リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第十話 敗北聖戦士

「逃げた。……いいや、逃がした」

 

 まずは機体状況を部隊で参照する。《ゲド》は二機も墜とされてしまった。

 

 失態だな、と彼女は静かに口にする。

 

『申しわけありません……騎士団長。《ゲド》部隊は来るべき時のために必要なのに……』

 

「いい。今さら悔いたってどうしようもないからね。わたくし達はこれまで通り、ジェム領国を支えるために騎士として活躍すればいい。それに、大義名分も出来た。あの白いオーラバトラー……只者ではない。使い手は相当だ」

 

 だが何よりも驚愕したのは、それが現世での因縁であった事だろうか。

 

 まさか自分達以外にも、オーラ・ロードを通ってきた地上人がいるとは思いも寄らない。

 

「現在、《ゲド》部隊は」

 

『四十七名から、三名減り、四十四名です』

 

 おあつらえ向きな人数だな、と思いつつ彼女は嘆息をついた。

 

「一度帰還する。どうせ、今回の騒動の火消しは王族の役目だ。わたくし達騎士団は静観する」

 

『いいんですか? だって火の手が街に……』

 

 濁した言葉に彼女は言い放った。

 

「間違えない事だ。騎士団は国家を守るもの。民草を守るのは軍人でいい」

 

 了承の声が返り、機体を反転させようとしたところで、不意に城壁から一頭のユニコン・ウーが逃げ出してくる。

 

《ゲド》部隊の合間を縫う形で城下町を駆け抜けていくユニコン・ウーに《ゲド》が追い立てようとするのを制止させる。

 

「待て。追わなくっていい」

 

『しかし、相手に余計な情報を与えるのは……』

 

「今は、そうでもないのかもしれない。ともすれば、相手の軍備に亀裂を走らせるのかも……」

 

『それは、……どういう事で?』

 

「分からなくっていい。《ゲド》部隊はわたくしと共に王族を保護する特務に就け。この混乱で何が起こったのかを究明。敵のオーラバトラーの情報も欲しい。研究者達を招集させる」

 

 身を翻した漆黒の機体――《キヌバネ》が赤いマントを風になびかせる。バイストン・ウェルを慰めるオーラの纏った風に、彼女は息をついた。

 

 世界は美しいのに、結局のところ、争いはどこに行っても同じ事。

 

『ザフィール様。向かいましょう』

 

 この地での名を呼ばれ、彼女は応答していた。

 

「了解した。我が名はザフィール。彼の地での名前は、もう捨てたんだ。翡翠」

 

 思い出と共に。何もかもを捨て去った漆黒の騎士は王城の守りへと入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこを! 弄られちゃったんだから! どうしようもないとか言わないで!」

 

 ティマの忙しい声が響く工房で研究者達が図面をつき合わせる。

 

「ジェム領国の技術が強過ぎる。元には戻せませんよ」

 

 憔悴したような声音にティマが甲高く言い返した。

 

「戻すの! そうじゃなくっちゃ……エムロード?」

 

 ずっと《ソニドリ》を眺めているこちらに気づいたのだろう。ティマが近づいてくる。

 

「……あの、さ。ゼスティア……こっち側じゃ、向こうと戦わなくっちゃいけないんだよね?」

 

「そりゃそうでしょ。ジェム領国をどうにかしないと、こっちがジリ貧なんだから。あの《ゲド》部隊を見たでしょ? 三十機以上いる。あの大軍勢で攻められたら……、エムロード?」

 

 覚えず涙が滲んでいた。何があったのか、どうしてこうなったのかを問い質す前に、戦うほうが早いなど。

 

 どこまでも残酷だ。バイストン・ウェルは残酷な土地なのだ。

 

「……《ソニドリ》に乗って戦いたいって言ったら、怒る?」

 

「あたしは大歓迎。エムロードは《ソニドリ》に慣れただろうし、戦ってくれるのなら……」

 

 濁した語尾を、翡翠は言い切っていた。

 

「戦うよ。……ああ、戦う。それしか理由を探る術はないのなら。戦って、勝ち抜いてやる」

 

 握り締めた拳と双眸に、決意の光を携えて。

 

 ――異界の地で、最後の一滴になるまで戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外周警護に出ていたミシェルは妙なユニコン・ウーに行き会ったという報告を受け、森林地帯へと分け入っていた。《ブッポウソウ》の整備もそこそこに向かった先では、ユニコン・ウーに振り落とされ、岩にもたれかかっている男を発見した。

 

「ユニコンにも乗れないなんて」

 

 侮蔑の混じった声に相手は苦笑する。

 

「この足でよく来たもんだと褒めて欲しいね」

 

 相手が足を上げる。義足であった。

 

 思わぬ対応にミシェルは警戒する。

 

「……何者なの?」

 

『ミシェル。その者と通信を繋いで欲しい』

 

「ギーマ? でもこいつ、ジェム領国のほうから。……スパイかも」

 

「その心配は要らないさ。おれはこっちの味方だからな」

 

 読めない笑みを浮かべた相手にミシェルは《ブッポウソウ》の火器を向ける。

 

「名乗りなさい! 誰なの、あなた」

 

 相手は口元のスカーフをずらして、首に刻み込まれた紋章を見せる。

 

 ミシェルは息を呑んだ。それは紛れもない、アの国における特別な身分の証であったからだ。

 

「……嘘でしょう。滅びた国の、聖戦士……」

 

 戦慄く視界の中で、男は静かに名乗っていた。

 

「トカマクだ。トカマク・ロブスキー。あんたらの弁を借りるのならば、聖戦士の……その成れの果て、かな」

 

 イレギュラーな地上人は自嘲気味にそう口にしていた。

 

 

 

第一章 了

 

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