リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第二十五話 戦乱運命歌

 捕らえた兵は全員、城の地下牢に閉じ込めた形となった。

 

《ドラムロ》の半数は重傷であったが、《マイタケ》より這い出たグランと名乗る将軍は、こちらに約束をさせた。

 

「……死に体ではない兵士は出来るだけの医療措置を、か。しかし、まさかあのグランとはね。あなた達、大金星よ」

 

 ミシェルの言葉に作戦指揮室に呼ばれたエムロードとアンバーは戸惑っていた。《ドラムロ》を倒し、《マイタケ》も制した。

 

 その武勲は確かにあるものの、やはり戦闘時の昂揚した精神によるものか、今は落ち着いていた。

 

「その……あたし達は出来る事をしただけで」

 

「充分って言っているの。アンバー、過ぎた謙遜はジャップの悪い癖ね」

 

 言い捨てられてエムロードは中庭に運び込まれた《マイタケ》を窓から眺めていた。兵士達百人でも運搬の難しい重量級のオーラバトラー。《ドラムロ》による牽引でようやく、であった。

 

「しかし、グランとはな。オレ達も話には聞いている。鉄血将軍のグラン。風の噂では強獣の巣に張り込み、百匹相当を狩ったほどの実力者とも。ジェム領国の中心に位置する人物のはずだ」

 

 その評にトカマクへと自然に目が行く。彼は長い間スパイ活動を行っていたはずだ。

 

「……間違っちゃいないが、ここ最近では話がちょっと違っていてな」

 

「どういう事? 彼を抑えた程度では、まさかジェム領のダメージでもない、とは言わないわよね?」

 

 トカマクは楽器を奏でつつ、どこか憐憫の声音で紡ぐ。

 

「悲しい事に、ジェム領国の軍備は堕ちている。その原因は……これはおれも話でしかないんだが、騎士団、とやららしい」

 

 騎士団。エムロードはジェムで実際に聞いた騎士団の評判を思い返す。軍人でさえも恐れる騎士という身分。

 

「その騎士団って言うのが、まさか前回の強襲の時にいた?」

 

「あの黒いオーラバトラーが指揮する《ゲド》の部隊……。地上人の軍勢と聞く」

 

「……その辺はグランに直接聞いたほうがよさそうね。でもあの男、どう考えても尋問も拷問も効きそうにないのよね……」

 

「それに関しては同感だ。あの鉄血将軍はそう容易く自国の情報を売らないだろう。オレでも確信出来る」

 

 ランラの評にミシェルが呻る。現状、ジェム領国に攻め入るのには格好の機会でありながら、やはり実効力が足りない。

 

 情報不足の中、闇雲に仕掛けても勝てない、というのが大筋の意見であった。

 

 沈黙が降り立つ中、エムロードはふと、グランと打ち合った感触を思い返す。あの男の理念を打ち崩すのには恐らく……。

 

「その……いい?」

 

「何か妙案でも?」

 

「尋問も拷問も効かないかもしれないけれど、真っ向勝負ならどう?」

 

 その提案にミシェルが身を乗り出した。

 

「はぁ? 何を言っているの? このジャップは! 真っ向勝負で情報が引き出せたら苦労しないわよ」

 

「グランと打ち合った時、ボクは感じたんだ。この男は実力差は素直に受け止める、と。なら、剣で勝てばいい」

 

「……脳筋の考えね。ランラ、あんたが仕込んだの?」

 

「まさか。オレはそこまで向こう見ずな考えは教えていない」

 

 向こう見ず。そう見えるのだろうか。しかしエムロードは取り下げなかった。

 

「相手が生粋の軍人なら、力比べには自信があるはず。それを崩せば、少しは優位になるかも」

 

「希望的観測が大き過ぎるわ。それに、仮に勝ったとしても偽情報を掴まされれば? それが真実かどうかを確かめる術がないのよ?」

 

 それは、と口ごもってしまう。やはりこのような世迷言、口にすべきではなかったか、と後悔していると小窓からティマが飛び込んできた。

 

「朗報! 朗報だよ! 《マイタケ》は暫く動けない。メカニックの結果、致命的な部分を《ソニドリ》にやられたみたい。これで相手の進軍の術は消した!」

 

「……こちらをどうにかして《マイタケ》で報復、はないか」

 

 ミシェルを含め、沈痛に沈んだ全員にティマは場違いな声を出した。

 

「なに、どんよりしてるの! 相手側に攻め込めばいいじゃない!」

 

「そう簡単にいかないの。敵の兵力も分からないのに。それにエムロード達と戦った地上人の軍隊の存在もある。ともすれば、グランは切り捨てられた可能性だって」

 

「ジェム領に? だったらなおさらじゃん。軍は弱っている」

 

「だから、弱っているって言っても、それを込みに考えて送り込んできた可能性が……」

 

「《マイタケ》がやられるって、敵も想定しているって? それはないと思うけれど? だってあのオーラバトラー、調べれば調べるほど相当だ。相当、あれに費やした部分が大きいはず。ジェム領はあれを手離してでも勝ちを取りに来ているって?」

 

「……可能性としてはないとは言えないはずよ」

 

「ないと思うなぁ。あたしはないに一票」

 

 ティマの言葉にミシェルはため息を漏らした。

 

「なくっても、戦えるだけの兵力は? こっちだってそこまで人員が足りているわけじゃないんだから」

 

「ランラの仲間を呼べばいいじゃん」

 

「悪いがオレ以外にオーラバトラーの心得を持つ奴はいなくってね。他の奴らは奇襲を得意とする。オレだけだ。真正面から《ゼノバイン》と打ち合おうなんざ」

 

「変わり者ってわけ」

 

 結んで呆れ返ったティマにアンバーが言いやっていた。

 

「喧嘩しても始まりませんよ。今は、少しでも前に進まないと」

 

「アンバー……、でも情報も兵力もまるでない。この状況でオーラバトラーが揃っている相手に仕掛けるなんて無謀なのよ」

 

「それでも……やらないとどうしようもないんじゃ?」

 

「それは……そうだけれど……」

 

 ミシェルがこちらを窺う。エムロードはティマに提案していた。

 

「……グランという奴と、打ち合える?」

 

「打ち合う? まさか戦って情報を得るとか考えてる?」

 

 信じられない、という口調にエムロードは首肯した。ティマは呆れ返る。

 

「嘘でしょ、エムロード。それは無理だよ……。だって相手は生粋の軍人なんだ。ちょっと勝ったくらいでは情報なんて」

 

 やはり、これも棄却されるか。そう感じた矢先であった。

 

 トカマクが声を発する。

 

「交換条件、なんてどうだ?」

 

「交換条件?」

 

 トカマクは楽器を指で爪弾きつつ、歌うように語る。

 

「相手に優位な条件をこちらが請け負う。見た感じ、グランと騎士団の仲はよくなかった。騎士団を潰す、とでも言えばグランは乗ってくるかもしれない」

 

「国家への攻撃ではなく、あくまでも騎士団への攻撃に絞れって事?」

 

「有り体に言えば」

 

 しかしそのような条件、相手も呑むかどうかは不明だ。ミシェルは考え込む。

 

「騎士団とグランの仲が決して悪くなかったら?」

 

「この提案は捨ててくれていい」

 

「でもトカマクはジェム領国にスパイしに行っていた。当てにはなるはずだ」

 

 その論拠をエムロードが補強する。ミシェルは顎に手を添えて思案した。

 

「グランが、国家に対しての悪意を、そのまま飲み込めるだけの人間かどうか……。第一、騎士団を潰すって……聞こえはいいけれど今のジェム領の一番の兵力を潰すっていう事よ? 相手からしてみれば面白い話でもないんじゃない?」

 

「だから、条件を提示する」

 

「……あんた、さっきから何か言いたげね。どうしたいの?」

 

 トカマクはフッと笑みを浮かべた。

 

「別段、攻め入るって選択肢は必要ないと思っている。おれはスパイだった。相手にそれが割れていないのならば」

 

 ここで売り込んでくる条件をいち早く察知したのはランラであった。

 

「……相手に攻め込ませる。そこに待ち伏せ、か」

 

「正解。さすがは百戦錬磨」

 

 ミシェルは混乱して頭を押さえた。

 

「待って、どういう事?」

 

「こいつの顔が割れていなくって、なおかつこっちの味方だとばれていなければ、囮にしてジェム領国に情報を流せる。誤情報だ。例えば、グランは勝利したが、あまりに疲弊している。騎士団の救助を求む。とでも」

 

「死んだ振りや今にも死にそうな格好は得意だ」

 

 窺ったトカマクにミシェルを含む三人は絶句した。

 

「あんた……そんな危険に晒されても平気だって言うの?」

 

「平気なわけないだろう。無論、助けてもらえる算段はつけているつもりだ。そこの、エムロードがな」

 

 急に名指しされ、エムロードは戸惑う。まさか自分が関係あるなど重いも寄らなかったからだ。

 

「ボクに……?」

 

「無根拠でもないだろう? 《マイタケ》を退けてみせた」

 

「でもそれは……私達全員のチームプレイで……」

 

「だからこそ、チームとして動く。騎士団を追い込むのにもな」

 

 トカマクのどこか予見して見せたような言い草にミシェルは耳を傾けていた。

 

「……続けなさい」

 

「では。あのデカブツの《マイタケ》、あれをただ中庭で証として持っておくってのは勿体ない話だとは思わないか?」

 

「でも、修理なんて出来ない」

 

 ティマの返答にトカマクは指を鳴らした。

 

「修理してどうする? 逆だ。壊して噴煙を上げさせるんだ」

 

 思わぬ言葉にアンバーが声を荒らげていた。

 

「壊したって……それこそどうにもならないんじゃ?」

 

「いいや。動かないオーラバトラーなら、せいぜいいい塩梅の囮になってもらうのが吉だろうさ。それに、おれの情報の価値も上がってくる」

 

「呆れたわね。自分一人でジェム領の騎士団と対等な話し合いには持ち込めないって言うの?」

 

「そこまで強気じゃないんだよ」

 

 肩を竦めたトカマクは言葉を継いだ。

 

「おれがジェム領に助けでも求める。ゼスティアにはうんざりだと言えばな。実際に戦闘は見たんだからそれなりにハッキリした事も言える。つまり、おれの証言を嘘だと断じる事も出来ないはず」

 

「でも本当だとも言えないわよね? あんた、そんなに信用が?」

 

「ジェム領は軍人の要であるグランを失っている。この状況でゼスティアの優位に繋がる、となれば、グランの救出と、そんでもって、一手でも上を行きたいのは確実のはずだ。なら、こういう身分は楽でね。嘘ものらりくらりと言える。相手もそこまで真実は求めちゃいないだろうさ。ただ《マイタケ》と《ドラムロ》部隊が帰投しない、という歴然とした事実に、おれの証言。結び付けないほうがどうかしていると思うがね」

 

 つまり、トカマクの偽情報で騎士団とやらを誘い出す。そのための布石として《マイタケ》を使うと言っているのだ。

 

「……使うたって、どうやって?」

 

「黒煙でも上げさせろよ。そうすりゃ、分かりやすいシナリオが出来上がる。《マイタケ》はゼスティア相手に苦戦し、辛くも退けるが、森の中で航行不能に陥った、とでも」

 

「そのお話の補強があんたの役目ってわけ。でも、ジェム領も信じるかしら?」

 

「腕の見せ所だな。トカマク、貴様、聖戦士だと聞いた。それを相手は知っているのか?」

 

 トカマクはスカーフで隠れた首の紋章を見せ付ける。

 

「多分、知らないだろうな。おれはただの吟遊詩人として捕らえられていただけだからよ。だが聖戦士身分である事を明かせば、それなりに証言の根拠は出来てくる」

 

「タイミングとしても悪くはない、か……。だが相手はそこまで信用してくるか? 敵も読み違えればまずいという事くらいは分かっているはず」

 

 ランラの言う通りだ。相手だって馬鹿ではない。こちらの読みに完全に合致してくる保証もないのだ。

 

「出たとこ勝負、と結論付けてもいいんだが、今回大きいのは、白いオーラバトラー……つまり《ソニドリ》が《マイタケ》を下した事実だろう」

 

「……何でそこで《ソニドリ》が出てくるわけ?」

 

 ティマの問いかけにトカマクは指を立てた。

 

「まず一つ……、相手方の騎士団のオーラバトラーに《ソニドリ》そっくりの奴がいる。これは、恐らく前回、鹵獲された際に同一機体として《ソニドリ》に施されたチューンの反映だろう。つまり、ジェム領国からしてみれば、《ソニドリ》の骨格は弄りやすかった。相手にもデータがある。《ソニドリ》がどのような出力を発揮し、どれほどの性能のオーラバトラーなのかは」

 

「推測出来る……って言いたいのね。つまり、《マイタケ》を倒した時点で、《ソニドリ》とエムロードがどれくらいの使い手なのか相手には想像出来る」

 

「想定外の敵を相手取るわけじゃない。そうなった場合、相手の動きというのは画一化してくるものだ。作戦があるというのならばその作戦通りに。こちらが一切読めない動きはしてこない」

 

「でも、どっちにせよ、こっちにはノウハウがないのよ。対オーラバトラー戦だって、《ドラムロ》相手くらいにしか」

 

「そこで、《マイタケ》の残骸を使う」

 

 提言したトカマクにランラは言葉を投げていた。

 

「《マイタケ》の回収、及びグランの救助は相手からしてみれば優先度が高い。出端を挫くのに、これほど好都合な餌もないだろう」

 

 そこまで言われれば、全員が思い描いたのは同じであった。

 

「初手を確実に読み切る。そのための《マイタケ》と……《ソニドリ》の白星」

 

「騎士団が本当に来るかどうかは不明だが、来なければこっちに捕虜と鹵獲した機体が増える。いずれは戦わなければならない相手だ。相手からしてみれば太く短く、と言った具合に戦局を縮めてくるはず」

 

 トカマクの言葉にミシェルは顎に手を添えて考え込んだ。

 

「……確かに、頭さえ潰せれば今のエムロードとアンバーなら騎士団と渡り合えるかもしれない。問題なのは、相手の強さね。全くはかり知れない」

 

「《ゲド》が来ればまだ読みやすいんだが、新型が来る可能性も高い。《ソニドリ》を一日程度で完全改修した国だ。整備には事欠かないと見える」

 

「あたしの《ソニドリ》が不完全だったって言いたいの!」

 

 食ってかかったティマにエムロードが制した。

 

「落ち着いてって、ティマ。ティマの整備はいつだって万全だよ。《ソニドリ》を完璧にしてくれている」

 

「……エムロードが言うのなら、いいけれど」

 

「状況を整理するに、どっちにしたって誰かが囮にならないとどうしょうもないのは事実みたいね。トカマク、あなたがそれを快く引き受けてくれるのかしら?」

 

「おれ以外の適任もいないだろう。ユニコンで出る。今夜にはジェム領につけるはずだ」

 

「……こんな時にギーマがいないのはある意味では痛いわね。もし、ジェム領が本気で騎士団を率いてくれば、それなりに戦いへと持ち込まない手段もあったかもしれないのに」

 

「あの坊ちゃんじゃ、それも難しいだろう。あいつには外交問題を解決してもらわなきゃどうしようもないさ。今のゼスティアの財源じゃ、ジェム領と対等に戦うのには難しい」

 

「……でも、それを相手も思っていないはずもないわよね」

 

 ジェム領とてこちらと矛を交えるのに外交手段に打って出ていないとは限らない。こっちの手が相手には既に読まれていても不思議ではないのだ。

 

「今は、希望的観測に縋るしかないな。さて、おれは出る準備をする。ユニコンを一頭、借りるぜ」

 

 部屋を後にしようとするトカマクに、ランラが声を投げた。

 

「一つ聞く。アの国はこのような愚策を、犯したのか?」

 

 滅びた国の話題にそういえば、とエムロードは思い返す。アの国――、かつてトカマクが召喚された国に関して自分達はあまりに聞いていなかった。

 

 彼は言葉少なに応じる。

 

「……さぁね。策も何もなかったのかもしれない。案外、滅んだ国って言うのはそういうもんだ。トップが腐っていたのか、末端が駄目だったのか、なんて考え出すときりがない。ハッキリしてるのは、連中は死に絶え、おれは生き残った。それだけだ」

 

 ただそれだけのシンプルな答え。トカマクはともすると、聖戦士として舞台に立つ事さえも出来なかったのかもしれない。今出来るのは、ただその戦いを回顧する事のみ。何が起こったのか、何がこのバイストン・ウェルにもたらされたのか。それを未だ、自分達は知らないのだ。

 

「任せる。エムロード、アンバー」

 

 ランラに呼ばれ、二人は身体を強張らせる。

 

「一回の勝ち星でいい気にはなるな。まだ鍛錬の途中だ」

 

 そうだ。自分達は、まだ強くなれる。まだ強くなる余地が残されているというのならば。

 

「はい!」

 

 返事したエムロードにアンバーは気後れ気味に返す。

 

「は、はい!」

 

「《ガルバイン》の立ち回りは悪くなかったが、やはり一歩出遅れているぞ。戦場では戸惑えば死を招く。次の戦いでは醜態を晒すな」

 

 ランラの背中に、エムロードは付き従う。ミシェルが不意に自分の名を呼んだ。

 

「あなた……今で満足?」

 

 そう尋ねられて、一瞬だけ困惑してしまったのは何故だろう。

 

 現実世界に、地上界に戻らなければならないはずなのに。今はゼスティアの攻防で頭がいっぱいであった。

 

「……いずれは地上界に」

 

「そうよね。そのはずよね。私もそう。そのつもりでいる。いずれはゼスティアとジェム領の戦いなんて無視して地上界に帰りたい」

 

 それは、意外でもあった。ミシェルはここに残っても充分にやっていけそうであったからだ。

 

 それが顔に出ていたのか、彼女は不服そうにする。

 

「なに? 私がまるでここに残りたがっているように見えた?」

 

「……ちょっとだけ」

 

 盛大にため息を漏らされ、ミシェルは言いつける。

 

「いい? 私は別にゼスティアで名を上げようなんて思っちゃいないのよ。ここで強くなったって、どうせ果てがある。別に強くなる事にもこだわっていない。私は、満足出来るものが手に入ればそれでいいの」

 

「満足出来るもの……」

 

「それがいつ手に入るのかが分からないから、ゼスティア領に味方しているだけ。正直な話、どっちでもいいのよ」

 

「いいのか? ギーマに聞かれれば」

 

 ランラの忠告にも、ミシェルは風と受け流す。

 

「ああ、あれ? どうだっていいわ。あいつの器量の狭さには案外、ガッカリしているところだし。私はね、ここにないものが欲しいのよ」

 

「ここにないのも……」

 

 アンバーが反芻すると彼女は首肯する。

 

「そう、ここにない栄光。ここにない勝利。ここにはない……戦いの運命」

 

「よく……分からないな」

 

「分からないでしょうね。でも、分からなくってもいい」

 

 理解は端から期待していないという事だろうか。歩み去っていくランラをエムロードは追った。

 

「でもっ、ミシェルがいなかったら、ボク達はもっと混乱していると思う。それには感謝したい」

 

 こっちが投げた言葉に彼女は目を伏せていた。

 

「……そこまで立派じゃないのよ。私は」

 

 


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