あなたトトロって言うのね / stay night 作:hasegawa
第3次聖杯戦争。そこでアインツベルンは¨決して呼んではならないサーヴァント¨を召喚してしまったのだと、イリヤスフィールは語る。
そのサーヴァントを呼んでしまった事こそが、冬木の聖杯の、汚染の原因であると。
「あのサーヴァントは、決して呼んではならない存在だったの。
見る事も、触る事も。……いえ、私達の世界に存在する事すら、あってはならない存在だったの」
だから、消えた。誰と戦う事も無く――――
そのサーヴァントは、召喚されたその瞬間に、消滅した。
召喚を行ったマスターにすら、その姿をハッキリとは見せないままで。
まるで、「自分はここに来てはいけない」と。
僕はこの物語に登場してはいけないのだと、そう言わんばかりに。
そうやって自ら消え去る事を選んだ、そんな悲しいサーヴァントなのだと言う。
「でも消滅したそのサーヴァントは、¨力¨として聖杯の中に取り込まれた。
そして聖杯の中身を、自らの性質で汚染してしまった」
そのサーヴァントの特性は、¨消滅¨。
あるいは¨破滅¨なのだとイリヤは語る。
自分以外の他者が存在する事を許さない――――
そして¨自らを利用する存在を破滅させる¨――――
そんな概念を持つ、凶悪なまでの力を持った、邪悪な存在だったのだと。
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………………………………………………
現在士郎とその仲間達は、この世界に降臨した聖杯と対峙している。
冬木の聖杯は過去4回の戦いで取り込み、そしてついに使われる事がなかった大量の¨力¨により、オーバーフローを起こす寸前だった。
ゆえに第5次サーヴァントの一騎の脱落の必要すらなく、器の許容量の限界により爆発する寸前の姿で、この世界へと降臨していたのだ。
「士郎……動いちゃ駄目よ? 決してアレを直視してはいけない」
凛が冷や汗をかきながら、士郎に警告する。
士郎はただ呆然とその場に立ち尽くし、いま目の前にそびえ立つ巨大な黒い影を、見据えている。
「あの聖杯の……アレの名前を、決して呼んではいけない」
他のマスター達も、第5次のサーヴァント達も、ジブリのメンバー達も。
誰一人として、今この場で不用意に動く事は出来ない。
「なんて事……。まさかあんなモノが本当に聖杯に取り込まれていたなんて……。
終わりよ、何もかも。この世界が消滅してしまう」
目の前の巨大な影。皆そのおぞましい姿をただ見つめる事しか出来ない。
触れる事も、戦う事も、関わる事すら。
だってアレは、
この世界に具現化した聖杯。
その巨大な姿は影のように黒く、未だその全貌はハッキリとはうかがえない。
しかしその形は、少なくとも別の世界線で見るような塔のような物ではなく、なにやら円形の物を三つ繋げたような形をしていた。
その巨大な漆黒の影を見ているだけで、士郎の身体は震え、ガチガチと歯が音を立てる。
「いい? みんな絶対に、アイツの名前を口にしては駄目!!」
消滅と、破滅。
そして“自らを利用する者を許さない“という、そんな強大な概念――――
まるで、フライパンの上で3つ繋げたホットケーキのような……。
どこか動物のマスコットのようにも見える、巨大な漆黒の影。
それが今……聴く者全てを震撼させる様な、おぞましい笑い声を挙げている。
『――――ハハッ!』
黒く巨大な、まるで“ネズミ“を模したマスコットのような形の、聖杯。
それが今、とても嬉しそうに、狂気の笑みを浮かべた。
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「良いかぁお前らぁーッ!!
絶対に……、絶対にアイツの名前を口に出すんじゃねぇぞッ!!」
滝のように汗を流すランサーが、この場にいる全員に警告する。
「言ったら終わりだッ!! 全部ッ! この世界ごと消滅させられちまうぞッッ!!」
ランサー、アーチャー、バーサーカー。
この一騎当千の強者達でさえ、あの存在の前では、あまりにも無力ッ!!
「なんという事を……してくれたのですか」
すでに気を失ってしまった桜を抱きしめたまま、震える声でライダーが呟く。
関係ない話だが、2017年M-1グランプリ2017で3位を獲ったお笑い芸人の名を『ミキ』
そして第二次世界大戦当時最大の大きさを誇ったドイツの超重量戦車の名を『マウス』という。
お笑い芸人の『ミキ』、『マウス』という戦車。
これは士郎達の世界とはまったく関係の無い話である――――他意は無いのだ。
そして今、士郎達の目の前では、アヒルや犬や鼠といった沢山の動物のマスコット達が、軽快な音楽と共に行進をしている。
聖杯の周りをグルグルと周るそれは、まるでパレードのよう。
大量の電飾で彩られたマスコット達の愉快なパレードが、眼前で行われていた。
『―――ハハッ!』
黒く巨大な聖杯が、心底愉快そうに笑う。
しかしその笑い声は、聴く者にとっては狂気の声にしか聞こえない。
士郎は恐怖する。
生まれてこのかた、こんなにも¨怖い¨と思った事は無い。
沢山の動物たちのパレードを見ているのに。誰かの笑い声を聴いているのに。
それは士郎の心に、深い深い絶望しか与えない光景だった。
―――怖い。怖いよみんな。
―――俺、怖くてたまらないんだよ。
地に跪き、ボロボロと涙を流した。
身体はガタガタと震え、その口からは嗚咽の声が漏れた。
まさかこの世界に、あんなにもドス黒く、邪悪な意志があるなんて。
嫌だ、死ぬのは嫌だ。この世界から¨削除¨されてしまうなんて嫌だ!!
賠償なんて求められても知らない! ウチには育ちざかりの大飯食らいが沢山いるんだ!!
著作権なんて、俺は知らないんだッ!!
聖杯の¨悪意¨、自分以外の全てを許さぬという、ドス黒い¨悪意¨。
その黒い波動に当てられ、士郎少年の心は、溶けてしまった――――
蹲り、涙を流す少年。
もう二度と立ち上がる事は無い。少年の笑顔が戻る事は、もう二度と無い。
誰もが、そう思ったかに見えた。
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………………………………………………
ランラン ランララ ランランラー♪
ラン ランラララー♪
ナウシカが舞っている。
王蟲達が織りなす¨金色の野¨に降り立ち、風の谷の姫がクルクルと舞う。
見る者全てを魅了する笑顔。そして、この上ない慈しみの心で。
「あの聖杯の中身とやらを余所に引っ張ってく。手伝うか?」
「はいポルコさん。お届け先は¨座¨ですね? クロネコ魔女宅急便が承りました♪」
エンジンを回し、赤い飛空艇に乗り込むポルコ。
そして笑顔で宅配依頼を受領するキキ。その肩には黒猫ジジがいる。
「……な、何してんだよみんな!
駄目だ! あんなモノに関わっちゃいけない! やめてくれよみんなッ!!」
「人の手で還したい!!」
聖杯に立ち向かおうとするジブリの面々を止めようと絶叫する士郎。涙で顔をグシャグシャにした少年の肩に、アシタカが優しく手を置く。
「まだ終わってはいない。私達が生きているのだから――――
サン、力を貸しておくれ」
サンが力強く頷き、赤い仮面を被り戦いに備え、アシタカと共に山犬の背に乗り込む。
その後ろ姿を、士郎は跪いたまま、ただ呆然と見つめる。
戦うって言うのか、アレと……。
あんな暴虐の化身のようなヤツと、お前達¨ジブリ¨が……。
「――――士郎さん。よく聴いて」
地面に手を着き、絶望の顔で泣き続ける少年。その耳元に、パズーが静かな声で語り掛ける。
「¨あの言葉¨を教える。僕らと一緒に言って、士郎さん」
パズー、そしてシータが、未だ泣き続ける親愛なる少年の手に自分達の手を重ねる。その手の中には、シータの飛行石のペンダント。
ネコバスがサツキとメイの傍に駆けつけ、「乗りな!」と言うようにニッコー!と微笑む。頭の上にある行先表示のパネルがカシャカシャと周り、そこに¨聖杯¨という文字が表示された。
「行こう! あの黒いサーヴァントさんの所へ!」
「いこう!!」
¨夢だけど、夢じゃなかった!!¨
「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ーーーーーッ゛ッ゛ッ゛!!!」
宝具トトロが現界し、その口を大きく開けて、力強く雄たけびをあげる。
その声を合図とするように、今ジブリのサーヴァント達が、一斉に黒い聖杯へと突撃した。
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先陣は、ナウシカの率いる王蟲達だった。
巨大な王蟲達が群れをなし、聖杯が従える黒いマスコット達のパレードを蹂躙する。
「――――薙ぎ払えっっ!!」
ズゥガァアアアアアアアアァァァーーーーーーン!!!
クシャナの指揮で破壊光線を発射する巨神兵。黒い意志に飲まれてしまったマスコット達が天高く吹き飛ばされ、次々に消滅していく。
「!? 舵を引けぇーー! ぶつかるぞぉーーっ!」
メーヴェで飛ぶナウシカが、ポルコの赤い飛空艇に対し叫ぶように警告する。しかしポルコは黒い聖杯に機銃掃射を喰らわせつつ、その巨大な影の攻撃にぶつかる事無くアクロバットのように機体を翻し、その傍に張り付き続ける。
「捻り込みだ! あの技で豚はアドリア海のエースになったんだ!!」
士郎の隣で空賊達が叫ぶ。風呂にもロクに入らないが屈強で勇敢な空の男達が、ポルコの操縦技術と男気に声援を送る。
「構えっ…………撃てぇ!!」
エボシ御前に率いられた石火矢衆が、次々と犬だのアヒルだのの黒いマスコット達を撃破していく。タタラ場の勇敢な女達も黒いマスコット達を相手に一歩も退かずに戦い続ける。
「いざとなったら、溶けた鉄をぶっかけてやるさぁー!」
張りのある大きな声でおトキさんがそう叫ぶ。牛飼い達も入り乱れての大乱闘だ。
そこへ突撃してきたトンボの操る自転車を改造した飛行機が、前面に付いた大きなプロペラで黒いマスコット達を蹴散らしていく。「魔女子さーん!」と空にいるキキに大きく手を振るトンボ。それにキキがとびっきりの笑顔で答えた。
そして今デイダラボッチが黒いマスコット達の群れを蹂躙し、黒き聖杯までの道を開いた。
「我が一族の誇り、黒き者共に思い知らせてやる。さぁ皆、シシ神の元へ行こーーう!!」
一斉に突撃していく乙事主と猪達。その群れの先頭ではサンが槍を高く振り上げ、勇ましく声を上げて群れを鼓舞していく。
その隣にはヤックルの背に乗り戦場を駆けるアシタカ。アシタカが放つ必殺の矢が、的確に仲間達の危機を次々と救っていく。
そしてジブリのメンバー達の進撃を援護する第5次のサーヴァントとマスター達。
槍で、刀で、斧剣で。そして魔術と天高く舞うペガサスで眼前の敵を一気に殲滅していく。
金色の男が掃射する数々の宝具が、今は親友となった士郎とパズー達を黒い外敵から完全に守り抜く。
「最後のチャンスだ! すり抜けながらかっ攫え! ……勝利ってヤツをね!」
「うん! ありがとうドーラさん!」
タイガーモス号と子供達を率いたドーラが、地を駆けるネコバスの中のサツキとメイに言い放つ。
彼女達を聖杯の元へ送り届けるべく、即座にその援護の陣形をとるドーラ一家。
二人の少女の腕の中には、黄色い¨トウモロコシ¨。
あの日、病気で入院する母が元気になるようにと、想いを込めてトトロ達と共に届けた、あのトウモロコシ。
「 ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛!! 」
あの子達の為に。そんな強い想いを持ってトトロが黒い聖杯に勢いよく組み付き、渾身の力で聖杯を地面へとなぎ倒す。
「ドォゴォォーーン!」という凄まじい轟音を立て、黒き聖杯が地面へと倒れこむ。
「おねえちゃん!」
「メイ!!」
そしてメイとサツキが、手を繋ぎネコバスから飛び降りる。
聖杯へとたどり着いた二人の少女が、腕の中にある思い出のトウモロコシを、黒き聖杯のサーヴァントへと届けた。
…………………
………………………………………………
光輝く黄色いトウモロコシをその身に飲み込んだ聖杯。その部分から突如、凄まじいまでの白い光が放たれる。まるでそこから一気に浄化されていくように。少女達の優しい想いに、悪い心が全て消えていくかのように。
『 オオオオォォォ……。オオオォォォ…………。ハハッ! 』
光の中、まるで断末魔のような、物悲しい声が洞窟に響く。
その場にいる全ての者達が、その声を聴き、何故か胸が締め付けられる思いがした。
『全ての人を笑顔にしたい。子供達に夢を届けたい。そしていつも、笑っていて欲しい』
そんな原初の綺麗な尊い想いを、まるで聖杯に取り込まれていた黒いサーヴァントが思い出し、取り戻していくかのように。
そんな物悲しい声をあげて、巨大なマスコットの形をした聖杯が今、静かに涙を流していた。
「「士郎さん」」
シータとパズーが、士郎の手に自分たちの手を重ねた。
三人はその手を前へと、聖杯の方へと突き出し、手の中の飛行石へと想いを込める。
士郎の目に、もう涙はない。
心にあった恐怖も、恐れも。全てジブリのみんなとサーヴァント達が吹き飛ばしてくれた。
迷いは無い。
さぁ、元の世界に還ろうぜ。聖杯のサーヴァント。
いつの間にか士郎の姿が、白い髭、白髪の髪、そして太いフレームの眼鏡になっている。
その顔はまるで、いつかどこかで見たような、優しい顔の映画監督のようだった。
…………………
もういい。もう休んでいいんだ。
もう誰も憎まなくたっていい。もう誰かの作った物を、理不尽に削除したりしなくていいんだ。
長い年月をかけて、お前の心は歪められていった。
一番最初の綺麗な想いさえ、もう思い出せなくなっていった。
時に社会風刺に使われ、散々ネタに使われ、プレッシャーに追われて。
挙句の果てに「東京じゃなくて千葉じゃないか」とか、そんな謂れのない非難を受けたりして。
そんな風にしてお前は、¨周りの全てが敵だ¨って、そうなっちまったんだろう?
なんとか自分を守ろうって、頑張らなきゃって…。ただただお前は必死だったんだろう?
でも、もういい。もう休んでいいんだ。
還っていい。元の優しいお前に、戻っていいんだ。
だってみんな、お前の事が大好きなんだから。
お前は世界中の人々に、こんなにも愛されているんだから…。
…………………………
「「「――――バルス」」」
士郎達の重ねた手の中から、爆発するような強い光が放たれる。
聖なる光。
聖杯の黒い影は、大きな音を立て、ボロボロとその身体を崩壊させていく。
青い光が天へと昇っていく中、士郎達は、とても不思議な光景を幻視する。
それは、あの黒いサーヴァントが去っていく、後ろ姿。
優しいあの人と手を繋ぎ、嬉しそうにスキップをして共に歩いていく。
そんな、とても幸せな光景。
やがて青い光がやみ、二人の姿が完全に消滅してしまった後も。
しばらくの間、士郎はその場から動く事が出来なかった。
………………………
………………………………………………
洞窟から轟音と地響きが収まった頃、士郎達の目の前に現れたのは、光り輝く冬木の聖杯。
あの黒いサーヴァントが浄化され、無色のまっさらな力の詰まった、本来の聖杯の姿があった。