あの茜色の空を見上げて   作:イズナ/泉中

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二話目です。正直病院のシステムはさっぱりなので、優しく指摘ください。(クソザコ豆腐メンタルなので…)

それではどうぞ。


Zwei

 少女を見つけてから2日。

 

 結論から言うと、少女は無事だった。

 

 長い間水に浸かっていた事による低体温症、流されている間にあちこちぶつけたと思われる打撲以外には命にかかわるような怪我は無く、意識こそ戻ってはいないものの命に別状はないとのことだった。

 

 「よかった…」

 

 先生からの説明を聞いていた私は静かに息を吐く。

 

 現在私は病院にやってきている。少女の身体検査が終わったとの報告を受けて、慌ててやってきた形だ。

 

 少女はいつ目を覚ますかわからないが、あと数日以内なのは確実らしい。

 

 「それにしても、この子はよく無事でしたね…先日の大雨で川が増水し、かなりの勢いで流れていた中で流されて生きていられるなんて奇跡的ですよ」

 

 「この子の親は今頃何をしているのでしょうか?この子の親も突然いなくなった娘を心配しているはずですよね…」

 

 「…恐らくですが、この子の親は探しに来ないかと」

 

 「どういうことですか?」

 

 私が恐る恐る聞き返すと、先生は一瞬悲しそうな表情を見せ話始める。

 

 「この子の身体には、恐ろしい数の青痣がありました。それに加えて、鋭利な刃物で切られたような傷もいくつか見受けられました。更に、この子の服に付着していた水草なんですが…」

 

 先生が静かに地図を出して私に見せてくる。

 

 「この水草、山奥を流れる川などにしか存在しないんです。もちろん、水草自身が流れてくる可能性もありますが、かなり確率は低い。そうなると、この子はこの場所で川に落ちて流されてしまった可能性が非常に高いんです」

 

 「そのことと、探しに来ないことに何の関係が…?」

 

 「本来、この川周辺はかなり足場が不安定で誰も川の側に降りられないようになっています。つまり、川に近づいた際に誤って転落した…わけではなく、橋の上などから落ちたと見るべきです。加えて、この子の身体についているいくつもの暴力の痕…もうおわかりですよね?」

 

 「そんな…まさか」

 

 もし私の考えが当たっていたとしたら…この子はどれ程の心の傷を負っているのだろうか。

 

 そう考えていた私に、先生は苦虫を嚙み潰したような表情でこう言った。

 

 「…この子は親から虐待を受けていて、つい先日に川に捨てられた可能性が非常に高いです」

 

 足元が大きな音を立てて崩れていく感覚。私は言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 二日後、少女が目を覚ましたとの連絡を貰い、家族全員で病院へ向かうことにした。

 

 「ここが彼女の病室です」  

 

 病院についた私達家族5人を迎えてくれた先生は、すぐさま病室へと案内してくれた。

 

 「彼女とは私もまだ会話しておりません。ですので、どのような言動をとるかわかりませんが、落ち着いて話を聞いてあげてください」

 

 先生の言葉に私達は頷く。

 

 「それでは…入っていいですよ」

 

 先生に促され、病室のドアを開ける。目に映ったのはベッドの上から窓の外をぼんやりと眺める少女の姿だった。

 

 「こんにちは」

 

 「あの…誰、ですか?」

 

 私達が入ってきたことに気付くやいなや、怯えた表情で全身を緊張させながら恐る恐るといった風に問いかける少女。

 

 「この人は君を助けてくれたんだよ」

 

 先生が少女にそう言うと、少女はいくらか安心したように体の力を抜いた。

 

 「私は山吹千紘。貴女の名前は?」

 

 とりあえず名前から聞こうと思い、質問を投げ掛ける。たが少女は信じられないような言葉を口にした。

 

 「…茜。それ以外は、何も思い出せないんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女──茜はどうやら記憶喪失らしい。川に流されている間に頭を強く打った可能性があるとのこと。そのせいで何も思い出せなくなっているらしい。

 

 先生と話し合った結果、茜が退院したあとは児童養護施設等ではなく、私達山吹家で引き取ることになった。親元もわからないし、わざわざ捨てた娘をもう一度拾いには来ないだろうと思ったからである。

 

 だが問題が一つあった。それは…茜の心の傷が深いこと。

 

 記憶を失っても、その身に刻み込まれた恐怖は消えてくれないらしい。──『男性恐怖症』。私の夫である亘史を始めとする大人の男性が近づくだけで震えだし、涙を零すのだ。こればかりは時間をかけてでも、少しずつ慣らして行くしかないのだろう。

 

 そして──カウンセリング等で大幅に予定が遅れること1ヶ月。茜の退院日の今日、迎えに病院までやって来た私と沙綾を待っていた茜は、私達の姿を見ると僅かに表情を笑顔に変えてこちらに近づいてきた。

 

 「おはよう、茜。準備はできてるの?」

 

 「おはよ、茜」

 

 「おはようございます、千紘さん。沙綾もおはよう。準備はもう終わってます」

 

 「なら先生に挨拶してから行きましょう」

 

 そう言って先生の元へ向かい、今までの感謝を伝える。

 

 「先生、今までありがとうございました」

 

 「お世話になりました」

 

 「いえいえ、茜さんと仲良くなれてよかったですよ」

 

 そう言って茜の頭を撫でながら、優しく微笑む先生。目を細めて嬉しそうな表情をする茜。傍目から見れば、親子のようにしか見えない。

 

 「山吹さん、茜さんをよろしくお願いしますね」

 

 「…ええ、もちろんです」

 

 …本当に優しい先生だ。この人が茜の担当医でよかったと、心から思えるくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生と別れ、私が運転してきた車に乗り帰路に着く。

 

 車の中では緊張しているのかほぼ無言の茜を気遣う様に、沙綾が優しく話しかけている。この1ヶ月、学校や家の手伝いをこなしながらも、時間が空けば病院へ向かい話をしていた沙綾と茜は随分と打ち解け、仲良くなったように見える。

 

 沙綾と話を振ってくれたお陰で幾分緊張が解けたのか、少しずつ話始める茜。心なしか表情も柔らかくなった気がする。

 

 ミラー越しに娘達の会話を眺めながら、私は車を走らせる。しばらく経ち、私達は借りている駐車場に到着。車を止め、家へと歩き出す。

 

 「さあ、着いたわよ」

 

 「…」

 

 また緊張がぶり返してきたのか、表情の固くなった茜の手を掴み、家の中へ。

 

 「ただいま」

 

 「お父さん、ただいまー」

 

 「お帰り、二人共…じゃなくて"三人共"だったね」

 

 「今日からお世話になります、茜です。よろしくお願いします、亘史さん」

 

 「ははは、そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ、今日から君は家族なのだから」

 

 「あ、茜姉ちゃん!」

 

 「茜お姉ちゃん!」

 

 奥から飛び出してきた純と紗南が、茜に抱きつく。病院にお見舞いにいった回数こそ少ないものの、すっかり懐いたらしい。

 

 「ひゃ…!?純くんに紗南ちゃんか…よろしくね?」

 

 「ほら二人とも、茜がびっくりしてるから気を付けて」

 

 「ん…別に大丈夫だよ、沙綾」

 

 「そう?ならいいんだけど…」

 

 よかった、これなら心配は無さそうだ。早くも打ち解けた子供達を見て、私は素直にそう思った。

 

 

 

 

 




設定上、沙綾と茜は小学生6年生としています。純くんと紗南ちゃんの年齢がハッキリと把握出来ていないので…恐らく幼稚園年少くらいなのかな?間違ってたらご指摘お願いします。

そして、瑠璃羽さん✩︎9評価ありがとうございます!感想も下さって嬉しい限りです。息抜きで書いて行きますが、これからもよろしくお願いします。

それでは次回に。
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