あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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ともだち。

 

 

 朝。みんなが居間に集まって仲良くトランプをしていた時。

 突然玄関のベルが〈ピンコーン♪〉と鳴り、一人のサーヴァントの訪れを知らせた。

 

「我が名はアシタカ! 東の果てよりこの地にk……

 

「 ――――えぇい、やかましいわ! そこをどかぬかッッ!! 」

 

 出迎えたアシタカ彦をドーンと押しのけ、ドタバタとパワフルに入って来る謎のサーヴァント。

 そして居間で洗濯物を畳んでいた士郎を発見した瞬間、彼女はピョーンとその胸に飛び込んだ。

 

「――――奏者ッ、あぁ麗しの奏者よっ!!

 やっと会えたっ!! ようやく奏者と会えたぞッ!!」

 

 ポカーンとした顔の士郎に抱き着いたまま、あーあービービーと泣き出した赤いドレスの少女。

 彼女の名は“ネロ・クラウディウス“。此度の聖杯戦争にセイバーのクラスで現界した英霊。

 そして彼女は“士郎のサーヴァント“だという。

 

「ブラジル! ブラジルだぞ!!

 余がこの世界に現界してみれば、そこはコーヒー豆の原産地!

 日本の反対側だッ!」

 

 徒歩、ランニング、時には手漕ぎボートを駆使し、半年かけてここまでやって来たというネロさん。

 その肩には、旅の途中で出会った世界各国の友人たちから「がんばれ!」「ネバーギブアップ!」といった応援メッセージを書いてもらったタオルが掛けられている。

 TVでもないのにアースマラソンまがいの事をし、本当にネロさんは地球を半周して冬木にたどり着いたのだという。

 

「がんばった! 余はがんばったのだッ!!

 何度サメさんに食べられそうになったことか!

 何度イノシシさんに追い回された事か!

 どれだけの寂しい夜を、ひとりで越えてきたことか!!」

 

 グジグジ、グジグジと士郎の膝で泣くネロさん。

 みんなによしよしと頭を撫でてもらえばもらうほど、瞳に涙が溢れた。本当につらかったんだろうなと思う。

 

「しかーし! 余が来たからにはもう安心だぞッ!

 さぁ戦いを始めよう! 敵はどこにおるか?

 余と奏者の聖杯戦争は、今この時より幕を開けるのだッ!!」

 

 ――――すいません、それもうとっくに終わってます。

 

 その一言を彼女に伝えるのに、士郎たちは10分くらいの時を費やす。

 今目の前でかがやくような笑顔を見せている彼女に向かい、どうしてそんな事が言えようか。

 

「お前言えよ」「嫌よアンタ言いなさいよ」「可哀想すぎるだろ」

 

 そんな醜い押し付け合いの末にようやく真実が伝えられ、暴君は再び士郎の膝で泣いた。

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

「…………でもさ? “士郎のサーヴァント“って、いったい何どういう事よ?

 士郎にはもうジブリのみんながいるじゃないの。

 何かの間違いなんじゃない?」

 

 ようやくネロちゃんのエグエグがおさまり、凛のその一言を機にウンウンと頭を悩ませるマスター勢&サーヴァント達。

「ほんとうなのだ奏者! 信じてくれ!」というネロの必死の懇願に、みんな困惑してしまっていた。

 魔術の素人である士郎の召喚に不備があったのは(ブラジル召喚の時点で)間違いないのだろうが、それにしたって“ダブル召喚“は無いだろう。

 英霊を二組も呼ぶなんて、士郎の魔力のキャパシティ的にも無理がある。きっと干からびて死んじゃうのだ。

 ……え、バルス? まさかまたバルスのせい?

 何かあったらバルスを疑えとばかりに、皆が「じぃ~!」っとシータを見つめ、そんな結論に達しそうになった頃……。

 

「……すまない皆、少し良いだろうか?」

 

 今まで難しい顔をして沈黙を守っていたアシタカが、静かに手を上げた。

 皆が視線を向ける中、真剣な表情をし、アシタカが言い放つ。

 

 

「前から思ってはいたんだが……。

 その“サーヴァント“という物は、いったい何なんだ?」

 

 

 ――――――ピキン!

 

 その瞬間、部屋の空気が一瞬にして凍った。

 アシタカが何を言っているかわからない。そんな士郎たちの感情を示すようにして。

 

「あ、私もそれききたかったの!

 ねぇねぇ! サーヴァントってなーに?」

 

 無邪気な声で、サツキが元気に手を上げる。

 それを機に、ジブリのみんながうんうんと頷き合う。

 

「俺も知らねぇな……。何かの職業だとは思っちゃいるが……」

「うん、ボクも分からない」

「わたしも知らないわパズー」

「メイしってるよ! この世界では“変な服を来た人“のことを、

 サーヴァントっていうんでしょう?」

 

 首を捻り合うポルコ、パズー、シータに、何気に酷い事を言うメイ。

 ライダーの涙腺が〈ブシッ!〉という音を立てた。

 

「そういえばサーヴァントと呼ばれる人は、

 みんな武芸に秀でていて、妙に強い人ばかり……。

 何か特別な人達だったりするのかしら?」

 

「おい嘘だろナウシカッ!? お前までそんな!?」

 

 口元に人差し指を添え、「う~ん」と悩むナウシカ。そして大混乱する一同。

 

「……ねぇ、まさかこれも召喚の不備か?

 普通は召喚の時に、ちゃんと聖杯から知識を得るハズだろ?

 衛宮がヘッポコだったせいで、それが得られなかったって事?」

 

「というか皆さん……、

 自分がサーヴァントだっていう自覚は無かったんですか?

 なんか元の世界にいた時と違うな~って……。

 なんか力が強くなったな~とか、そういうのありませんか?」

 

 慎二と桜がそう問いかけるが、みんなプルプルと首を横に振るばかり。

「いったい何を言っているんだろう?」と、ものすごく綺麗な目をしている。

 

「私たち? 別に何も変わらないよね?」

「うん、普段通りだよボク」

「パズーの握力は元々200㎏よ?」

「チコの実も、元々そういった物だし」

 

 チコの実を始めとする宝具に関しても、「宝具って“道具“や“攻撃“の事なんでしょ? そう思ってたけど……」と首を傾げるジブリ一同。驚愕するマスター勢。

 そんな光景を見て、キキの頭に\ピコーン!/と裸電球。

「あ、そういう事かも知れない!」と、察しのよい彼女はいち早く気が付いた。

 

「 すいません! みなさんきっと勘違いなさってます!

  私たち、困ってた士郎くんを助けに来ただけなんです! 」

 

 ――――あの日、少年の心の叫びを聞き届けた彼らは、時空を超えて、ただただすっ飛んで来た。

 あの少年を救わなければならない! その一念のみを持って、世界を超えてきたのだ。

『義を見てせざるは、勇無きなり』

 そう言わんばかりの顔で、トトロが〈ニッカー!〉と笑う。

 

「え!? だって今まで、みんな俺のサーヴァントとして!

 …………ってアレ? そういやみんなって、

 “どのクラス“のサーヴァントだったっけ……?」

 

 士郎の顔色がサーッと真っ白になる。そしてそれは、凛たちも同じ。

 ――――そしてキキが、申し訳なさそ~に、みんなに言い放つ。

 

 

「だから……あの、すいません。

 私たち、“サーヴァントでも何でもありませんよ?“」

 

 

 \ ズコォォーーーーーーーーーーーッッ!!!! /ーーー☆☆☆

 

 

 士郎も、遠坂も、サーヴァント達も。

 みんな揃って、後ろにひっくり返った。

 

「そのネロさんという方が……、

 士郎くんのホントのサーヴァントなんじゃないかな……?

 ほら、私たちはただ“来た“だけで、英霊とかじゃないし……」

 

 とりあえずみんなで〈ドテーッ!〉といった後、いち早く復帰した遠坂さん家の凛ちゃん。

 即座に立ち上がりぃ~?

 胸を張ってぇ~?

 そして、大~きく息を吸い込んでぇ~! か~ら~のぉ~?

 

 

『 あたし達の聖杯戦争、いったいなんだったのよッ!!!! 』

 

 

 ……………誰が、何と、何の為に戦ったのか。この聖杯戦争。

 

 聖杯と関係ない子達がほぼ中心となり、それで全て解決しちゃったワケだけれど、これで良かったんだろうか聖杯戦争。

 そもそも“ちゃんとした戦い“自体が一回も無いし、た~まにみんなで相撲をとったりした位だ。

 ……うん、でもあれはすごく楽しかった。すんごい良い思い出。

 

 余談ではあるが、実はあれからみんな、一回も聖杯使ってなかったりもする。ずっと柳洞寺に置きっぱなしなのだ!

 

 あ、よかったらネロさん使います?

 あと30回くらい願い叶いますよ?

 

 

 

………………………………………………

 

 

「 おいみんな! とりあえず飯食ってから考えようぜ!! 」

 

 おぉそうだそうだ! 士郎が今いい事言った! ごはんごはん!

 そんな皆の賛同もあり、急いで台所に向かう士郎。

 

\うめぇなコレ!/ \こりゃイケるよ!/ \おいしいわコレ!/

 

 はぐはぐ! もぐもぐ! むしゃむしゃ!

 みんなお皿にしがみつくようにして、あるいは何かを振り切るようにして、ごはんを掻っ込んでいく。

 飯を食えばなんとかなる! ごはん食べればきっと大丈夫! そんな事を心に願いながら、ひたすらにごはんを食べていく一同。

 

 ちなみに先ほど士郎は、それはもうえらい目に合っていた。

「アンタがブラジルに召喚するから!」「ネロに謝れこの野郎!」「つかなんでジブリ呼び出せんたんだお前!!」「説明責任を果たしなさい!」

 そんな罵詈雑言を一身に受けながら、凛やサーヴァント達に袋叩きにあった士郎。どこか理不尽な気がしないでもない。

 

 ドカバキ、ゲシゲシとみんなの怒りを受け止めてから、いい感じのタイミングで「ご飯食べようぜ!」と提案する士郎。

 みんなお腹が減っていたので、とりあえずなんとかなった。腹が減ってはなんとやら、なのである。

 

「おかわり!」「おかわり!」「俺も!」「ボクも!」「あたしも!」

 

 そんな皆の姿に、士郎もニッコリしながらおかわりを渡してやる。

 

 

 

 …………正直、この半年くらいを一緒に過ごしてきて、たまに「知らない言葉が出て来るな~」とは、ジブリのみんなも思っていたらしい。

 

 “聖杯“、“サーヴァント“、“マスター“。

 あとは“令呪“なんかもそうだ。ジブリのみんなにとって、これは全然知らない言葉であったらしい。

「それって何なのかな?」と、うっすら気にはしていたらしいけれど。

(“マスター“に関しては、士郎たちの愛称だと解釈し、そう呼んでいたようだ)

 

 あの運命の夜、士郎くんも遠坂さんも一生懸命今後の戦いについて話し込んでいたし、「邪魔をしたら悪いかな~」と思って、みんなあの時、口を挟まなかった。

 聖杯戦争だのなんだのと、言っている事はよく分からなかったのだけれど、メイやパズー達はまだチビッコだし、ぶっちゃけ深夜で結構眠たかった。仕方の無い事だったのだ。

 あの夜士郎が契約したのは、ジブリのサーヴァントではなく、クロネコ魔女宅急便のメンバー会員だけであった。

 

 それに、たとえ聖杯戦争とやらがなんであったとしても、みんなのやる事は少しも変わらない。

『士郎くんを守る』

 みんなにとって大切なのは、ただそれだけだったから――――

 

 ゆえに士郎たちは、勘違いをしてしまった。

 加えてこの半年の間、たまたま発覚する機会が無かったというだけ。

 

 彼らは、とびっきりの“善意“で。

 そして“士郎への好意“で、ここへと駆けつけてくれた。

 

 ただただこれは、それだけの話であったのだ――――

 

 

 

「……………えっと、なんか良い話風に閉めようとしてるけどね?

 いっかいアンタの脳髄、ホント解剖させてくれない?

 聖杯の助力なしでアニメキャラを召喚出来る、

 そんな世界で唯一の人間よアンタ?」

 

 凛のお皿に、お肉を多めにしてシチューをよそってやる。

 それが今の士郎に出来る、とびっきりの誠意の形であった。

 

 

…………………

………………………………………………

 

 

「ところでネロはさ?

 ジブリ映画の中で、何が一番好きなんだ?」

 

「余はポニョが好きだぞ!

 あの歌を口ずさむと、なにやら元気が湧いてくるのだ!!」

 

 目をキラキラとさせながら、ポニョの好きな所を嬉しそうに語るネロ。

 そんな彼女の愛らしい姿を、みんなが微笑ましく見守る。

 

 そしてふと視線を向ければ、今も士郎の作ったご飯を美味しそうに食べてくれる、ジブリの仲間たち。

 みんなのしあわせそうな笑顔を見ながら、士郎は思う。

 

 ――――サーヴァントじゃなくても、そんなの関係ない。

 ――――だって俺たちは、こんなに仲のいい友だちになれたじゃないか。

 

 

 ………………遠坂は怖い事言ってるけど、きっとこれは特別な事なんかじゃ、ないんじゃないかな?

 

 今回はたまたま、俺だった。

 たまたま、困ってた俺の所に来てくれたんだ

 

 だってジブリの映画は、みんなが大好きなんだ。

 世界中どこにだって、ジブリが大好きな人達がいるんだ。

 

 誰だって、会える。 いつだって、会える。

 

 俺は今、そんな気がしてるんだ。

 

 

『子供の時にだけ訪れる、不思議な出会い』

 

 俺はもう子供じゃないけど……。

 そんな俺の所にだって、トトロたちはちゃんと来てくれたんだから――――

 

 

 

「よし! じゃあ奏者に余の美声を聴かせてやろうぞ!」

 皆も光栄に思うが良い!」

 

 想いにふけっていた士郎を、ネロの楽しそうな声が呼び戻す。

 遠坂たち、サーヴァントたち、そしてジブリのみんなも歓声を上げる。やんややんや。

 

「おー! いったれ赤セイバー!」

「ヒューヒュー! ネロさーん!」

 

「まかせるが良い! 皆の者!

 では一曲……。あーあー! ん゛んっ!」

 

 

 

 …………………今にして思うのだが、「やめときゃよかった」というのが正直な感想だ。

 

 『 ほ゛ え゛ ぇ゛ ぇ゛ ぇ゛ ~~~~っ!!!! 』

 

 ネロの“美声“の前に、ポルコの眼鏡は割れ、障子は吹き飛び、テレビは砕け散り、ポップコーンのように次々とお皿が割れる。

 

「いやぁぁーーーッ! パズゥゥーーッッ!!」

「目がっ……! 目がぁあああぁぁ~~っっ!!」

「…………」(白目のナウシカ)

「わああああああ!! わああああああ!!」

「嫌だっ! タタリ神なんかになりたくない! 乙事主さまぁーッ!!」

 

 最終的に、ドゴーンと崩落する衛宮家の天井。

 するとそこから何故か“ポニョが落ちてきた“。

 阿鼻叫喚の渦の中、さりげなくジブリの仲間がひとり増える。

 

「え、バルス?」「この歌はバルス的な物なの?」

 

 衛宮家の面々で緊急会議が執り行われ、即座にネロの歌について審議がなされる。

 彼女の歌は、滅びのまじないの親戚か何かなのか。

 とりあえずネロをふん捕まえて、歌えない様に羽交い絞めにしてから考える一同。

 

 

「…………ははっ」

 

 目をグルグルと回したポニョを頭に乗せながら、士郎は思う。

 

 ――――ほらな? 来てくれるだろ?

 ――――――いつだって、こうして会えるだろ?

 

 

 これからも、騒がしい日が続きそうだと。

 ポニョに金魚鉢を投影してやりがなら、士郎は思う。

 

 聖杯なんか使わなくったって、俺たちいつも幸せじゃないか。

 

 そんな、身も蓋もない物語であった。

 

 

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