マシュ・キリエライトは告白されたい   作:とやる

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コメディ100%




看病大作戦

 

途切れることのない怒声。鳴り止まぬ剣戟。散りゆく命。

第2特異点。人と人の戦争。

目の前で呆気なく吹き飛ぶ命を前にしても、先輩は目を背けず、ただこの一瞬を生き抜くために必死だった。

 

死体を見るのは初めてではない。オルレアンでも、竜種に無残に食い殺されたフランス兵の死体を見た。

乱雑に食い散らかされたそれはとても直視できるようなものではなく、その時の衝撃はとても言いあらわせるようなものではない。

 

「マシュ!右前方から5人来てる!うわ!左からも!」

 

「ッ!先輩!一旦引きます!私の側を離れないでください!」

 

「ダメだ!俺たちがここを離れたら戦線が崩れる!なんとか持ちこたえないと!」

 

「でもどうやって!兵士の皆さんももう殆どいないんですよ!?」

 

「……左は俺が。服の魔術も使って時間稼ぎに徹すれば死にはしないと思う。兵士さんから槍術もちょっと教わってたんだ」

 

ーーでも、1分も持たないから早く助けに来てね

 

槍を握りしめ優しげに笑う先輩に安心した。

相手軍の兵士を気絶させて直ぐさま駆けつけ、右腕を深く切られてはいても気丈に、大丈夫だと微笑む先輩にああ、この人は強い人なんだと思った。

 

以前よりも巧くなったその微笑みを私は信じてしまった。

 

大地が紅く染まるほどの戦場で、平凡な少年のその姿がどれほど異常なのか気づくことができなかった。

 

 

 

 

「先輩」

 

「い、いや違うんだマシュ。これには深いわけが」

 

「先輩」

 

「ーーマシュ、マシュは笑顔の方が可愛いよ」(優しく微笑むイケメンムーヴ)

 

「先輩」

 

「申し訳ありませんでした」

 

時は1日ほど前に遡るーー!!

 

 

 

 

 

早朝。

この日もいつものようにマスターを起こしに来たマシュだが、違和感を抱く。

 

「先輩の息が荒い……?」

 

最初は静謐のハサン辺りがくんかくんかでもしているのかと思ったが、どうも違うようだ。

眠るマスターに近づくと、顔は上気し、寝汗がひどい。

 

「し、失礼しますね」

 

赤く、悩ましげな普段見ない表情に少しときめくが、そんな場合ではないとかぶりを振って手をマスターと己の額に添えれば。

 

「熱い!こ、これはーー!」

 

ここまで条件が揃えば、マシュの明晰な頭脳は瞬時に答えをはじき出した。

 

「先輩が風邪をひいてしまいました!」

 

風邪ーー!!

 

一般的に、風邪はウイルスがノドにある上気道に感染して急性炎症を起こした状態であり、ノドが痛い、咳が出る、熱っぽい、痰が出るなどの症状が出ている状態を指す。

なお風邪薬は症状の緩和が主目的であり、風邪の特効薬といったものは存在せず、古来より寝て治すのがいちばんの治療法である(個人差あり)

 

マスターの症状は主に発熱とそれに伴う意識の朦朧である。

 

「ぅん……マシュ……?」

 

「あっ、先輩!」

 

「朝……レオニダスさん来るから……行かないと……」

 

「ダメです!動かないでください!!」

 

覚醒し、起き上がろうとするマスターの両肩を抑え、再び横にさせる。

目覚めたことにより身体の気怠さを自覚したのか、マスターの息が苦しさを孕んだものになる。

 

「とにかく、大人しく待っていてください。レオニダスさんには私から伝えておきますから。絶対に動いてはダメですよ」

 

「わかった……」

 

「体温計や熱冷ましを持ってきます。すぐに戻りますね」

 

頰に赤が差し、潤んだ瞳で心細さを訴えるかのようなマスターに一瞬くらつくが、マシュは己を律して足早にマイルームを後にする。

 

目指すは医務室。そこにはこういった状況に対処するためのあれこれが揃っているからだ。

 

「おや、マシュ。おはよう。随分と急いでいるようだがどうかしたのかね?」

 

「エミヤさん!おはようございます!先輩が風邪をひいてしまったみたいで!!急いでいるので失礼します!」

 

途中、朝食の仕込みに食堂へ向かっていたエミヤとすれ違い、手早く状況を説明してその場を離れる。

 

「マスターが風邪か……」

 

マシュからマスターの風邪をしったエミヤは何か栄養のあるものを作って持って行こうと思案していると、

 

「おはようございます、アーチャー。マシュが何やら早っているようでしたがどうしたのですか?」

 

「ああ、セイバーか。おはよう。いや、どうやらマスターが風邪をひいたみたいでね」

 

「む、それはいけませんね。身体は何よりの資本。早く良くなるといいのですが」

 

同じく(こちらはつまむものを手に入れるため)食堂に向かう早起きである青いアルトリアに先程の様子を尋ねられ、マスターが風邪を引いたようだ伝える。

 

「ねえ、さっきのーー」

 

「マスターがーー」

 

マスターはその人柄故か、カルデアの皆から好かれている。

 

「なあーー」

 

「マスターがーー」

 

つまり。

 

「「「どうやらマスターが風邪を引いたらしい」」」

 

マスターが風邪を引いたということはあっという間に、それこそ朝食の時間にはカルデア周知の事実となったのである。

 

 

 

 

「39度……これは今日明日は絶対安静ですね」

 

医務室から体温計その他諸々をマイルームに持ってきたマシュは、まず最初にマスターの体温を測っていた。

 

機械的なフォントで表示された体温は39。普段通りというわけには行かないラインである。

 

「ごめんねマシュ……迷惑かけて……」

 

「いえ、こんな時ぐらいもっと私を頼ってくれていいんですよ。冷えピタを貼りますから、じっとしていてください」

 

「ん……気持ちいい……」

 

「それは良かったです。先輩、食欲はありますか?もしなくても、食べられそうなら消化に良いものを作ってきますが」

 

「ちょっとなら……」

 

一見、風邪を引いた先輩を心配してお見舞いに来た甲斐甲斐しい後輩の姿。

いや、間違いではない。事実ではある。

しかし。

 

「(これはチャンスです……!!)」

 

親和欲求の法則!!!

 

簡単にいうと、心が弱っているときに優しくされると、その相手に好意を抱いてしまう現象のことである。

普段めったなことでは体調を崩さないマスターがここまで弱ることは稀である。

しかも。

 

「(先輩がいつになく積極的になっています!)」

 

実は先のやり取りの間、マシュの左手はマスターのかけ布団の中に入っていた。

言うまでもない。手を握っているのである。

 

帰ってくるなりいきなり手を握られたときには心臓が飛び出る思いだったが、マシュは不謹慎ではあるが役得の2文字が頭をチラついてしょうがなかった。

 

先輩はマシュが好きだけど告白してこない+心が弱って積極的な先輩=献身的な後輩に我慢できなくなって告白

 

マシュの脳内ではパズルのように幸せな未来への方程式が組み上がっていく。

マスターのことが心配である。看病だっていくらでもできる。全部本心ではあるが……この機に乗じて先輩から言質を取りたいと思う恋心もまた偽りない心の叫びだった。

 

「分かりました、では少し待っていてくださいね」

 

「あ……」

 

そういって、病食を作るためにベッドの側の椅子に座っていたマシュが立ち上がる。

 

必然的に手が離れ、それにマスターがあげた震える声音に今すぐにでも手を握ってあげたくなるが、ここは自制をして食堂に向かおうとするがーー

 

「風邪をひいたそうね!!!!」

 

「エリザベートさん!?」

 

バンッ!と勢いよく現れたエリザベートに思わず足を止める。

マシュのリアクションに満足したように腕を組んだエリザベートはしたり顔でうんうんと頷いでいる。

 

「えっと、先輩は見ての通り高熱を出してしまっていますので、用事はまた機会を改めて……」

 

「違うわ、マシュ。私は見舞いに来たのよ」

 

エリザベートはやけに芝居掛かった調子で腕を軽くあげることによりマシュを制止する。

 

「見舞いといえば、そう、見舞いの品よ。でも、廊下で聞いてからすぐに来たから物は用意できていないわ」

 

「はあ……」

 

マシュの背中を冷や汗が流れる。

どうにも嫌な予感がする。何か、とてもよくないことが起ころうとしている、そんな予感が。

そんなマシュの内心も知らず、エリザベートはかっと眼を開き、自信満々の顔で、

 

「だから見舞いの歌を!マスターのためだけのナンバーを持ってきたわ!」

 

「そう!私たち!!」

 

「エリザベート・バートリーによる!」

 

「パイロットのための」

 

「この日限りのクインテットです」

 

vocal:エリザベート(槍)

vocal:エリザベート(術)

vocal:エリザベート(剣)

vocal:エリザベート(1号)

vocal:エリザベート(2号)

 

作詞作曲:エリちゃん’s

 

「さあ!ライブの始まりよ!」

 

「させませんよ!!!?」

 

 

 

 

「はあ……どっと疲れました……」

 

何故かスタイリッシュなポーズを決めながら次々と現れたエリザベートによる悪夢のようなライブを全力で阻止し、マシュは食堂に向かって歩いていた。

 

最終的にはあの間にマスターの意識が落ちていたということもあり、渋っていたがなんとか一声かけるだけに着地させることができた。

 

「好意自体はありがたいですけど……ん?」

 

食堂につき、厨房に入ろうとしたところでここでは見慣れない人物がいることに気がつく。

 

何をやっているのかと声をかけようとーー

 

「ふふ、あとはこれを入れて……できたー!いやーマスターの突然の病にもこうやって直ぐにキュケオーンを用意できる私流石だなー大魔女だなー。ふふ、このヒーリングキュケオーンを食べればマスターもたちまち全快さ!だっていろんな薬効を魔術で数十倍にしたものを加えたからね!死人も蘇るってもんさ!いやーこれでマスターも私のことを……ふふっ」

 

「なんてものを食べさせようとしているんですか!!?」

 

「うわあ!?なんだマシュか、びっくりさせないでおくれよ」

 

「こっちのセリフです!!!」

 

「あ、キュケオーン食べるかい?」

 

「いりません!!!」

 

「えー」

 

怪しげなキュケオーンを錬成していた不審サーヴァント……キルケーは突然大きな声を出して現れたマシュに驚いて手を止めるが、「ちょうどよかった」と言葉を紡ぎ、

 

「さっきこのヒーリングキュケオーンが出来たところなんだ。マスターに食べさせたいんだけど」

 

「食べさせませんよ!!?」

 

ちゃぷ、とキルケーの手元で波打つ紫色のとろみのある物体を見て本日2度目の咆哮。

 

一体何をどうすればそんな色のキュケオーンが出来上がるのかマシュには見当もつかなかったが、まかり間違っても病人に食べさせて良いものではないことは間違いなかった。

 

「なんでさ!病人にはキュケオーン。ギリシャでは常識だよ!」

 

「百歩譲ってそうだとしても、目にしみる刺激臭を放つそれを先輩に食べさせることはできません……!」

 

「な!キュケオーンをバカにすることは許さないぞ!」

 

「せめて安心して食べられるものを作ってから言ってください……!!」

 

キュケオーンガチ勢vs先輩の盾系後輩の仁義なき争いは、

 

「やれやれ、何をやっているんだ君達は……」

 

席を外していたエミヤが厨房に戻ってくることにより引き分けという形で決着が付くのだった。

 

 

 

 

マシュは頑張った。

それはもう頑張った。

マスターを心配するあまりトンチンカンな事をするサーヴァントの親切という名の死体蹴りから、見事マスターを守りきったのだ。

 

あるときは筋トレで風邪を治そうとする聖女を説得し、あるときはえっちな本を見舞いに持ってきた黒ひげを叩き出し、あるときは鼻息が荒い溶岩水泳部と格闘し、またあるときは風邪のときこそ乾布摩擦だと半裸で突入してきた円卓を蹴り飛ばした。

 

「先輩、飲み物はいりませんか?」

 

「ありがとう……」

 

「はい、では少し顔をあげてください」

 

「うん……」

 

そうしてやっと訪れた穏やかな時間。

自分の気遣いに素直に甘えてくれるマスターにマシュは喜色を隠せないでいた。

 

普段人に、それも自分には中々見せない弱った姿を曝け出し、なおかつ全面的に頼ってくれている。

嬉しくないわけがなかった。

 

今も繋がれている2人の手。

幾らか安らいできているマスターの顔を見つめていると、喜びの感情が爆発しそうになる。

 

「マシュ……お腹すいた……」

 

「あ、もうこんな時間になっていたんですね」

 

言われて、時計を見ると短針はすでに真下を半ばほど過ぎている。

結局、朝はキルケーのヒーリングキュケオーンをエミヤが薄めて昇華させたお粥(身体に良いものを集めたというのは本当だったらしい。ただ本日のカルデアの朝食はそれになった)を、昼はエミヤお手製の病人食をエミヤが食べさせていたため、マシュは自分の料理を食べてもらってもいなければ、あーんも出来ていないことを思い出した。

 

「では、私が作ってきますね。ついでに、冷えピタと氷枕も変えのを持ってきます」

 

「うん……おね…がい……」

 

「寝ていても大丈夫ですよ。では、行ってきますね、先輩」

 

あーんがどうしてもしたかったマシュは、マスターのお願いということもあり名残惜しくも繋いでいた手を離し、食堂へと向かう。

 

そして、入れ替わるように入ってくる影が1つ。

 

「……ぁ、マシュ……?」

 

「……間違えてんじゃないわよ。ばーか」

 

 

 

 

「我ながらいい出来だと自負があります!」

 

出来た食事をトレイに乗せて、マシュはマスターのマイルームへ向かう。

事前にエミヤたちにも作って持っていくことを伝え、他の誰かがお夕飯を持ってくるという可能性を潰す周到性。

 

万全の準備。完璧なセッティング。

もちろん、お腹が空いたというマスターの要望に応えるために用意したというのが大前提にあるが、それを満たしつつ自身の望みも叶える。

まさに一石二鳥というやつだ。

 

少し歩き、マスターの部屋の前に立ったマシュは扉を開けーー、

 

「全く、枕で寝なさいよ」

 

「ジャンヌオルタの膝……冷たくて気持ちいい……」

 

「……ふん、今日だけだからね。明日同じことしたら燃やすわよ」

 

「うん……ありがとう、ジャンヌオルタ……」

 

「……とっとと寝なさい。それまではこうしててあげる」

 

ーーようとして、聞こえてきた声に動きを止めた。

 

「…………」

 

一瞬。ほんの一瞬、マスターが早く良くなるようにと心を込めて作った食事や、あーんをすることに焦がれていた気持ち、ずっと付きっ切りでいたのにマスターを取られたって思いや感情がごちゃ混ぜになって、心がズキンと痛んだ。

 

ーーでも、今ここで誰かが部屋に入ってくるのは、私なら嫌だって思いますよね。

 

1度、袖でーーーを拭って、マシュは踵を返して歩き出した。

 

「明日には良くなってるといいですね、先輩」

 

 

 

 

そうして、翌朝。

たっぷりと寝ていたためかいつもより早く起きたマスターは、熱で頭が茹っていたとはいえ昨日の自身の行いを仔細バッチリ覚えていたので赤面していた。

 

「なんて恥ずかしいことを俺は……!」

 

思い返される行動の1つ1つに羞恥心が湧き上がる。

そして、やり場のない感情を逃がすために布団をぎゅうっと力いっぱい抱え込んだところで、

 

「あ、先輩。おはようございます」

 

「お、おはようマシュ」

 

いつもより遅い時間に起こしに来たマシュが現れる。

まだ羞恥心が尾を引きぎこちない挨拶になるマスター。

 

「その様子だと、だいぶ良くなったみたいですね、先輩」

 

「うん、色々と迷惑かけたよね。ありがとうマシュ」

 

「いえ、先輩のお世話は私のやりたい事でもありますから。なので、他の皆さんに言ってあげてください」

 

そこでマシュは「それより」と前置きし、

 

「何か私に言うことがあるんじゃないですか?先輩」

 

「え?……ありがとう」

 

「いえ、違います」

 

「……?えーっと、マシュ?」

 

「ご飯、一生懸命作ったのになあ……」

 

そこで、思い当たる節があったのかマスターの顔にサッと青みが指す。

 

そうして、冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

『反省していますか?』

 

『心から反省しています』

 

『先輩の体調が悪かったのは分かっていますが、あれは凄く傷つきました』

 

『ごめんなさい……償いっていうと変だけど、俺にできることならなんでもするよ……』

 

『本当ですか?』

 

『うん、本当だよ』

 

『そうですか。じゃあ、仕方ないので許してあげます』

 

『ありがとう』

 

『では、せっかくなので早速なんでもしてもらいましょうか』

 

『え?』

 

『実は、今日の朝ごはんは全部私が作ったんです。食べてくれますよね?先輩』

 

『ーーうん、もちろん』

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 

マシュの勝ち(最終的にあーんができたため)

 





まさか鬼王の正体がきゃつだとはこの孔明の目を持ってしても見抜けなんだ。
これから新年にかけてかぐや様アニメ、7章アニメ、二部三章と盛りだくさんでおらワクワクすっぞ。

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