あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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優しい夜。

 

 

『ポニョ! ハム! すきー♪』

 

 TVから、ジブリ映画“崖の上のポニョ“の映像が流れている。

 

『て゛き゛た゛ぁ゛ぁ゛ーーーっっ!!』ズモモモモ……!

 

 右手にワイングラスを持ち、ソファーの上で足を組んだりしながら、男は幸せな表情でポニョを見つめ続ける。心からの声援を送る。

 

『ポーニョ♪ ポーニョ♪ ポニョ♪ ラララララ~♪』

 

 やがて画面にスタッフロールが流れ始める頃……、男の胸は暖かな感情によって満たされていた。

 ピュアな愛情、幸せな結末、そして楽しさと優しさに溢れた素晴らしいテーマソング……。その全てに心を打たれ、なにやら目頭が熱くなる心地だ。

 

「…………ふ、ふふふ。 ははははっ!」

 

 あぁ、快なり。

 なんと愉快な心地なのだろうか今の私は。身体に全能感が満ち満ちていくようではないか。

 

「我はポニョっ! まんまるお腹の、女の子であるっ!」

 

 変な事を口走ってしまっているのは、もちろん自覚している。彼はまごう事無く男子であるのだから。

 しかしながら、ここは彼の自室。

 止められない。いや、止めずとも良い! 人の想いは、何人にも止められはしない自由な物なのだから!

 

「ポーニョ♪ ポーニョ♪ ポニョ♪ ラララララ~♪」(低音)

 

『 ――――ケイネスッ!!!! また貴方ジブリ映画なんか観てッ!! 』

 

 ソファーからずり落ち、変なポーズでひっくり返るケイネス。

〈ズコー!〉みたいな音が聞こえたような気がした。

 

「……や、やぁソラウ。……君は、いつから私の背後に……?」

 

「貴方が変な名乗りをし出した時からよっ!

 エルメロイでしょうが貴方は! 神童でしょうが! 何がポニョなのよ!!」

 

 なんとか床から立ち上がり、乱れてしまったオールバックの髪を直すケイネス。

 そして朗らかに微笑みかけてみるも、ソラウはもうプリプリとお冠だ。

 

「まったく、いい歳してジャパニメーションに夢中?

 恥ずかしいと思わないのかしらこの人は!? あーやだやだっ!!」

 

 心底呆れた表情をし、ドシドシと足音を立ててソラウが立ち去っていく。

 

「…………ソラウ……」

 

 彼女の後ろ姿を見送った後、しばらくの間、ケイネスは言葉もなく俯く。

 ただ一人残された部屋には、今もポニョの楽し気なテーマ曲が流れ続けていた。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「……ケイネスさま。どうか……どうかお気を落とさず」

 

「分かっているさディルムット……。さぁ、ワインを飲もう友よ」

 

 優しく肩を支え、立ち上がるのを手助けしてやるディルムット。対してケイネスは気丈に振る舞ってはいるものの、脚がもうなんかガクガクしている。

 ハートのダメージは魔術では治せないのだ。いっそ怪我だったら良かったのに。

 

 そして二人でソファーに座り直し、ワインを飲みながらのジブリ鑑賞会。

 現在観ているのはゲド戦記。ディルが目を輝かせている様子を微笑ましく見つめているケイネスだ。

 

「……なんと、なんと美しい竜なのでしょうか……。

 それにこの壮大な音楽……。心が打ち震えるようです」

 

「あぁ。この“テルーの唄“は、ジブリ屈指の名曲に相違ない。

 気に入ってもらえて私も嬉しいよ、ディルムット」

 

 真面目で実直な騎士であるディルムット。そんな彼が今、キラキラと目を輝かせて映画を観ている。心からの笑顔を見せている。

 ディルが喜ぶ事や、楽しいと思う事をしてやる。なんだかそれが趣味になっている最近のケイネスだ。

 

 思えば、彼と出会ったばかりの頃が懐かしい。そしておかしく思う。

 最初はあんなにも「いけ好かない」と毛嫌いしていたというのに、今では同じ物を見て、同じ物を楽しいと感じる事の出来る、そんな大切な友であるのだ。

 私は身勝手な男であったと、心の中で反省するケイネスだ。

 

 

 あの日、偶然部屋で“猫の恩返し“を観ていた私の元に、ディルムットがやって来てから。

 

 オドオドとし、こちらに気を使いながら、それでも必死に勇気を出して「……この映画は、どういった物なのですか?」と、私に歩み寄って来てくれた日から。

 

 あれから私は、毎日が楽しい。

 素晴らしい友を持てて、私は幸せだ―――― 

 

 

「……素晴らしい。素晴らしい映画で御座いました、ケイネスさま。

 しかし、なぜこのような素晴らしい物を、ソラウ殿は……」

 

 そう言った後、すぐに「しまった!」とばかりに口を塞ぐディル。そんな彼を見てケイネスも苦笑いだ。ディルは真面目な不器用ちゃんなのである。

 

「構わない。気にする事はないんだよディル。

 ソラウの事も、仕方の無い事だと私は思っているから」

 

「…………し、しかし、ケイネスさま……」

 

 心底申し訳なさそうな表情を見せるも、どこか納得のいかない様子のディルムット。

 こんなにも良い物なのに、我が主の好きな物なのに、なぜ分かってはもらえないのか。

 そんな風に悔しがっているのが見て取れた。

 

「私はね? ソラウの自由奔放な所や、

 思った事をそのまま言ってしまうような素直な所も……全て好きなんだ。

 私は魔術師としては高い位置にいるかもしれないが、

 実生活においては本当につまらない男なんだ。叱られる事だってあるのさ。

 それに……、いくら私がジブリを好きとはいえ、

 それを彼女に押し付けてしまうのは、いささか可哀想という物だよ」

 

 そうケイネスは笑顔を見せてくれた。

 己の不徳を快く許し、グラスにワインをついでくれた。

 そしてゲド戦記に関する裏話や、所載な設定を楽しそうに語ってくれる。

 そんなケイネスの姿を見て……、ディルはもう、なんかたまんない気持ちになっちゃうのであった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「ほぎゃーーーーーーっ!!」

 

 洗面所に、ソラウの叫び声が響く――――

 

「むぎゃーーーーーーっ!!」

 

 そして自室からも、再びソラウさんの叫び声が響いた――――

 

 

「……あ、あああぁぁ貴方! ケイネスッ! 

 ちょっとこっち来なさい貴方ッッ!!!!」

 

「……? ど、どうしたのかね、ソラウ?」

 

 階段の下から、ソラウの怒声が響く。二階の書斎にいたケイネスが、おっかなびっくり階段を降りてきた。

 

「どうしたじゃないでしょう!?

 これよ! これ! なんなのよこのジブリグッズは!!!!」

 

 ソラウが今ゆび指さしているのは、机の上に積まれた大量のグッズだ。

 洗面所にかけてあった、ナウシカのプリントタオル。

 トイレに設置してあった、ラピュタのA4タペストリー。

 玄関に置いてあった、ポルコのデザインのスリッパ。などなど……。もう家中がジブリだらけになっていた。

 挙句の果てには、ソラウの洋服タンスから下着が全て無くなっており、代わりにトトロ柄のパンティばかりが入れられていたのだ!

 

「どういうつもりよ貴方! 穿けって言うのコレを!?

 これ穿いたら『オーゥ、プリティウーメン♪』とか言って私の事褒めてくれるの!?

 よっしゃ! じゃあ今から私……ってやかましいのよバカ!!

 パンツ返してよバカ!!」

 

「……お、落ち着いておくれソラウ……! 私にはいったい、何がなんだか……」

 

 ケイネスはオロオロと釈明するも、もう火が着いて止まらない様子のソラウ。

 なにやらゴゴゴ……と、魔力的な紫煙まで立ち上っているじゃないか。

 

「貴方が穿けば良いじゃない!! 見ててやるわよ私!!

 トトロのパンツ穿いて! もののけTシャツ着て!

 ポルコのスリッパで街を練り歩いて来なさいよ貴方ッ!!

 それで『ロード・エルメロイがここに推参つかまつる』とか言えば良いじゃない!

 捕まれバカ! 魔女宅のお茶碗にカツ丼入れてもらえバカ!!」

 

「ソラウ……。ソラウ……」

 

 烈火の如く怒られている、我が主の姿。

 壁から顔を覗かせるディルムットが「アワワワ……」といった感じで、それを見つめていた。

 

 

………………………………………………

 

 

「……というワケで、俺では主をお救いする事が叶わなかった。

 それどころか、主が怒られてしまうという、この体たらく……。

 そこでひとつ、貴公らに知恵を貸して貰いたい」

 

 冬木市の児童公園。

 今ここに、第四次の聖杯戦争に参加したディルムットの戦友たちが一堂に会していた。

 どこからか拾ってきたちゃぶ台の円卓を囲む。

 

「何か我が主の心をお救いする術は、無い物だろうか?

 寂しそうに笑うお姿を見る度、俺は胸が張り裂けそうになるのだ」

 

「ふむ……。話は分かりました、ディルムットよ」

 

 ディルに買ってもらったたい焼きをモグモグしながら、力強く頷くセイバー。

 その隣には、『正に忠臣!』といった感じのランスロットがフンスフンスと控えている。

 

「あぁ~おいたわしやケイネスどのぉ~。

 好きな物を分かち合えぬばかりか、否定されるという苦しみ……。

 心中お察し致しますぅ~っ」

 

 話を聞きつけ、ジル・ド・レイもこの場に来てくれた。「ヨヨヨ……」と嘆きながらも、その眼は熱い使命感に燃えているようだ。

 

「物の良し悪しが分からぬというのも困り物よな……。

 しかし、趣味趣向はまこと、人それぞれだ。

 無理強いは出来んというケイネスの言葉も、真理ではある」

 

「ウチの坊主は最初からジブリを好いておったぞ?

 あの夫妻も、ハウルの動く城が大好きじゃったし……、

 ただ観もせぬ内から毛嫌いしておるだけではないかぁ~?」

 

「ソラウどのは魔術師の家系で、しかも箱入りのお嬢様だったと聞きます。

 もしやTVや映画といった物の類は、

 あまり観せては貰えなかったのやもしれませぬな……」

 

 ギルガメッシュ、イスカンダル、そしてアサシン衆を代表して来てくれたポニーテールさんが「ウムム……」と唸る。

 

「そもそも、“アニメ映画“という物自体を、

 嫌悪してしまっているのかもしれませんね……。

 本当は、とりあえずは何か一本だけでもジブリ映画を観て貰い、

 それで好き嫌いを判断して貰うというのが手っ取り早いのですが……」

 

「ソラウ殿は、残念ながらアニメその物を毛嫌いしているようだ……。

 無理やり観せるなどは論外。頭を下げて観てもらおうにも、

 それ自体を嫌がってしまうのでは、と……」

 

 頭を捻るセイバー&ディルムット。

 胡坐をかき、腕を組み、上を見つめながらウンウンと考える第四次サーヴァント達。ここにいる全員が、ディルとケイネスの為に必死に知恵を絞ってくれている。

 こんな時になんだが、とっても仲が良いのだった。

 

 しかしながら、例えばジブリ映画を「こんなに素晴らしい物なのだから!」と、嫌がっているのに無理やり観せる。貴方もきっと気に入るからと、良い物なんだからと無理強いをしてしまう。

 そんなのは、どっかの変な宗教とやってる事が一緒だ。

 みんなが心から好きな物であるからこそ、これは絶対にしてはならない事だと思う。

 

 ……まぁ正直、昨日のディルはそれをちょっとやっちゃったワケなのだけれど。

 彼も猛省しているので、今回だけ許してあげて欲しい。

 

「まぁ、一度頼むだけは頼んでみるとしてだな……。

 したらばその場合、どの映画を観せるのだディルムットよ?」

 

「「「「 !?!? 」」」」

 

「ワシとしてはもちろんっ!!!!

 ジブリ最高傑作と名高き“ハウルの動く城“しかないとッ!

 そう思うておるのだが!!」

 

 自信に満ち満ちた声で言い放ち、ニカッと暑苦しく笑う征服王。

 

「なっ……! ズルイですぞイスカンダル殿っ!!

 ソラウ殿も女子なれば、きっと魔女宅だって良いというのに!」

 

 誰もが一瞬絶句する中、即座に立ち直ったポニーちゃんが飛びかかっていく。俊敏性は抜群なのだ。

 そして「ズルイズルイ!」と身体をゆすられるも、もう「ガッハッハ!」と笑うばかりのイスカンダル。オケアノスまで一直線だ。 

 

「ふざけるのはおよしなさいっ!

 となりの山田くんはいったいどぉ~なるのですっ!」

 

「大概にしておけよ征服王?

 ここはジブリという趣旨からは外れるが、

 まずは宮〇監督の原点たるカリオストロの城からだな……」

 

「……ちょ……落ち着きなさい貴方たち!

 今我らは、争っている場合では……」

 

「……ブタァ……。ブゥタァァァーーーーーー■■■ッッ!!!!」

 

 そしていつものように、もうポカポカと叩き合うメンバー達。公園にモクモクとケンカ土煙が上がる。

 ――――譲れない。仲間とはいえ、決して譲れない物だってあるのだ。

 征服王の髭は引っ張られ、ジルドレが「ほげぇっ!」と叫び、ポニーちゃんはキーキー泣きわめき、ランスロットの腰が変な方向に曲がり、ギルはみんなにゲシゲシと踏まれる。

 

「落ち着きなさいと言っているのですっ!

 エクスカリバーしますよ!? 言う事をきかないと本当に怒……

 

「ん? そういえばお前は、さっき作品名をあげていなかったな。

 あれから時は経つが、一番好きなジブリ映画は決まったのかセイバー?」

 

「 !?!? 」

 

 必死こいて皆を宥めているセイバーに対し、外からのほほんとした声で問いかけるディルムット。

 なんというか彼は……、非常に空気の読めない所があった。

 

 サーヴァントたちの目がギラリと光り、一斉にセイバーを見つめる。

 “赤色“、そう攻撃色だ。 「これナウシカの映画で観たヤツだ!」とセイバーは思った。

 

「セイバー……?」

 

「セイバー……?」

 

「王……?」

 

「ジャンヌ……?」

 

「セイバーどの……?」

 

 対してセイバーは硬直し、もうダラダラと冷や汗を流していた。

 

 

………………………………………………

 

 

 エンジンに火を入れよう。キックスタート、マイハートである。

 

 以前、アイリスフィールに買って貰ったこのバイク。今ではこいつは一番の親友。私の自慢の相棒だ。

 ボディをひと撫でし、勢い良く座席にまたがる。

 そして私はヘルメットを被り、一気にアクセルを入れた。

 

『この瞬間(とき)が全て……、それで良いでしょう?』

 そんな言葉が、脳裏をよぎった気がする。

 

 いざゆかん! スピードの向こう側へ!

 私の身体は風を切って進んでいく。

 

 良いお天気に、ご機嫌な仲間たち。それにイカしたバイクもある。

 

 行こうぜベイビー。どこまでも。

 

 さぁ、ツーリングに出発だ――――

 

 

「 またんかぃセイバァァーーッ!!!! どこへ動く城ッッ!?!? 」

 

「 逃がすか痴れ者! 冗談はカリオストロの城ッッ!! 」

 

 イスカンダルのチャリオット、ギルの飛行機みたいなヤツが追走する。

 その周りにはトラックを乗っ取ったランスロット、タコみたいなのに乗るジルドレ、根性で走って追いかけて来るポニーちゃんもいる。

 

「 ブタブタブタ……!! ブタブタブタ……!!!! 」

 

「 後生ですジャンヌッ!!

  ただ一言“山田くん“と言って下さればぁぁ~~ッッ!!」

 

「 同じ乙女ではありませぬかセイバーどのっ!

  カーテンを開き! 静かな木漏れ日の!

  優しさに包まれようではありませぬか!! 」

 

 

 振り向くな私。駆け抜けろ。

 ゴーゴー!

 

 とりあえずはこのまま、士郎の顔を見に行こう。 えへへ。

 

 破壊音をまき散らしながら追って来る仲間たちを伴いながら……。

 優しい彼の笑顔を求め、フルスロットルで駆けていくセイバーであった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 ケイネス達がいつもお世話になってるようだし、私も挨拶しておいた方がいいのかな?

 その日ソラウは、そんな何気ない想いを持って、衛宮家を訪れた。

 

 この冬木の街にやって来て以来、よくケイネスが衛宮さん家を訪れているのは知っていた。

 あの家には第四次の仲間たちも頻繁に顔を出していると聞くし、きっと楽しく話でもしているんだろうと思っている。

 日本に来てから暇な事も多いし、私も仲間に入れて貰えないかしらんというそんな下心もあって、一度菓子折りを持って行ってみる事にした次第だ。

 

 オーゥ、イッツ日本家屋。立派なお屋敷ね。

 話に聞く畳や障子が見られる事を楽しみにしながら、ソラウは衛宮家のベルをピンポンと鳴らした。

 

「いらっしゃいソラウさん。

 ケイネス先生から、いつも話は聞いてるよ」

 

 中から出てきたのは、赤髪の人の良さそうな少年。彼が家主の士郎くんなのだろう。

 いつもウチのケイネスとディルさまが……なんて挨拶を交わしながら、ソラウは中へと案内されていった。

 

 

………………………………………………

 

 

 これはカルチャーショック……なのだろうか。

 とりあえず衛宮家の門をくぐったソラウは、目の前に現れた巨大な生き物に驚愕した。

 日本の家には、みんなこんな生き物が住んでいる物なの?

 

 第一印象は……、どうなのだろう?

 ただひと目、庭でのほほんと佇んでいたトトロを見たその瞬間、ソラウの脳裏に〈ピシャーン!〉と電撃が走った気がした。

 目は見開き、アワアワと口は開き、そして何故か自分の足はトトロにヨタヨタと向かって進んでいく。

 気が付けばソラウは、思いっきりトトロのお腹にしがみついていたのだった。

 

「――――ッ!! ――――ッ!!!!」

 

 言葉にならない。なんなのだこの感情は。

 ただトトロをひと目見た瞬間、自分の身体が勝手に動いていった。

 なぜか「こうせねばならない!」という使命感的な何かが、ソラウを突き動かしていたのだ!

 

「――――ヒッ!!!!」

 

 そして何気なく横を見てみれば、ソラウの眼前には巨大な山犬がのほほんと寛いでいる姿が見える。

 ソラウの身体は再びヨタヨタと進みだし、思わず〈ハシッ!〉とその身体に抱き着いていた。モフモフとしていた。

 

「あぁ……。あぁぁ~~~~っ♡」

 

 この感情は何? 教えてテルミー。

 人生史上最高の恍惚感に、ソラウは打ち震える。

 

「人間だ。知らないヤツがいる」

 

「おねえさんはだれ? きれいなおねえさん!」

 

 そこにやって来たサンとメイ。

 二人は仲良く手を繋ぎながら、キョトンとした顔でこちらを見つめている。

 

「 きっ………………きゃぁぁあああ~~~~~~~っっ♡♡♡ 」

 

 どっち!? どっちの子から抱きしめれば良いの!?!? 何で私の腕は四本ないのっ?!?!

 

 そんな馬鹿な事を考えつつ、ソラウがサン達に飛びついていった。

 

 

………………………………………………

 

 

「落ち着いたかい、ソラウ?

 みんな気にしていないようだから、大丈夫だよ」

 

 そんな風に優しく気遣ってやるケイネス。

 先ほどまで、ソラウはサンを抱きしめ、メイを抱えて走り、そしてキキやシータにキスの雨を降らせていた。

 高貴な家系の者として、いたく反省する所存である。

 

「さてみんな、そろそろ授業を始めようか。

 このソラウお姉さんは凄く賢い人だから、

 分からない所があれば、彼女にも訊くといいよ」

 

 ケイネスがそう声をかけ、ジブリのみんなが教科書やノートを開いていく。

 メイや節子は大きなスケッチブックに向かい、クレヨンで思い思いの絵を書いていく。

 

「パズーくんとシータくんは、昨日の算数の続きを。

 キキくんは今日は、物理の勉強をしていこうか」

 

 みんなが元気よく「はーい!」と手を上げる。

 それぞれが勉強に打ち込んでいる姿を、ケイネスが優しい顔で見守る。

 

「うん、よくできたねサンくん。

 ひらがなや足し算に加え、もう掛け算まで修得しつつある。

 これは驚異的なスピードなんだよ?

 君が真剣に取り組んできたという証だ」

 

「…………アシタカと、買い物にいくんだ……。

 あたしもアシタカの、役に立ちたいの……」

 

 モジモジと照れるサンを、暖かく見つめるケイネス。

 ジブリのみんなも「ケイネスせんせい!」と、心から彼を慕っているのが見て取れた。

 

 ……こんなにも柔らかく微笑むケイネスの姿を、ソラウはいままで見た事が無い。

 魔術師なんてどいつも傲慢で、自分勝手な人種だ。加えて彼はいつもヘコヘコしてて、情けない所ばかりが目立つ男。

 そうだとばかり、思っていたのに。

 

 

「よくこうやって、みんなに勉強を教えに来てくれるんだ。

 俺も分からない所とかをよく教えてもらってるけど、

 ケイネス先生に教えて貰うと、凄く分かりやすくて」

 

 メイを膝に乗せながらボ~っとしていたソラウの所に、お茶を抱えた士郎がやってくる。

 

「優しいし、凄い人だし、みんなケイネス先生の事大好きみたいだ。

 だから世話になってるのは俺達の方だよ。すごく感謝してる」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 

 

「なぁに、私はみんなと会いたさに、衛宮家に押しかけているんだ。

 彼らといると、私は笑顔になれる。

 だからこれは、心ばかりのお礼に過ぎないよ」

 

 そんな事を話しながら、ソラウと二人で帰路に着いた。

 このジブリ馬鹿めと叱られてしまうとばかり思っていたのに……、あの日ソラウは、私に何かを言う事は無かった。

 

 

 ……あれから数日ばかりの時が過ぎ、今夜はクリスマスだ。

 私たち三人も豪華な夕食を囲み、先ほどまで賑やかな時を過ごしていた。

 

 酔っぱらったソラウが無理やりディルムットに酒を飲ませていたが、流石は忠義の騎士と言った所。いくら飲もうと彼の顔色が崩れる事は無かった。

 結局パーティの最後まで、ディルは我々の世話ばかりしようと気遣ってくれていたように思う。

 こんな日くらい楽しめば良いのにと思わないでもないが……、そんな心優しい友を持つことが出来て、私は幸運だ。

 

 そして今は宴も終わり、私は自室にてひとり、ジブリ映画の鑑賞中。

 ソファーに座り、今日の暖かな気持ちを思い出しながらも、TVから流れる“もののけ姫“の映像に酔いしれる。

 友人であり、良き生徒でもあるサンくんやアシタカくんの顔を、思い浮かべながら。

 

 

「……んっ! ……ん゛っ! あーあー。

 はぁりつめたぁ~~♪ ゆぅみぃのぉ~~♪」(低音)

 

「――――ケイネス! 貴方にテノールは無理よ!! 夜中に歌わないで!!」

 

 私は再びソファーからずり落ち、変なポーズとなった。

 

「……や、やあソラウ。 それで、いつからそこに……?」

 

「貴方が曲の伴奏を口ずさみ始めた頃からよっ!

 ……またジブリ映画を観てるの? 本当に好きなのね……」

 

 私が床から起き上がり、照れ笑いなんかをしながらソファーへと戻る。

 また情けない姿を見せてしまったと、涙がちょちょ切れんばかりの心境だ。

 

「ま、どーでもいいけどっ!!

 ……それよりケイネス? これ買ってはみたんだけど、

 私やっぱり気に入らなかったから、貴方にあげるわ。

 せいぜい大切に使えば?」

 

 そう言い捨てて、ソラウはドタドタと足音を立てて去っていく。

 部屋に取り残された私は、先ほど手渡された紙袋を手に、しばらく放心していた。

 TVからは、今ももののけ姫の美しい曲が流れている。

 

 やがて正気を取り戻した私は、イソイソと紙袋を開封。そこから、何やらとても不格好なマフラーらしき物が出てきた。

 ソラウは「買ってきた」と言ったが、これには機械で編んだ物とは違う、明らかな不揃いさがある。

 そしてこのマフラーには、私のイニシャルに加えて、愛らしいトトロの絵が描かれていた。

 

 

「……………ソラウ……」

 

 

 

 

 

 ソファーに腰を埋め、深く座り込む。

 そして何気なしに窓の外を眺めながら、そっとマフラーを巻いてみる。

 

 今夜は、雪が降っている。 冬木の名にふさわしい、ホワイトクリスマスだ。

 

 

 手にはワイン。

 そして胸にある、この暖かな気持ち。

 

 こんなにも素晴らしい夜が、他にあるだろうか―――― 

 

 

 

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