マシュ・キリエライトは告白されたい   作:とやる

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鈴鹿御前の幕間の若干のネタバレを含みます。
また、前振りのため勝負はありません。




追跡大作戦①

 

吹き飛ばされた瓦礫。空間を焼き尽くす炎。そして、黒く染まったカルデアス。

数ある書物の中から得た知識の中で、地獄というものが浮かび上がり、ああ、きっとこんな光景なのだろうかと瞑目した。

 

身体の胴より下を押し潰す瓦礫は到底どうにかできるような重さではなく、まるで自分の身体が最初からそこに固定されているのが自然なような感覚を覚える。

いや、もう既に熱い、痛いといった生きていれば当たり前の感覚すらないのだ。もしかしたら私の下半身は既に消失していて、私は押し潰されているという錯覚をしているだけなのかもしれない。

 

どちらにせよ私がここから動けないということには変わりはなく、同時にもう直ぐに死ぬのだろうという避けられない現実がそこにあった。

だから、私は言ったのだ。

 

「せん…ぱ……私の……ことはいい…です…から……逃げ…て……」

 

さっきから私の横で、私を押し潰している炎で熱せられた瓦礫を、手のひらの皮膚を焼かれながら必死に退かそうとしている先輩に。

 

まだ会ってから1日も経ってない……いや、時間など関係はない。とにかく、もうどうあがいても助かる事のない私に付き合って貴方まで死ぬことはない。そう、私は伝えたかったのだ。

私を助ける、なんて無駄なことはせず、早く逃げてと。

 

なのに。

 

「バカっ!そんなことできるわけないだろっ!」

 

そう言って、先輩は私の言葉なんて聞きたくないとばかりに、動くはずのない瓦礫を必死に持ち上げようとする。

 

私はその行動の意味が分からなくてただ茫然と先輩を見て、どこか遠くでドアの閉まる機械音を耳が拾った。

これで、先輩もこの地獄から逃げることが出来なくなってしまった。

 

ーーああ、中途半端に生きてなんかいなくて、死んでおけばよかった。

 

私が下手に意識のある状態でいたから、魔術師らしい合理性を持たない先輩を死なせてしまった。後悔が胸中を満たした。

 

「……はは、逃げられなくなっちゃったね」

 

先輩も逃げ道がなくなったことに気がついたのか、ごめんね、と困ったように笑った。

 

「……手……を、…….、握っ…て、くれ……ます…か…?」

 

私は、先輩にひとつのわがままを言った。

私がこれから殺す先輩に。私のせいで死んでしまう先輩に。そのことは棚に上げて、お願いをした。

なんでかは分からないけど、とにかく先輩に触れてみたかった。そう、強く思った。

 

「うん」

 

そう、短く言って先輩は私の手に優しく両手を重ねーー微笑んだ。

 

重ねられた手は火傷により爛れ、物に触れるだけで激痛があっただろう。

熱く、熱く灼かれた空気は肌を、呼吸をするたびに肺を焼き、息さえまともにできなかっただろう。

死ぬ事への恐怖もあっただろう。

 

それら全てを押し殺して、先輩は微笑んだのだ。

もう、意識すら朧げになり、数瞬後には力尽きてしまう私を想って。

 

この人は、例え自分が確実にその命を失ってしまうような状況でも、誰かのために微笑む事のできる人なのだと理解した。

 

その時、私の全身を一瞬にして駆け抜けていった感情は、きっと先輩は分からないだろう。

 

ーー死なせたくない。

 

この心優しい人を。

 

ーー護りたい。

 

極寒に閉ざされた私の世界で初めて出会った先輩を。

 

瞬間、私の視界は白く染まり、身体が消滅する錯覚にとらわれる。

その刹那、私は強く願った。

 

ーーこの人を護れるだけの力が欲しい、と。

 

 

 

 

「信じられません!先輩最低です!!もう護ってなんか上げませんから!!!」

 

時刻は正午。お昼時であり、昼食を取ろうとカルデアの職員やサーヴァントたちが集まり賑やかな食堂にてマシュの怒気を孕んだ声が響く。

 

頰は多少ぷっくりと膨れ、この怒りのぶつけ先はお前だとばかりに勢いよくうどんをすする姿は、普段のマシュからはかけ離れており、その珍しい光景にマシュの周囲が珍しげに首を向ける。

 

が、私機嫌が悪いです!オーラ全開のマシュをひとたびみるや、いつものじゃれあいかなと、何事もなくそれぞれの昼食に向き直り食事や雑談に戻る。

 

ちなみに本日のカルデア食堂のメニューはエミヤシェフによるうどんスペシャルである。かけうどんから天ぷらまでなんでもござれ。もちろんサイドメニューも忘れない。遠くの席では「うどんおいしー!」や「大きくて黒い方の我が王!これは椀子そばではないのですが!」といった声も聞こえ、大反響のご様子である。

 

「気持ちはわかるけどしょうがないし。結局見るだけ見てお預けだったんしょ?行きたくなるのは当たり前とういか」

 

マシュの対面に座るケモ耳JKセイバーといった属性もりの女性ーー鈴鹿御前が、いなり寿司を摘みながらごちる。

 

「そうなのですが!それでもです!」

 

しかし、ぷりぷりと怒るマシュの溜飲は下がりそうもない。

 

「気持ちは分かるんだけどなあ……」

 

おかわりです!と席を立ったマシュを遠目に見ながら、鈴鹿御前はこうなった経緯を思い返す。

そう、あれはつい1時間前……

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

想定外のイレギュラー(先輩の裸)により失敗に終わった[デート大作戦]から数日。マシュは先の失敗がまるで嘘のように上機嫌だった。

マシュの内心を表すかのような軽快なメロディを刻む鼻歌。ともすればスキップをしてしまいそうなほどにその心は弾んでいた。

 

すれ違うカルデアの職員たちやサーヴァントも、マシュの嬉しそうな姿を見て思わずにっこり。

マシュの裏表のない無垢な幸せオーラは周囲の人まで朗らかにしてしまう力があった。

 

「もう、先輩も隅に置けないんですから」

 

ともすれば語尾にハートマークを幻視するほどの甘ったるい声。

いくらなんでも浮かれすぎているが、もちろんこれには理由がある。

 

「ダ・ヴィンチちゃんにフランスへのレイシフトのお願いをしてるなんて、もう理由は1つしかないですよね」

 

こういう事である。

 

『すまないねマシュ、検査を予定より数日早めちゃって。あ、そういえば、彼からフランスへレイシフトがしたいって申請来てるんだけど何か知らないかい?』

 

『え?先輩がフランスにですか?ーーあっ』

 

『……その顔を見るに心当たりがあるみたいだね。今日のお昼頃にはレイシフト出来るようにしておくから、そう伝えておいてくれないかい?』

 

『はい!マシュ・キリエライト迅速に先輩に伝達します!』

 

『顔ゆるっゆるだなあ……』

 

定期検査の前の雑談をダ・ヴィンチちゃんとしているときに入手したこの情報。

 

まあつまり

 

①先日先輩は[オルレアンの絶景10選]を見ている

②先輩単独でのレイシフトは安全面を考えてできない

③先輩の護衛といえばマシュ・キリエライト

 

マシュはマスターからデートに誘われると思っているのである。

②→③が飛躍してない?とかそもそも君戦えなくなってない?とか色々あるが全部頭から蹴っ飛ばしている。

マスター→マシュはマシュの中では確定事項であり、このタイミングでのレイシフトで自分を誘うのもマシュの中では必然なのだ。

そうったらそうなのだ。

 

さらに大事なことがもうひとつ。

 

「私のことが好きなのに素直に私をデートに誘えない先輩は、どうにかして私からデートに誘わせようとしてくるはず……」

 

情報戦!!

マスターがデートのためにフランスへのレイシフトの準備をしているということは「マシュから」デートに誘う算段をつけたことに他ならない!!

 

本来なら後手に回ってしまっただろう……しかし!マシュは既にダ・ヴィンチちゃんからマスターがフランスへレイシフトしようとしている情報を入手している!!

 

つまり!!

 

マシュからデートに誘わせようとするマスターに対して、既にマスターがプランと準備を終えていることを指摘するカウンターが行えるのだ!!!

 

現代の戦いは情報量が勝負の明暗を分ける!

この戦い、勝った!

 

なお、全てマシュの勘違いである。

 

そんなことはつゆ知らず、マスターを探すマシュだが……

 

「どこに行ったんでしょうか……」

 

探せど探せどマスターは見つからない。

おかしい、大抵先輩はトレーニング等の予定がなければ、自室でサーヴァントの方達や職員の方たちといるのだが。

最近は黒ひげさんとも何やらコソコソやっているみたいだが、黒ひげさんは今軟禁されているのでその線はない。

 

「やっほー!こんなところで何してるし」

 

「鈴鹿さん!」

 

マスターをパーティールームへ探しにきたマシュはカラオケでJK力を磨いていた鈴鹿御前とばったり鉢合わせる。

 

マスターを探しているマシュは当然、鈴鹿御前にマスターの行方を知らないか尋ねるのだが……

 

「マスター?マスターなら黒い方の聖女と管制室に行ったし」

 

「えええええええっ!?」

 

マシュの驚きが回廊に反響する。

 

そしてようやく冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

『オルレアンの絶景10選……行きたいな……』

 

『……なに、あんたフランスに行きたいの?」

 

『邪ンヌ。うん、ちょっと……観光雑誌、見ちゃってさ。ほら、そういうの俺好きだし』

 

『……知ってるわよ(ボソ)』

 

『ん?』

 

『……なら私が案内してあげるわ』

 

『え、でも邪ンヌは…』

 

『ふん。私だって、いけ好かない聖女様から別れた身だとしても、自分の祖国のことぐらい知ってるわ。……それに、一度ちゃんと見ておきたいとも思ってたし。あんたはそのついでよついで』

 

『……そっか。じゃあお願いしようかな』

 

『そう。じゃあしっかり準備しておきなさいよ』

 

『うん、わかった。楽しみだ』

 

『……私もよ(ボソ)』

 

 

 

 

「うう…先輩のバカ……最低です……夜なべして作ったのに……」

 

「タイミングが悪かったとしか言えないし……」

 

食堂。

怒りのままにうどんを完食しお代わりまでしたマシュは鈴鹿御前に慰められていた。

激おこモードが落ち着いてきたと思えば、急に項垂れるマシュに若干のめんどくささを覚える鈴鹿御前。

 

しかし、マスターと邪ンヌの件は鈴鹿御前も気になるところである。なんせ恋の話題はJKにとって必要不可欠。生きるための栄養だ。

恋バナに花を咲かせる自分とマシュのJK2人……うん、これはJK。

 

有り体に言ってしまえば、2人の様子がものすごく気になった。

そこで鈴鹿御前は、ある提案をした。

 

「そんなに気になるなら、ついていけばいいし」

 

「え?」

 

 

次回!デート大追跡!

 

 





とある聖女「あら?リリィ、オルタがどこに行ったか知りませんか?」

とあるサンタ「ああ、成長した私ならトナカイさんと一緒にいましたよ。管制室の方向に歩いてましたからレイシフトだと思います。ロジカルです」

とある聖女「おかしいですね…オルタは今日は何もなかったはずですが……私たちも行ってみましょうか」

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