マシュ・キリエライトは告白されたい   作:とやる

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人はこれを中の人補正という。




オペレーションNo.1 歌唱力を向上させよう

 

 

第1特異点オルレアン。

まるでお伽話のような竜と人の戦い。

人の身体能力を軽々と超える膂力や、空中を自在に飛び回る起動能力は、初の本格的な特異点修復を試みる小さなヒトへの洗礼としては十二分なものだった。

 

止まぬ波状攻撃。レイシフト直後であり、協力を仰げる現地のサーヴァントの助けもない。

自身の力のみでなんとか撃退か撤退を成さねばならない状況。

 

常時現界できるサーヴァントは私のみ。

デミ・サーヴァントであるこの身はワイバーンの数匹などに遅れはとらないが、一般的な人間の枠組みから外れぬ能力しか持たぬ先輩は別だ。

 

先輩から離れてはいけない。分かっていた。ワイバーン達が脆弱なヒトを狙っている。分かっていた。しかし、次第にワイバーン達の物量を捌ききれなくなった私は、少しづつ先輩から離され、そして一瞬の隙のうちに、

 

「ーーーーーー」

 

ダ・ヴィンチちゃんは、皆が全力を尽くした結果であり誰が悪いわけではないと言った。

ドクターは、安全な座標に正確にレイシフトさせてやれなかった自分が悪いと言った。

違う、違うのだ。

私の責任だ。

私は、私は、私は。あの、灼熱の地獄で願ったのだ。

この人を守れる力が欲しいと。この人を私が守りたいのだと。

 

「ーーーーーーー」

 

あの日。

先輩の肩を噛み砕かんとする竜の顎を。

下手な金属鎧より丈夫な魔術的防御を施されたカルデア支給服からの上とはいえ、術式を貫通され肉に牙が食い込み血が噴き出し、それでも目の前の存在を撃破しようと睨みつけた先輩を。

 

ーーなにより。

 

「治療は最低限でいい。先に進もう。俺たちはこんなところで止まれない。大丈夫、マシュのせいじゃないことは分かってるし、こんなのかすり傷だから」

 

あの時と同じ私を気遣った穏やかな微笑み……などではない、誰にでもわかる、明らかな作り笑い。無理をしているのは明白で、それでも自分しかいないのだという強迫観念が張り付いた笑顔を。

私は忘れることはないだろう。

 

もう絶対にこの人の側から離れない。改めた誓いを胸に。

 

 

 

 

「あ、探したわよ子イヌ!今からカラオケに行くんだけど貴方も行かない?」

 

「ふむ、カラオケか。同行しよう」

 

カルデアに激震走るーーー!!!

 

パーティールームで遊戯に興じていた者は一目散に飛び出し、食堂で食事をしていた者は慌てて目の前のものを胃に掻き込み、マスターと話していたマシュは即座に自室に退避し、ロビンフッドは抵抗むなしく連れて行かれた。

 

その様はまるで災害を予期した動物が如し。

しかし何もカルデアの面々の反応が大袈裟というわけでもない。

そう、これは列記とした災害。

災害名音痴である。

 

 

 

 

事の始まりは第2特異点での出来事である。

形のない島にいるという女神に会いに行くための短い船旅。その最中、ふいに船乗り達が歌い出した。

陽気な歌声は燦々と降り注ぐ日差しに、カラッとした気持ちのいい潮風を帆にめいいっぱい受け止めて進む帆船にとてもよく合っていて、こちらの気分まで高揚してくる。

 

「〜〜〜♪」

 

知らず、マシュは船乗り達の歌に合わせてハミングを奏で始めた。

船乗り達の野太い声とマシュの細く、それでいて芯の強さを感じさせる綺麗な鈴の音は一見ミスマッチのようで、とても心地よくユニゾンしていた。

 

言語は分からずとも、リズムは分かる。なんだか楽しくなってきたマスターは、自らも合わせてメロディを刻み始めた。

 

ところで、不協和音という言葉がある。

同時に2つ以上響く音が共和していない状態のことを指し、一概に不快な音を意味するものではないが……このとき、それに意を唱えるものは皆無だった。

 

まあ、飛びっきりの不興な和音だったというわけだ。

 

そして、それはエリザベート・バートリーという歩く騒音ドラゴニックガールと出会う事で加速する事になる。

 

彼女は音痴である。壊滅的なまでの歌唱力をもってして、自身のことをスーパーアイドルだと信じて疑っていない。

絶対の自信。

そして、ハロウィンで彼女が歌ったとき、マスターも歌った。歌ってしまった。

 

ユニゾン。

 

音と音の調和。2つの音のハーモニー。壊滅的であるが、同じく壊滅的であるがゆえの奇跡の調和。初めてユニゾンを経験したマスターはその気持ち良さにそれはもう喜んだ。音痴は音痴が分からない……エリザベートの自信満々な姿も手伝って、マスターは彼女と歌うことが一瞬で好きになった。

 

見方を変えれば濃密な2人の時間……後輩嫉妬案件なのだがこれに関してはマシュはノータッチである。

まああまりの耳障りさに近づくこともできないからね。是非もないよネ。

 

終ぞ、自身の歌唱力の悲惨な有様を知らぬままここに至るというわけである。

 

が、変化というものは往々にして些細なきっかけから起こるものである。

この日、マスターは自身の歌唱力の酷さをカラオケの採点機能という思いやりという言葉から最も縁遠いモノから告げられたのである。

 

 

 

 

「お願いします俺に歌を教えてください……!」

 

「えー……」

 

所変わってカルデアのとある一室。腰を90度に曲げ真剣に歌唱力向上のコーチを願うマスターの姿があった。

 

しかし、依頼された側……艶のある美しいブロンドの髪を編んだ女性ーー聖女ジャンヌ・ダルクの反応は芳しくない。

 

それもそうだろう、マスターの歌唱力の酷さは今や一部のマスターの同類サーヴァントを除き周知の事実である。であるからして、マスターの歌唱力の向上というのがどれほどの難題かということも多少なりとも音楽に心得があれば容易に察すことができるというもの。

 

出身からしてただの村娘でしかないが、類稀なる音感を持ちその歌唱力の高さが評判のジャンヌ・ダルクはそれが分かっていた。だからこその反応である。

 

「その、弟くんが歌について自分を客観的に見れた事も驚きなのですが、どうしてまた?」

 

取り敢えず、ジャンヌはなぜ歌唱力を向上させたいのか理由を尋ねてみた。

 

あのままエリザベートたちと楽しく歌っていれば害は……あるにはあるが、それは予測可能で対処もできる天災のようなもので、現状維持でいいというのが本音だ。

 

普段めったにサーヴァントを頼ってくれないマスターの頼みである。できる限り応えてあげたいのは山々なのだが、

 

「(それはあのなまこの内臓みたいな歌を聞き続けるのと同義なんですよね……)」

 

安請け合いするには少々しんどい。聖女にだってきついものはきついのだ。

 

「その、エリザベートとユニゾンするのが楽しくて……他の人ともやりたいって思ったんだ。でも、今の俺じゃレベルが違いすぎて出来ないんだ……だから、その……」

 

明朗なマスターには珍しいモジモジとした態度で、若干頬を染めつつ、気恥ずかしさからかジャンヌと目を合わせず斜め下を見ながらごにょごにょとマスターは小声で言った。

 

「(これは……!)」

 

キュピーン!と聖女センサーに反応あり。聖女には分かる。これは甘酸っぱい恋の顔だ。ええ、わかりますとも。聖女ですから!

 

「なるほど、分かりました。そういうことでしたらお手伝いしましょう。私に任せてください!(いくらマスターとはいえ基礎から教えれば流石に形にはなるでしょう)」

 

「ジャンヌ……!ありがとう!」

 

どんっと胸を叩き快諾したジャンヌにマスターの顔はぱあっと和らぐ。

 

「(ふふん!待っててくださいね妹たち!)」

 

なお、勘違いしていないようで盛大な勘違いをしていた。

 

 

 

 

「あっ……あっ……いやあああああああああ!!!!」

 

「ほげっ!ほげー!ほげ!!」

 

「助けてジルーーーー!!!!」

 

「ぼえ〜〜!!!」

 

ジャンヌ!!!圧倒的油断!!!!

甘い希望的観測からの安請け合い!!!自ら死地に踏み入る愚行!!!!

 

「なんで!?正しい音程を教えたじゃないですか!!!?なんで外れるんですか!?」

 

防音に優れたカルデアの自室(ジャンヌの部屋)での拷問!!!

まるで魔女の鍋をひっくり返したかのような悍ましい音色!!!

これは堪らないと中断をかける!

 

「いやいや。ちゃんとジャンヌが教えてくれた通りの音で歌っているのに」

 

「はい?……は?今の録音していますが聞きますか?」

 

「聞く聞く」

 

自身が奏でるデスメロディに気付かない呑気な顔でマスターがジャンヌからスマホを受け取るマスター。

ジャンヌも大袈裟だなあと軽い気持ちで再生すれば、

 

「うそ……え……?こんな……ドブみたいな声が……俺……?」

 

「だから言ったじゃないですか!!!!!!」

 

イヤホンから流れるのは死霊の雄叫びもかくやといった音。

嘘だよね?とジャンヌを見るも、それが真実ですと雄弁に目が語っていた。

 

「兎にかく、弟くんは音程の取り方が致命的に下手くそです。家畜のげっぷの方がまだましな音を出しますよ」

 

ですから、と前置きし、

 

「まずは腹筋です!」

 

「いやなんで!?」

 

 

 

 

後にマスターは聖女との2週間にも渡る特訓を思い出してこう語る。

 

『指導を仰ぐ人間を間違えた』

 

と。

 

聖女は脳筋だった。人の脳がピンク色なのは筋肉で出来ているから……ってぐらい脳筋だった。

 

彼女は言った。兎にも角にも筋肉だと。

確かに、一概に間違いだとは言えない。普通にトレーニングして鍛えられる部位と、より大きく、ブレず、綺麗な音を発するための器官は違うのだ。専用のメニューというのがあるくらいである。

 

しかし、人理の旅から始まってから今まで欠かさずサーヴァントのトレーニングとは名ばかりの臨死体験をこなしてきたマスターである。

筋骨隆々とはいかなくても、その身体に鍛えられていない部位は殆どなく、ジャンヌのトレーニングはその意味では殆ど意味がないと言えた。

 

しかし、ただの筋トレ信仰で終わらないのが聖女クオリティ。

なんと彼女は並行してボイストレーニングを要求してきた。

 

『ソ(レ)〜♪〜〜はぁ…はぁ…ジャンヌまってこれきつ……』

 

『ソ(レ)ってなんですか!ふざけないでください!クランチ20分追加!』

 

ジャンヌとの秘密の特訓があるからといって、普段のトレーニングがなくなるわけではない。マスターは、

 

『俺はこれを無事に終えられるのだろうか……』

 

と半分以上本気に思ったものだ。

 

しかしまあ、間違っていたら即座に指摘して手本を見せてくれる指導者がいて、膨大な数の反復、それをこなせる体力が備わっていた場合。

たとえ効率が悪かろうが形にはなるというのも事実である。

 

 

 

 

後日、カルデア内ではマシュと楽しそうにユニゾンするマスターの姿が目撃される。

それは、まだ些かの調子っぱずれさが残るもののちょっと前のマスターを知る者からすれば信じられないぐれない綺麗な音色であった。

一緒に歌いたくても歌えなかった2人はとても幸せそうに笑っていて、それをどこか母のような面持ちで見守る聖女がいたとか。

 

 

 

 

『最近子犬が一緒に歌ってくれない。はっ!そうだわ!私のドラゴンスケールの歌に聞き惚れてしまったのね!デュオをするよりも聞きたいという気持ちになってもしょうがないわね!……でも、たまになら一緒に歌ってあげなくもないのに』

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 

(マスターがいつのまにか歌が上手くなっていて思いがけず夢を1つ叶えられたので)マシュの勝ち

 

 

 





またダラダラするつもりだったけどやる気出しました。
感想力になってます。ありがとうございます。



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