あの茜色の空を見上げて   作:イズナ/泉中

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やっぱり小説書くのって難しい…てなわけで3話目です。


Drei

 

 私、山吹茜は記憶喪失だ。12歳以下の記憶が綺麗さっぱり無くなっていて、どのような事があったか思い出せない。更に私は捨て子だ。気が付いたら病院にいて、目の前に沙綾と千紘さんがいた。病院にどういう経緯で運び込まれたのかも覚えていないし、思い出そうとしても思い出せない。当然身寄りなどなく一人だった私を引き取ってくれたのが、千紘さんだったわけだ。

 

 だから私の本当の苗字は「山吹」ではないし、この家の人たちと血が繋がっているわけではない。

 

 それでも───私に対して本当の娘のように接してくれた千紘さんと亘史さんには感謝している。それに、いつでもそばで支えてくれていた沙綾や純くん、紗南ちゃんの事は本当の家族のように想っている。それが唯一記憶が無く、自分の事が何一つわからない私の本物の想いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴポゴポゴポ…

 

 何かに引っ張られるような感覚と共に、私の身体は暗い水底に沈んでいく。

 

 肺の中の酸素が足りなくなり、呼吸もままならなくなる。焦って必死に水を掻くが、残り少ない酸素をより一層浪費するだけ。段々と手足の動きが緩慢になっていく。

 

 明確に感じる死の恐怖。それを後押しするかのように、周りはどんどん暗くなっていく。

 

 そうこうしている間に到達した水底で、私の意識は薄れていき──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「嫌あぁぁぁぁ!」

 

 突然響き渡った絶叫に驚き跳ね起きる。慌てて辺りを見回し、その絶叫が自分の発したモノだという事に気付いた私は、大きなため息を吐く。

 

 壁にかけてある時計を見れば、現在時刻は午前4時30分。カーテンの隙間から細く差し込む光が私の部屋を照らす中、私は自分のベッドの上で恐怖に震える身体を抱いていた。

 

 「──また、あの夢か…」

 

 そう呟いた私の言葉は、誰にも届くことなく虚空へと溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 私は自身の冷や汗でびしょびしょになった寝間着と着替えを持って浴室へ向かう。この家の人たちを起こさないように、静かに音を立てずに廊下を歩く。

 

 浴室に到着し、直ぐに寝間着を脱いでシャワーを浴びる。浴び終わるとタオルで身体の水気を取り、着替えの服を素早く着るとそのまま浴室を出て、リビングへ。

 

 

 リビングへ向かうと、既にこの家の大黒柱である亘史さんが起き出していて慌ただしく準備をしていた。ちなみにこの家は「やまぶきベーカリー」というパン屋を営んでいて、商店街で人気のパン屋である。

 

 「おはようございます、亘史さん」

 

 「おはよう茜、早速だけど手伝ってくれるかい?」

 

 「わかりました」

 

 亘史さんに返事をして、開店準備を手伝う。商品棚を布巾で拭いて、店内の床をモップで掃除する。その間亘史さんは売る商品の準備だ。お互い無言で作業を続ける。そして数十分後、粗方掃除を終えた私に亘史さんが声をかけてくる。

 

 「悪いけど、まだ寝ているかもしれないから沙綾を起こしてきてくれるかい?」

 

 「了解です。表札はひっくり返して大丈夫ですか?」

 

 「お願いするよ」

 

 亘史さんの返事を聞いた私は、まず店のドアにかけてある表札を『CLOSE』から『OPEN』に裏返す。その後、言われた通りに沙綾の部屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「沙綾、起きてる?」

 

 沙綾の部屋のドアをノックするが、返事が帰ってこない辺りまだ寝ている可能性が高い。私はドアを開けて沙綾の部屋へ入る。

 

 しっかり手入れの行き届いている部屋の、壁際に置かれているベッドに丸まっている人影。

 

 ローズピンクの髪をセミロングまで伸ばし、静かな寝息を立てて寝ている少女こそ、この家の長女である山吹沙綾。

 

 「沙綾、起きて」

 

 「うーん、もうちょっとだけ…」

 

 沙綾の肩を優しく揺するが、むにゃむにゃと呟いて寝返りを打つ沙綾。何これ可愛い…じゃなくて。

 

 「起きないとくすぐるよ?」

 

 「はい起きました!」

 

 私がそう言った瞬間、凄まじいスピードで起き上がった沙綾。人間の出せる速度を超えていそうなその動きに苦笑しながら、とりあえず挨拶をする。

 

 「おはよう、沙綾」

 

 「…おはよう、茜」

 

 お互いに苦笑しながら、いつも通りの朝が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「行ってきます!」

 

 「行ってきます」

 

 「二人とも、今日も練習?」

 

 「そうだよ!だからまた遅くなるね!」

 

 「すいません、家事は帰ってきてから手伝います」

 

 「問題ないわ。気を付けてね、二人共」

 

 「「いってらっしゃーい」」

 

 学校に登校する時間になったので、千紘さん、純くん、紗南ちゃんの三人に挨拶をしてから沙綾と二人で家を出る。亘史さんは店の工房でパンを焼いているので邪魔はできないなと思い、声はかけないでおく。

 

 ちなみに、私と沙綾はバンドをやっている。名前は『CHISPA』。私がリードギターで沙綾がドラムを担当していて、先程千紘さんが言っていた『練習』とはバンドの練習の事だ。

 

 沙綾と横並びで通学路を歩きながら、他愛のない会話を広げていく。

 

 「今日暑いね…」

 

 「そうだね、まあ温かくなってきてると思えばいいんじゃない?」

 

 「うう…私は暑いの嫌いなんだけど」

 

 「そんなこと言ったって、暑さが和らいでくれるわけじゃないでしょ?」

 

 「それはそうだけど…」

 

 私は暑いのが嫌いだ。夏と冬どちらを取るか聞かれたら、速攻で冬を取るくらいには。夏は外に出たくないし、家でゆっくり趣味を満喫していたいタイプの人間なので、基本的に暑い日は家に籠っている。

 

 「それにしても…」

 

 「?」

 

 「いや、茜の髪の色綺麗だったのになーって」

 

 「…それまだ言ってるの?」

 

 「だってもったいないじゃん?せっかく綺麗な髪の色だったのに」

 

 「そんなのしょうがないよ、校則なんだし」

 

 「でもさー」

 

 隣を歩く沙綾の心底残念そうな表情を横目に、私は自分の黒い髪(・・・)の先をいじる。

 

 元は水色の髪だったのだが、中学で初めて行われた整容指導の際に校則に引っ掛かるから染めてこいと教師に言われてしまったのだ。私は別に構わなかったのだけれど、夕食の時に話したら千紘さんと沙綾が猛反対していたのを覚えている。

 

 「花咲川(ウチ)は地毛なら問題ないのに…」

 

 「まあ、北山(こっち)の中で地毛が黒髪じゃないの私だけだし、一人特例で認めるとそこから緩んじゃうからね」

 

 むしろ地毛のままでいることでいらぬ注目を浴びたくなかった、というのも理由の一つだったりする。

 

 あと言い忘れていたけど、私と沙綾は別々の中学に通っている。私は『北山学園』で沙綾は『花咲川女子学園』。『北山学園』は中高一貫の共学校、『花咲川女子学園』はその名の通りこの近辺に存在する中高一貫の女子高で、この地域ではそこそこ有名な学校だ。私の制服はグレーのブレザーと胸元の細い緑色のリボンに、ブレザーと同じ色のスカート。沙綾の制服は上下ともに茶色のワンピースタイプで、胸元には赤いリボンを結んでいる。

 

 そうこうしている内にいつもの集合場所が見えてくる。集合場所には既に待ち人が来ていた。

 

 「あ、来た来た!」

 

 「おはようなつ、今日も元気だね」

 

 海野夏希。沙綾と同じ花咲川に通う同級生で、私の数少ない友人の一人。

 

 「おはよう沙綾!茜もおはよう…って、なんかテンション低いね?」

 

 「夏希がテンション高いだけ。真結と文華はまだ?」

 

 「もうすぐ来る…って言ってたら来たよ、ほら!」

 

 夏希の指さした方向を見れば、私と同じ制服を着た二人の少女がこちらに向かって駆けだしてくるところだった。

 

 「ごめんね、遅れちゃった!」

 

 「ひゃあ~疲れた…」

 

 「いや大丈夫だけど…二人が遅れるなんて珍しいね」

 

 二人の少女…川端真結と森文華は沙綾の言葉に苦笑いする。

 

 「忘れ物しちゃって…」

 

 「二人で慌てて家に戻ったら、電車に乗り遅れちゃったんだ…」

 

 「それは…しょうがないね」

 

 「遅れないうちに行こう。急げばまだ間に合うよ」

 

 このままぐずぐずしてたら間に合わないのはわかり切っているので、私達は慌てて移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃ、放課後にそっち行くから」

 

 「うん、わかった」

 

 「真結、寝ちゃだめだからね?」

 

 「わかってるよ!」

 

 「それじゃ二人とも、また後で」

 

 花咲川の校門前で沙綾と夏希と別れ、真結と文華と3人で走って移動する。花咲川から北山まではそこそこ距離があるのだ。

 

 急いで走ることおよそ15分後、何とか始業の鐘が鳴る前に学校に到着した。

 

 「はあ、はあ…危なかった…」

 

 「ま、間に合ったぁ…」

 

 「疲れてクタクタだよぉ…」

 

 「も、元はと言えば、2人のせいでしょ?」

 

 真結と文華にジト目を向けつつ、下駄箱で靴を履き替え教室へ向かう。教室に入り席に着いたところで、ちょうど始業の鐘が鳴った。何とか間に合った…

 

 「席に付け、SHR始めるぞ」

 

 教室に入ってきた担任の挨拶を聞きながら、私は静かに安堵の溜息を吐いた。




メタメタ3eyeさん、椿桜さん、十六夜白金さん、評価ありがとうございます!
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