あなたトトロって言うのね / stay night 作:hasegawa
「へぇ。シータはザンギエフを使うんだな」
「ええ士郎さん。貴方の血でロシアの大地を赤く染めてあげましょうか♪ うふふ♪」
日曜日の午後、士郎とジブリの仲間達は衛宮家の居間にてゲーム大会を行っていた。
映画の他レトロゲームも大好きな士郎は、数々の古いゲーム機やソフトを所持している。
ゲーム機の修理だってお手の物だ。
ちなみに今プレイしているのは、スーファミ版ストリートファイターⅡターボだ。
「ずるいよシータ! あんなに遠い間合いからでもスクリューで吸い込めるなんて!
僕のリュウの顔面がエライ事になってるじゃないか!」
「あらっ♪ それじゃあパズーもリュウじゃなくて、ザンギエフを使ってみたら?
あなたも一度、一回転コマンドの苦労を味わってみたらどうかしら?」
ことごとくザンギエフに波動拳を躱され、あっさりと3回グルグルとブン投げられて沈んだパズー。その完膚なきまでの蹂躙劇。
「……来るなっ、来るなぁー!」と必死に飛び道具を連射するリュウの姿は、観ていてとても切なくなる光景だった。
パズーの顔の前に、見せつけるようにして自身の親指を持っていくシータ。ただのサムズアップではない。その親指を見たパズーが思わず絶句したのだ。
シータの左手の親指は、その何万回という過酷なスクリューパイルドライバーのコマンド練習により変形し、拳ダコのように皮膚がゴツゴツとなっていたのだ。
刀匠が鉄を叩くように。実りを願い農夫が畑を耕すように。
ただひたすらに、スクリューコマンドの修練を積み重ねた。
そんな鍛え上げた者だけが持つ親指。その形。
「び、ビューティフル……」
一目でわかるその重み、そのザンギエフへの愛情に、士郎が思わず“美しい“と漏らす。
その女の子らしからぬ醜い親指。士郎はそれを、とても尊い物だと感じたのだ。
いったい今までどれだけの数のリュウやダルシムが、飛び道具ひとつでザンギエフを虐殺してきたのだろう?
どれだけの数のザンギエフ使いが、「国に帰るんだな」とガイルに言われ、蹂躙されてきたのだろう。
のろま、モヒカン、赤パンツ。
数々の罵倒と屈辱をその身に受けながら、それでも『否』と跳ね除けた。
投げキャラこそが私の道、ザンギエフこそがマイキャラなのだと叫ぶ、その心意気よ。
安きを選ばず、七難八苦に身を晒す、その熱き想いよ。
猛攻に耐え、間合いを測り、全てを読み切るようなしゃがみ大キックで相手の牽制技を潰す。そしてその全ての行動がたった一点の、たった一度の“投げる“というその目的の為に集約されている。
この小さな少女の身体のどこに、そんな情熱が隠されていたのか。
どこにそんな巨大な“愛“が秘められていたのか。
これぞまさに、『投げる青春』。 投げという至高のカタルシス。
ハラショー投げキャラ! ハラショー同志ザンギエフ!
「私は赤きサイクロン。全てを巻き込み、粉砕するのよ♪」
しゃがみ弱パンチ×2からのスクリューを易々とサンのブランカに決めていくシータに、士郎は尊敬の念を禁じ得なかった。
…………
…………………………
亀の甲羅を連続で踏みつけ、ポインポインとリズム良くジャンプし続けるアシタカのマリオ。
\ 1UP! / \ 1UP! / \ 1UP! / \ 1UP! / \ 1UP! /
「アシタカすげぇ!」
「あなたマリオって言うのね!」
「ラピュタは本当にあったんだ!」
アシタカの妙技に大歓声を上げるジブリの一同だったが…。
(静まれ……、静まり給え亀の甲羅よ。なぜそのように荒ぶるのか!)ポインポインポイン!
実は降りるタイミングが判らず、必死にジャンプし続けているだけのアシタカだった。
その光景を微笑ましく見届けた後、皆にお茶とお菓子を用意してあげようと一旦席を外す士郎。しかしお盆を携えて部屋に戻った士郎が見た物、それはサンがファミコンソフト『たけしの挑戦状』をプレイしている光景であった。
「……ちょ、お前っ!」
なんて無謀な事を! 士郎が慌てて止めに入ろうとするも、時すでに遅し。
サンの操る主人公のサラリーマンはヤクザのパンチに撲殺され、今はゲームオーバー時のお葬式のシーン。
『テー、レー、レー♪』という、悲しいBGMが流れる。
「…………アシタカは好きだ。でも人間を許す事は出来ない」
「それでもいい……、私と共に生きてくれ……」
映画で聴いた名セリフが、なにやらとても哀愁漂う感じに聞こえた。
サン……それ有名なクソゲーなんだよ……。
そんな慰めの声を掛ける事すら、躊躇われる背中だった。
その後もサツキとメイが二人プレイで見事ダブルドラゴンⅡをクリアしたり、意外とポルコがスターソルジャー下手だったりと、大盛り上がりを見せるレトローゲーム大会。
「ナウシカはどんなゲームが好きなんだ?」
皆が楽しそうにゲームする所をニコニコと見守っていたナウシカに、士郎が問いかけた。
「そうね、私は昔のゲームで言えば、ぷよぷよなんかがとても得意だったわ。
でも今は、あまりTVゲームはやらないの。……やらないって、自分に決めているの」
何故かとても悲しそうに笑うナウシカ。
それを見た士郎は驚きながらも、寄り添うようにナウシカの隣に座った。
何故ゲームの事で、ナウシカがこんなに悲しそうな顔を?
何故ゲームをやらないなんて、自分で決めちまったんだ?
それがどうしても聞きたいと思った。
「士郎くん……私、“SEGA“のゲームが大好きだったの」
今にも泣きそうな笑顔で、ナウシカが士郎に微笑みかける。
「バーチャロン、ソニック、スペースチャンネル5。
でも一番私が好きだったゲームはね士郎くん……“シェンムー“よ」
驚愕の表情で、士郎が目を見開く。
ナウシカお前……シェンムーって……。
今シェンムーって言ったのか?! お前は……!!
「シェンムーは楽しかった。主人公の涼くんは、お小遣いでガチャガチャを集めたり、
フォークリフトに乗ってレースをしたり、『ここでなら、練習出来そうだな』
とか突然言い出して、近所の駐車場で人目もはばからずに拳法の練習をし始めたり」
「ふふっ。あの何気ない自由な時間の……全てが輝いていたの」
とうとう零れてしまった、一筋の涙。
ナウシカは苦笑しながら、それを拭う。
「でも、楽しい時間はすぐに終わってしまった。未来はもう、閉ざされてしまった。
あの頃の“SEGA“は、もう無くなってしまったから。
もう私の涼くんは、永遠にお父さんの仇を討つ事は出来ないの」
「“龍が如く“、すごく面白かったわ。
何度も『これが生まれ変わったシェンムーなんだ』って、思いこもうとした。
でも駄目なのよ。この人はヤクザであって、高校生だった涼くんじゃない。
4代目は……“堂島の龍“は、私の涼くんなんかじゃない」
シェンムーの開発費は約80億円。SEGAの社運を賭けて開発されたソフトだった。
そしてそのシェンムーはコケて、会社は傾き、ハード事業から撤退するきっかけともなった。
当時のドリームキャストの低い普及率を考えたら、それは当然の事だった。
「なんとかシェンムー2は発売されたの。でもそれは10億円くらいのお金をかけて
開発された。1作目からすれば、とても安い開発費に見える。それでも凄く面白かった」
涙を流しながら笑うナウシカの姿。
それを見つめ、思わずギュッと手を握りしめる士郎。
「シェンムー2ではラスボスを倒した後、涼くんがゲームの舞台だった香港の街を離れ、
モンゴルへと飛び立つの。父の仇を追って」
「香港を立つ前には、今までお世話になった街の人達に挨拶をしていかなきゃいけない。
でも私は、“宿屋“のおじさんの所へは行かなかった。けして行く事が出来なかったの」
ナウシカはとうとう顔を伏せ、三角座りの膝にその顔を埋める。
それは悲しみを耐えるようにも、懺悔をする罪人のようにも見えた。
「シェンムー2は、金策が難しかった。香港では実家の人におこづかいを貰う事は出来ない。
だから涼くんは遠く異国の地で、ミニゲームの博打なんかをして、
お金を稼がなきゃいけない。お金を稼いで宿代を払わなきゃいけない。
でも私は、ミニゲームがとても下手だった」
「宿屋のおじさんは、優しかった。
『今度でいいよ』と言って、いつもお金のない私を、ツケで宿に泊めてくれたの。
私は安心してゲームを進める事が出来た。そしてついにラスボスを倒した。
でも、お金は一銭も、持っていなかった……」
「……ナウシカ! まさか、お前ッ」
驚愕の表情でナウシカを見る士郎。
見ていて胸が張り裂けそうになる程の悲しい笑顔で、ナウシカが士郎に振り向いた。
「……逃げたわ、モンゴルへ。
宿代を踏み倒して、お世話になった挨拶もせずに、そのままモンゴルへと飛び立ったわ」
「お金が無かった。積もり積もった宿代なんて、払えなかった。
だから、モンゴルへ逃げた。まさか本当に逃げられるとは思わなかった。
その後すぐシェンムー2はエンディングを迎えたわ。私の涼くんの旅は終わった。
エンディングの壮大なBGMを聴いていた私の心は、罪悪感で一杯だったわ。」
今二人の目の前では、キキやパズー達の遊ぶ楽しそうな光景が広がっている。
でも今のナウシカにも、士郎にも……、その光景は、あまりにも遠い。
「シェンムー3は、発売されなかった。
あの物語の続きはもう出来ない。私の涼くんは、ずっと宿代を踏み倒したまま」
「あれから私はゲームをしなくなった。シェンムー3が開発出来なかったのも、
SEGAが傾いてしまった事でさえも、
全て『私が宿代を踏み倒したせいなんじゃないか』って、そう思うから」
「私がまたゲームをする時が来るとしたら、それはシェンムー3が発売された時。
それまではゲームをしない、その資格が無い。そう決めてるの」
「そしてあのおじさんにしっかりと宿代を払い終えた時、初めて私の罪が許される気がする。
SEGAが傾いてしまった事も、
あの日、宿代を踏み倒して、香港を立った事も」
「……ナウシカッッッ!!」
士郎の胸の中で、ナウシカが泣く。
そしてナウシカを抱きしめながら、士郎も泣いた。
まるでその悲しみを、二人で分け合うようにして。
安田成〇の歌う『風の谷のナウシカ』が心に沁みる。そんなBGMが似合う光景だった。
「俺もだナウシカ! 俺も踏み倒した!!
払ってらんなかった! 香港ドルなんて稼げなかったんだ俺も!!」
「!?」
「ナウシカ!」「士郎くん!!」「「おーいおいおい!」」と、声を上げて泣く二人。
なんで士郎くんとナウシカは抱き合って泣いているんだろう?
その光景を見て、不思議に思うジブリの一同。
ちなみにシェンムー3は募金を募りながらも、ただいま鋭意開発中であるらしい。
開発途中のシェンムー3のPVを観て、そのあまりの出来に愕然とする士郎とナウシカであった。