どうしても書かないと…って思ってこの番外編書き始めたのはいいものの、かなり時間がかかってしまった…申し訳ない。
そしてタイトルにもあるとおり、このお話は7thライブを元にしたこれから有り得るかもしれない『IF』のお話です。本編のネタバレになる可能性があるので、嫌な人は読まない事をオススメします…一応本編も進めてるんですけどね、如何せん難しいもので…w
ちなみにこの番外編、数回に分けて投稿予定です。ご理解の程よろしくお願いします。
では7thライブ番外編、ごゆるりと。
IF story:BanG Dream! 7th Live! Part1
──空港のガラス張りの窓から差し込む暖かな日差し。その眩しさに目を細めながら愛用のギターの入ったケースを背負い、キャリーケースを引きながら歩き出す。空港のドアが開いた瞬間、冬らしさを感じさせる冷気が肌を突き刺すが、着ていたコートのボタンをきっちりと閉め、多くの人々で賑わう空港の出口から荷物を持って迎えのタクシーの元へと向かい、荷物を運転手に預けてタクシーに乗り込む。
タクシーの中でコートのポケットからスマホを取り出し電源を付けると、数年前に沙綾、紗夜姉さん、日菜姉さん、私の四人での写った壁紙が映し出された。日菜姉さんが紗夜姉さんに、沙綾は私にそれぞれ笑顔で抱き着いていて、私と紗夜姉さんが隣同士。私は困ったように笑いながら、紗夜姉さんは慌てた表情で、二人をそれぞれ受け止めている。
懐かしいなぁ、なんて思いながらスケジュール帳のアプリをタップして開き、今日の予定を確認する。かなり予定の詰まったスケジュールを眺めながら画面を下へとスクロールすれば、今日の日付の欄と共に予定が表示されているのが見えた。
今日は2月21日。紗夜姉さん達Roseliaがプロのバンドとしてデビューしてからひとつの目標にしていた、日本武道館でのライブの日。それに加えて22日に同じくデビューした六花ちゃんの所属する『RAISE A SUILEN』、23日には沙綾達『Poppin'Party』がライブを行うようで、最近話題のガールズバンド達が勢揃いする様に、音楽業界は大いに賑わっているらしい。
…何故『らしい』とあやふやな言葉を使っているのかと言うと、私自身把握しきれていないというのもある。二年ほど海外で仕事をしていたのに加えて、つい一昨日にある有名な歌手のライブにバックバンドとして出演してきたばかり。その準備やら調整やらで大忙しだった事で沙綾や紗夜姉さん達と全く連絡を取れていないうえ、海外に日本の音楽業界の情報が入ってくるのは珍しい。ちなみに最後に連絡を取ったのは紗夜姉さん達の武道館ライブが決まった時。その時にある程度の情報は紗夜姉さんがメールで送ってくれたから、それを元に何とかスケジュールを調整して休みを取ることができたけれど…昨日は昨日で帰国するための飛行機に遅れそうになるわ、やっと乗れたと思ったらアクシデントで飛行機が飛ばないわ…大変な思いをした。
ちなみに今は武道館から少し離れたホテルに向かっている。最近になって海外での仕事が増えてきたから、あまり日本に帰れていなかったのもあって凄い久しぶりだ。景色も懐かしいと思うものばかりで、二年って凄いと思ってしまう。本当は薄れた記憶の補強も兼ねて武道館周りを散策しようと思っていたのだけれど、マネージャーがそれを許してくれなかった。なんでも、私がここにいるのが一般人に知られてしまえば大騒ぎになってライブどころの話じゃなくなってしまうから、というのが言い分らしい。
私からしたら、そんなに有名になっていたことに驚いたけど。高校を卒業してからはずっとギタリストとして活動してきて、いろんなバンドのヘルプとして入って演奏して…ってとにかくがむしゃらに弾いていたから、正直人気とか気にする暇もなかった。海外にいた二年間だって慣れない環境や言語に戸惑ったり、ギターの腕前に伸び悩んで焦ってオーバーワークになって倒れたり。
…正直この事は沙綾や紗夜姉さんたちに言わないでおきたい。もしバレたら正座させられて説教は決定だし、それを避けるためにも秘密にしておかないと。
「お客さん、着きましたよ」
「あ、はい」
どうでもいい方向に思考が寄っている間にどうやらホテルに着いたらしい。スマホの電子マネーで料金を払いコートのポケットに放り込んだ後、変装用の帽子と伊達メガネを付けてタクシーを降りる。キャリーケースとギターケースを受け取り、運転手に一礼してからホテルへと足を向ければ、ちょうどホテルの入り口の自動ドアが開くところだった。
中から出てきたのは、如何にもRoseliaのファンですよといった服装の男女のカップル。いわゆる法被という代物を着ていて、その法被の背中側にはメンバー個人のイラストがプリントされている。イラストを見る度に思うけれど、凄い再現度だ。実際に模写して描いたやつなのだろうが…
(よくこれの売り出しを湊さんや紗夜姉さんが許可したね)
なんてことを考えながらそのカップルの隣を通り過ぎようとすると、カップルの女性の方が一瞬こちらを見て驚いた顔をした。
「あ、あの!」
「はい?」
「氷川紗夜さんですか!?」
「へ?あぁ…」
一瞬自分の事がバレたのかと思ったけど、どうやらそうでは無かったらしい。中学の頃と違って今の髪の色は地毛の色だから、特徴的なアイスグリーンの髪が目立っていたみたい。今は紗夜姉さんくらいに長いから、それ見て勘違いしたのかな。
「申し訳ないですけど、人違いですよ」
「あ、そうですか…すみません」
「いえいえ、それじゃあ失礼します」
女性に別れを告げてホテルの受付カウンターへと歩を進める。後ろをチラリと振り返ると、女性が先程の男性の隣へ並び再び歩いていくのが見えた。
その姿が何故か昔の自分と沙綾に重なって、思わず足を止めてしまう。もう振り切ったはずの、過去の私の姿。
「やっぱり、整理はついてない…か」
どうあったって、私が『山吹茜』として過ごした日々は本物で、消すことの出来ない…いや、消したくない過去だ。出来ることなら思い出として、心の内に残しておきたい…そう望んでいる自分がいる。
「…チェックインしないと」
ここで過去を振り返る暇はないから、思考を切り替えて歩き出す。
「予約していた氷川ですが」
「はい、ご予約の氷川様ですね。お部屋の方はエレベーターを上がって5階、19号室になります。既にお部屋の準備は出来ていますので、ゆっくりお寛ぎください」
「ありがとうございます」
礼を言って予約していた部屋のカギを受け取り、たまたま来ていたエレベーターに乗り込み5階のボタンを押す。ドアが閉まり、エレベーターが緩やかなスピードで上昇していくのを感じながらぼーっとしていると、不意にスマホの着信メロディが鳴り響く。
『♫~♪~』
はっとしてポケットからスマホを取り出すと、光の灯った液晶画面に踊る『リサさん』の文字。今はリハーサルの真っ最中じゃないのかと思いつつ、とりあえず電話を繋げる。
「はい、氷川ですが」
『あ、出てくれた。やっほー茜、元気にしてるー?』
二年ぶりに聞くリサさんの声。あんまり変わってない…昔と変わらない気軽さで電話してくる彼女に若干の懐かしさを感じつつ、この時間帯にかけてくるその神経に呆れ果てる。リハをしろ、リハを。
「リサさん…リハの真っ最中じゃないんですか?私なんかに電話かけてる暇ない筈ですけど」
『そんな悲しいこと言わないでよー。お姉さん、泣いちゃうぞ?』
「…切りますよ?」
『わあちょっと待って!?切らないでー!』
私の投げた質問を軽くスルーしたリサさんに変わらないなぁ、なんて思いつつ電話を切ろうとするとかなり焦った声が聞こえてきた。
「こうしてる間にも時間が過ぎてるんですよ?リハを中断して電話かけてるんでしょうし、私紗夜姉さんにとばっちり喰らいたくないんですけど」
このやり取りをしているのが紗夜姉さんにバレれば間違いなくリサさんは説教だし、私にも飛び火してくる可能性は否定できない。私は帰国早々に説教なんて受けたくないのだ、勘弁してほしい。
『待ってってば!今回はちゃんと用があるし、紗夜にも許可貰ってるんだって!』
「紗夜姉さんが…?ならそれを言ってくださいよ」
『聞かずに切ろうとしたの茜のくせに…』
リサさんの呟きを聞かなかったことにして、とりあえず真面目に話を聞くことに。5階に到着したエレベーターから出た私は、リサさんに話の続きを促す。
「それで、用ってなんですか?」
『あのさ、今日のライブ…見に来るんでしょ?』
「ええまあ、そのために帰国しましたし」
『今はどこにいるの?』
「?近くのホテルですけど…」
話している内に19号室に到着した。カードキーをセンサーに押し当て解錠し部屋の中に入り、荷物を部屋の壁際に寄せソファに座り込む。ライブでギター弾いた後休む暇もなく帰国だったから、ちょっと疲れちゃった。
『なら、荷物置いたら急いで武道館に来て欲しいんだ。あ、ギターは持ってきてね?』
「は?」
今から?まだ着いたばかりなのに、ちょっと理不尽すぎない?
『話はスタッフさんに通してあるから、裏口で名前出せば通してくれるよ!もうリハ始まるから切るね!』
「ちょっ、ま──」
ブツッ、ツーツーツー。
「本当に切ったし…しかも休む暇ないじゃん…」
何で私を今武道館に呼びつけたのかさっぱりわからないけど、とりあえず行ってみよう。帰国直後で少なからず疲労はあるけれど、動けない訳じゃないし。
そう結論付けて、愛用のギターが入ったケースと貴重品の入ったショルダーバッグを引っ掴むと、来た道を戻る様に私は走り出した。
「お客様、建物内を走るのはご遠慮いただけると…」
「…すみません」
感想くれるとめっちゃモチベ上がります(今更)