(*ノ・ω・)ノ⌒。ポ-イ
ε=ε=ε=┌( ˙-˙ )┘ニゲルンダヨー
そして──時は来た。時刻は夜の6時を周り、武道館周辺は入場を今か今かと心待ちにしているであろう大勢のファン達によって埋め尽くされ、会場のキャパシティが心配になってしまうほどの人数だ。
「うわぁ〜凄いね!流石Roseliaの皆さん!」
「香澄、あんまりはしゃぐとバレるから静かにな」
その中に変装をして紛れ込み、会場周辺を歩く5人の少女達。彼女達こそ、今をときめくガールズバンド『Poppin’Party』。彼女達も武道館でのライブを2日後に控えているのだが、本番前に根を詰めすぎるのも身体に悪いという事で、息抜きとしてライブの観戦にやって来ていた。
「ふふ、やっぱり有咲って香澄の保護者みたいだよね」
「なっ、何言ってんだ沙綾!んなわけ…!」
「有咲は…私の事嫌いなの?」
「うっ…別に、そういう訳じゃ…ねえけど」
「有咲〜!」
「やめろ、くっ付くなぁ!」
「ふふ、やっぱり変わらないね」
「りみ、ハンバーグ食べに行かない?」
「い、今から?今からは無理だよ、おたえちゃん…」
沙綾が有咲をからかい、有咲がいいように翻弄され、香澄が抱きつき、有咲が照れながら絶叫する。それを見ているりみがくすくす笑い、おたえが空気の読めない発言をする。在りし日のポピパの日常がここに蘇っていた。
…注意した本人が1番騒いでいる件については、コメントを控えさせていただく。彼女の名誉の為にも、ここは言わない方が良いはずだ。
ちなみに、こうやって騒いでいるせいで周りの人間に少しずつ正体がバレ始めているのも内緒なのである。
「ねえさーや、茜ちゃんって来ないの?」
「うーん…たまに連絡は取り合うんだけど、ここ2年くらい会えてないからよく分からないかな…来るなら連絡が来てるはずだし…」
とても残念そうに言う沙綾。事実、彼女が茜と連絡を取ったのは数ヶ月前、電話で少し話した程度だ。沙綾も茜も、お互い忙しい時期だったため仕方ないと言えば仕方ないのだが…沙綾としてはもう少し連絡を取っておけばよかったと思っているようで、後悔の色が強く顔に出ている。
そんな沙綾の横顔を見たりみはそっと沙綾の手を取って笑う。
「りみりん…?」
「沙綾ちゃん、大丈夫だよ。茜ちゃんは、沙綾ちゃんのことが大好きだもん」
りみの姉──牛込ゆりは、りみが高校2年生の時に単身海外留学に行っており、その間彼女はずっと1人だったのだ。大好きな姉と離れ離れになる辛さを、彼女は知っている。
だからこそ──彼女は自信を持って言えるのだ。例え血が繋がっていなくとも、絆は繋がっているのだと。
「これくらいの事で、沙綾ちゃんが不安になるのはダメだよ?茜ちゃんの事、信じてあげよう?」
「…そうだね。ありがとう、りみりん」
「ふふふ、どういたしまして」
「──くしゅん!」
「茜さん?風邪でもひいたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
「だ、大丈夫…ですか?」
「…無理させてしまったかしら?」
「茜、体調が悪いなら言いなさいよ?」
「その時は私が看病して──!」
「結構です!」
「楽しみだね、みんな!」
「そうだね」
「なんか私まで緊張してきちゃったな…」
「燐子先輩…大丈夫なのか?」
「紗夜さんのかっこいい所、茜の分まで目に焼き付けておかなくちゃ!」
「皆、準備はいいかしら?」
「はい」
「問題ないよ、友希那!」
「バッチリです!」
「いつでも…行けます…!」
「──茜、頼むわね」
「──はい!」
「それじゃあ皆、行くわよ!」
そして、午後7時。
BanG_Dream!7thLive Day1『Hitze』──開演。
音楽業界、ひいてはミュージシャンの間ではライブなどの聖地として有名な日本武道館。総キャパ数14471人と非常に多く、まさに聖地と呼ぶにふさわしいものだ。
当然、デビューから2年足らずで立てるような生易しい場所ではない。だが彼女達Roseliaはその圧倒的な演奏技術によってそれを成し遂げ、こうしてこの舞台に立つ事になったのだ。
開演時間を過ぎた瞬間、武道館のステージ中央のギミックが作動。可変式のステージがせり上がり、中から5つの棺桶が姿を現す。
会場に流れ始めた荘厳な音楽と吹き出した白煙と共に棺桶が開き──白煙を引き裂くように現れた、5人の少女。彼女らは各々の配置に着くためステージ上を歩き、観客達はざわめきながらも彼女達を見守る。
そうすること10秒ほど。マイクスタンドの前に立った少女が声を出した瞬間──空気が、変わった。
『こんばんは、Roseliaです』
銀色の髪を靡かせながら話す少女──友希那の、その声が。静かに呼吸をした時の、ほんの僅かな動きが。観客達の目線を釘付けにして離さない。各々の配置に着いた他のメンバー達は自身の楽器を構えている。
『今日は来てくれてありがとう。今夜は私達の成長した姿を、貴方達に見せてあげるわ』
そう不敵に笑いながら言い切って、友希那は右手を掲げ──
『1曲目、BRAVE JEWEL』
──青薔薇が、咲いた。
「凄い…」
関係者席の一角──ステージの真正面に位置する場所で、Poppin’Partyの面々は驚きの声を漏らすばかりだった。
思い出すのはかつての自分達の主催ライブ。あの日も協力してくれたRoseliaは最高の音楽を奏でていたが、今目の前で奏でられているのはそれ以上のもの。
昔と比べて技術も格段に上昇しているし、演奏の端々に取り入れているパフォーマンスも圧倒的に増えている。だがそれ以上に──全員が楽しそうに音楽を奏でていて、彼女達の絆の強さが感じられる。
「友希那先輩…楽しそう…!」
香澄が目を輝かせながら嬉しそうに呟く。かつてのRoselia崩壊の危機の際、迷いを抱えながら苦しんでいた友希那を見ている香澄からすれば、嬉しく思えるのは当然だ。
「頑張れ…友希那先輩…」
ステージ上で懸命に歌う友希那の姿を見ながら、香澄は祈るようにそう呟いた。
(──楽しい)
ステージ上で歌う私の胸中は、普段の私なら殆ど思わないであろう思いが溢れていた。歌詞の一つ一つを全力で──『楽しむ』ように歌うなんて事、昔の私では考えられなかった。
『──きっと、湊さんの気持ち次第ですよ。貴女がRoseliaに何を求めていたのか、自分のRoseliaに対する想いがどれくらいあるのか。それを皆に伝えれば、きっとわかってくれます』
かつて、茜に言われた言葉を思い出す。かつてのRoseliaを取り戻そうと間違った道を選んでしまった私の浅はかな考えをそっと諭してくれた、彼女の言葉。昔の私には完全に理解出来たわけでは無かったけれど、今なら分かるかもしれない。
(今なら…きっと、自信を持って音楽を好きと言えるわね)
音楽に賭ける情熱は誰にも負けないと思っていたけれど、音楽が好きだと言う気持ちが私には無かったんだと…そう思った。
なら、今からでも遅くはない。この気持ちを大切にしながら、今のライブを全力で楽しもう。
「───ッ!」
声を張り上げて、皆の演奏に負けないように歌い上げる。スポットライトが私達を照らす中、紗夜のギターが吠え、あこのドラムが奔り、燐子のキーボードが静かに音を奏で、リサのベースが寄り添うように音を紡いでくれる。
結成当初に比べて、すっかり頼もしくなったメンバーの音。全員が今、各々ができる最高のパフォーマンスを見せている。
なら私も──応えなくては。最高のパフォーマンスに相応しい最高の歌を、今この場で歌わなければならない。
──歌え。
(私の全てを…)
──歌え。
(私の想いを…)
──歌え!
(このライブで、教えてあげるわ!)
激しいシャウトと共に演奏が轟き、観客のボルテージが最高潮に達していく。天井知らずに大きくなっていく歓声を一身に受けながら、高らかに。私達の想いを、純度高い宝石に変えて──!
「…流石Roselia、と言うべきなのかな」
思わず感嘆の言葉が口をついて出る。それ程までに完成された演奏だった。紗夜姉さん達の演奏も2年前とは明らかに差があるし、演奏もしっかり纏まっている。
だが何よりも──湊さんの歌が凄まじい。仕事柄、今まで数多くの歌手の歌声を聴いてきたけれど、今の湊さんは文字通り次元が違った。声量も普段より多いようで、会場の端から端までしっかりと声が届いている。
『────────ッ!』
「凄い…まだ追いつけなさそうだね」
高校時代に交わした約束…と言うより宣誓と言った方が近いか。どうやらまだ、その宣誓は果たせそうにないらしい。
『──ありがとう』
どうやら、1曲目が終わったらしい。割れんばかりの拍手と歓声が会場を席巻し、それは地鳴りのような音となってこちらまで届いてくる。どうやら出だしは好調のようだ。
「…そろそろかな」
座っていた椅子から立ち上がり、傍に置いてあったギターを手に取る。長年連れ添ってきた相棒のネックを優しく撫でれば、菫色のボディが一瞬煌めいたように見えた。
「──ありがとう」
1曲目が終わり、若干のインターバルが入る。当然この後も曲は続くけれど、ここで行わなければならない準備はまだ終わっていないらしい。なら、段取りを少し調整していかなければならない。
「次の曲…といきたいところだけれど、その前にメンバー紹介よ。先ずはギター、氷川紗夜!」
瞬間、吠えるギター。エフェクターを介して吐き出された音色が会場を席巻し、観客のボルテージを否応なしに上昇させていく。
「次に…ベース、今井リサ!」
次なる呼びかけに応えたのはリサ。手に持っていたピックを観客へと投げるや否や、指弾きによる即興のメロディを奏でた。
「よろしくっ☆」
そう言ってウインクするリサに、会場からの歓声はさらに大きいものへと変化する。その歓声を受けて、リサはニッコリと笑った。
「ドラム…宇田川あこ!」
瞬間、奔り抜けるドラムの音。すっかり成長したあこのスティック捌きは、もはや1人前を名乗れる域に達している。腕が霞んで見えるほどの速度でスネアやハイハットを叩いていき、最後はクラッシュとライトを鳴らして決めポーズを取った。
「キーボード、白金燐子!」
声と共に流れる、静かな旋律。水面に波紋が浮かぶように、聴く人に穏やかな印象を与える旋律を弾き終えた燐子はその場で静かに一礼した。
「そして──我らがリーダー、湊友希那!」
MCを交代したリサが高らかにその名を呼ぶと、会場のボルテージは更に上昇。観客の歓声をその身に受けながら、友希那はスカートの裾を摘んで優雅に一礼する。
「さて、次の曲だけれども──貴方達も知っている、ある人がゲストに来てくれているわ」
友希那の一言にざわめく会場。ざわめきの内容は殆どがどんなゲストが呼ばれたのかであるが、中にはゲストを呼んだというその事実に驚いている者もいた。普段のRoseliaのライブは他のバンドにゲストとして行くことはあれど、その逆は無かったのだ。驚く者がいるのもある意味当然の結果だった。
「私達の良きライバル──彼女と共に、今日のライブは進んでいくわ。皆、一瞬たりとも見放してはダメよ?」
そう言って静かに笑う友希那。普段はあまり人前で笑顔を見せない彼女だからこそ、その笑顔はとても輝いて見えるのだろう。
事実、隣のリサは胸を抑えて呻いているし、観客の何人かは気絶した人もいるほどだ。
「──友希那の純粋な笑顔…破壊力が…」
「…リサ?」
不思議そうに首を傾げる友希那と、呻くリサ。どこまでも脱線していきそうな流れを戻すために紗夜がパンパン、と両手を叩く。
「ほら、時間が押していますから早く次に行きましょう?」
「そうですよ!リサ姉もほら、早く元に戻ってー!」
「今井さんが…あこちゃんに、注意されてる…」
普段ならまず見れないであろう珍しい構図に、燐子が思わずといった風に呟く。しっかりしているリサであるが故に、いつも注意される側のあこが注意しているというのは中々新鮮に映るのだろう。
「…先に進めるわよ?」
「う、うん…大丈夫だよ、友希那」
「…兎も角、次の曲に行くわ。聴いて下さい、『Determination Symphony』」
曲名を言った途端に、会場が更なる歓声に包まれる。それもそのはず、『Determination Symphony』はRoseliaの曲の中でもかなりの人気を誇る曲だ。紗夜の圧倒的な演奏技術によって紡がれるギターの音色がメインとなる為、紗夜を推しているファンの間ではもはや神曲とまで言われるほど。
ステージ上の照明が落とされ、会場は観客の持つブレードの光のみが存在する暗闇へと変化する。
誰も、何も動かない。会場を静寂が満たし、観客間の緊張が極限まで高まっていく。そして──
特徴的なギターの音色と共に、引き絞られたアイスグリーンの光がスポットライトの様にギターを弾く少女へと降り注ぎ、その光に照らされた少女──紗夜は抑え込んでいた情熱を解き放つように、ギターの音色を響かせる。
過去にライブで何度も通った流れ。今回もその例に漏れず、このまま続くと思われた…が。
紗夜のギターから迸る音色にもうひとつ、
そして──紗夜のスポットライトとは真反対に位置するスポットライトがもうひとつ点灯し、先程までステージにいなかったはずの存在を照らし出す。紗夜と同じくらいの長さの髪をポニーテールで纏め、夕焼けを連想させるオレンジ色のパーカーを羽織った少女──茜は僅かに紗夜とアイコンタクトを交わすと、そのままステージ中央、友希那の立つ場所へと歩いていく。
誰も予想し得なかった結末に、会場は大いに沸き上がり、大歓声が会場中を反響していく。その中で、友希那が叫んだ。
「彼女こそが今回のゲスト…氷川茜!今日は彼女と私達Roseliaで、最高のライブにすると誓うわ!」