あなたトトロって言うのね / stay night 作:hasegawa
「とりあえず聖杯戦争するなら、衛宮や遠坂のトコ行って相談しなきゃな」
「そうですよね兄さん」
間桐兄妹は、至極当然とばかりに衛宮家へと向かう。
さっき士郎のケータイに連絡を入れ、「4人で集まって相談しようぜ」とすでに伝えてある。
桜と慎二でちょっとしたクッキーなどを作り、それを手土産として慎二達は夕方「ちーっす」と衛宮家を訪れた。
『我が名はアシタカ!! 東の果てよりこの地に来たっ!!
其方達は、間桐の屋敷に住むという、士郎の友かッ!!』
\ ババーン! /
玄関開けたら、2秒でアシタカ。
慎二達一行を、仁王立ちのアシタカが出迎える。
最近お客さんの出迎えは、全てアシタカ彦の役目となっている。
ちなみに止めても聞かない。いつのまにか真っ先に玄関にいるのだ。
しかしセールスの類はこれで全部逃げる。なにげに大助かりの士郎だ。
たとえ士郎が蔵や剣道場にこもっている時でも、『我が名はアシタカ!』と大きな声が聞こえてきたらば「あぁ、誰か来たんだな」とイソイソと玄関に向かう最近の士郎である。
ポカンと口を開ける桜。眼帯の奥の目を見開くライダー。
そして例の如く「アシタカ! 人間に話しても無駄だ!」とドタドタと廊下を駆けてくるサンを見て、歓喜で膝から崩れ落ちる慎二だった。
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メイやサツキと一緒にトトロのお腹にしがみつく桜。ヤックルの首にギューっと抱き着く慎二。
衛宮家の居間は今、大変カオスな事になっていた。
最初士郎の肩に乗っている小トトロを見た桜は、即座に「キィエェェーイ!」となにやら変な声を出して士郎に飛びついた。
その後はニワトリを追っかける人みたいに中腰で小トトロを追っかけ、一人と一匹で士郎の周りをグルグルと回る。
ようやく小トトロを抱っこさせてもらった桜は、見た事が無い程のとても良い笑顔で泣きながら
「夢だけど、夢じゃなかった!!」と叫ぶ。
トトロと出会ったらそれを言う決まりでもあるのだろうか。士郎は考える。
慎二はアシタカの姿を見て思う存分感涙にむせび泣いた後、アシタカのオレンジ色の頭巾をじっくりと見せてもらい「おい衛宮、これを複製するんだ。言い値で買おう」となにやらキリッとした顔で士郎にお願いした。目はまだウサギみたいに赤かったけれども。
そして二人がMAXテンションからある程度落ち着いた後、ようやく皆で今後の話をする運びとなった。
「とりあえず私達が共闘するのは当然として、臓硯さんは大丈夫なの?
一応お爺さんにもちゃんと意見は聞いた?」
凛がバリバリと煎餅をかじりながら、慎二と桜に問う。
「ああ、賛成はしてくれてるよ。ただ最近うちの爺さんボケてきてるからなぁ……。
令呪とか召喚の事を聞く時は、なんとかちゃんと答えてはくれたんだけどさ」
「ぽんぽこ観る時と、ごはん食べてる時は元気なんですけどね。
それ以外の時はもう、『慎二達の好きなようにするんじゃ』って感じです。
私達が元気であれば、もうそれだけで良いみたいで」
「ん~。じゃああんまり意見聞いたり頼りにしたりっていうのは難しいか…。
まぁ最近は臓硯さんも腰が痛いみたいだし、ゆっくり養生してもらいましょう」
凛は「ぐぬぬ…」と唸りながらもまぁ仕方ないと納得する。これからは私達若者が頑張る時代だ。
「とりあえず僕は情報収集したり献血したりで、桜とお前達のサポートだな。
間桐の書斎にも聖杯戦争の資料なんかが結構あったし、
また引き続き読み解いていくさ。
……あぁ、嘘か本当かはわからないけど、第4次の聖杯戦争って、
セイバー陣営の三角関係のもつれで聖杯が爆散したそうだぜ?
言峰教会の神父がまとめた資料にそう書いてあったよ」
そういって慎二はヤックルのブラッシング作業に戻る。
人間嫌いのサンが意外と親切に作業の仕方を慎二にレクチャーしている。アシタカもニッコリだ。
ちなみにライダーは今、ナウシカやポルコと嬉しそうに談笑。ポルコの飛行技術についての講義をナウシカとライダーが興味深そうに聞いている。
実は治癒宝具だというナウシカの¨チコの実¨を二人で食べさせてもらったが、一つ食べた途端
「んぃぃ~~!!」と面白い声を出して悶えるライダー。長い髪が微妙にザワザワしている。
「……味はともかく、長靴いっぱい食いてぇな」とはポルコの談。お腹が空いてくる時間帯だった。
パズーとシータ、そしてキキは今、衛宮家の庭でお洗濯の手伝いをしている。
楽しそうに仲良く洗濯物を取り込んでいくシータとパズーだったが、自分たちの背後の空にさりげなくラピュタが〈プッカ~!〉と浮いている事に、何故だか気付かない。
「あれラピュタじゃないシータさん?」「バカだなぁキキさん」「うふふ。おかしな事いうのね」
天空の城は今日も、二人にとって遥か彼方にあった。
「今後の方針としては、キャスターとランサーへの対処ね。
ランサーは一度トトロ達がぶっ飛ばしちゃったらしいけど、
イリヤが『まだ生きてたよ』ってメールで言ってたし……。
まぁとりあえず、お寺にいるらしいキャスターからなんとかしていきましょうか」
話し合いの末、とりあえずの暫定的な方針を凛が口にした所に、お風呂を掃除しに行っていたハズの士郎が血相を変えて居間に駆け込んできた。
「……たっ、大変だ遠坂! ポルコぉ!!」
「ん? 士郎?」
「どうした坊主。風呂は綺麗になったのか」
「¨マダムジーナ¨がいる!! マダムジーナが、ウチの風呂に入ってるんだ!!」
驚愕の表情を浮かべる凛。咥えていた煎餅をポロッと落とすポルコ。
「掃除しようって風呂の扉を開けたら、
バスタブに入って優雅に足を組んでるマダムジーナが
『いらっしゃい、坊や♪』って! 色っぽく! ……俺にっ!!」
ポルコと遠坂は、即座に衛宮家の風呂へと急行した。
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そして時刻は夕飯時となり、慎二達とライダーも含めた衛宮家の面々で食事を取る。
\ うめぇよこれ / \ こりゃうめぇな! / \ やっぱ美味しいわこれ / \ ひゃー! /
もはや名物となりつつある衛宮家のジブリ食いの光景。おかわりをしてやる士郎もニッコリだ。
例によって桜や慎二までもが「はぐはぐ! もぐもぐ!」と結構な勢いで料理を平らげていく。
やはり今この家には何か特殊な結界でも張られているのだろうか。ジブリ飯結界か。
キレイどころであるライダーがリスのように頬を膨らませながらモグモグとごはんを掻っ込んでいる所を微笑ましく見つめながら、士郎はライダーに、少し気になっていた事を聞いてみる。
「ところでさ、ライダー?」
「はい、何でしょうか士郎?」モグモグ
「ライダーは、ジブリ作品では何が一番好きなのさ?」
―――――――――ピキッ!!
……その時、ごはんを掻っ込んでいた全員の手が止まり、部屋の空気が凍った。
「ライダーは綺麗でお淑やかだから、やっぱ雰囲気のある映画が好きだったりするのか?
そうなるとやっぱ紅の豚とか、女の子なら魔女の宅急便とか……」
なにやら部屋の空気が〈ゴゴゴゴ…!〉と重くなっていくのを感じる。アニメみたいな黒紫の煙が衛宮家の面々の身体から立ち上っているのをライダーは幻視する。
またどこからかお箸が〈ボキィ!〉と折れる音や、スプーンが〈グニャー!〉と曲がる音がする。
ああ士郎、新しき私の友人よ。どうかその口を、閉じてはもらえないでしょうか。
「…………で、どうなのかしらライダー? 奥ゆかしい貴方だったら、
もちろん風の谷の魅力をわかってもらえると思うのだけれど?」
遠坂がすんごい笑顔で額に青筋を立てながらライダーに尋ねる。何故が左腕が赤く光っている。
「私も聞きたいですライダーさん。
今ならクロネコ魔女メンバーズカードも即時発行しますよ?
ジジのキーホルダーも付いてくるんです♪」
キキも素敵な笑顔で笑っているのだが、なにやら髪の毛が〈フゥワ~!〉と逆立ってきている。
彼女の周りだけ今、空気が渦巻いているような気がする。これ映画で観ました私。
「貴方だって井戸の水を飲むでしょう? それを一体、誰が綺麗にしていると思ってるの?」
ナウシカはライダーにそう訴えたが、現代では下水処理場の従業員の方々が頑張って生活排水を綺麗にして下さっています。王蟲ではない。
サンは〈グルルル……!〉と唸り声をあげ、への字口をしたアシタカの右腕からは蛇のような呪いの具現がウネウネとしてきている。
まるで何かを堪えるかような表情のメイにギュッと無言でお腹にしがみつかれ、滝のように冷や汗を流すライダー。
慎二と桜は「プイッ!」っとそっぽを向いている。それでもマスターか。
「…………………………」
ライダーは音も無くスッと立ち上がる。
そして万人を魅了するような女神の笑みをニコッと浮かべた後……、庭へと飛び込み、ペガサスに乗って逃走した。
『追えっ! 逃がすなぁーーっ!!』
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冬木の夜空では今、天高く疾走するペガサスとメーヴェ、そして箒に乗った魔女と赤い飛空艇が夢の共演をしている。
地上ではそれを追走する山犬二頭、そして他の面子を乗せたネコバスが爆走する。
なにげに少し願いが叶っているライダー。思っていたのとはだいぶ違うだろうが。
「リーテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール……」ボソッ
『――――見せてあげよう、ラピュタの雷を!!』
\ ピシャーーーーーーーーーン!!/ ――☆☆☆
「 いやぁーーーーーッッ!!!! 」バリバリバリ~!
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シータが誰にも聞こえない位の音量で何かをボソッと呟いた後…。
冬木の夜空に、謎の雷鳴が木霊した。
ライダーはイカロスのように〈ひゅ~!〉っと地上へと落ちていく。それを眺める衛宮家の面々。
「土に根を生やし、風と共に生きよう…。 土から離れては生きられないのよ!」
シータは言う。ゴンドアの谷の歌にあるものと。
「なんでさ……。なんでライダーが、こんな酷い目に……」
悲しい程に、士郎きっかけであった。