あなたトトロって言うのね / stay night 作:hasegawa
私は侍である。名はまだ無い。
正確には生前は¨名もなき剣士¨だった男で、今回キャスターという女から「君、佐々木小次郎に似てるね」と言われ、「ちょっとアサシンやってみてくんない?」と頼まれた事により、この聖杯戦争とやらに参加する運びとなった者である。
ちなみに¨侍¨というのは実はちょっと盛っていて、実際の所は剣が得意なだけの、ただの百姓だった事はあの女には内緒だ。
いつも私の秘剣燕返しを見て「スゴイスゴイ!」と目を輝かせ大はしゃぎするあの女を見て、ちょっと申し訳無い気持ちになってしまっている最近の私だ。
「あぁ、聖杯戦争とはどんな物であろうか。胸がワクワクするなぁ」
とにもかくにも私は、これから始まる聖杯戦争という物に大いに夢を膨らませている。
生前は叶わなかった強敵との立ち合い、それを楽しみにしてここ冬木へとやって来たのだから。
私は山門の階段でひとり三角座りをしながら、この冬木の星空を眺め、これから始まるであろう戦いへと想いを馳せる。
あぁ、いったいどんな相手との立ち合いが出来るのだろうか。
私実は百姓だったりするんですけど、怒られたりしないだろうか?
刀で三つの斬撃が同時に出せる私だけれど、クワを握れば、実は五つくらいいける。
さすがにクワを手にした私が「ぬぅえーい!」と戦ってしまうと、聖杯戦争ではなくただの百姓一揆になってしまうのでやったりはしないけれど。
でも刀って、ほんと使いにくいと思う。誰が考えたんだろう刀なんて。農業を舐めているのか。
でもとりあえず愛刀物干し竿を鞘から抜き放ち、刃を〈キュピーン!〉と月明りにかざしてみる。
……うむ、でもこれ悪くない。これ凄くカッコいいかもしれない。
この山門では特にやる事も無いのだし、いつでもキュピーンといけるよう、もう鞘から出していつもここに置いておこうか。怒られるだろうか。
私も男の子だし、カッコいい物を見ると胸がワクワクしてテンションの上がるお年頃。
これからは寂しくなったり故郷が恋しくなってきた時には、この愛刀物干し竿をキュピーンとやって耐えていこうではないか。
ひとりぼっちを恐れずに、生きようと夢に見ていた。
この寂しさを押し込めて、強い自分を守っていこうと思う。
「やぁやぁ我こそは! 天下に名を轟かせし剣豪、佐々木小次郎! いざ尋常に勝負!」
「あははは♪ うふふふ♪」と夜の山門で一人チャンバラごっこに興じる私。今私は最高に充実している。ここに来て本当によかった。
「ぬぬっ! お主やりおるな! これはかなりの使い手とみたぞ! ぬえぇーい!」
カキーンカキーンと自分で口で言いながら、私は柳洞寺の山門に舞う。
ここからは、相手の猛攻にあい不覚にも刀を落としてしまった私がクワを手にした事により一気にパワーアップ。そして大逆転をするシーンだ。
「ふはは! 刀を弾き飛ばした事がお主の敗因であったな! ぬえぃーい! ずばーん!
ぐぅあ~! や~ら~れ~たぁ~~!」ガックゥー!
……楽しい。いま人生史上、最高に楽しい。私今ちょーカッコいい。
私いま輝いてる。月明りでキラキラしてるハズ。きっと。
「アサシン、ここで何をしている?」
「おお、宗一郎殿ではないか! いやなに、ここで一人、剣の鍛錬をな?」
山門にてフルテンションで光り輝いていた私の元に、葛木宗一郎殿が現れる。
彼は我がマスターの夫であり、無口ではあるがいつも良くしてくれる、優しい男だ。
「ふむ、剣の鍛錬か。いいだろう、私も付き合う事としよう」
「おおなんと宗一郎殿!
ではお主にはこの刀を握ってもらって、私がクワを握ろうではないか。
抑圧に耐えかねた農民の役を私がやるゆえ、お主には地主の役を頼もうぞ」
「承知した。ではいこう、アサシン」
\ ハーッ! / \ ヌゥエーイ! / \ トォアー! / \ オ、オサムライサマー! /
……楽しい。今私、超たのしい。早くも人生史上一番を更新したぞ。私は。
ここ冬木に来てから楽しい事ばっかりじゃないか。素晴らしい果報者じゃないか。私は。
「あはは! 楽しいのう! 楽しいのう宗一郎殿!」
「うむっ!」
この後、我らが山門でなにやらやっているのを見つけたキャスターが、我らの為にとオニギリとお味噌汁を持ってきてくれた。
モグモグと山門にてオニギリを頬張る私。この冬木に来て、本当に良かったと思う。
「やぁやぁ我こそは天下の剣豪、佐々木小次郎!」ウフフ! アハハ!
明日からも門番がんばるぞ、私は。
この冬木の月に、そう誓うのであった。
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「今夜ここに士郎君っていう坊やが来ると思うから、そのまま通してあげて頂戴ね♪
うふふ、あの坊やったら全然対魔力が無いみたいなのよ♪
オイデオイデしてあげたわ!」
オッホッホと笑いながらキャスターは言う。この女狐め、また悪い事を考えておるな。
「キャスターの、お主も悪よのぅ」
「いえいえ、お代官様には敵いませんわ♪」
二人でガッハッハと笑う声が夜の山門に響く。しかしまさか私がお代官様となる日が来ようとは。これは農民からの大出世ではないか。
あぁ、快なり! 聖杯戦争万歳。
「もし士郎君以外の者が一緒に来ちゃったら、どんどん追っ払っちゃっていいからね。
構う事はないわ。秘剣燕返しでやっつけちゃって頂戴!」
前から思っていたのだが、この女は燕返しが好き過ぎる。もっとやってもっとやってと、一日に何度やらされた事か。でも正直悪い気はしない。私も燕返しが大好きっ!
とりあえずキャスターからもらったオニギリでもモグモグしながら、士郎君という坊主が来るのをのんびり待とうではないか。
私はオニギリ2、味噌汁1の割合で食事を進めていく。たまにたくあんを食べる事も忘れない。この食卓の中でたくわんは、なんというか、とても爽やかな存在だ。
やがてズズズズ……と食後の緑茶をすすりながら「オワ~…」と満足気な声をあげていた私は、なにやらよくわからない軍団がゾロゾロとこちらに向かい階段を上ってくる所を見つける。
おっ仕事かとばかりに私は刀を手に取ろうとし、間違えてクワを手にしてしまい「てへっ♪」っとばかりに自分の頭をコツンとやってから、私はその集団へと向き直った。
――――千客万来、大いに結構。ここからが私の聖杯戦争とやらの幕開けだ。
やぁやぁ我こそはと声でもあげようかと思ったのだが、なにやら目の前の集団の様子が少しおかしい事に気が付き、私は眉をひそめてしまう。
……なんだあれは。熊か? からくりか?
面妖な姿をした者達がこちらへゾロゾロと近づいてくるのを、私はただ、呆然と見つめる。
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「あなたアサシンって言うのね!」
山門に立ち尽くしているアサシン。そんな彼にメイが声をかける。元気いっぱいな声で。
「やぁ! 僕パズー。こっちはシータ。
僕らここのキャスターさんって人に呼ばれて、来てみたんだ!」
フランクにアサシンの手を取りブンブンと上下に振るパズー。隣でニッコリと微笑むシータ。
傍には山犬の背にのるサンとアシタカがおり、少し上を見上げてみればナウシカのメーヴェや、箒に乗ったキキが飛んでいる。
ポルコ達、凛達もゾロゾロと階段を進み、その集団の中心にはトトロの肩に乗る士郎の姿がある。
そしてなにより、その集団の後ろをノシノシと付いて来る者達を見て、アサシンは硬直した。
¨王蟲¨
¨巨神兵¨
¨ラピュタロボットの大群¨
¨デイダラボッチのシシ神
そんな暴虐の化身ような面々が、列になってゾロゾロと士郎達の後をついて来ていた。
「 !!!!???? 」
「それにしてもキャスターさん、いったい僕らに何の用なんだろうね?」
「さぁ? 私にはわからないわ」
のほほんと話すシータとパズー。目を見開き、金魚のようにパクパクと口を開くアサシン。
良く見れば、空には例の如くラピュタまで〈プッカ~〉と浮いている。
「とりあえず会って話してみるしかないよね。それじゃあお邪魔しますアサシンさん!」
「おじゃましまーす!」
サツキとメイが手を繋いでルンルンと階段を上がっていく。私は元気とばかりに。
士郎達の集団もアサシンを通り過ぎ、スタスタと柳洞寺へと向かっていく。
そしてその後から「なんかここ狭くないですか?」とばかりに王蟲、巨神兵、ラピュタロボ、デイダラボッチが窮屈そうにゾロゾロノシノシと続いていく。
とてつもない轟音をまき散らしながら。
「あんまり壊したら、後で私達が怒られちゃうんだからね!
そ~れピッピ! ピッピ!」
笛を吹き、オーライオーライと王蟲達を先導する遠坂凛。「おっしゃおっしゃ」と列になって進む、素直でお利口なジブリモンスター達。
アサシンはその場に立ち尽くし、その背中を呆然と見送る。物干し竿とクワが手から滑り落ち〈カラーン!〉という音を立てた。
「………………」
わ、我こそは天下の剣豪、さ、ささささ……。
アサシンは腹話術の人形みたいに「アンガー…」と口を開けている。
しばらくすると柳洞寺の方向から、あの女狐の物であろう「ぎゃーー!!」という声が響いてきた。
「ここではあなたのお国より、人生がもうちょっと複雑なの」
そう言い残したマダムジーナが、アサシンを通り過ぎ、スタスタと階段を登っていった。