あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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番外編
ダンジョンにジブリのキャラクター達がいるのは間違っているだろうか


 

 

「我が名はアシタカ! 東の果てよりこの地に来た!

 其方は、ベルの主神であるときく、古い神か!」

 

 

 ヘスティアは混乱した。

 くたびれた教会の一室、狭いながらも楽しい我が家であるこの¨愛の巣¨で、自分は今日もダンジョンへと出掛けて行ったベル君の帰りを、ご飯を作って待っていたハズではなかったか。

 それがどうして今、このよく知らない和装の少年の名乗りを受けているのか。

 この少年の傍らで「ぐるるる…!」と獣のように唸りながらこちらを睨んでいる少女は、いったい誰なのか。

 

「お邪魔しますヘスティアさん!

 ぼくはパズー! こっちはシータ!」

 

 ヘスティアの手をフランクに握り、ブンブンと上下に振るパズー。隣でニッコリと微笑み挨拶をするシータ。そして二人の後からゾロゾロと部屋へと入ってくるキキ、ポルコ、ナウシカといったメンバー達。

 ふとその後ろに目を向けて見れば、狭い扉を窮屈そうに「うんしょ、うんしょ」と何とか潜り抜けて部屋へと入ってくる¨灰色の巨獣¨の姿。その傍に寄り添うようにして歩くサツキとメイ。

 

 ヘスティアの顎が「アンガー…」と、腹話術の人形のように下がった。

 

「?! べ、ベル君?!」

「…あはは。ただいま帰りました、神様」

 

 そのどことなく愛嬌のある灰色の巨獣の背中に愛しの我が子¨ベル君¨の姿を見つけた瞬間、ヘスティアは食べかけのじゃが丸くんも水の入ったコップも、そしてそれが乗ったテーブルさえも全部ひっくり返しながらドタバタと彼の元へと駆け寄る。

 服も所々やぶれ、そして身体中に擦り傷を作って帰って来たベルの姿を見て、ヘスティアは慈しむようにその頬を撫でる。

 

「あぁ…ベル君。こんなに傷だらけになって…。

 でもありがとう…無事に帰ってきてくれて。ありがとうベル君…」

 

 ベルのお腹にしがみつき、グリグリと顔を押し付けながら涙声で語り掛けるヘスティア。

 ベルは少し照れ臭そうに、でも暖かな微笑みを浮かべながらヘスティアの頭をヨシヨシと撫でてやる。

「僕はここにいます、大丈夫です」と、子供のように泣きじゃくるヘスティアを優しく安心させてやるように。

 

「ダンジョンの5階でミノタウロスが出たんです。僕はそれに遭遇してしまって…。

 武器も無くして、足もくじいてしまって。でももう駄目だっていうその時に、

 ここにいる皆さんが助けてくれたんです」

 

 トトロ達の方を指し、彼らに助けてもらった事を報告するベル。

 ヘスティアはベルのお腹から顔を放し、まだ少し涙の滲んだ目のまま、トトロ達へとびっきりの笑顔を贈る。

 

「そうだったんだね…。ありがとう君た……ってどこ行くのさ君達!

 ちょっとちょっとちょっと!!」

 

「よかったよかった」「よっしゃよっしゃ」とゾロゾロと一斉に部屋から出て行こうとしているジブリの一同。

 まるで「これにて、お役御免!」とでも言うかのような非常に清々しい顔をしている。サムライか。

 

 そしてそれを必死こいて引き留めるヘスティア。パズーの首を引っ掴み、アシタカの手を引っ張り、トトロのお腹へとしがみつき全力で阻止する。ドタバタと部屋に埃が舞う。小さな身体で非常にパワフルな動き。さすがベル君の神様だ。

 

「なにやりきった顔して勝手に帰ろうとしているのさ!

 君達はベル君の恩人だよ?!

 ならちゃんとお礼をしなきゃ、ボクの立場ってものがないじゃないか!」

 

 すでに階段の方へ行っていたキキとメイの身体を両脇に抱え、無理やり元の部屋へと連れ戻す。

 肩を怒らせてドアの前に立ちはだかり、「フカーー!」っと猫のように髪を逆立てるヘスティア。困惑するジブリの一同。

 

「こうなったら意地でもご飯のひとつでも食べてってもらうよ!

 君達っ、お腹は? ケガは? 主神は? 今どこに住んでるの?!

 なんとか言ったらどうなんだい君達っ!!」

 

 まるでいたずらが見つかった子供と、それを怒る近所のおばちゃんだ。

 ポルコは「…いや、親は勘弁してくれねぇか?」とまるで中学生のような事を言いそうになるのを危うく堪え、残りのメンバーなどは何故か一部が正座になっている。

 それほどの迫力。神の怒り。人間という存在は、あまりにも無力だ。

 しかし何故神様が怒っているのか、それは誰にも判らない。困惑顔のジブリの一同。

 まぁまぁ神様とベルに窘められたヘスティアが我に返り、満面の笑み。

 その後は無事食事をご馳走になる、ジブリの一同だった。

 

 

……………………………

………………………………………………

 

 

 

「なんだ! そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに!

 今日からみんな、このヘスティアファミリアの一員だ! 仲良くやろうぜ!」

 

 

 賑やかな食事を終え、主神ヘスティアはジブリのメンバーへ次々と自らの恩恵を与えていく。

 ちなみに上の言葉は先ほど食事中にヘスティアが言い放った物だが、実はあの食事中の光景を、彼女は一刻も早く忘れてしまいたかったりする。

 

 なんだ、この子達は…。何故これほどまでにガツガツと沢山食べられるんだ。育ち盛りなのか。

 

 悠久の時を生きてきた神でさえ、その健啖ぶりに舌を巻いた。

 パズーが、キキが、ナウシカが。ジブリのメンバーの全員が一丸となってテーブルの上のあらゆる料理を駆逐していく。

 神友ヘファイストスに頭を下げ、軍資金に協力してもらってまで用意した大量の料理達。

 何十人前とあるであろうその量を、ジブリのメンバー達はなんでもないように平らげていく。

 

\うめぇなこりゃ/ \これ美味しいわ!/ \もっと食わせろ!/ \ひゃー!/

 

 まるでお皿にしがみつくように料理を掻っ込んでいく仲間達の姿。唖然とするヘスティアファミリアの二人。

 あの光景は、もう思い出したくない。ファミリアのお財布的な事情も含めて。

 

 

 食事も終わり、まずは女の子達から始めようという事で、ベルを含めた男の子連中を部屋から追い出し、次々と背中に恩恵を刻んでいくヘスティア。

 写してもらった自らのステータス表をきゃっきゃウフフと見せ合い楽しそうな女子勢の声の中、神ヘスティアだけは内心非常に焦り、そしてそれを隠すように苦笑いを返すしかなかった。

 

 どうなってるんだこの子達は…。

 レベル1だから数値が全部10なのは当然として、皆が皆、もうレアスキルのオンパレードじゃないか…。

 

 ナウシカの【風使い】

 キキの【魔女の宅急便】

 シータの【天空の王女】

 サンの【プリンセス・オブ・もののけ】

 

 どれもこれも、聴いた事もない物ばかり。

 恩恵を刻んだ子達に「どうでしたか神様♪」と聞かれる度に、「んー。まぁ最初はこんなもんだよー」(目そらし)と誤魔化して、誤魔化して、また誤魔化して。

 もう5人目のサツキに恩恵を刻む頃には「…あれ、どうしたんですか神様? 身体が震えてますよ?」とちょっと心配されてしまう程だ。

 

 やぁサツキくん。ボクは今、非常に混乱しているんだ。心配いらないよ。

 そんな事が言えてたまるか。ヘスティアは自分に出来る精一杯の笑顔をサツキに返す。

 

 一人でも、たった一つでも火種や問題になりかねない¨レアスキル¨。

 それをジブリのメンバー全員が持ち、しかもそれぞれが違う物を所持している。

 

『ヘスティアファミリアの今後の活躍にご期待ください!』

 

 なにやらそんな言葉が脳内で聴こえてきたような気がするが、ヘスティアはそれを言った者にドロップキックをかまし、ついでにバックドロップもかます。もちろん脳内で。

 

 うるさい黙れ。この子達はぼくの家族なんだ! ぼくが守るんだ!!

 ヘスティアから恩恵をもらい嬉しそうに部屋から出ていくジブリの女の子達の背中を見送った後、目を見開きながら両手をグッっと胸元で握りしめる。

 これは決意の握り拳。神ヘスティアのファミリアへの誓いである。

 

 

 そして次にジブリの男子勢が、入れ替わりで部屋へと訪れる。

 未だぼんやりと己の世界へと逃避していたヘスティアの精神を、突然響いた〈ドォゴォーーン!〉という破壊音が現実へ引き戻す。

 

 轟音に目を覚ましたヘスティアがまず最初に見た物は、押しつぶされて砕け散ったベッドと、その破片。

 そしてバキバキに押し潰されたベッドの上に横たわる、灰色の巨獣の姿。

 

『さぁ、ボクに恩恵をおくれ』

 

 そう言わんばかりの良い笑顔で「ニッコー!」とベッドに横たわる、トトロの姿であった。

 

 

 

…………………………

………………………………………………

 

 

 

 

 

「………静まれっ、静まり給えー!

 さぞかし名のあるオラリオの神と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!!」

 

「怒りで我を忘れてるっ、鎮めなきゃっ!」

 

 

「わああああ!!」と絶叫しながら、トトロのお腹に顔を埋め号泣するヘスティア。オロオロするジブリの男子勢。駆けつけた女子勢。

 貴重な我が家の家具の破壊音と共に、今まで必死に堪えていたヘスティアの心もポッキリといった。

 

 この時は知る由もなかったが、この後ヘスティアはトトロの他、ネコバスやシシ神、王蟲なんかにも恩恵を与えてあげなければならない。

 獣人族にいけるのだから、人語を解する猪や山犬の一族にもワンチャンあるはずだ。

 無いはずがない。

 そしてラピュタロボや巨神兵なんかにも、頑張って背中にまたがり恩恵いけるかどうかを是非試してみて欲しい。

 今みんなは教会の外へ集まり、ヘスティアが来るのを今か今かとお利口にして待っているのだから。

 オイみんな! 神様がボクらを家族にしてくれるんだってさ!

 

 

「まだかな、まだかな」とワクワクしながら、自身の背中に神の恩恵が刻まれる時を夢見る、

巨大なジブリモンスター達。

 

 

――――――これは、そんなジブリのキャラクター達がつむぎ、女神が記す物語。

 

 


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