あなたトトロって言うのね / stay night 作:hasegawa
その日、衛宮家の居間にて、シータはお昼寝をしていた。
「……ムニャムニャ。……うふふ♪」
ジブリの女の子勢と共に、タオルケットをかけて眠る。みんな愛らしい寝息を立てていらっしゃった。
「……まぁ♪ パズーの握力って……、まるでチンパンジーみたいね……♪」
いったいシータがどんな夢を観ているのかは定かではないが……、チンパンジーの握力は200オーバーである。さすがはラピュタの主人公。
「……そんな、……そんな物を頭突きで粉砕するの……?
……すごいわパズー。……パズー……♪」ムニャムニャ
よくわからないが、パズーは何か硬い物質とでも戦っているのだろうか?
それが瓦なのかレンガなのかは分からないが、とりあえずシータの寝顔はとっても幸せそうだ。
「……ムニャムニャ。…………バルス♪」
――――――その時、衛宮家の居間は、謎の青い光によって包まれた。
タンスは倒れ、障子は吹き飛び、そして天井を貫いて、何かが落ちてきた。
………………………………………………
「――――マスター! 空から女の子がっっ!!」
学校から帰って来た士郎くんを、パズーが出迎える。
その背中には、何やら小さな女の子が背負われているのが分かる。
「えっ。…………っておい!
この子、節子じゃないか! 火垂るの墓の!!」
パズーの背中でスヤスヤと眠る女の子。まごう事なく彼女は、士郎も良く知るあの節子ちゃん。おかっぱ頭が大変にキュートだ。
「分かんないんだよボクも!
シータが言うには、『お昼寝してたら天井から落ちてきたの』
……って事だけど!」
みんなは知る由もないが、恐らくそれは、シータの“バルス“が原因であると思われる。
滅びのまじないと言う事ではあるが……いったいシータは何を破壊(滅ぼし)たんだろうか。
コメディ時空の設定的な物でも壊してしまったのだろうか? まったくの謎だ。
「いま中に清太くんもいる! 会ってあげて欲しいんだ士郎さん!」
とにもかくにも「えいやっ!」っとスニーカーを脱ぎ捨て、パズーを伴いイソイソと居間に向かう士郎。
家主も大変だ。
………………………………………………
「おおきに♪ しろうくん、おおきに♪」
現在、節子ちゃんは士郎の膝の上で、ご飯を食べていた。
挨拶を交わした後、何故か人類史上でも稀にみるスピードを持って、一瞬にして親友になる士郎と清太さん。
もし清太がピンチの時は、いつでも駆けつけるぞ俺は。
もし士郎くんが困っとる時は、僕はなんでもするで。
そんな風にガッツリ友情を結ぶ二人を、セイバーが微笑ましく見ていた。遠坂は首を傾げていたけれど。
その後、節子ちゃんの姿をじっと見て「……なんだか痩せちゃってるな~」と感じた士郎は、とりあえず二人にご飯を振る舞う事とする。
お腹が空いては戦も出来ぬ。話はご飯を食べた後である。
…………と思いはしたのだけれど、現在ご飯を頂いている節子ちゃんを余所に、清太はナウシカとバーサーカーに捕まってしまっていた。
どうやら、痩せた二人を見たナウシカが清太に事情を訊ねたらしいのだけれど……そこからナウシカによる、火の出るようなお説教が始まってしまったのだ。
「――――ッッ!! ――――ッッ!!!!」
「ごめんなさい……。ごめんなさいナウシカさん……」
「――――ッッ!! ――――――――ッッッッ!!!!」
清太と向かい合って正座し、烈火の如く叱りつけるナウシカ。その隣には無言ながら、真剣な表情で清太を見つめるバーサーカーの姿。
さしずめナウシ母さん、バーサカ父さんといった風である。
……清太と節子。二人の事情は分かる。その時代背景も察するに余りある程の物だ。
――――しかしっ! それはそれ! これはこれッ!
ナウシカは、心を鬼にして清太を叱る。
節子が痩せてしまっていた原因。そのあまりに軽率だった清太の行動を、叱りつけたのだ。
髪の毛はフゥア~っと浮き上がり、その怒声は天地に木霊する。
こんなに怒っているナウシカは見た事がなく、みんなビクビクとしていたけれど、そこに士郎は深い愛情を見た気がした。
目に涙を浮かべながら諭すナウシカの姿に、きっと清太も思う事があるんじゃないかなと、士郎は思った。
「おおきに♪ しろうくん♪ おおきに♪
ホンマにぃちゃんとおると、ロクな事あらへんねん」
「 せっ……節子ッ?!?! 」
士郎の膝の上でご飯を食べている節子。彼女がボソリと呟いた一言に、驚愕の表情を浮かべる清太。
幼子の言葉が、胸に突き刺さる。これはホンマに節子の言葉なんかと、信じられない様子だ。
「あっ、にぃーちゃーん♪ にぃちゃんも雑炊、おあがりー♪」
「 節子ッ! さっき何言うたんやお前!? 節子ッ!!!! 」
節子に駆け寄ろうとするが、ガシッとバーサーカーに止められてしまう清太さん。お説教はまだ終わっていないのだった。
………………………………………………
(……セツコ、……あぁセツコ。
なんとちいさく、愛らしい少女なのでしょうか)
現在、士郎の膝にちんまりと乗っている節子を、ライダーが「ほぅ……♪」っと熱っぽい感じで見つめていた。
(シロウが羨ましい……。私もセツコを膝に乗せてみたいです。
あの子の頭を、優しく撫でてあげたいです)
膝をすり合わせてモジモジ。手を祈りの形にしてクネクネ。
でも中々言い出す事が出来ない。ライダーはシャイガールなのだった。
「セツコ、こちらも食べてみるといい。
ゆっくりと、よく噛んで食べるのですよ」
「おおきに♪ せいばーねぇちゃん♪」
そして士郎の隣に座り、「キャッキャ♪」と仲良く節子と話すセイバー。
なぜお前がそこにいる。お前はシロウじゃなく切嗣のサーヴァントだろうが。アインツベルンに帰りなさい。
なんかライダーは、人を殺せそうな目つきでセイバーを見ている。
そして例の“ジブリ飯結界“なのであるが、何故か今夜は発動(?)していないようなのだ。
きっと皆が節子を気遣い、のんびりと食事してもらおうという気持ちでいるからなのかもしれない。
……まぁ、明日以降は節子も皆に混ざり「はぐはぐ! もぐもぐ!」としているかもしれないが。
「おいしぃ♪ しろうくん、これおいしぃ♪」
「そっか。ありがとな節子。俺うれしいよ」
なんかもう、節子を囲む士郎とセイバーが夫婦に見えてきた。
その光景を、ハンカチを「キー!」っと噛みながら見つめるライダー。
だいじょうぶ、後でたくさん節子と遊べるから。時間はたっぷりあるさ。
そして現在は清太も食卓に加わり、美味しそうにご飯を食べてくれている。
ナウシカもすっかり笑顔を取り戻し、今はなんだかんだと清太に世話を焼いてあげている最中。腹を割って話をした事もあり、関係は非常に良好のようだ。
やはり清太はお兄ちゃん属性そのものだからなのだろうか? 特にイリヤとはすごく仲良くなったようで、見ていて微笑ましい程である。
ナウシカやイリヤと楽しそうに話している清太の姿に、バーサカ父さんもニッコリだ。
それにしても……、さっきの節子ちゃんの様子はいったい何だったのだろうか?
実は先ほど、士郎に「胃に優しい物が良いかな?」と雑炊を作ってもらい、それを食べ始めた時の節子の様子が、なにやらちょっとおかしかったりしたのだ。
それを見たみんながちょっとビックリしてしまった、という事があった。
「――――うん、おいしい。 すごくやさしい味や」
士郎の膝の上、雑炊をひとくち食べた途端に真剣な顔をする節子。
「たまご、おネギ……、それにシャケが入っとるのもうれしい。
ほんのりえぇダシも効いとって、食べた事ないくらいおいしい雑炊や」
「……節子?」
じっとスプーンを見つめながら、自分の世界に入っている節子。それを心配そうに見つめる士郎。
「えぇ材料を使ぅてる、とかやないんや。
……これは、しろうくんの優しさ。
これを食べるウチの事を心から想い、
そして考えて作ってくれたしろうくんの優しい気持ちがあるからこそ、
この雑炊はこんなにも美味いんや」
「節子?」
グルメレポどころか、美食倶楽部もかくやという真剣さで語りだす節子。
やたらと饒舌になっている。いつもの舌足らずはどこへいったのか。
「――――これにくらべたら、にぃちゃんの作る雑炊はカスや」
「 せっ、節子ッ?!?! 」
どないした節子ッ!? なにが乗り移った!?!?
ディスられてしまった清太さんはさておき、とりあえずは節子を正気に戻そうとする士郎たち。
節子ではなく、“節子さん“。
何故かそう呼んでしまいそうになるような、雰囲気だった。
………………………………………………
「いいかよ節子?
俺とおめぇの両方から、ちょっとずつ穴を掘ってくんだよ。
トンネル作んぞ」
ここは冬木市にある児童公園。
現在ランサーと節子は、砂場でお城を作っていた。
「そんで、こっから水を流してみろ。
川だぞ節子。 さぁやってみな?」
そして節子が、おもちゃのバケツを使って水を流しいれていく。
二人で作ったお城のトンネルに、川が流れていく。
いつか壊れてしまうのが惜しい、そんな力作が完成した。
「いーじゃねぇか!
俺の国にだってこんなスゲェ城なかったぞ!
大したモンだぁおめぇは!」
「うんっ♪ らんさーにぃちゃん♪」
バンザイして喜ぶ節子。がっはっはと笑うランサー。
傍にある鉄棒の所では、清太とパズーがグルグルと逆上がりで勝負している。実力伯仲だ。
またベンチにはキキとサツキが座り、仲良くおしゃべりをしている。
ブランコの所では、楽しそうに遊ぶメイの事を、ナウシカとシータがニコニコと見守っている。
そして何故か公園に来てまで筋トレをする士郎と、それをトレーナーのようにサポートしているポルコの姿。などなど……。
とにかく、いつものメンバーにランサーを交え、非常に平和な光景が広がっていた。
………………………………………………
「おい! なんかニューカマーが来たらしいじゃねぇか!
どんなサーヴァントだよオイ! 俺と戦わせろ!!」
今朝、そう言って衛宮家を訪ねてきたランサーは、愛らしく朝ごはんをモグモグしている節子を見て、膝から崩れ落ちた。
「……お、おうランサー。……とりあえずお前も、飯食ってけよ」
「……あぁ。……悪ぃな、坊主」
バトルジャンキーなランサーが、「冬木に来てからちっとも戦えやしねぇ……」といつも愚痴をこぼしているのは士郎も知っていた。
だからこそ、この家に新しいサーヴァントが来たと聞きつけて、喜び勇んでやって来たのであろう事は見て取れる。
しかしながら……、申し訳ないけれど、やって来たのは節子ちゃんなのである。
戦いが出来るかなどは言わずもがな。モソモソとご飯を食べるランサーの背中に、哀愁が漂う。
「……つか、節子も一応はサーヴァントなんだろ?
もう戦いてぇなんざ、言ったりしねぇけどよ?
おめぇはどんな宝具があんだよ?」
「んー?」
ご飯をモグモグし終わった後、節子は可愛らしい仕草で「はい♪」とばかりに、何かをランサーに差し出す。
手に納まるサイズのそれには、“サクマ式ドロップ“という文字が書かれている。
サーヴァント節子の宝具。それは、節子の大好きなお菓子であった。
「あけてっ。それあけて~っ」
「……お、おう。 こうか?」
キャップをパカッと開けてやり、缶を返すランサー。
すると節子が綺麗なキャンディをひとつ取り出し、ランサーにくれた。
「…………うん、美味ぇ。とんでもなく美味ぇアメだよこりゃ。
俺ぁこんな美味ぇの、食った事ねぇよ。
…………で、これがおめぇの宝具なんだな節子?
間違いねぇんだな?」
――――――ただただ、美味しい。
ものすごく美味しい。食べると笑顔になる。そんなキャンディだった。
「うん♪」
………………わかってた。口に入れた瞬間……、わかってた。
でもな? どっかで期待してたんだよ俺ぁ。
変な話、もういいから『食った瞬間、俺の身体爆散してくんねぇかな?』とか、ちょっと期待してた。
これ宝具なんだから、ってよ。
英霊が持つ、すげぇモンなんだから、ってよ。
……でも、そんな事ぁなかったぜ。
これは、とんでもなく美味ぇっていう……ただの飴だった――――
「えっ、ランサーさん泣いてるの!?
そんなに美味しいんだ! 節子ちゃんのアメ!」
メイが「ちょうだい♪ ちょうだい♪」と節子にお願いしにいく。節子も笑顔でキャンディをあげる。
そして二人でキャンディを頬張りニコニコ。とっても微笑ましい光景だ。
そんな中、ひとり静かに涙を流すランサー。
今度バーサーカーが来た時に頼んでやるからさと、慰めてやる士郎だった。
「……つかよ、おめぇのせいじゃねえのかコレ!?
おめぇが平和なサーヴァントばっか呼んでっから、こんな事によ!?」
「えっ」
…………………
………………………………………………
「節子っ!」「にぃちゃん!」
清太が、節子の身体を“射出“する。
地面に寝そべり、発射台となった清太が、おもいっきりその足を蹴り出して、節子を空高く舞い上げる。
いわゆるキャプテン翼における、スカイラブハリケーンというヤツだ。節子の身体が弾丸のように飛んでいく。
「 うお゛ッ! 危ねぇッ!!! 」
そしてその身体を、見事に空中でキャッチするランサー。
ランサーの腕の中で、節子はキャッキャとはしゃいでいる。
「わーったよ! おめぇらがけっこう動けるのはわーったよ!
でも危ねぇから止めろよそれ!! 普通にサッカーしろオイ!!」
現在、節子と清太を交えたジブリのメンバー達は、みんな揃ってサッカーに夢中である。
しかしキーパー役のランサーに向かい、ボールではなく節子が飛んでくるのは一体どうなのだろう?
相手は大人だという事で、みんなもう、容赦という物がない。ルールも無用だ。
「メイてめぇ! トウモロコシ投げてくんじゃねぇ! ボール蹴れオイ!!
なんだシータその酒瓶は!! 何するつもりだテメェ!! サッカーしろ!!」
いつの間にかチーム戦ではなく、キーパーのランサーに向かってみんなで攻撃していく、というゲームになっている気がする。
でもそんな事はお構いなく、みんな笑顔で楽しそうだ。ランサーはどうかは知らないが。
ランサーが「ほげっ!」とか「ぐえっ!!」とか言う度に、節子はキャッキャと笑っている。
おっさんがテンパっている姿という物は、なんだかすごく面白かった。
「おつかれ……ランサー。
みんなと遊んでくれてありがとな」
「おぉ坊主……。俺の味方はおめぇだけだよオイ。
節子たちの事、ちゃんと言峰には黙っててやっからよ……」
優しく労われ、スポドリを貰い、ランサーは涙がちょちょ切れんばかりの心境だ。
ちなみに言峰であるが、彼は火垂るの墓のファンである。
しかしその“好き“という理由と性根的な物が大変歪んているヤツなので、節子たちの事は言峰にはナイショだ。
誰が教えてやるものか。ハゲろ。ザビエルみたいにハゲろ。
「らんさーにぃちゃん♪ らんさーにいちゃん♪」
「おぉ節子、おめぇも来てくれたかよ。
……んだな、こんなトコで、いつまでもヘバってらんねぇな。
おっし来い節子!
槍の英霊の力、アイツらに見せてやっからよ!!」
節子を肩車したランサーが、皆の所へ駆けていく。
もういっぺん勝負だテメェら! でもキーパーだけ誰か変わってくれ!!
そんな勇ましいんだかカッコ悪いんだか分からない事をいいながら、またみんなのサッカーが始まる。
「かかってこいやテメェら! こちとら俊敏性で飯食ってんだよ!!」
大人という事でのハンデなのか、ランサーはなぜか節子を肩車してサッカーをする。
ジブリのみんなも我先にとボールを追いかけていく。みんなの汗がキラキラと光る。
まるで豹のように大地を駆けるランサー。
その肩に乗り、楽しそうに節子がキャッキャとはしゃいでいた――――