが説明すると、霊夢がおひやとメニューを持ってやってきて

 

「こちら、おひやです。メニューは……」

 

「それでしたら、既に決まってます。スコッチエッグをお願いします。私達の分は、半分は完熟でもう半分を半熟。付け合わせは、パンでお願いします。それと、お持ち帰り用に20個程とテキーラを……エミリオ様も、それでよろしいですね?」

 

「は、はい……お任せします」

 

まだ状況を把握していないエミリオは、ルシアに任せることにして、頷いた。そのやり取りを聞いた霊夢は、手早く注文表に書いてから

 

「はい、承りました。お持ち帰り用のは、お帰りの際にお渡しします。では、少々お待ちください」

 

と答えて、奥に下がった。それを見送ったエミリオは再び周囲を見渡し、それを見たルシアは

 

「珍しいですか?」

 

とエミリオに問い掛けた。

 

「はい……ここは、赤の神の聖地なのですよね? 先ほど食べ物屋と仰ってましたが……」

 

「はい、その通りです。何しろ、赤の神が自ら来店する場所なのですから」

 

「ええ!? 赤の神御自らですか!?」

 

ルシアの話を聞いて、エミリオは驚くと同時に納得してしまった。それならば、店内に満ちる濃密な赤の神の力が説明が付くからだ。

 

「はい……それもこれも、このお店の食べ物が美味な為ですわ……幸い、赤の神が訪れるのは真夜中のようですから、その前にお暇しましょうね」

 

「は、はい!」

 

神官団でも会えるのは極僅かな赤の神に直接会うなど畏れ多い為、エミリオはルシアの言葉に素直に頷いた。それから少しすると

 

「お待たせしました。スコッチエッグです。では、ごゆっくり」

 

と明久が、二人分のスコッチエッグを持ってきた。明久が置いた2つの皿の上には、小さな丸いマルメット(トマト)と薄い緑色の葉野菜。そして赤い彩りのペーストと肉に、白い卵が幾つか乗っている。

 

「美味しそう……」

 

「その結論は早いかもしれませんが、味は私が保証します。では、いただきましょうか」

 

「は、はい」

 

ルシアに促されて、エミリオはパンを持った。すると、ルシアが

 

「この切られているのが、完熟。こちらの切られてないのが半熟です。先に完熟から、いただきましょうか」

 

「はい……あの、こちらは何故切られてないんですか?」

 

「ふふ……その理由は、後程」

 

エミリオからの質問に、ルシアは微笑みながら返答。気になりながらもエミリオは、パンを一口食べて

 

「あ、美味しい……」

 

と呟いた。エミリオの知るパンより遥かに柔らかく、更には仄かに甘い。

 

「それはパンという食べ物だそうで、コムギという植物の実を挽いてから固めて焼く食べ物だそうですよ」

 

「コムギ……聞いたこと無いですね」

 

勤勉家なエミリオでも、小麦のことは知らなかった。しかし、美味しいのは事実であり、エミリオが一つ食べきると

 

「パンも美味ですが、スコッチエッグを食べましょうか」

 

「は、はい」

 

ルシアに言われて、エミリオはスコッチエッグを見た。まるで、様々な色で構成された年輪を彷彿する料理に、エミリオは息を飲んだ。そして、肉と野菜、そして完熟の卵を一緒にして食べた。すると口の中に、肉の濃厚な脂と野菜の瑞々しくも仄かに甘い味、そして卵の濃厚な味が一気に広がった。

 

「美味しい!」

 

「ふふ……それは良かった。次は、そのチリソース。赤いペーストを、お肉に着けて食べてみてくださいませ」

 

「はい、分かりました」

 

ルシアの言葉を聞いて、エミリオは牛肉にチリソースを少量着けてから口に運んだ。次の瞬間

 

「辛っ!?」

 

余りに予想外の味に驚いたが、直ぐにその美味しさに気付いた。確かに、食べた瞬間はその強烈な辛さに驚いた。しかし、直ぐに野菜と卵により辛さが中和され、肉の旨味を引き出していた。だから気付けば、汗を滴しながら、エミリオは完熟卵を全て食べていた。

そして残ったのは、半熟の卵。

 

「こちらの半熟ですが、注意してくださいね」

 

ルシアはそう言って、先に肉にチリソースを着けてからその上に半熟卵を乗せた。見よう見まねで、エミリオもやってみたが、その時に気付いた。

 

(完熟のより、柔らかい?)

 

卵が完熟のものに比べて、柔らかい。不安さえ覚える柔らかさだが、ルシアが気にしてないのだから、それで正解なのだと言い聞かせた。そして、ルシアに続いてナイフを入れた直後

 

「わっ!? 中から!?」

 

「はい。半熟というのは、半分だけ固まった状態なのです」

 

ルシアはそう言って、卵が絡んだ肉を食べた。それを見習い、エミリオも食べた。すると、先ほどの完熟とは違って口全体に卵の強い風味が広がって、チリソースとよく絡んでいる。

 

「うわ……」

 

「ふふ……この完熟と半熟、どちらが美味しいか……このお店に来て以来、一度も決まらないのです」

 

「ですが、納得出来ます。どちらも、甲乙付けがたい」

 

ルシアの言葉に、エミリオは納得した。エミリオも、どちらが美味しいかと聞かれたら答えられない自信がある。その後、二人は全て食べ終わり

 

「ふう……美味しかったです」

 

「ふふ、それは良かったです」

 

線は細いが、見事に完食したエミリオに、ルシアは男らしさを感じた。すると、明久が霊夢と一緒に現れ

 

「こちら、お持ち帰り用のスコッチエッグ20とお酒です。お待たせしました。」

 

と言って、ルシアとエミリオの前に置いた。数を数えたルシアは

 

「確かに。ありがとうございます」

 

そう言いながら、胸元から銀貨を数枚取り出し、明久に差し出した。枚数を数えた明久は

 

「はい、確かに。またのご利用をお待ちしてます」

 

明久と霊夢に見送られながら、二人は退店。出迎えたラミア達にスコッチエッグを配った。

後に、ルーミアとの間に10人以上の娘を作る名神官の始まりになる。

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