この場を借りて、紹介してくださった方々に、お礼を
ありがとうございます
「さて……どうするか、これ……」
「流石に、このサイズは中々……」
お盆の土曜の朝方、店長と明久は目の前の緑と黒の縞々模様が特徴の夏の果物。スイカを見て唸っていた。
それは今朝の搬入の時、野菜を何時も卸してくれる業者がオマケにと渡してくれたものだ。今年は少し不安な天候だったが、予想外に大きくかつ甘く育ったらしい。
確かに、サイズはかなりの物で、量ってみたらなんと10kg近くあった。
流石にそのサイズとなると、消費するのも一苦労になる。
一頻り唸った店長は、うん、と頷き
「うし……困った時の知り合いだな」
「あぁ、フライングパピーの店長さんですか」
明久の言葉に、店長は頷いた。
意外に知られていないが、フライングパピーの店長は一流のパティシエであり、国際大会に出場した経験もある。更に言えば、季節ごとに様々なお菓子を考案・開発しているので、デザートのレパートリーは店長や明久を圧倒している。
「んじゃ、後で何か良いのがないか何種類かメモ貰ってくる」
「分かりました」
一先ずそう決めた二人は、一度スイカを仕舞ってから仕込みを始めた。そして、翌日の早朝。
「おはようございます!」
「おはようさん」
「おはよう」
何時ものように起きて、朝食を食べてから
「それじゃあ、私達は帰りますね」
「あ、待って。アレッタちゃん、霊夢ちゃん」
帰ろうとしたアレッタと霊夢を、明久が呼び止めた。二人が振り向くと、明久と店長が
「アレッタちゃん、自分から注文して忘れないでくれ」
「あぁ! そうでした、ありがとうございます!」
「はい、これ」
「これは……」
それぞれ、ビニール袋を手渡した。
アレッタに渡したのは、メンチカツサンドが三人分と大サイズのクッキー缶。霊夢には、おにぎりの詰め合わせ。
そして、共通して一つの魔法瓶があった。
「あの、このポットは……」
「ん? 昨日の夕食に出したデザートが入ってる。まだまだ余ってるから、持って帰っていいよ」
「魔法瓶だからまだ保つけど、早目に食べてね」
「そんな! 魔法の瓶まで!」
「いいからいいから」
「流石に、食べきれないからね」
魔法瓶の事を聞いたアレッタは、魔法道具と勘違いしていたが、明久と店長に押されて受け取った。そして二人は帰宅した。
時は少し遡り、サラの別荘。
その自室で、サラはウンウン唸りながらペンを走らせていた。そんなサラが見ているのは、従兄のウィリアム・ゴールドjrから貰った手帳だった。
サラは手帳を貰った後、一度実家に戻って親族にウィリアム・ゴールドjrが生きてる事を知らせ、証拠として手帳を差し出した。
その手帳は、ウィリアム・ゴールドが直接jrに渡した物で、途中までは確かにウィリアム・ゴールドの筆跡。
そして後半は、jrの特徴的な字なことが分かった。
分かったのだが、余りにも字が特徴的過ぎて実家の親族には中々読めなかった。
しかし、読めた部分もあり、その部分を読んだ親族達はその手帳を秘匿し、サラに解読してもらうことにしたのだ。
すると、実家から監視役として先日から泊まり込みで来ていたシアが、欠伸を噛み殺しながら部屋に入ってきて
「姉さん……徹夜したのね?」
と呆れながら問い掛けた。
サラの机の端には、まだ若干燻っている蝋燭があり、更に言えばサラの目元にはクマが出来ていたからだ。
するとサラは、少し興奮した様子で
「仕方ないじゃない。この手帳に書いてあるの、かなり衝撃的な内容ばかりなんだもの」
と答えた。
トレジャーハンターのサラからしたら、その手帳に記されている内容は、まさに一攫千金に値する情報ばかりだった。
東大陸と西大陸でも、多数の魔獣が居る為に人が入るには困難な地域があり、jrはどうやら、その地域にも入ったらしい。
更に驚いたのは、南大陸への渡航方法が記載されていたことだ。
それを、シアに言ったところ
「え? でも南大陸って、東と西大陸から行った船は、全部沈められてたよね?」
と困惑していた。
今まで、何度となく数多の商人や国がその領土や商売の幅を広げようと、南大陸を目指した。
だが、通称で龍神海という魔の海域が存在し、その海域に入った船は、一部の例外を除いて、全て沈められた。
その例外というのが、南大陸の船だった。
「兄さんはどうやら、古代エルフが残した門型の魔道具で南大陸に渡ったみたいだけど……その龍神海は、海底に青の神が治める海底帝国があるみたいなの……つまり」
「あ! 自分達の領土を、無作法に入ってきた連中を、迎撃したってこと!?」
シアの答えに、サラは
「その通り! 確かに考えてみたら、人魚とか何処に住んでるのか知らなかったけど、海底帝国があるなら話は繋がる。確かに、何処の誰とも知らない輩が、無断で領土に入ってきたら、兵士を差し向けて迎撃する位はするわよね」
と称賛した。サラとシアも貴族の家の為に、領土問題は分かる。そこから考えると、無断に立ち入り、あまつさえ勝手に通られようとしたら、迎撃するのは当然の権利なのだ。
「兄さんも確信した訳じゃないみたいだけど……どうやら、人魚と仲良くなっておけば、比較的安全に通れる可能性はあるみたい……」
「そっか……幾ら青の神とは言っても、水中に住む魔族の全てを治めてる訳じゃないからね……」
魔族と一括りにしても、中には混沌に属する魔族も居る。それらから襲撃を受ける可能性は、十分にある。
「だけど姉さん……そんな重要な情報の書かれた手帳を、ここで解読していいの? ほら、あの娘とか……」
「ああ、アレッタ? あの娘なら大丈夫よ。まずあの娘、字が読めないみたいだし……何より、良い娘だもの」
シアの懸念を、サラは一蹴した。
最初は確かに、知り合いだったから雇った。しかし一緒に住んで、家事を任せていたら、アレッタの性格を知った。
真面目でしっかり働く。そこから考えて、邪なことは考えないだろう。
その時
「サラ様、只今帰りました。あ、シア様。お迎え出来ず、すいません」
と件のアレッタが帰ってきて、挨拶してきた。そして、サラが徹夜したことを見抜き
「サラ様……また徹夜ですか? お体に悪いですから、控えて下さいと前にも言いましたよね?」
と少し呆れた様子で忠告してきた。
「ごめんね、アレッタ。それより、頼んでたアレのは買ってきてくれたかしら?」
「はい、ここに有りますよ。今用意しますから、お待ちください」
アレッタはそう言って、部屋から出ていった。するとシアが、不思議そうに
「アレって、なに?」
「お祖父様のお宝で、私が好きな料理よ」
シアからの問い掛けに、サラは机の上を軽く片付けながら教えた。少しすると、アレッタが家政婦の服に着替え、大きめのお盆を持って現れた。
「どうぞ、メンチカツサンドです」
「んー! これよこれ! ドヨウの日はこれよね!!」
アレッタが机の上に置くと、サラが早速一つ掴んだ。
シアは、初めて見る料理に、うろんげな表情で
「これが、料理……?」
と首を傾げた。するとサラは、早速一つ食べ終わり
「シアも食べてみなさいって、美味しいから」
とオススメした。それを聞いたアレッタが、魔法瓶を開けながら
「ああ……道理で三人分だと思いました。シア様の分もだったんですね」
と言ってきた。どうやら、サラが二人前食べるのは何時もの事らしい。これは、サラが見つけたドアがかなり遠く、中々行けない距離の為に、アレッタが出勤する時に頼むようにしたのだ。
一応別のドアも探しているが、中々見つからないらしい。
そして、サラにオススメされたシアは、一つ掴んで見てみた。見た目は何とも言い難く、黒っぽい何かを白いパンに挟んであるようにしか見えない。
しかし、サラが美味しそうに食べているのを見て、シアも勇気を出して一口食べて、驚いた。
「何これ!? 凄く美味しい!」
口の中に広がる濃厚な肉の味。肉の味に調和して、ソースの風味も広がるが、同時にレモンの酸味で脂のしつこさが無くなり、さっぱりする。
あっという間に一つ食べ終わると、シアは時々アレッタが出すクッキーを思い出して
(アレと同じ出所かしら……どんな所なのかしら?)
と首を傾げた。そして、メンチカツサンドを食べ終わった時、アレッタが
「サラ様、シア様。此方もどうぞ」
とアレッタが、底の深い器を出した。器の中には、薄い赤が特徴の冷気を感じる何かが入っている。
「アレッタ、これは?」
「これは、ねこやのある世界のスイカと呼ばれる果物を使った、シャーベットだそうです」
サラの問い掛けに、アレッタはスプーンを置きながら答えた。シャーベットと聞いて、サラとシアは以前に実家で食べたシャーベットを思い出した。
氷のデザートはかなり高価だが、かなり味が薄く、正確には果物の氷漬けという感じだった。
それを思い出した二人は、さほど期待しないで一口食べて、驚いた。
スイカという果物は知らなかったが、しっかりとした果物の味わいに、仄かな甘さが美味しかった。
予想外な美味しさに、サラとシアは思わずシャーベットを掻き込んだのだが
「あ!? そんなに一気に食べたら……!」
『いったぁぁ……!』
実は、昨日の夕食の時にアレッタも同じ経験をしていたが、忠告が間に合わなかった。
「あー……直ぐに引きますから大丈夫ですけど……」
「くっー……結構クるわねぇ……!」
「けど、これ美味しいわ……」
サラとシアは、そこまで言うと二人で目を合わせて
『おかわり、ある?』
と同時に問い掛けた。その問い掛けに、アレッタは苦笑を浮かべながら魔法瓶の中に残っていたスイカシャーベットを出したのだった。