あの茜色の空を見上げて   作:イズナ/泉中

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お 待 た せ し ま し た(白目)

いや、ほんとにすいません。卒研やばかったんです(言い訳)

これからはちょくちょく書いてくんで、どうぞよろしくお願いします…


Sieben

 

 目が覚ました私がまず最初に感じたのは、全身に重くのしかかる様な倦怠感。それを堪えながら首だけを動かして周りを見渡してみれば、どこか見覚えのある真っ白な床や壁が目に入った。

 

 「ここは…病院?」

 

 記憶喪失の私が山吹家にお世話になる前…ただの『茜』だった時に入院していた場所。それ以前の記憶がない私にとっては数少ない記憶のある場所で、ここに私がいるということは…

 

 そこまで思い至った瞬間、直前の出来事が一気にフラッシュバックし、自分が何をしたのかを思い出した。

 

 そうだ…私、ライブの時に倒れて…!

 

 「っ…!?ライブはっ…!?」

 

 慌てて起き上がろうとして、強烈な眩暈に襲われる。ベッドに手をついて暫く眩暈が収まるのを待っていると、病室のドアが音を立てて開き、沙綾が入ってきた。

 

 「あ、茜っ!」

 

 「沙綾───きゃっ!?」

 

 私を見た瞬間叫んだ沙綾に状況を聞こうと口を開いた瞬間、沙綾に勢いよく抱き着かれる。何事かと思いながら沙綾を見れば、その肩が小刻みに震えていた。

 

 「よかった──心配、したんだから…」

 

 「…ごめん」

 

 沙綾の絞り出すようなか細い声が、否応なしに私へ罪の意識を叩きつける。

 

 ──私、また失敗したんだ。

 

 昔からそうだった(・・・・・・・・)。皆のために…失敗しないようにって、周りを一切見ずがむしゃらに努力して、周りに迷惑をかける。そのせいで何度父親に(・・・・・・・・・・)殴られたものか(・・・・・・・)

 

 そこまで考えて、ふと気付く。

 

 ──()

 

 ──父親(・・)

 

 ──一体、この記憶は何だ?

 

 「…ッあ!?」

 

 ズキリ、とまた頭が痛くなる。思わずこめかみを押さえれるけれど、痛みは一向に引いてくれる様子を見せない。それどころか痛みは次第に増してきて、小さく声を漏らしてしまう。

 

 「茜、どうしたの!?」

 

 沙綾の叫ぶ声が聞こえてくるけれど、それに反応出来るほど余裕が無い。視界にノイズが走り、次々と見覚えのない光景が現れては消えて、私を困惑させていく。

 

 ──小さな女の子が3人、手を繋ぎ並んで道を歩いている光景。3人に共通する特徴として、ライトグリーンの髪を可愛く結んでいるのが見えた。

 

 『ほら、あかねちゃん!はやくいこう!』

 

 『はやくしないと、おいていっちゃうよー?』

 

 『あ、まってよ■■おねえちゃん、■■おねえちゃん!』

 

 左端と真ん中の女の子が右端の女の子の名前を呼びながら手を引く。2人の女の子に手を引かれ右端の女の子が転びそうになりながらも、日が沈みかけオレンジ色に染まる道を歩いていき──そこで景色が途切れる。視界に走っていたノイズが収まっていき、周囲の景色が色彩を取り戻していく。そして、心配そうにこちらをのぞき込む沙綾と目が合った。

 

 

 「茜、大丈夫?やっぱりまだ無理は…」

 

 「だ、大丈夫だよ!ずっと寝てたんだから、もう平気だって!」

 

 実際、さっきあれほど感じていた頭痛はいつの間にか消え去っていたし、倦怠感もだいぶマシになっている。元に戻ったとは言い難いけれど、とりあえずはもう平気だろう。

 

 「それで、さ…ライブは、どうなったの?」

 

 「っ!…」

 

 私がそう聞くと、分かりやすすぎるくらいに沙綾の肩がビクッと跳ねた。さっと顔を伏せた沙綾の表情は陰になっていて見えないけれど、その行為こそ意味を理解するには十分なものだった。

 

 「…ごめん。私のせい──」

 

 「違うっ!あれは茜のせいじゃないよ!」

 

 沙綾に謝ろうとした瞬間、大声を出して沙綾が私の言葉を遮る。普段ここまで大声を出さない沙綾に驚いていると、沙綾が伏せていた顔を上げた。

 

 「茜は凄い頑張ってた!練習だって、家の手伝いだって、勉強だって!」

 

 ──泣いていた。

 

 あの沙綾が。

 

 「茜が頑張ってたのは、私が一番知ってる!」

 

 その蒼い瞳から堪えきれない涙を零しながら、沙綾は激情のままに叫び続ける。

 

 「私はっ…そんな茜の頑張りに甘えてただけだった。ちゃんと私も協力出来ていたら、茜が倒れることも、なつ達に迷惑をかけることも、母さん達を心配させることも…無かったかもしれないのに…!」

 

 何も言えなかった。私の努力の結果が、これ程まで沙綾を追い詰めてたなんて。ライブを成功させたくてあれほど練習したのに、結局その努力は無意味なものになってしまったし、夏希や千紘さん達にも迷惑をかけてしまった。そして何より──沙綾を泣かせてしまったというその事実が私の胸を締め付ける。

 

 「…私、もうバンド辞めるよ」

 

 「え…?」

 

 「私だけがこんな楽しんで良いわけない。周りの人に迷惑かけてまでやる物なんかじゃ──」

 

 バシッ!

 

 「…今、なんて言ったの…!」

 

 頬を叩かれた沙綾は呆然としながらこちらを見ている。一瞬、叩いてしまった事に対する後悔が胸中を満たしたけれど、今の一言は流石に許容出来るものじゃなかった。

 

 「ふざけないでよ!私は──バンドをそんな軽い思いでやってた訳じゃない!」

 

 「…!」

 

 「周りに迷惑をかけてまでやるような『物』なんかじゃないなんて誰が決めたの!?少なくとも、私や夏希達はそんなこと思いながら練習してない!」

 

 「わ、私は…」

 

 「皆と演奏して、楽しくてしょうがなくって!皆とならやっていけると思って、本気で練習してた!なのに…今になってその努力を踏みにじるような事、言わないでよ!」

 

 「っ!…ごめん、なさい…」

 

 視界がぼやけ、沙綾の悲しみに彩られた顔が滲む。きっと私は泣いているんだろう。様々な感情がごちゃ混ぜになって、頭の中はぐちゃぐちゃ。沙綾の顔を見ることすら嫌になって、私は沙綾に背を向ける。

 

 「…もう、出てって」

 

 その一言が、沙綾にどれほどの傷を負わせるかも考えず、私は沙綾にそう告げる。

 

 「…わかった」

 

 その声と同時に響く、少しずつ遠ざかっていく足音。思わず振り返りそうになるけれど、全精神力を総動員してぐっと堪える。

 

 病室のドアが締まり、残された静寂に身を委ねながら、私はごちゃ混ぜになった心を整理するべく、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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