あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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聖母のように。

 

 

「おや、もしやその子は“テト“ではありませんか?」

 

 休日の衛宮家。少し小腹が空いたと居間を訪れたセイバー。

 彼女が目にしたのは、ランサーの肩に乗る、愛らしいキツネリスの姿だった。

 

「おうセイバー。今ナウシカが坊主と買い物に出ててよ?

 その間、こいつの面倒みてやってんだよ」

 

 いや~参ったねどうもと、そんな風にニカッと笑うランサー。

 

「まぁ“面倒を見る“ではなく、

 私たちがナウシカにお願いした感じなのだけれどね……」

 

 キャスターもそう苦笑しつつ、テトの頭を撫でてやる。

 ナウシカの相棒としてお馴染みのテトだが、どうやら二人にもとても懐いているようだ。

 

「その通りだぞランサー。

 先ほどは『ソイツと遊ばしてくんねぇかな……?』と、

 非常に低姿勢だったじゃないか君は」

 

「……てっ、てめぇアーチャー!!」

 

 怒ったランサーをサラリと受け流し、赤い弓兵がチョイチョイっとテトを呼び寄せる。

〈テテテッ!〉と元気よくアーチャーの肩に移ったテトは、スリスリと可愛らしく頬ずり。とても機嫌が良さそうだ。

 通常“人には懐かない“と言われるキツネリスではあるが、もしかしたらテトは、本能的に優しい人が分かるのかもしれない。

 アーチャーの頭に乗り、なにやらご満悦の様子のテトを見てセイバーは思う。

 しかし……関係ないけれど痛くはないのだろうか。アーチャーの髪って、けっこうトゲトゲだと思うのだけれど。

 

「あぁ~! アーチャー殿ッ。

 どうかこのジル・ド・レイめにも、

 テト殿を愛でさせては頂けませんでしょぉ~かっ!」

 

「わ、私もお願い致しまする!

 いつもむっさい男どもに囲まれ、心が荒んでおるので御座いまする!」

 

 ズルイズルイとアーチャーへ駆け寄るジルドレ&ポニーちゃん。テトも二人の手をチロチロと舐めてやる。

 見た目こそコワモテな彼らだが、実はとても良いヤツ。テトもちゃんと分かってくれているみたいだ。

 

「わ、私も構わないだろうか……? テト殿、さぁこちらへ」

 

 おっかなビックリと、ディルムットも手を差し出してみる。

「よしきた!」とばかりに肩に飛び乗ってくれたテトに、いたく感激している様子のディルさんだ。

 

「おぉっ! 中々に好かれておるではないかディルムットよ!

 どれどれ、次はひとつこのワシが」

 

「待て征服王、次は我の番だ。

 皆こうして、順番に並んでおるのだぞ」

 

「■■……! ■■……ッ」

 

 そんな風にやいのやいのと盛り上がりながら、テトと遊ばせてもらうサーヴァント達。

 イスカンダル、ギルガメッシュ、ランスロットと、テトが順番にチロチロ指を舐めていく。

「あなたがだいすきです」という、そんな親愛が見て取れる、愛らしい仕草。

 そんな皆の様子を見て、なにやらソワソワとしてきたセイバー。

 

「……わ、私も! 私もよろしいでしょうか!?」

 

「おぉ行けセイバー! 遠慮するこたぁねぇぞ!」

 

「うふふ♪

 さすがの騎士王さまも、テトちゃんの前では形無しね♪」

 

 ランサーやキャスターに茶化されながらも、テレテレと嬉しそうに寄って行くセイバー。その様子を、みんなが微笑ましく見守る。

 普段は生真面目な彼女だが、けっこうかわいい所あるよな。そうホッコリしてしまう一同だ。

 

「テト、私はセイバーと申します。

 今後とも、どうぞよろし……」ガブゥ!!

 

 

 

 

 

 

 ――――ガジガジ。ガジガジ。

 

 手を差し出した瞬間、思いっきりセイバーの指に噛みつくテト。

 びっくりする位のノータームで噛みついた。

 ガジガジ。ガジガジ。 

 

「……………」

 

「「「………………」」」

 

 セイバーは硬直している。

 まわりのメンバー達も一様に硬直し、絶句している。

 ただただセーバーが指を齧られる音だけが響く。ガジガジ。ガジガジ。

 

「……あ、あの……テト?」ガジガジ!

 

 毛を逆立て、尻尾を〈ピーン!〉と伸ばしながらテトは噛みつく。

 その様子を、誰もが言葉を失いながら見守る。

 

「 !? 」ピコーン!

 

 ――――その時、セイバーに電撃走る。ついでに頭上に電球が光った。

 そうだ……、これは……! 映画で観たヤツだ!

 

 正直、今の状況は分からない。なぜこうなったのかなど微塵も理解できない。ぶっちゃけ泣きそうだ私は。

 しかし! ここは決して騒ぎ立てたりする事無く、聖母のような慈愛をもってテトに語りかけるべきシーンなのだ!

 

 ……私とてジブリファンの端くれ。毎日この衛宮家へと赴き、シロウと一緒に映画を観てきたのだ。

 ぶっちゃけ優しい彼の横顔に見とれてしてしまい、た~まに映画をちゃんと観れていない時もあったりするけれd……ウォッホン!!

 

 さぁ! 今こそ成果を見せる時! 恩義に報いるは今ぞッ! 

 見ていて下さいシロウ! 私はやります!

 

「だ、大丈夫ですよテト……。

 ほら……こわくない」

 

 ガジガジ。ガジガジ。

 頬を引きつらせたものっすごい硬い笑顔で語り掛けるセイバー。

 対してテトは、獲物に喰らい付いたワニのように身体を回転させようと頑張っている。

 

「……だ……だだだダイジョウブですテト。

 ほら……ほら、こわくな……」

 

 ガジガジ! びったんびったん!

 もう全身の力を使い、「ぜったいに喰いちぎってやる!!」というアグレッシブさを見せるテトさん。

 気合に満ち満ちていた。

 

「だっ……! だだだだ……! 大丈夫です私はっ!

 ……ですからテト。 ほら……こわくナッシング……」

 

 ガジガジ! おーえす! おーえす!

「ふんぎぎぎ!」と言った様子で、一生懸命がんばっているテト。

 命を燃やすのは今だ!! そんな声がこの子から聞こえてくる気がする。

 

「テトッ……! テトッッ……!!」

 

 セイバーの両眼から、一筋の綺麗な涙が零れ落ちる。

 それが痛みからなのか、悲しみからだったのかは、誰も知る由は無い。

 

「てっ…………てててテテテ……! テトッ!!」

 

 テレテテーン♪ テーン♪ テーン♪ テェ~~ン♪

 なにやらみんなの脳内に、“士郎が無限の剣製を使う時のBGM“が流れてきた。

 もちろん、いま必死に「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!」と噛みついているテトの雄姿を見て、だ。

 

(――――斬ッッ!!!!) ズゴゴゴゴゴ!!

 

 ミシンだ。

 まるでミシン針を彷彿とさせる勢いで、テトのラッシュがセイバーの指に炸裂する。

「これがボクのっ、切り札だぁぁーーッッ!!」と言わんばかりの絶技。

 ハラショーテト! ハラショー風の谷! ハラショーキツネリス!!

 その瞬間、セイバーの心がポッキリといった。

 

「……ふ……ふんぬぅぅぅああああぁぁぁああああああッッッ!!!!」

 

 天に向かい絶叫しながら、それでも手を動かしたりしない。決して振り払ったりはしない。

 最後まで身体のちいさなテトを気遣うその姿勢に、騎士王の根性を見た一同だった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「……あ~。もしかして、アレかのぅ?

 ほら例の『王は人の気持ちがわからない』という……」

 

「やめたれよオメェ。ぶっ飛ばすぞ」

 

 悪気は無いものの、結構酷い事をいうイスカンダル。

 しかしランサーやみんなも諫めてはいるものの……、ぶっちゃけ心のどこかで「……もしや」という気持ちが拭えないでいた事はナイショだ。

 ランスロットも何気に目を逸らしているし。

 

「つーかセイバーも俺らも“風の谷のナウシカ“はでぇ好きだろうがよ?

 なんでセイバーだけ噛まれてんだよオイ」

 

 それぞれに“一番“はあろうとも、この場にいる全員が風の谷のナウシカを心から愛している。

 むしろ、ナウシカが嫌いな人間がこの世にいるとは思えないという、そのぐらいのぞっこんぶりなのだ。

 

「テト殿に対して、セイバー殿は慈愛の心を見せておりました。

 嫌われるような要素があったとは……とても……」

 

「私やポニーちゃんが大丈夫な時点で、

 女性である事やサーヴァントである事は無関係なのでしょう。

 加えてセイバーは、とても高潔よ?

 どんな者であっても、彼女を嫌うのは難しいと思うのだけれど」

 

 ポニーちゃんもキャスターもウンウンと首を捻る。どう考えたって、セイバーだけが嫌われている理由が分からない。

 

「テト殿は……とても良い子だ。

 昔ならいざ知らず、理由もなくあのような事をするとは、

 俺にはとても思えん」

 

「アレか? もしかしてセイバー、

 テトの飯を間違えて食っちまったとかじゃねぇか?」

 

 新旧ランサーのコンビもウムム……と唸る。

 しかし“テトのごはん食べちゃった説“を、この場の誰も否定しなかったのは正直どうかと思う。

「あ~!」と思ったそこの君、先生怒らないから手を上げなさい。

 

「……それにしてもよ……、アイツがんばってんなオイ。

 そろそろ諦めてもよさそうなモンだが……」

 

 ランサーの言葉に釣られ、皆が一様に庭の方を向く。

 そうなのだ。現在セイバーは場所を庭へと移し、テトと対峙しているのだ。

 

「アイリスフィール! 傷の治療を!」

 

「分かったわセイバー! えーいっ!」

 

 キラキラという綺麗なエフェクトと共に、セイバーの指がキュピーンと完治する。

 そしてすぐさま、テトに指を差し出す。

 

「ぎゃーーんッ!!!!

 ……アイリスフィール! 治療を!」

 

「分かったわセイバー! えーいっ!」

 

 治しては噛まれ、治しては噛まれ。

 テトとセイバーの根性比べが、もう10分くらい続いていた。

 ちなみにアイリスフィールは、さっきセイバーが連れてきていた。

 

 テトに噛まれ、「うわーん!」と泣きながらバイクで走り去る彼女の姿は哀愁漂う物であったが、その後すぐ意気揚々とアイリスフィールを乗せてこの場へとに帰ってきたのだ! 輝くような笑顔で!

 何が彼女をそうまでさせるのかと、ちょっと思わないでもなかった。

 

「ぎゃーーんッ!!!! ……アイリスフィール!!」

 

「分かったわセイバー!」

 

「はいっ!」ガブゥ!

「よいしょー!」

 

「はいっ!」ガブゥ!

「よいしょー!」

 

 噛まれる、治す。噛まれる、治す。それをリズムよく繰り返す二人。

 その姿は、だんだん餅つきのようになっている。

 関係ないけれど、あけましておめでとうございます皆様。今年もよろしくお願い致します。

 

「踏ん張るのよセイバー! 貴方なら出来るっ!」

 だって地球はラヴでまわっているんだもの!」

 

「ら……ラヴ イ~ズ……!」ガブガブゥ!!

 

 愛とは噛まれる事なのよ! キツネリスに!

 セイバーの口調も心なしかイングリッシュになってきた。さすが英国人だと称賛を贈る一同。でもいい加減やめたらどないだ。

 

 そろそろ本気でセイバーが可哀想になってきたみんなは、テトとセイバーを引き離そうとする。

 それでもセイバーは決して諦めず、テトと向き合う事を止めないのだ。いくら噛まれようとも、テトと仲良くなる事を諦めようとしない。

 

「ここで退いては、ブリテンの騎士の名折れ!

 この子と仲良しになるまで、諦めるワケにはいかないのですっ!」

 

 なんか王様は、変なスイッチが入っちゃったらしい。

 昔はライオンの子と共に過ごしていた時期もあるという彼女。思う所もあるのだろうと思う。

 

「わーったよセイバー。

 とことんやってみろや。骨は拾ってやっから」

 

 そしてどこか微笑ましい感じでテトと格闘しているセイバーの姿を、みんなも黙って応援する事にしたのだった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

「ただいま~」

 

 やがて玄関の方から、買い物から帰ったのであろう士郎の声がした。

 庭で格闘していたテトの耳は〈ピン!〉と立ち、そしてセイバーのアホ毛も〈ピーン!〉とアンテナのように立った。

 

「あぁシロウ! おかえりなさ……」

 

 即座に玄関の方へと向き直り、彼を出迎えるべく駆け出そうとしたセイバー。

 ――――その横を、一瞬で茶色い影が追い抜いていく。

 バシュウという、音を置き去りにせんばかりの速度をもって。

 

「おぉテト、迎えに来てくれたのか。

 ……ちょ、テト! やめろって! くすぐったいよ!」

 

 何が起こったのか分からず、思わずその場に立ち尽くすセイバー。

 遠くからは、愛しの少年の嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

「あぁセイバー、ここにいたのか。

 今日はセイバーの好きな肉じゃがにするからさ。

 沢山食べてってくれな」

 

「…………えっ、……あの、シロウ?」

 

 のほほんと庭へとやってきて、朗らかに声をかける士郎。

 その肩には「は~ん♡」とばかりに士郎にラブラブしているテトの姿がある。

 先ほどまでとは明らかに違う、この激ラヴぶり。

 私の指を噛んでいたのは別のキツネリスだったのか? そんな事を考えざるを得ない豹変ぶりだ。

 

「……あの? シロウは、その……。テトとは……」

 

「ん? あぁ、仲良しだよ俺たち。

 ここに来た日から、ずっと一緒の布団で寝たりしてるぞ」

 

 スリスリと頬ずりをするテトを、士郎も嬉しそうに撫でてやる。

 今日も美味い飯作ってやるからなと、親友のように語り掛けている。

 

「テトったら、士郎くんに一目惚れしちゃったみたい。

 もう私の所より、士郎くんの傍にいる事の方が多いもの」

 

 士郎の後ろから顔を出し、「うふふ♪」と苦笑するナウシカ。

 テトとマスターの少年の姿を、とても微笑ましそうに見つめている。

 セイバーはアゴが地面に付かんばかりに「アンガー……」としているけれど。

 

「最近ね? 私が士郎くんと話していると、テトが怒るの。

 もう『ボクの士郎くんに手を出すな!』っていう感じで。

 少し焼けてしまうわ♪」

 

「そんな事ないだろ? ナウシカはテトのお母さんだもの。

 俺と一緒に居ても、やっぱナウシカの姿が無い時って、

 テトは寂しそうにしてるぞ?」

 

 テトを挟み、「うふふ♪」「あはは♪」と笑い合う二人。その姿はまるで夫婦のようだ。

 その光景を、硬直しながら見つめるセイバー。

 一瞬こちらを見たテトが、「フッ!」と鼻で笑ったような気がした。

 

「……ほ……ほぁあああああぁぁぁぁッッ!!!!

 ほわぁぁぁあああああーーーーーーーっっっ!!!!」

 

 

 

 

 ――――――夕暮れの冬木を、一台のバイクが駆け抜ける。

 音速で走るセイバーの目元から、キラキラと涙の雫が零れ落ちる。

 

 えっ、士郎にテトを取られた?

 それとも、テトに士郎を取られたの?!

 

 何をどう思えば良いのか、分からないセイバーであった。

 

 ……その後「おいっ! 肉じゃがは!?」という士郎の指揮によって、第4次、第5次のサーヴァント全員によるセイバーの捜索が行われ、無事に彼女を保護するに至る。

 公園でエグエグしていた所を、ネコバスに拾われて衛宮家へと連行されていった。

 

 ネコバスの車内。テトに指をカプカプされながら、それでも必死に士郎のお腹にしがみついて泣くセイバーさん。

 どれだけカプカプされようとも、「けして放すものか!」と意地になってしがみつく。まるで昭和の夫婦ドラマのように。

 とりあえず、士郎の肉じゃがはとっても美味しかったです。

 

 

「……あれじゃないですかね?

 もうこうなったら、我らで一緒にシロウにしがみつけば、

 全て解決するのでは?」

 

 テトに対し、ボソボソとそんな提案を持ちかけるセイバー。

 その後、なんだかんだと仲良くなる、テトとセイバーであった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 余談ではあるが、後日桜は、偶然居間で“テトに噛まれているライダー“の姿を目撃する。

 

「違うのですサクラ! 違うのです!!」

 

 必死の弁解もむなしく、ライダーは桜により、ズルズルとどこかへ引きずられていった。

 あまりの恐怖に、その場から動く事さえ出来なかったサーヴァント一同。

 なんか黒いモヤみたいなのあがってたもん、ぜったい。

 

 

 そしてナウシカの大ファンである遠坂凛は、テトに噛まれた後、しばらく部屋から出てこなかった。

 

 

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