リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第十四話 強獣狩

「ミシェルさんの《ブッポウソウ》は仕上げたいんですがね。こっちも材料が足りなくって」

 

 ぼやいた声にミシェルは眉根を寄せる。

 

「材料……、強獣のパーツはたくさんあるって、ギーマが」

 

「ほとんど《ガルバイン》に使っちまいましたよ。あれの取り回しの悪さったら! 《ゲド》よりも扱いづらい!」

 

《ガルバイン》はそのような事など露知らず、格納庫でケーブルに繋がれて項垂れていた。

 

 パイロットがいなければただのでくの坊。それでも、使う手立ては残されている。

 

「《ソニドリ》には? 腕を斬られたと」

 

「直しましたが、急造ですね。《ブッポウソウ》のパーツを使ったんで、余計にです」

 

 強獣の不足は補わなければならない急務だ。相手に攻められてからでは遅いのだから。

 

「……巣へと仕掛ける」

 

 その言葉に整備班が声を荒らげた。

 

「無茶ですよ! 何年前の強獣を使っていると思っているんですか! おおよそ百年は前ですよ! そりゃ、主なパーツであるキマイ・ラグの乱獲は最近ですが、一部パーツで、内部骨格の基礎であるのは、もっと凶暴な奴です。そいつらとかち合うのには戦力が足りません。補充班も」

 

 作戦の一つでも立てなければ危うい、というわけか。顎に手を添えて考え込んでいたところに、声が振りかけられる。

 

「お困りかい?」

 

 トカマクが楽器を奏でつつ、こちらへと下りてくる。整備士達は胡乱そうな目で睨みつけた。

 

「スパイだってんでしょう?」

 

「だからこそ、だ。いい乱獲場の情報は持っている。おれが何年、この足で! 諸国を渡り歩いたと思ってるんだ?」

 

 義足をわざとらしく蹴りつけたトカマクにミシェルは歩み寄っていた。

 

「本当に、当てはあるのね?」

 

「そうじゃなきゃ声なんてかけないさ。吟遊詩人、何も出来ないを気取るってのもありってスタンスなのに、おれがこうしてあんたらに介入する……」

 

「自信はあるようね」

 

「上々に。お上を呼べ。作戦を立てる」

 

 余裕しゃくしゃくなトカマクに整備士が声を潜めた。

 

「……いいんですか? 今の状況でも一応は《ソニドリ》と《ブッポウソウ》程度ならばどうにかなります」

 

「それも長くはないんでしょう?」

 

「それは……」

 

「いずれやらなければならないのならば、それは早いほうがいいわ。今ならば《ブッポウソウ》と《ソニドリ》を出せる」

 

 息を呑んだ整備士が手を払う。

 

「《ソニドリ》はダメージを受けております」

 

「エムロードのやる気次第でしょう? あの子はやるわ。問題なのは……あの金食い虫ね」

 

《ガルバイン》を睨む。黄色い眼窩がこちらを見つめ返していた。

 

「もしもの時には《ガルバイン》を分解すればいいのでは?」

 

「そうするとアンバーが使い物にならなくなるわ。ちょっとだけ、考え方を変えましょう。彼女らにやる気を出してもらうのではなく、そうせざる得なくなる、という方向に」

 

「……うまくいきますかねぇ」

 

「いかなければジリ貧よ。ギーマは!」

 

「今呼びに行っています。エムロードさんも呼んだほうがよろしいですかね?」

 

「呼んでちょうだい。《ソニドリ》に乗れるのは……悔しいけれどあの子だけになってしまったようだからね」

 

《ソニドリ》も今はケーブルに繋がれ、次の出撃を待ち望んでいるようであった。

 

 斬られたという片腕は《ブッポウソウ》の茶色の甲殻でまかなわれている。

 

「……否が応でも、戦ってもらうわ。そうしないと何のための地上人なんだか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦自体は極めてシンプル、という前置きにエムロードは卓上に置かれた地図を目にしていた。螺旋状になった洞窟の地図である。生き物の器官のように複雑怪奇に捻じ曲がっていた。

 

「ここで部品を探すって?」

 

「戦いには兵站は重要でしょう? それくらいは分かるわよね?」

 

 ミシェルの上から目線にエムロードは眉間に皴を寄せる。

 

「……意味くらいは」

 

「結構。ならば聞いて欲しい。この巣の地図はもう五十年は前のもので……正直当てになるかどうかは微妙だ」

 

 ギーマの説明を聞く間にも、部屋の隅で楽器を鳴らしている吟遊詩人が嫌でも視界に入った。彼は作戦説明に重要な役割なのだろうか、と目線で勘繰る。

 

「《ソニドリ》には前衛として戦って欲しい。武器の補充はこちらが担当する」

 

「……その、強獣って言うの、見た事もないんだけれど」

 

「これが強獣だ」

 

 示されたのは羊皮紙に描かれた首の長い怪獣であった。目玉がいくつも連なっており、口腔が異様に広い。

 

「これが……強獣」

 

「わたしは経験がある。もしもの時にバックアップに回れる位置につく。君とミシェルは前に出て、出来るだけ強獣を押さえて欲しい」

 

「言ってしまえば囮よ、囮」

 

 ミシェルの言葉振りにギーマは笑みを浮かべる。

 

「狩猟に関してはこちらに一日の長がある。任せて欲しい。これでも強獣狩りには自信があってね」

 

 ギーマの友好的な笑みに声が割って入った。

 

「嘘くさい! あんたの笑い方、あたし大っ嫌いだもん!」

 

 ティマの思わぬ言葉にエムロードは頭を下げていた。

 

「すいません。多分、《ソニドリ》を危険に晒すのに反対で……」

 

「理由は分かるさ。強獣とは言え、強いのはいる。だが、この巣穴はもう完全に狩猟区だ。ここに棲息する強獣は、野性に比べて随分と大人しい。半分家畜だと思ってくれてもいい」

 

 先ほどの絵が思い起こされ、あれが大人しいというのが脳内でうまく結びつかなかった。

 

「今回の狩猟は主にキマイ・ラグと、細かいパーツの収集、それに大型の強獣の骨と肉が必要になってくる」

 

「おれが誘導する。洞穴までの案内は任された」

 

 ようやく言葉を発した吟遊詩人にギーマが補足していた。

 

「彼は元々、大国の聖戦士だった。肝っ玉には自信はあるはずだ。逃げ出す愚を犯す事もない」

 

「嫌な事言うなよ」

 

 悲しげな音色で吟遊詩人が返す。それよりも、とエムロードは口にしていた。

 

「聖戦士? だったら、地上人?」

 

「二十年は経つ。剣に自信はなくってね。腕が立つ奴が羨ましいよ」

 

 二十年。その隔たりでは現実世界の事は知るよしもないのだろう。自分達とは一世代分、違う事になる。

 

「言ってしまえば、これから先の戦闘に備えての模擬戦でもある。強獣なら、命のやり取りにそこまで緊張感はないでしょう?」

 

 尋ねられても、その強獣とやらを実際に見た事がないのならば頷きようもない。

 

「うまく行く……確率は?」

 

「ほとんど百パーセント。不安なら、もっと言ってもいいくらい。強獣なんて名前ほどそんなに強くもないわ。《ソニドリ》の慣らし運転程度に思ってもいい」

 

 ミシェルがここまで言うのだから、強獣自体にはさほど脅威はないのだろう。それよりも彼女の言葉には先ほどから含めたところがあった。

 

「……アンバーは?」

 

「出てこないの。あなたからも言ってあげて? もしかしたら、あなたの言葉なら聞くかも……」

 

「作戦は明朝に行う。出るのはわたしの《ブッポウソウ》とミシェル機、それに《ソニドリ》とユニコンで隊列。トカマクが先導する」

 

「異議なし。じゃ、解散」

 

 手を振るトカマクに誰も気に留めた様子はない。立ち去ろうとするミシェルの背中を、エムロードは呼び止めていた。

 

「その……琥珀……アンバーの様子を見てきても?」

 

「いいけれど、あんまり彼女を刺激しないほうがいいかもね。あなたが強獣狩りに行くって聞いたら飛び出すかもしれない。でも、それはいい兆候とは違うから」

 

 分かっているつもりであった。琥珀はどれほど過酷な時でも一緒にいてくれた親友だ。だがだからこそだろう。

 

 自分が前に立ち、飛び立とうとしているのがどこか信じ難いに違いない。

 

 現実世界では、共に腐っていたような仲であった。嫌気の差す現状に、「今」に、共に腐れるというだけの親友。

 

 だがそれは、本当の友とは呼べるのだろうか。

 

 互いに慰めあうだけで、それは真実の友愛ではないのかもしれない、と思い始めていた。

 

「エムロード? あたしは《ソニドリ》の整備に入る。……アンバーの事、お願いね」

 

 ティマも彼女なりに心配している。頷いて、エムロードは琥珀のいるという部屋へと駆けていった。

 

 扉の前にはトレイが置かれている。よかった、食事は取っているのだ、と少しだけ前向きになれた。

 

 ノックしかけて躊躇いが生まれる。自分が分け入っていい領域ではないのかもしれない。そもそも、自分が軽率に《ソニドリ》に乗らなければ、彼女はオーラバトラーに乗り込む事もなかっただろう。

 

 恨まれても何らおかしくはない。

 

 だからか、扉をノックするよりも、と取り出したのは端末であった。この距離ならば電波がなくても届くはずだ。

 

 コールすると、琥珀は数秒の間を置いた。

 

『……どうしたの』

 

「琥珀。ボクは《ソニドリ》に乗る事に決めた」

 

『……そう』

 

「そう、だよね……、そういう反応なのは分かる。でもさ! バイストン・ウェルから帰る方法を見つけるのには一番だと思うんだ。動かないよりかは、何かしているほうが楽だし。聖戦士っておだてられても、何も出来ないけれど……」

 

 笑い話にしようとして、どうしようもない事に気づく。いつもならこんな事でも笑い飛ばせた。どうでもいいや、と投げ捨てられた。

 

 そうでないのは、敵方のオーラバトラーに蒼が乗っているのだ、と確信したからか。

 

 相手にも地上人が加勢しているのだと分かったからか。

 

 それは恐らく後付けの理由なのだろう。蒼がいるから、敵が攻めてくるからではない。自分の、本当の気持ちは……。

 

「琥珀。戻ろう。あの夏の日に。馬鹿みたいな事で笑い合ってさ。帰り道にはアイス食べるんだ。コンビニで買った安い奴、二人割り勘して」

 

 その言葉に通話の先の琥珀が笑ったのが伝わった。

 

『そう、だね……。でも、いっつもあたしが奢っていたよ? 翡翠ったらケチなんだもん。毎回ジャンケン』

 

「そうだっけ? でも、琥珀だって化粧品にお金使うからって、ボクには毎回ねだっていたじゃないか。お互い様だよ」

 

 通話口から笑い声が漏れる。まだ一週間も経っていないはずなのに久しく聞いていなかったような気がする親友の声。

 

 あの夏の日では、ずっと自分達は永遠でいられた。どれほどまでに現実が過酷でも、あの日々だけは色褪せないはずなのだ。

 

「琥珀……、ボクは行く。でも、戦わなくってもいい」

 

『ううん……翡翠だけに任せておけないよ。あたしは……翡翠の隣にいたい。傍に……いたい』

 

 溢れた本音にエムロードは笑みをこぼす。

 

「嬉しい……、でも、ボクが前に出ないと駄目なんだ。それはきっと……」

 

 蒼の事もある。話してしまえればどれほどに楽か分からない。だが、確かめなければ、という念は自分の中にあった。

 

 本当に蒼なのか。だとすれば何故、このバイストン・ウェルにいるのか。

 

 解き明かさなくてはいけない。それこそ自分が呼ばれた意味だというのならば。

 

「琥珀、待っていてくれ。強くなってみせるから。だからその時まで」

 

『……うん。でも本当に待てない時は』

 

「ああ。背中は任せる。いつだって、相乗りだっただろ?」

 

 この孤独の世界で、唯一信じられる絶対の絆。それを確かめ合えただけでもよかった。

 

『翡翠。でも、翡翠は翡翠だから。……エムロードなんて飾り立てられてもあたし達は……』

 

「親友だ。分かっている。切るよ」

 

 通話を切り、エムロードは歩み出していた。立ち止まっている暇はない。

 

 今は一つでも前に進まねばならない。

 

 そのための力が《ソニドリ》にあるというのならば――。

 

「ボクは、この力を、飼いならしてみせる」

 

 握り締めた拳に決意が宿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追い込んだか、という質問に前を行く部下がしーっと指を立てる。

 

「随分と近づいてしまいました。……そろそろ勘付かれるのでは?」

 

「なに、大丈夫だろう。相手もここまで我々の術中にはまっているとは思わないはずだ」

 

 双眼鏡を覗き込んだ野性味溢れる頭目は、左目に走った傷をなぞる。疼く痛みは復讐のただ一つのためにある。

 

「ユニコンを追って西へと一路……。囮のユニコンはもう殺されていますね。オーラバトラーより足が早い道理もありませんし」

 

「それでも持ったほうだろうさ。送り狼を出して相手を追い詰めてもいいのだが、袋小路に入ったのはこちらのほうかもな」

 

 螺旋状に直下へと奈落を覗かせる常闇に頭目は声を震わせた。

 

「……強獣の巣に入るなんて思わなかったが、これもある種、織り込み済みか」

 

「損耗しているはずです。強獣の血でも啜りにいったのでしょう」

 

 手渡された水筒に入った水を一気に飲み干し、頭目は声を張った。

 

「この巣で駆逐する。明朝になれば作戦を開始。幸いにして上を取っているのはこちらだ」

 

「爆薬で死ぬんなら、とっくにですが……」

 

「中に入っているのは不死者ではない。火を放てば死ぬはずだ」

 

 そう、そのはずである、というだけの話。

 

 当てはまるかどうかはまだ分からない。

 

「狂戦士狩りもここまで来れば執念ですよ。我々も仲間を失いつつ来た」

 

「相手が大掛かりな作戦に乗らないだけで、充分に疲弊はしているはずだ。……道すがらの領には悪い事をしたが、彼らは災厄に行き遭ったと納得してもらうしかない」

 

 ゆえに、先ほどから焚いているのは死者を慰める線香であった。鼻腔につく甘い香りに小型の虫が寄り集まる。

 

「死者への弔いだ。どけ!」

 

 虫を払い、頭目は穴倉の奥底を睥睨する。

 

「狂戦士……誘いに乗りますか?」

 

「充分な補給を受ければ出てくる。その前に罠で捉え、骨格に網を張る。すぐには動けないところでまた虫枝をつければいい」

 

 籠の中に飼っている発信機の役割を果たす虫枝はこの地では重宝される代物だ。だが自分達は果てない恩讐の旅の中で自然と採集してきた。

 

 一国でもまかなえないほどの虫と、狩猟道具。全ては狂戦士打倒の夢のためである。

 

 その時、深淵へと降りていた三人組が帰ってきた。心得ている彼らは足音さえも立てない。気配で察知した頭目が目線を振り向ける。

 

「巣の奥のほうまで行っています。狙い目ですよ」

 

「戻ってくるまでに仕掛けが作動するか。巣の中で何をしている?」

 

「聞くまでもないでしょう。強獣を殺して……その生き血を」

 

 おぞましい事実に屈強な男達でも口元を押さえる。やはりあの狂戦士。たとえ強獣の群れの中にいてもその本質は変わらない。

 

「もしもの時は強獣ごと殺す」

 

「巣の構造を地図に落としました。これを」

 

 描かれた巣の階層は第十二層まで至っており、この巣が強獣にとっての重要な住処である事を告げている。

 

 だがそのような日常はすべからく脆く消え去るもの。

 

 強獣も不幸であっただろう。狂戦士に行き遭えば、如何に野性とは言え、彼らにも安息はない。

 

 地図の中に妙な表記を見つけ、頭目は首をひねった。

 

「これは? ゼスティアの印だな」

 

「どうやらここはゼスティア領の強獣狩りの場であるらしく……ゼスティアの張った罠が多く点在しています」

 

「干渉は……」

 

「しないように取り払っておきました。狂戦士に対してゼスティアのナマクラ罠ではまるで意味がありませんよ」

 

「十秒も足止めは出来んだろうな。正しい判断だ」

 

 部下達は教え込んだ技術の数々を駆使し、狂戦士狩りに闘志を燃やしている。それほどまでに苛烈な復讐の連鎖に自分達は輪廻の虜となっているのだ。

 

 狂戦士が死に絶える時まで、自分達に安息はない。

 

 魂は常に闘争を求めている。

 

「それと、興味深いものが。お頭、ちょっと来てもらえますか?」

 

 部下に促され、頭目は下層へとゆっくりと降りていく。既に木造の階段が構築されており、強獣の死骸が凝り固まって出来た地層の壁を撫でた。

 

 強獣の死骸はオーラマシンの原型となる。ゆえに、加工しやすく、熱と電気に反応する。

 

 前を行く部下の焚いたランタンの光に、強獣の骸で出来た壁が乱反射の輝きを放っていた。

 

「……目立つと」

 

「分かっています。すぐですよ。これを」

 

 壁の地層の継ぎ目に挟まっている物体があった。それが何なのか、頭目はすぐさま理解する。

 

 こちら側に手を伸ばす形の甲殻兵は、恐らくは数年前にここを訪れた狩人のものであろう。

 

「オーラバトラーか」

 

「乗り捨てみたいです。地層の壁に押し込まれているって事は、強獣に思わぬ奇襲でも食らったか、あるいは」

 

「乗り捨てる酔狂な人間がいたか、だな」

 

 頭目は手にした杖でオーラバトラーを突いた。生体反応はない。

 

「この一機だけか?」

 

「あれば探してきますが……」

 

「いや、いい。危険に晒す事はない。このオーラバトラー、使えるか?」

 

「削岩機で掘り出してみましょう。もしかしたら狂戦士と渡り合えるかも」

 

 どうだろうか、と頭目は苦笑する。狂戦士と対等に打ち合うのには、恐らくこのオーラバトラーでは不可能であろう。

 

 それは予見出来たが、せっかくの成果なのだ。持ち帰らないのも勿体ない。

 

「タイプは……《ゲド》に近いが、改良機だな。《カットグラ》、と呼ばれていたという」

 

 茶色に染まった甲殻に、《ゲド》よりも幾分かスマートな体躯。高いオーラ適性値を持たなければ操縦は出来ない機体だ。

 

「この《カットグラ》、乗れますかね?」

 

「オレがやろう。お前達は仕掛けの最終確認を」

 

「お頭、聞こえませんか?」

 

 下層から漏れ聞こえてくるのは強獣の断末魔であった。部下が肩を震わせる。屈強な戦士であっても、狂戦士の力を思い知っている身からしてみれば恐ろしい。

 

「……せめて、明日の我が身にはならない事を祈るばかりだな」

 

「《カットグラ》、上げます。ワイヤー張れ! オーラバトラーを持ち上げる!」

 

 声を上げて男達がオーラバトラーを持ち上げていく。縄で首筋を括られた形のオーラバトラー、《カットグラ》に頭目は皮肉の笑みを浮かべていた。

 

「絞首刑だな、まるで」

 

「まだマシじゃないですか。狂戦士にやられるよか」

 

 違いない、と頭目は返し、全員に伝令する。

 

「作戦は明朝だ! 遅れるなよ!」

 

 ドスの利いた男達の返答に頭目は笑みを浮かべた。

 

 

 


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