あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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ブレイカー・ゴルゴーン

 

 

「こんばんわ、おにいちゃ……って、あーーっ! 小トトロだぁーーーーー!!」

 

 

 

 言峰教会からの帰路の途中、士郎達は冬の少女イリヤスフィールと出会った。

 

「ずっるーーーーい! なんでおにいちゃんトトロ召喚してるのーー!

 わたしもおっきいトトロ、召喚したかったのにぃーーーー!!」

 

 イリヤの背後に立っていたバーサーカーの肩が「ズゥゥゥン…」と少し下がったような気がする。

 

「アハト爺様がね? トトロはダメだって言うの。

 召喚するなら猫の恩返しのバロンにしなさいって。

 そんなの自分の趣味じゃない! 失礼しちゃう!!」

 

「えーっと……イリヤでいいのかな? イリヤはとなりのトロロが好きなのか?」

 

 士郎はいきなり目の前に現れ、地団駄を踏みプンプンと怒りだした白い髪の少女に戸惑いながらも、とりあえずコンタクトを試みる。士郎はFateの誇る、コミュ力の化身である。

 凛はとりあえず静観を決め込み、いつも士郎の傍にいる小トトロと中トトロ以外のメンバーは今は霊体化中だ。

 

「うーん、トトロも大好きだけど、わたしはやっぱり¨崖の上のポニョ¨かな~♪

 あの映画はほんとうに最高だったわ!」

 

 哀れ桜。念願のトトロ2票目とはいかなかったようだ。

 この戦いに終止符を打つのは一体誰なのだろう?士郎はそんなしょうもない事を考える。

 

「あのポニョが嵐に乗って宗介の車を追っかけてくるシーンは、

 初めて見た時は恐怖で泣きそうになってしまったわ!

 ポニョこそが日本の誇る、ジャパニーズパニックホラーの傑作ね!!」

 

 イリヤは何故だか、ポニョをパニックホラーだと認識していた。

 

「きっと宗介に小汚いバケツに入れられて、

 散々あちこち連れ回された恨みを晴らしに来たんだわ!

 あのバケツの水だって、ただの水道水だった!

 とても海の生き物が住める環境じゃないもの!

 あんな事されたら誰だって復讐しに行くに決まってるわ!

 士郎、わたしポニョが大好きなの!」

 

 映画に関する独自の解釈を披露し、ポニョの素晴らしさをひたすらに語るイリヤ。

 士郎は子供の夢を壊さないよう、ただただウンウンと優しく頷いてやる。夢などあるのかどうかは知らないが。

 

 しかし、もし仮にポニョが士郎の元へと召喚されていたとしたら、

 やっぱりあの「て゛き゛た゛ぁ゛ーー!」と叫びながらポニョが手足をズモモモモと生やし出すあの恐怖のシーンが宝具で再現されたりしたんだろうか。士郎はあのシーンを初めて観た時、小さく「ひっ…!」と声を出した記憶がある。

 ちびっこ達はあのシーンを観ていったい何を思ったんだろうな? 士郎は考える。

 

「でもどうしようかしら? 小トトロを召喚出来る士郎が悪い人なワケが無いもの。

 あの¨海がきこえる¨ばっかりひたすらわたしに観せ続けてた、

 切嗣だけが悪いのかもしれない。

 わたしはトトロやポニョが観たいって、いつも言ってたのにっ!!」

 

 事情はわからないけれど、爺さんアンタ何してんのさ。

 トトロ観せたれやと士郎は思う。海がきこえるはまだ少し早いだろうに。

 

「とりあえずはわたしも、体面上はマスターとして戦わないといけないし……。

 それじゃあ武器とかは無しにして、バーサーカーとトトロでお相撲でもする?

 投げるかドヒョウの外に出した方が勝ちなのよ!」

 

「なんか斬新なアイディアだけど……、イリヤが良いなら俺は構わないぞ?」

 

 士郎の肩に乗った小トトロも「ウンウン」と頷いている。

 中トトロがテテテテと可愛らしく走りながら、がんばって地面に綺麗な土俵の円を書いていく。

 

 

「それじゃあ悪いけど、頼めるかサツキ?」

 

「わかったよ士郎くん。メイはもう寝ちゃったから、私一人でやるね。

 ――――夢だけどぉーー! 夢じゃなかったぁーー!」 

 

 サツキがこの場に現界し、天を仰ぐようにして大きく¨万歳!¨の姿勢をとりながら大きな声で宝具¨トトロ¨を呼び寄せる。

 今の時間はさすがにおねむだったのか、なにやら目をパシパシしながらポケ~っとした感じのトトロがその場へと現れる。

 

「ウ゛オ゛ォ゛ォ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 

「■■■■ーー■■■■■■ーーーーッッ!!」

 

 

 ドッシィィィィィーーーーーーーーーーンッッ!!!

 

 

 イリヤの「はっけよ~い、……のこった!」の声と共に両者は激しくぶつかり合い、一進一退の白熱した攻防が繰り広げられる。

 そしてサツキとイリヤの『の~こったぁ~! の~こったぁ~!』という声に合わせて、なにやら中トトロと小トトロ達も、可愛らしくユラユラとその場で踊っている。

 

「………………うん。今まで黙って見てたけど、なにこれ」

 

 遠坂凛は目の前の現状をまったくと言ってよい程に理解出来なかったが、とりあえずは自分も楽しんでおこうと思い、「のこったのこった」の声に加わってみる事にした。

 士郎はただただ目を輝かせて、目の前の白熱した相撲を見守っている。

 

 

「■■■■ーーーーーッッ!!!!」(そぉぉぉぉい!)

 

「ウ゛ォ゛ォ゛ア゛ア゛~~~~ッッ!!」

 

 

 

 どっしーーーーーーん!!

 

 

 \ オオーーー!! /

 

 

 

 勝負の結果は、技に優れたバーサーカーの勝ち。

 決まり手は、小手投げである。

 

 先ほどの屈辱をトトロに返したかの如く、狂化中なのに清々しい顔をするバーサーカーだった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 場所は変わって、ここは間桐の屋敷。

 現在間桐邸の一室では、ライダーが桜と慎二に挟まれ、ジブリ映画の鑑賞会をしていた。

 

「……さ、桜や? ワシの¨平成狸合戦ぽんぽこ¨のビデオは、どこへいったんかのう……」

 

「お爺様? もう随分前にVHSのビデオデッキが壊れたからって言って、

 処分したでしょう?

 今はDVDとブルーレイのぽんぽこがあるんですから、それを観て下さい」

 

「で、デーブイデーの使い方は、わからんのじゃ…」

 

「もう。それじゃあ今観てるこれが終わったら一緒にぽんぽこ観てあげますから、

 一緒に座って観ててください」

 

「すまんのう桜。すまんのう」

 

 

 こうして臓硯のおじいちゃんも一緒に座り、鑑賞会の輪に入る。

 ワイワイと間桐家の面々に囲まれながらも、ライダーは目の前の画面に首ったけだ。

 

(……ナウシカ。ああナウシカ。

 なんと健康的で活発で、慈愛に溢れた乙女なのでしょうか)

 

(そしてあのメーヴェという、素晴らしい乗り物。

 私もあれに乗り、優雅に空を飛んでみたいです)

 

 「あははは♪ あははは♪」と笑いながらメーヴェに乗って空を飛ぶ自分の姿を想像し、ライダーは「ほぅ…♪」と吐息をはき、頬を染める。

 そして優雅に空を舞う自身の隣には、同じくメーヴェに乗り笑顔で飛ぶナウシカと、箒に乗って飛ぶキキの姿。

 

 「……桜。この聖杯戦争、必ず勝利しましょう」

 

 「え? それは勝てるなら勝ちたい所だけど……。どうしたのライダー?」

 

 ナウシカやキキと共に空を飛ぶ自分。その周りにはドーラ一家のタイガーモス号やフラップター。

 上空には赤く輝くポルコの飛空艇が優雅に空を舞い、地上では山犬の背にのったアシタカやサン、そしてトトロの肩に乗ったサツキとメイが笑顔でこちらに手を振っている。

 

 そんなホーリーなイメージを頭に思い浮かべ、ライダーはこの戦いの必勝を我が主に誓う。

 我々は勝たねばならないのです桜。 必ず聖杯をこの手に。

 

「とりあえず何本か観てきたけどさ?

 ライダーは今観てきたヤツの中で、どれが一番好きだった?」

 

 ポテチをバリバリ食べながら、慎二がライダーに問いかける。

 

「そうですね慎二。

 全て面白かったですが、やはり私は今観ていた¨風の谷のナウシカ¨が一番……

 

 

「 何言ってんだよライダー!! 信じらんねぇ!!!! 」

 

「 そうよライダー!!

  いくらナウシカが素晴らしいからって、一番じゃないでしょう?! 」

 

 

…………………………

 

 

 眼帯の下で、目が点になるライダー。

 慎二と桜は、己がサーヴァントのライダーを責め立てる。

 

「そりゃあナウシカは面白いよ!! すんごいよ! とんでもないよ!

 でもお前っ、そこはもののけ姫って言えよ!!」

 

「ライダーはトトロをちゃんと観てなかったの?!

 トトロよライダー? トトロなのよ?!」

 

「お前エボシ御前みたいな落ち着いた雰囲気しといて、何がナウシカだよ!!

 シシ神様の怒りに触れたらどうする! 冬木が滅んでもいいのかお前!!」

 

「トトロにふんづけられちゃうよライダー? ぺちゃんこだよ?

 あぁよりにもよってナウシカが好きだなんて……。

 姉さんに2票目が入っちゃったじゃない!!」

 

 立ち上がり、ライダーに詰め寄る間桐兄妹。

「そーだよ! 初の二票目じゃないか!」と頭を抱える。

 慎二は大きく手を広げながら必死にライダーを説得し、桜はライダーの手をギュッと握りキスするような距離で顔を突き合わせる。

 

「なんでだよお前! お前は間桐のサーヴァントだろうが!

 なんで遠坂家に付いてんだよお前!!」

 

「そんなに遠坂さん家が良いなら、遠坂さん家の子になればいいじゃない!!

 よそはよそ! うちはうち! だったらもうごはん作ってあけないよライダー?

 わかるよね? ライダーは良い子でしょう?」

 

「ら、ライダーや……? ぽんぽこを……ワシと一緒にぽんぽこを観よう……」

 

 

 

 ――――なぜ私は、ここまで言われなければならないのだろうか。

 

 ブレイカーゴルゴーンの奥に滲む涙をこらえつつ、ナウシカのサムズアップする姿を思い浮かべるライダーだった。

 

 

………………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

「あの雲の峰の向こうに、見たことのない島が浮いてるんだ……」

 

 

 

 朝日が眩しい教会からの帰り道。

 イリヤとメアド交換をして別れた後、パズーとシータが肩を抱き合いながら空を見上げていた。

 

「航空技術がどんどん発達してきてるから、いつか誰かに見つかっちゃう。

 だからムスカみたいな連中に、ラピュタを渡しちゃいけないんだ」

 

「パズー……」

 

「見たいんだ。シータの生まれた谷や、ヤク達を」

 

 

 なにやら凄くいい雰囲気で東の空を見上げる二人。

 しかし何気なく“西“の空を眺めていた士郎は、冬木の上空に見た事もない城が〈プッカ~!〉と浮かんでいるのを発見する。

 

 

「 !!!??? 」

 

 

「僕のカバンから紐を出して、それで僕たちを縛って」

 

「はい!」

 

 金魚のようにパクパクと口を開き、アワアワと空を指さす士郎。

 それに気が付かず、二人でいい雰囲気のパズーとシータ。

 

「………………お、おいパズー。シータ」

 

「僕は海賊にはならないよ。ドーラ達だってきっとわかってくれるさ」

 

「パズー……」

 

 冬木の空に普通に〈プッカ~!〉と浮かんでいるラピュタ。

 驚愕しながら空を指さす士郎。

 そして、イチャイチャする二人。

 

「パンが二つに、リンゴが二つ、あと目玉焼きに」

 

「まぁ! パズーのカバンって、まるで魔法のカバンみたいね♪」

 

 

「 おいお前ら! 空だっ! 空だってっ!! 」

 

 

「なんだい士郎さん?」「どうかしたのかしら?」と士郎の方を向く二人。

 その頃にはラピュタは、フワフワと雲の中へと入り、見えなくなってしまっていた。

 

「ラピュタいたんだよ今!! 空にっ! いまっ! ………ラピュタがっ!!!!」

 

「バカだなぁ士郎さん。そんなワケないじゃないか♪」

 

「そうだわ士郎さん♪ おかしな士郎さんね♪」ウフフッ

 

 

 

「あっはっは」と朗らかに笑うパズーとシータ。口をアングリと開ける士郎。

 ファザーが残した熱い想い。マザーがくれた、あのまなざし。

 

 

 そして今日も地球は回る。 聖杯戦争を戦う、ぼくらをのせて。

 

 


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