あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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 今回はIFのお話。




これではちょっと聖杯戦争を勝ち残れないFate / stay night

 

 

「もしかしたらお前が七人目だったのかもな。

 だとしてもまぁ、これで終わりなんだが」

 

「ちきしょう殺されちまう!

 そんな赤い槍をこれ見よがしに俺の心臓の位置に突きつけやがって!

 きっと3秒後には、俺こと衛宮士郎の人生は終わってしまうんだろうと思う!

 これがいわゆるチェックメイトってヤツか! なんて事なんだ!」

 

 ここは士郎の実家の蔵の中。

 辺りには月明りのライト差し込み、非常にいい感じのムードを醸し出している。

 

 士郎は先ほど家にいた所を、突然この青いタイツの男の襲撃に合った。恐らく“目撃者の排除“が目的と思われる。

 

「まぁ運が無かったと諦めな。

 じゃあな坊主。今度は迷うんじゃねぇぞ」

 

「ふざけるなっ!

 まだ爺さんとの“正義の味方になる“って約束も果たせていないっていうのに!

 半人前とはいえ俺も魔術師だ! こんな簡単に殺される事は許されない!

 認められない! 死ぬワケにはいかない!

 今俺は、『誰がお前なんかに殺されてやるものか!』という気分でいるんだ!」

 

「おめぇ結構、思ってる事を口に出すタイプだな……。

 まぁ生き汚いってのは、いい事だとは思うけどよ」

 

 何が何でも生き残る決意を固め、まさに全力少年とも言うべき士郎。

 呆れながらも青い男は槍に力を籠め、今まさに少年の人生にピリオドをくれてやろうとする。

 ――――しかしその時、突然床に浮き上がった魔法陣から眩い光が放たれる。

 

 士郎は知る由も無い事だが、きっと指先の怪我から滴り落ちた血が、床に描かれていた魔法陣と何らかの反応をしてしまったものと思われるのだ!

 

「くっ! マジかよ! まさか本当に七人目かっ!!」

 

 士郎の身体を追い抜くようにして、一体の影が勢いよく飛び出す。

 その姿は、まさに“守護者“その物。

 背中で主を守るようにして、今新たに召喚されたサーヴァントが、雄々しくランサーの男と対峙した。

 

「――――だいじょうぶかいシロウくんっ!

 さぁ! ぼくの後ろにかくれているのだっ!」

 

 両手を広げ、ここは通さないとばかりに睨みつけるサーヴァント。

 だが……、悲しいかな。

 そのサーヴァントの姿は……なんだ、その……。あまりにも“ちんまかった“。

 

「……お?」

 

「えっ」

 

「さー! ぼくが相手なのだランサー!

 どこからでも、かかってくるといいのだっ! へけっ♪」

 

 そして、この上なくプリチーだった。

 

「お……おうお前、……あのよ?」

 

「なんなのだランサー? どうしたの? 怖気づいたのだ?」

 

「いや……お前って、あのよ? ……小動物だよな?」

 

 ご名答。彼は人間ではなく、小動物である。

 正確に言えば、“ハムスター“と呼ばれる愛玩動物だ。可愛い事この上ない。

 

「俺ぁてっきり……、剣を持ったヤツとか、

 弓持ったヤツとかが出てくると思ってたからよ?

 ちぃとばかり……その、ビックリしちまってよ?」

 

「剣なんてもてないのだっ! 重いのだっ!

 でもぼくは、がんばってシロウくんを守るのだっ! へけっ♪」

 

 彼の名は“ハム太郎“。

 衛宮士郎の呼びかけに答え、この冬木へと降り立った英霊である。

 ちなみにクラスは、げっ歯類。

 その気になれば、お部屋にある柱や電気コードなんかもガジガジ出来てしまう程の鋭さを持つ。やったりはしないけれど。

 

「……………………あ~、坊主?

 すまねぇが、ちぃとばかし待ってて貰っていいか?」

 

 床にへたり込んだままの士郎と、〈ふんす!〉と元気いっぱいの小動物をその場に残し、ランサーの男が外に電話を掛けに行く。

 

「……おう俺だ。……あの、今ちぃと問題が起こっちまっててよ?

 わりぃけど、連中に声掛けてもらえっか?

 ……あぁ、そうそう。集合」

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「これは……ちょっとアレかもしれませんね」

 

「だろ? いくら聖杯戦争だっつっても……、コイツとはよ?」

 

「■■■……■■……」

 

 30分後。

 今この場には、第5次聖杯戦争に参加する全てのサーヴァント達が勢ぞろいしていた。

 ライダー、ランサー、そしてバーサーカーが「ウムム……」と唸る。

 

「私も……。

 いくら魔女とか言われてたって、こんな愛らしい子と戦うのはね……」

 

「……同感、かな。

 こんな小さき者と戦う為に、弓の英霊となったワケではない」

 

「燕を斬った事はあるが……。かような子まで斬ろうなどとは……」

 

 そしてキャスター、アーチャー、今だけ門番を休ませてもらって駆けつけたアサシンも唸る。

 今みんなの眼前には、愛らしく士郎に甘えているハム太郎の姿がある。すっかり新しい飼い主にも懐いているようだ。大変微笑ましい光景。

 

「さっき軽く事情を訊いたけどよ?

 アイツ自分の事『ぼくはげっ歯類のサーヴァントなのだっ! へけっ♪』

 とか言っててよ……。これってあり得んのか?」

 

「まぁ聖杯も、なんかよく分からない部分あるしね。しょうがないわ」

 

 ――――しょうがないらしい。

 他ならぬ専門家のキャスターが言うのだから間違いない。これはしょうがない事なのだ。

 

「何故かヒマワリの種が落ちていました。

 これが触媒となったのではないですか?」

 

「大好きなのは、ヒマワリの種……か。

 つまりはそういう事なのだろうな」

 

「こやつは餌で召喚されて来よったのか。

 よほど腹を空かしておったとみえる」

 

「■■……■■■……」

 

 ヒマワリの種に反応し、そして少年の危機を救いたいというその純粋さを持って、ハム太郎はこの冬木へと召喚されて来たのだ。

 

「おー、遅れてすまぬな雑種共。

 我、ここに参上」

 

「いや~ごめんごめん!」みたいな感じで、遅れてきたギルガメッシュも仲間に加わり、ちらっとハム太郎を一瞥する。

 

「――――うむ、無しだ」

 

「だろ?」

 

 そして即断。我はこやつとは戦えぬ。

 どちらかと言うと、全力で守ってやりたい方なのだ。やめやめ。

 

「とりあえず面子も揃った事だし、一回坊主たちも交えて話しようぜ。

 このままじゃ俺達、一歩も前に進めねぇよ」

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「いや、小腹が空いたら食べようかな~と思って……、

 ポケットにヒマワリの種をさ?」

 

「おやつで英霊呼んでんじゃねぇよ! ふざけてんのかテメェ!!」

 

 所変わって、ここは衛宮家の居間。

 現在一同はテーブルを囲み、お茶なんかを飲みながら話し合いの最中だ。

 

「テメェ分かってんのか!? さっき死ぬトコだったんだろうが!

 なにハムスター召喚してんだよ!!」

 

「えっ。……でもそうなったのって、ランサーのせいじゃ……」

 

「それは今いいだろ!! 問題すり替えんな!!

 しかも窮地脱してんじゃねーよ!!

 ハムスターに命救われる人間、お前見た事あんのか!!」

 

 もう士郎からしたら理不尽極まりないのだけれど、とりあえずは黙って話を聞く。我慢の子。

 

「あのね? 坊やはまだ知らなかったかもしれないけどね?

 英霊っていうのは、過去の偉人とか凄い戦士とかの事なの。

 坊やの身の安全を守ってくれる人の事なの。“守護者“っていう位だしね?」

 

「ですです。だからその……ハムスターというのは……。

 流石に私たちも、この子とは戦いづらいのです」

 

「お前からしたら、英霊なんぞ殺戮マシーンとかに見えるかもしれんがね?

 我々とて、やはり人の子なんだ。意気揚々と召喚に応じてみれば、

 突然『ハムスターと戦え』と言われた英霊の気持ち、お前考えた事があるのか」

 

「■■■。■■――?」

 

 今度は諭すようにしてお説教される士郎。

 最後の大きな人は何を言ってるのか分からなかったけれど、何やらとても真剣に諭されているというのは分かる。

 

「ねぇ……? ぼくここに来ちゃ……いけなかったのだ?」

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

「ぼく、シロウくんを守りたくって……。

 でもこれ……、いけない事だったの?」

 

 テーブルの上で、悲しそうに一同を見つめるハム太郎。

 さっきまであんなに嬉しそうに士郎に甘えていたのに、今では目が潤んでしまっている。

 

「そんな事ないわ! そんな事ないのよハム太郎ッ!!」

 

「あぁそうだぞ! 君は立派に主を守ったじゃないか!!

 サーヴァントの鏡だッ!!」

 

「我が言ってやる! お前はよくやったッ!!

 大儀であるぞハム太郎ッ!!」

 

「てぇしたもんだぁー! おめぇはぁーッ!!」

 

 もう必死こいて小さな小動物を宥めに入るサーヴァント達。ライダーなんかは母性全開でハム太郎を抱きしめちゃっている。流石は元地母神。

 さっきとはエライ違いじゃないかと、理不尽さを感じざるをえない士郎くん。

 

「■■――? ■■■――」

 

「うん……うん……そうだよね……」

 

「■■■――。■■■■――」

 

「うん……わかるよ。オジサンの言うとおりなのだ」

 

 そしてなにやらハム太郎と意思疎通を開始するバーサーカー。

 年長者(?)としての威厳と説得力、また包容力を持って、優しくハム太郎を説得している。

 恐らく意訳をすれば「お前の気持ちは立派だ。しかしここは戦う者達の集う場所。残念だけど、お前はいてはいけないんだよ」と語っているのだろう。

 ハム太郎も残念そうにしながらも、それをちゃんと理解してくれたようだ。

 

「ハム太郎よ?

 ……残念だが、やっぱお前みてぇなイイやつが、こんなトコにいちゃいけねぇよ。

 坊主のサーヴァントの事ぁ、俺達が責任を持ってなんとかする――――

 だからそれで……納得しちゃあくれねぇか?」

 

「うん――――わかったのだランサーさん。ぼくお家に帰るのだ。

 シロウくんの事……、よろしくおねがいしますのだ」

 

 零れそうになる涙を堪えて、ハム太郎がコクリと笑顔で頷く。

 槍の英霊クーフーリンが、ハム太郎と小さく握手を交わす。これは決して破られる事の無い、男と男の約束だ。

 

 キャスターが宝具と魔術を用意し、出来るだけ痛みや負担の少ない形で契約解除をしてくれるという。

 そして士郎の新しいサーヴァントの事も、ここにいる者達が責任を持って手助けしてくれる。もう後の憂いは無い。

 

「ハム太郎! せっかく友達になれたって言うのに!

 俺っ……俺さ!? …………なんでッ!!」

 

「ごめんねシロウくん。ぼく、バイバイしなきゃなのだ。

 でも、シロウくんをおうえんしてる。

 シロウくんがんばれって、いつもおうえんしてるのだ」

 

 士郎の手のひらに乗り、最後のお別れを交わす。

 少年の涙がポロポロと零れていく。それをハム太郎は優しい笑顔で見つめる。

 

「少しの間だったけど、ここに来られてよかった。

 いっかいだけでも、シロウくんを守れたのだ」

 

「あぁ……! あぁ……! お前のおかげだ! お前のおかげで生きてるッ!」

 

「げんきでいてね。

 約束だよシロウくん。――――へけっ♪」

 

 第五次の皆の見守る中、最後にとびっきりの笑顔を残して、ハム太郎が帰っていった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 2日後。

 今第五次のサーヴァント達が再び衛宮家に集結し、そして蔵にて召喚の準備をおこなっていた。

 

「いいか坊主? 満たせ――――満たせ――――満たせ――――

 ほら言ってみな?」

 

「触媒もかなり集まりましたね。

 サクラやシンジにも協力してもらった甲斐がありました」

 

「私が集めてきた触媒だって、ちょっとした物よ?

 英雄王も快く協力してくれたし、これで坊やのサーヴァント召喚も問題なし♪

 むしろ選び放題って感じよ」

 

「安心しろ、凛にはこの事は伝えていない。

 彼女がもしこの場にいたら、どんなうっかりが発動する事やら……」

 

 士郎のサポートをしてやりながら、どこか和気あいあいといった雰囲気のサーヴァント達。

 今は一時、後の戦いの事を忘れ、あの子との約束を果たす事を思う。

 小首をかしげて「へけっ♪」笑う、あの子の姿が瞼に浮かんでくるようだった。

 

(ありがとな、ハム太郎――――

 無事でいられたのも、みんなに協力してもらえたのも、全部お前のおかげだ。

 俺もこれから、しっかり頑張ってくから)

 

 ハム太郎を想いながら、真剣な表情で召喚の詠唱をおこなっていく士郎。

 もしまた出会う事が出来たら、その時はしっかりお礼を言うよ。だからまだ会おうな。

 ……そんな事を考えつつも、やがて士郎の詠唱は終わりに近づいていく

 

「……おや? おい雑種、この大きな袋はいったいなんだ?

 なにやら香ばしいような、不思議な香りがするが」

 

「天秤の守り手よ!! …………って、ああそれドッグフードだよ。

 最近ちょっと面倒みてる子犬がいてさ? その子のエサにって……」

 

 ――――――その時、蔵の中は眩い光に包まれる。

 とてつもない爆風と閃光に視界を塞がれた後、ようやく目を開いた一同が見た物。

 それは……一匹の秋田犬であった。

 

「…………」

「…………」

「…………おい、コイツって」

 

 唖然とする一同を余所に、「わふん?」と愛らしく小首を傾げている秋田犬。

 なにやら納得いったとばかりに〈ポンッ!〉と手を叩いた士郎が、嬉しそうにその犬に駆け寄る。

 

「あっ! この子“銀“だよ!!

 ほらあの、“銀牙 流れ星 銀“の! 凄い犬なんだよこの子!」 

 

『 テメェふざけてんじゃねぇぞぉぉーーーーーーーッッ!!!! 』

 

 響き渡るランサーの怒声を余所に、嬉しそうに士郎にじゃれる銀(秋田犬)

 彼は熊狩りを行う猟犬であり、愛らしい見た目とは裏腹、とっても凄い“男“なのだ。

 でもそんなこたぁー、今どうでもいい。

 

「えっ、私たちの持ってきた触媒は……ドッグフードに負けたのですか?」

 

「沢山持ってきたのよ?! 張飛だって関羽だって呼び放題なのよ?!」

 

「ごめん、多分蔵に置いてあった銀牙のコミックス(全18巻)も、

 関係してたんじゃないかな? ……ほら、“合わせ技一本“って感じで」

 

「何でお前はそんな物を……!

 ……いや私だって、昔読んでいた憶えはあるが……。

 というか、なぜ人間を呼ばん!! やる気あるのか貴様ッッ!!」

 

「確か“熊犬“でしたか……?

 あの……一応この子も戦える子……ではありますが……」

 

 そうなのだ。銀は必殺宝具“絶・天狼抜刀牙“という大技を持っているのだ!

 赤兜の首だってチョッキンなのだ! 確実にハムスターからステップアップしているのだ!

 

「スマン……、犬は俺が駄目だ。勘弁してくれ」

 

「あぁ……。貴方犬と戦ったり出来ないものね……。

 じゃあどうしようかしら?

 触媒ならいっぱいあるんだし……、もうガンガンいっとく?」

 

 ――――天秤の守り手よ!

 ――――――天秤の守り手よ!!

 ――――――――天秤の守り手よッッ!!!! 

 

 その後士郎は、まるで乱取りのように連続して召喚の儀を行い、パトラッシュという名のワンコとか、ハッチという名のミツバチとか、ちゃれんじ島に住むというトラの男の子などを呼び出した。

 

「惜しいッ! 惜しいですシロウ!!

 だんだん人型に近くなってきました!!」

 

「いい加減、人間呼べよテメェ!! お前の魔術回路どうなってんだよ!!」

 

 

 まぁ別の世界線ではトトロとか呼んじゃう子だったりするし。(聖杯関係なく)

 

 そして士郎のサーヴァント召喚は、この後も夜通しおこなわれていったのだった。

 

 

 


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