あなたトトロって言うのね / stay night   作:hasegawa

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ぼくらの聖杯戦争。

 

 

「私はぁ! 宗一郎様と幸せにぃ! な゛ り゛ た゛ い゛ っ゛ !!」

 

 

 キャスターは泣いた。近年稀に見る程の勢いで泣いた。

 

「聖杯戦争の問題は! サーヴァントだけじゃなくぅ!

 冬木市みんなの問題じゃないですか゛ぁ゛!!

 あ゛な゛た゛には分からないでしょうね゛ぇ゛っ!!」

 

 以前テレビで観た野々村なんちゃらさんみたいな勢いで泣くキャスター。

「うわーん!」と泣き続けるキャスターさんの謝罪会見は、もう何を言いたいのか支離滅裂で良く分からなくなっている。

 

 そんなキャス村さんの姿を今、士郎達は輪になって見守っている。

 別にみんな怒ってなどいないし、お呼ばれしたからと夜の散歩がてらに此処にやってきただけなのだけれど。

 何故こんな事になっているのか、まったくわからない士郎達だった。どうしよう?

 

 ちなみにキャスターが士郎君をこのお寺までオイデオイデした行為については、『適切ではないが違法では無い』との見解が示された。なんか色々混ざっている気がするな。士郎はそう思う。

 

「えっと、キャスターさ?

 俺達別に怒ってなんかいないし、何もしたりしないからさ?」

 

「おーいおいおい!」と泣き続けるキャスター。いい子いい子と慰めるナウシカ。

 そんなの嘘よとえぐえぐと泣くキャスターに対し、「あら、私が嘘ついた事あった?」とナウシカが問う。

 するとキャスターは「………なぁい」と言って、何故かそれで完全に泣き止んだ。

 ウチのナウシカさんの母性はもう天井知らずだ。宝具か何かなのか。

 

「でも良いよな、聖杯で願いを叶えて葛木先生と結婚するって。俺すごく良いと思うんだ」

 

 士郎はそう皆へと意見を伝える。

 桜、キキ、サツキなどの女の子達は「は~ん♡」とばかりに頬に手を添えてウットリ。士郎の肩に乗る小トトロもウンウンと頷いている。

 

「俺、キャスターに協力してやりたいんだ。

 受肉して、ずっと葛木先生と一緒にいられるように」

 

「衛宮もたまには良い事言うじゃん。

 葛木先生には皆世話になってるんだ。僕は構わないぜ」

 

「わたしも! わたしもですせんぱい!!」

 

 慎二が士郎の意見に賛同し、桜は両手を上げ、ピョンピョンと飛び跳ねる。

 

「私もそれで構わないわ。

 どの道イリヤが言うには『この聖杯、なんか胡散臭いの』って事だし、

 このまま続けたって、今までの聖杯戦争の二の舞になるのは目に見えてる」

 

 凛も腕を組み、ウムウムと頷く。

 

「それに聖杯の機能回復や、イリヤの体調改善には、

 専門家のキャスターの協力が必ず必要になってくるもの。

 みんなで聖杯直して、みんなでハッピーよ!!」

 

 遠坂凛が拳を突き上げ、雄々しくそう宣言する。そして全員が「オー!!」と雄たけびを上げてそれに賛同する。

 キャスターは口をアングリと開け、その有り得ない光景に、ただただ絶句していた。

 

「……あ、あの、貴方達? 本当にそれで構わないのかしら?

 私としてはもちろん、有難いお話なのだけれど……」

 

「ん? なんで駄目なのさ?

 キャスターが仲間になってくれるなら心強いじゃないか。

 それで仲間の為に俺達が頑張るのは、当然の事だろ」

 

「おかしな事いうなぁキャスターさん」

「うふふ、面白い事いうのね♪」

「あははは!」

 

 士郎はキョトンとした顔。まるで「何を当たり前の事を」と言わんばかりの顔だ。

 パズーシータがクスクスとキャスターに微笑みかければ、その場にいる全員が「その通りだ」と士郎の言葉に頷いている。

 その後ろではトトロがピカーンと目を開き、太陽のような笑みで「ニッコー!」と笑う。

 ――――僕達に任せておいてくれ。まるでそう言っているかのように。

 

 

 その光景を見てキャスターは、昨晩に自身が鑑賞した数々のジブリ作品の事を思い出す。

 

 ここにいる全員が、友達や大切な人達の為に命を賭ける事に、微塵の躊躇も見せない。

 心の底から、そんな人物ばかりなのだという事を――――

 

 

「…………………」

 

 思わず俯き、そして愕然とするキャスター。士郎達が朗らかに笑う声があたりに響く。

 

 

(こ、これは私がしっかりしなくては……。

 私がなんとか、皆を守らなければ……!)

 

 

 友愛と母性がごっちゃになったような感情の中、キャスターは一人、そう決意を固めた。

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

「シロウ達がそうしたいなら、わたしもそれが良いわ。でもどうしようかしら?

 アハト爺様への体面上は、やっぱ少しは戦っておかないと怒られちゃうし」

 

「ヤッハロー♪」と電話で呼び出したイリヤが、トトロのお腹にしがみつきながら言う。

 私も私もと、ライダー、キャスター、凛達も一緒にしがみついている。トトロもニッコリだ。

 

「まぁアハト爺様の言う事なんか、気にする事ないけどね。

 なによお爺様ったら! 自分ばっかり家でジブリ映画観て!

 少しは手伝いなさいよ! あんたが聖杯欲しいって言ったんじゃない!

 でもとりあえず後でみんなも『たたかいましたぁー。たたかってますぅ~』

 って教会とかにちゃんと言えるように、ちょっとは戦っておいた方がいいかも。

 ……って事で、バーサーカー!!」

 

〈シュゥゥゥ~…〉と光の中から、マゲを結いマワシを締めたバーサーカーがお相撲さんよろしくの¨雲竜型¨のポーズでこの場に登場する。

 スパーンとお腹のマワシを叩き、美しくファッサーと塩を投げるバーサーカー。横綱の風格が漂う。

 というか、いつの間にそんな恰好の準備を。

 

 小トトロが弓を持ってバーサカ山の傍に控えれば、中トトロがテテテテと可愛らしく走り、地面に土俵の円を描いていく。

 

 

「これからサーヴァント全員で、バーサーカーとお相撲よ!

 一番強かった人がこの¨聖杯戦争場所¨の優勝者ね! ごっちゃんです!」

 

 

 イリヤはいつの間にか行司さんのような恰好になり、皆にそう宣言。ヒューヒューと歓声を上げる一同。キャスターは絶句しているけれど。

 

「ほほう、いいでしょう」

 

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 腕まくりの仕草をして土俵に向かうライダーとアーチャー。この人達もすっかり皆の色に染まって来ていた。

 

「思い知らせてやってアーチャー!」

 

「ライダー! ふぁいとよー!」

 

 そんなマスターの声援にサムズアップで答えるサーヴァント達。ニヒルな笑顔が大変にクールだ。

 そして土俵に上がったアーチャーは〈ドチャッ!〉っとバーサーカーに投げ捨てられ、ライダーは〈ぽーい!〉とぶん投げられる。

 

「■■■■…。■■■…」(ニホンゴ 覚エルヨリ 先ニ、スモウ 覚エタ)

 

 雄々しい雲竜型で勝利のポーズを決めるバーサーカー。最後に何を言っていたのかは皆にはよくわからなかった。モンゴル力士的な言葉だろうかと推察される。

 

 桜と凛はサーヴァント達を心配……ではなく大きく口を開けて笑っている。両サーヴァントの見事なやられっぷりに大きな歓声が上がる。まさに瞬殺であった。

 

「ふざけないで頂戴この野蛮人! 見ていて下さいませっ、宗一郎様っ!」

 

「うむっ!」

 

「ムキー!」とばかりにやけくそになったキャスターが土俵に上がる。「きえぇーい!」と声をあげて勇ましく突進して行ったが、バーサーカーに横へスッと躱され、〈ベチャッ!〉と顔から地面に倒れこんでしまう。

 

「■■■■…。■■■…」(自身のマスターについてですか? (ほまれ)であります)

 

 雲竜型のポーズを決めるバーサーカー。今のはきっと脳内でインタビューに答えている感じのセリフなんだろう。士郎は思った。

 

「我がマスターが倒れたとあらば黙ってはおけん! いざ尋常に勝負!」

「なんかよくわかんねぇけど、俺も混ぜやがれテメェら!!」

 

 山門からこちらに来たアサシン、そしてどこからかやってきたランサーも土俵へなだれ込む。

 バーサーカーの張り手を顔面に喰らい、「ほげっ!」という声を上げて土俵から吹き飛んでいった。

 

「■■■■…。■■■…」(何故大相撲の歴史で横綱が72人しかいないのか、見せてあげますよ)

 

 バーサーカーの勝利の雲竜型を見る度に笑いが込み上げてくる一同。なんなんだあの綺麗な雲竜型は。いつの間に練習していたんだ。

 綺麗に結ったマゲもさることながら、バーサーカーの無駄に綺麗なお尻も皆に大好評だ。

 バーサーカーが雲竜型をする度にケツがキュッと閉まる。一同大喜びである。

 

「なんだよあの尻エクボは! どんだけキュッとしてんだよ!」

 

「さすがは当時の男性美の極致と言われたバーサーカーだわ。ほら見ておきなさいアンタ達。

 拝んでおきなさい。拝んでおきなさい」

 

 凛がサツキやメイ達を捕まえ、一緒に合掌をして「ナムナム…」とバーサーカーのケツを拝む。ろくでもない事を子供に教えないで欲しいと士郎は思う。

 

「きゃー」とばかりに手で顔を覆い、それでも指の隙間からしっかりガン見している桜達女子勢。

 小トトロと中トトロが皆の歓声に合わせてユラユラと可愛らしく踊ってる。大盛り上がりの聖杯戦争場所。

 

 たった今、なにやら飛び入り参加したらしい金色の鎧をきたお金持ちそうな人が「ぬあー!」という声と共に空へとぶん投げられていく。

 いったい誰だったんだろうあの人は。誰も気にしなかった。

 

 そしてマダムジーナがどこからか颯爽と現れ、日傘片手に意気揚々と土俵へと突進して行く所を全力でポルコに制止され、これはもう今場所の優勝はバーサカ山で決まったかと誰もが思った、その時………。

 

 

「こうなったら総力戦よ!! メイ! サツキ! キキ! パズー! シータ!

 やっておしまいなさい!!」

 

 

 凛の指揮に従い、ちびっこ達が「わああああ!」とバーサーカーに突進していく。

 足やら腕やらお腹やらに抱き着き「えーい!」とばかりに身体を揺らすちびっこ達。

 

 やがてバーサーカーの大きな大きな身体は〈ズゥウウ~ン!〉という音を立て、ゆっくりと土俵へと倒れていく。

 ちびっこ達、大金星だ。

 

「よっしゃあ! やったぜメイちゃん達!」

 

「たいしたモンだわアンタ達!!」

 

 土俵の上、横並びになって「むーん!」と勝利の雲竜型を決めるメイ達ちびっこ勢。

 士郎たちが歓声をあげて土俵に駆け寄る中……土俵には満足気に大の字で倒れるバーサーカーの姿があった。

 

 

「ありがとうバーサーカー。

 やっぱりバーサーカーは、世界で一番強い――――」

 

 

 イリヤがそう呟き、バーサーカーにぎゅっと抱き着いた。

 

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

 その後は横綱バーサカ山を真ん中にし、みんなで集合写真を撮った。

 

 

「せーのっ……夢だけどぉ!」

 

「「「夢じゃなかったーー!!」」」

 

 

\ パシャリ! /

 

 

 桜もイリヤも遠坂も、そしてジブリのみんなも全員で「むーん!」と¨雲竜型¨。

 真剣な表情でポーズを取るナウシカやキキの姿がとてもシュールだ。

 そしてその中心でバーサカ山が、とても穏やかな顔で笑っている。

 

 

 うん、これはなかなか味わいのある一枚が撮れたぞ。そう一人満足する士郎だった。

 

 


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