マシュ・キリエライトは告白されたい   作:とやる

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デート大作戦

 人理継続保障機関フィニス・カルデア──!! 

 

 それは人理の未来を語る資料館。

 魔術だけでは見えず、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために標高6,000メートルの雪山に作られた特務機関である。

 

 かの王により行われた人理焼却事件も結末を迎え、カルデアには平穏な日常が戻ってきていた──。

 

「むぅ」

 

 しかし!! しかしである!!! 

 だからこそ生じる悩みもあるのだ!! 

 

 平穏──それは思考のゆとりを生む。

 すなわち、今まで考えられなかったことへ思考が及ぶということに他ならない! 

 激動の非日常から緩やかな日常を取り戻した少女──マシュ・キリエライトは悩んでいた。

 

「…………むぅ」

 

 それはもう真剣に悩んでいた。

 

 頭を悩ませるのは彼女の先輩──ともに7つの特異点を駆け抜けた人類最後のマスターのこと。

 

 グランド・オーダーを完遂して早1ヶ月。

 いざ人理修復の旅を思い返し、彼女は思った。

 

「先輩から告白されたい」

 

 告白──それは意中の異性へ溢れる想いを伝える青春の一大イベント! 

 その恋が実にせよ実らないにせよ、それは思い出となって人は成長していく。

 そう──彼女は人理修復の旅の途中、何度も先輩へ好意を伝えたのだ。

 しかし! 肝心の先輩からは直接的な言葉はないのである! 

 

 態度から恐らく自分のことを嫌っていないのは分かる。

 むしろ強い好意を抱いてくれているはずだ。

 だが! 度重なる幾度のアプローチをスルーされ続けたマシュは次第にこう思うようになった。

 すなわち、ここまで私が頑張ってるのに先輩から何もアクションがないのは納得いかない──そんな感情である。

 

 思い返すのはこれまでの自分の行動。どれだけマスターが特別かも伝え、ちょっと大胆な衣装で単純接触効果を狙って見たりもした。恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかったが、エッチな格好を見せたこともある。

 

「私はこんなにも伝えているのに」

 

 先輩は明らかに自分を女の子として見ている。大切な仲間とか、信頼している相棒とか、そんな少年漫画のお茶濁しのようなものではない。自分を! マシュ・キリエライトを! ひとりの女の子として意識しているのだ! その確信がマシュにはあった。

 

 しかし、肝心な先輩は自分に好意をそれとなくでも伝えたことがあっただろうか。否! 否である! 先輩から直接的な言葉はもちろん、態度もなにもないのである! 勿論、とても言葉では言い表せないほど大事なものを貰った。それは尊く、生涯この胸に大きな温もりとなって残り続けるだろう。

 

 当然ながら、女の子として意識している=好きということにはならない。マスターとて思春期の少年なのだ。距離感の近い積極的な女の子がいればそりゃ意識もするだろう。

 だが──気づかない。マシュはそのことに気づかない。マシュの脳内では先輩→マシュの矢印が既に出来上がっている! 

 

 つまるところ、ここまで素っ気ない態度をとられて自分から告白するのは釈然としないのだ。自分の事が好きなら先輩から告白して欲しいのだ。

 大好きな人から、好きだって言って欲しいのだ。

 

「なんとしても、先輩に告白させてみせます!」

 

 繰り返そう、この矢印はそもそも前提が間違っている可能性がある! 

 しかし! カルデアの自室にてひとり決意を固めたこの一瞬、この瞬間から、マスターのことが大好きなマシュ・キリエライトの[私に告白させてみせる大作戦]の開始を告げるゴングは高らかに鳴り響いたのだ! 

 

 

 ☆

 

 

 ひとり決意を固めてからはや数日。マシュは練りに練った作戦を決行しようとしていた。

 その作戦とは、

 

「先輩からデートに誘ってもらいます!」

 

 デート!!! 古来より男女の仲を深める手段として存在する王道の手法!!! 勿論、既に懇ろの仲にあった男女もデートによって楽しいひとときを共有する。

 

 ここで大事なのは、デートとはある程度親密な男女で行われるということだ。最近ではむしろデートしてから──といった行動も見られるため、必ずしもそうといったわけではないが、少なくともマシュの中ではデートとはそういうものだった。

 

「私に好意を寄せている先輩が私をデートに誘う。これはもう告白しているようなものです!」

 

 作戦はこうだ。

 今の時間、レオニダスさん達とのトレーニングを終えた先輩はマイルームでゆっくりしている筈だ。

 そこに先輩を労う程でお邪魔し、ダヴィンチちゃんから渡すように頼まれた資料の中に自分が用意した[オルレアンの絶景10選]と印刷された冊子を混ぜる。

 ダヴィンチちゃんが至急確認してほしいと言っていたと言えば、先輩はすぐに資料を確認し始め、マシュが忍ばせた冊子にすぐさまたどり着く筈だ。

 案外綺麗な景色といったものが好きな先輩は必ずそこで手を止める。

 

 ──あ、とても綺麗なところですね……。そういえば、先輩ってこういうの好きでしたよね。行くんですか? 

 

 そこですかさずマシュがこう言えば、元より興味があり行く気満々のマスターはその場ではこう言う他はない。

 

 ──マシュも一緒に行く? 

 

 と!! 

 

 実はこの[オルレアンの絶景10選]にセレクトされているのはどれも恋人や新婚の夫婦が訪れる、いわゆるラブパゥワー的な名所ばかり!! しかも一目では分からぬよう表紙は「ただの絶景ですが何か?」感を醸し出すポップなフランスの大自然の文字!!! 

 

 ──先輩。恋人が訪れるラブパゥワースポットに、私と。私と一緒に行きたいんですか。へえ。そうですか。

 

 それは必然的に、あなたとそうなりたいという意思表示にもなり得る!! 

 

「ついに先輩から……ふふ」

 

 照れるようにはにかむマシュは成功を確信していた!!! 

 

 

 ☆

 

 

「すぅ……はぁ。よしっ」

 

 先輩のマイルームの前で深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 緊張する。

 先輩が告白してくれるシミュレーションは幾度となくしてきたが、いざそれが目の前にあると思うと、恥ずかしさや照れくささ、それに何よりも心の奥から湧き上がってくる嬉しさで胸が苦しくなってしまう。

 

 この[デート大作戦]は、先輩の背中を押すためのもの。ちょっと場を整えて、告白するしかないような状況になれば、先輩はきっと私に想いを伝えてくれる。

 

「そうしたら、先輩と私は……」

 

 幸せな未来予想についつい頰が緩んでしまう。

 だって、しょうがないだろう。

 あの日、燃えるカルデアスの側で手を伸ばしてくれたときから。ずっと、ずっと好きだったのだ。

 

 どれだけアプローチしてもちっとも態度に出してくれないへたれな先輩に悶々とする日々も終わり。そこも可愛くて愛おしいけど、やっぱり好きだって言って欲しいから。

 

 先輩のマイルームのドアを開ける。

 

 

「先輩、お疲れ様です」

 

 ちょっとずるい方法かもしれないけれど。

 私は、貴方に告白して欲しい。

 

 

 ☆

 

 

「ん、マシュ? どうしたの?」

 

「ひゃあっ! ど、どうして服を着てないんですか!?」

 

 マシュを出迎えたのは半裸のマスターだった。シャワーを浴びてすぐなのか、上半身裸の状態で頭からタオルを被っている。

 これまでの旅の中で色々なサーヴァントから鍛えられていたため、その体躯はしなやかな筋肉で覆われている。

 有り体に行って仕舞えばエロかった。

 

 マイルームに入る前に入れ直した気合いも吹き飛ぶ衝撃映像。とっさに手で顔を覆ったためマシュの手から作戦の肝である資料が落ちる。

 

「ん? 何これ」

 

 当然そうなれば、マスターはその資料を拾おうとする。

 

「あっ、先輩それはっ」

 

 そして──見つけてしまう。

 マシュが用意した切り札[オルレアンの絶景10選]を──!! 

 

 今一度説明しよう! 

 この[デート大作戦]とはつまり、電光石火の急襲が命なのである! 

 冷静に考えなくても、ダヴィンチちゃんの資料の中に観光名所雑誌じみたものがあるのはおかしい。

 しかし、そこに気がつく前に行きたいのかと尋ねてしまうことで、「何でこれが?」から「一緒に行く?」に疑問を制限する。

 

 しかし! マシュが持ってきたファイルから出てきた冊子としか認識をしておらず! なおかつ予定外の事態により機先を制されて仕舞えば!! 

 

「へえ。マシュ、行きたいの?」

 

 必然的にマシュがここに行きたいという意思表示の理解をされる!!! 

 

「えっあのっそのっ」

 

 作戦の崩壊──追い詰めたと思っていたが気がつけば自分が追い詰められていた。

 しかし、マシュは未だ服を着ていないマスターをまともに見られず、再起動出来ず! 

 

 マシュ、万事休す──!! 

 

「綺麗な場所だね。ま、マシュは何でこれを、その、俺に?」

 

「あわ、あわわわ」

 

 ぺらぺらと冊子を見るマスターからの追撃! 

 マシュの頭脳はこの状況を乗り切るため高速で回転していた! 

 

 ──先輩と一緒に行きたいと思って。

 

 だが、その言葉はでない。これは、先輩から言ってもらえなきゃ意味がないのだ。

 

 何か、何か逆転の手は。

 そうマスターを盗み見るも、

 

「ん?」

 

 そこには半裸のマスター! 

 沸騰する頭! 吹き飛ぶ思考! 

 まともに考えることができるか。いや出来ない。

 

 結局、マシュが選択したのは逃げることだった。

 

「だ、ダヴィンチちゃんが先輩に渡しておいて欲しいって言われてた資料なんですけど、きっと何かの手違いで混ざっちゃったんですね! これは私がダヴィンチちゃんに返しておきますね! ではわたしも用事がありますのでこれで! 失礼しました!」

 

 そう早口でまくし立て、マスターの手から冊子をひったくる。

 マシュは逃げるようにマスターのマイルームを後にした。

 

 

 ☆

 

 

「……あれ、前にジャンヌたちから聞いた、そういう場所だよね」

 

「もしかしたらって思ったけど、マシュが用意したわけじゃなさそうだし……」

 

「我ながら、女々しいなあ……」

 

 

 ☆

 

 

「はあ……失敗しました……」

 

 [オルレアンの絶景10選]を胸に抱えカルデアの廊下を歩く。

 予定では、今頃先輩から告白をされている筈なのに、ひとりとぼとぼと自室に帰ることになるとは。

 いや、だって、あれはずるい。

 お風呂上がりの先輩なんて見たら、きっと他の人だってこうなる。

 だって、あんなに──

 

「な、何を考えているんですか私!」

 

 ぶんぶんと頭を振って思い浮かべた映像を胡散させる。

 これはだめだ。出来るだけ想像しないようにしないと、心臓がもたない。

 普段先輩が着ている魔術礼装はどれもしっかりしていて肌が殆ど見えないため、先ほどの先輩は刺激が強すぎるのだ。

 

「まだ、諦めたわけではありません」

 

 今回は想定外の出来事(先輩の半裸)により失敗してしまったが、これで終わるつもりは最初からない。

 失敗したら、また次の作戦を考えて先輩に告白させる。

 自分は、1度の失敗で諦められるような女ではないのだ。

 

「絶対に先輩から告白させてみせます」

 

 マシュの長い戦いはまだ始まったばかりなのだから。

 

 

 本日の勝敗

(先輩の半裸を見れたため)マシュの勝ち

 




告白されることに憧れちゃう気持ちも分かる
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