リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第二十二話 少女邂逅

「そう、か。敵のデカブツオーラバトラーの鹵獲に成功。よくやった」

 

『よくやった? 随分と上から目線ね』

 

「それ以外にどう形容すればいいというんだ。アンバーとエムロードは?」

 

『存外、うまくやってくれたわ。アンバーはやっぱり飲み込みが早いみたい。もうほとんど《ガルバイン》を手足同然に扱っている』

 

 やはり、地上人は侮れないな。胸中に結び、ギーマは揺られる馬車の中でミシェルの通信端末の量産型を手にしていた。

 

「戦力に問題がないのならばいい。ランラは思ったよりも友好的というわけだな。アンバーからの反発はあって然るべきだと思っていただけに」

 

『むしろ、反発どころか、あの二人はよくやってくれたわ。《ソニドリ》も強くなっている。このままならば、ゼスティア領国の推し進める計画も、うまく事が運ぶかも』

 

「慢心は時に足をすくう。わたしがいない間はせめて、ゼスティアに暗雲がないように祈るばかりだ」

 

『どの口が』

 

 言いやるミシェルにギーマは念を押していた。

 

「……して、王冠の事を相手は」

 

『話していないわね。不気味なほどに沈黙している。相手からしてみれば、一気に形成を覆すチャンスなのに』

 

「あるいは王冠の事は極秘である、とは知らないか」

 

『どこまでのレベルの機密なのかを理解してなければ、ね。そういう事もあるでしょう』

 

「アンバーとエムロードには注意しておいて欲しい。二人が王冠の事を知れば、ただでは済むまい」

 

『承知しているわよ。そっちは?』

 

 ギーマは馬車の窓から見える景色を視界に入れていた。

 

「西方の町外れだ。もうすぐ領国に入る」

 

『トチらないでよね。外交問題くらいは』

 

「それでさえも地上人の手を煩わせるほどではないさ。外交くらいはやってみせる」

 

 それくらいしか、自分が地上人に勝る部分はない。ゼスティア次期領主として、政くらいは自分だけで責任を取ろう。

 

 ユニコンがその時、不意にいななき声を上げた。どうやら誰かが往来に立っていたらしい。

 

「危ないぞ! クソガキ!」

 

 放たれた怒号にギーマは通話を中断する。

 

「失礼、切るぞ。どうした!」

 

「あっ、准将……。このガキが、急に出てきて……」

 

 馬車から降りたギーマはユニコンの前で蹲る少女を目にしていた。切り揃えた黒髪に、華奢な身体つきをしている。

 

「いい、叱るな。お嬢さん、ここは退いてもらえると助かる」

 

 領国によっては即打ち首もあり得るこの状況で、出来る限り穏便に済ませたい。

 

 そう思っていたギーマは面を上げた少女の瞼が閉ざされている事に気づいた。

 

「貴方は……」

 

「君、目が見えないのか?」

 

「生まれた時から、なんです。あそこの路地で辻占をやっていまして……。濃いオーラを感じて、飛び出してきたんです」

 

 少女が瞼を薄く開ける。虹彩が虹色に染まっていた。

 

 息を呑んだギーマに少女が口を開く。

 

「貴方は、王様、ですね。黒く滾ったような王冠のオーラが見えます。破滅のタロットが貴方にはついている」

 

「おい! 喧嘩を売っているのか!」

 

 ユニコンを動かす部下にギーマは諌めた。この少女、まさか王冠の事を予知して見せたというのか。

 

 ――興味深い、とギーマは少女の手を引く。

 

「准将? そんな子供、どうするって……」

 

「ちょっと用件があってね。辻占をやっているというのならばこれから先の国運を占ってもらうのも悪くはない」

 

「……知りませんよ」

 

 馬車が再び動き出す。密室で、ギーマは対面に座らせた少女を観察する。王冠は極秘事項。知っている人間は出来れば少ないほうがいい。

 

「……准将って聞こえました。貴方はやっぱり、王様なんですね」

 

「これから先、王になるかどうかの責を問われる立場だ。まだまだだよ」

 

「それでも、貴方のオーラは揺らいでいる。闇色のオーラです。遥か向こう側……オーラ・ロードの先で、佇む暗黒の城。その城主が、貴方」

 

「買い被るな」

 

 笑い話にしようとしたが少女の声音は真剣そのものであった。

 

「でも貴方の運命は……行動次第で変動します。国内に、別のオーラの持ち主を引き入れましたね? 二人、全く別種のオーラが視えます」

 

 アンバーとエムロードだろうか。ギーマは問いかける。

 

「その二人はどうなる?」

 

 少女は残念そうに頭を振った。

 

「そこまでは視えません」

 

「おいおい、まさか都合のいいものだけが見えるとでも? それでは辻占とは呼ばんな」

 

「私が見えるのは、目の前にした方のオーラから辿る運命のみです。貴方には無数のオーラが纏いついている。その中のいくつかを読む事は出来ますが、本人でない限りはその帰結する先までは」

 

「読めない、か。理には叶っている」

 

 馬車が揺れる。少女が戸惑って手を彷徨わせた。

 

「何か?」

 

「いえ、馬車の上、なんですね。ユニコンの形のオーラが視えるので」

 

「何か問題でも?」

 

「……私はある家庭に飼われている身分です。勝手に出歩けば、後々禍根を残します」

 

「心配は要らない。君の事は気に入った。ゼスティアまでの道案内はわたしが引き受ける」

 

「ですが……、彼らが」

 

「心配するかね? 家族の者が」

 

「いえ、心配はしないでしょうが……旦那様は私が帰ってこないのに腹を立てて、今夜飛び出せば必ず……事故に遭うでしょう。タロットに死神が出ています。それが申し訳なくって」

 

 他人の死が容易に見える、というわけか。なかなかの逸物である。

 

「面白いな、君は。とても面白い」

 

「貴方の事は、なんと呼べば?」

 

「何でもいい。ギーマ・ゼスティアの名を取っているが」

 

「では、ギーマ様。私の新しい飼い主様です」

 

 恭しく頭を下げる少女に、ギーマは辟易する。飼い主などそのようなつもりはなかったのだが。

 

「よしてくれ。わたしは単純な……そう、単純な気紛れで」

 

「気紛れで運命は変わります。貴方がここで、私を拾ってくださったのも、運命なのです」

 

 その言い分が正しいのならば、彼女の雇い主が事故に遭うのも、か。どこまで読めているのか分からないその相貌に、ギーマは観察の眼を注いでいた。

 

「……率直に聞きたい。どこまで見えている?」

 

「私はオーラを視るのみ。対面しなければ分からぬ事も多くございます。ただ……闇の王冠は貴方様の国に多大なる変化をもたらすでしょう」

 

「王冠以外には?」

 

「緑色の鳥がいますね。その宝石のような鳥が、貴方の国を導いています」

 

 緑の鳥――《ソニドリ》の事か。そこまで読めているのであれば、ここで手離すのは得策ではない。

 

「……ゼスティアに国籍を与えてやってもいい。君の力が欲しくなった」

 

「そう、ですか。私も雇い主の旦那様が亡くなられるのを見たくはないので、利害の一致ですね」

 

 どこまでも冷静な少女の声音にギーマは尋ねていた。

 

「名は? 何と言う」

 

 少女は瞼を僅かに上げて、言いやる。

 

「――レイニー。ファミリーネームはございません」

 

「では今より君はゼスティアを名乗れ。わたしが許可する」

 

「はい。では今より私はレイニー・ゼスティアですね」

 

 どこまでも従順な声にギーマは頬杖をつく。

 

 果たして、このオーラを見る少女の本質はどこにあるのか。それを見届けない限りは、この旅路、終わらないと考えていた。

 

 

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