客も一段落し、明久と店長は賄いを作るために冷蔵庫を開いていた。
「えっと……玉葱に挽き肉、ネギか……」
「こりゃ、アレだな」
「ですね」
そして二人は、調理を始めた。店長がメイン料理を作り、明久がスープを作る。そこに、フロアーの片付けが終わったらしく、霊夢が現れて
「フロアーの掃除は終わったわ。アレッタとクロは倉庫に行って、早希は食器を食器洗い機に入れてる」
と報告した。それを聞いた店長は、洗って絞った布巾を差し出して
「だったら、休憩室の机を拭いておいてくれるか? これからお昼にするからな」
と頼んだ。布巾を受け取った霊夢は、頷いてから休憩室に向かっていった。それを見送りつつも、店長と明久は調理を進める。
そして、食器洗い機に食器を入れてきた早希にも休憩室に向かわせ、倉庫から戻ってきたアレッタとクロに出来た賄いを運ぶのを手伝ってもらい
「お待たせ」
「今日の賄いは、麻婆豆腐だ」
机の上に、賄い料理たる麻婆豆腐を各人の前に置いた。付け合わせとして、春雨とワンタンのスープもある。
「麻婆豆腐ってことは、豆腐を使った料理なのね……」
「そうそう。熱いから、気を付けてね」
霊夢の呟きを聞いた明久は、スープを置きながら注意を促した。
確かに、立ち上る湯気がその熱さを物語っている。
そして、全員が席に着くと
『いただきます』
何時もの挨拶をしてから、食事が始まった。
そして、一口食べた霊夢が
「確かに熱いけど……少し辛いのが癖になる美味しさね」
と評価し、もう一口食べるとご飯を口に運んだ。
それを横目に見つつ、店長は過去に思いを馳せた。
実は店長は、一時期は中華料理店の店長になるつもりで修行していたのだ。しかし、事故で他界した両親の代わりに面倒を見てくれた先代店長の大樹が病気で倒れ、そのまま他界してしまったために、ねこやを継いだ。
その影響で、賄いには店に出ないメニューとして中華料理がよく出ることがある。
今回の麻婆豆腐がその例になるだろう。
実は、今回の麻婆豆腐の調理に使った中華鍋は、その修行時から愛用している代物で、修行先だった笑龍で貰ったものだ。修行時から考えると、10年以上は使っている。
(本当、物持ちがいいな……俺は……)
店長はそう思いながら、自分で作った麻婆豆腐を食べた。霊夢が言った通り、少し辛めの味付けが癖になる。
この味付けも、笑龍で教えられたものだ。
店長を鍛えた笑龍の店長は、四川料理店で修行したらしく、全体的に少々辛めの味付けが好みらしいが、お店では子供向けも考えて辛さを変えられるようにしている。
それはさておき、次に明久が作ったスープを口にした。
鶏ガラスープの中に、短めに切られた春雨と小さめのワンタンが有り、春雨には鶏ガラスープが染み込み、ワンタンはエビが入っていて噛む度にプリッとした食感が楽しめる。
(……ある意味、良い拾いものだよな……)
明久の料理人としての加入は、本当に助けだった。平日は他の料理人も居るが、良い刺激になっていて、土曜日は時々忙しい時の見事な仕込みや分担して作れるようになっていた。更には、新しい料理のレパートリーも増えた。
特に、明久の得意料理だったパエリアに関しては、店長も驚きだった。実は店長も、パエリアは作れるがどうにも満足していなかったために、賄いにも出さない料理だったが、明久のパエリアでその違いに気付けて、最近では少しずつ改良してきていてメニュー入りも間近になってきている。
「店長、お代わりです!」
「はいよ」
その時、アレッタがご飯のお代わりをしてきたので、店長は意識を戻してアレッタが差し出してきた器にご飯をよそったのだった。