リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第四十二話 妖魔降域

 

 しかしそれは《ソニドリ》ではない。

 

 ゼスティア城の城壁へと手をかけたのは、茶色の多層装甲を持つ、巨大なオーラバトラーである。

 

「……あれは」

 

『まさか……、《マイタケ》? グラン中佐のか。鹵獲されたと……』

 

《マイタケ》の装甲が裏返り、内側からミサイルが掃射される。広範囲の敵影を捉えたミサイルが幾何学の軌道を描き、敵陣営のオーラバトラーを退けていく。

 

《レプラカーン》にまでその射程は及んだ。

 

 戦場を掻き乱した攻撃に、《レプラカーン》のパイロットが怒る。

 

『……《マイタケ》を自由自在に……? まさか……』

 

《マイタケ》より直通通信がもたらされる。浮かび上がった表示にエムロードは息を呑んだ。

 

「……グラン」

 

『そちらは息災か?』

 

 まさかグラン本人が乗っているなど思いもしない。ランラはまず疑いの声を向けた。

 

「……貴様、この期に乗じて……」

 

『勘違いをしてもらっては困る。こちらも、義理は通したい。剣で負けたのだ。ならば、なおさらの事』

 

 肩入れするというのか。信じられず、エムロードは声を吹き込んでいた。

 

「でも……、祖国に……」

 

『刃を向けた。背信行為だ。……そうなるだろうな。だが儂は、ジェム領の軍事責任者。騎士団の跳梁跋扈を許すわけにはいかん』

 

《マイタケ》が爪を軋らせ、敵オーラバトラーを叩きのめす。広域射程のミサイル攻撃が《レプラカーン》を狙ったが、その直撃を許すほど相手もやわではない。

 

『……愚かな。地に堕ちたか! グラン中佐!』

 

『その声、エルムだな。騎士団の直属にいつからなった? 儂がゼスティアに捕縛されてからか?』

 

『……貴方はいつだって、僕の事を小ばかにして!』

 

『信じろとは言わん。だが矛は仕舞って欲しい。要らぬ血を流す』

 

『それを! 貴方の口から聞きたくはなかった! それだけの話ですよ!』

 

『……残念だ』

 

 敵オーラバトラーが撤退機動に入る。それを目にして《レプラカーン》が剣を払った。

 

『どうして逃げる? 向かえ! 敵は前にいるだろうに!』

 

『エルム様! このままでは全滅してしまいます。何よりも、……グラン中佐が』

 

『撃てないと言うのか? 中佐だから、撃てないとでも!』

 

 隙だらけの《レプラカーン》へと《ブッポウソウ》が距離を詰める。

 

「……戦場で痴話喧嘩とは。その首もらった」

 

《ブッポウソウ》のオーラショットの砲口が《レプラカーン》の装甲へとゼロ距離で当てられた。

 

『嘗めるな! 《レプラカーン》を!』

 

 オーラ・コンバーターより噴出したオーラが限界値を超え、その装甲を染め上げる。オーラの護りを得た《レプラカーン》の装甲に向けて放たれたオーラショットは確かにこの時、空撃ちであっただろう。

 

 ――それが通常弾頭ならば。

 

《レプラカーン》に撃ち込まれた弾丸が瞬時に炸裂し、その装甲板に根を張った。思わぬ攻撃だったのだろう、相手はうろたえる。

 

『……この弾丸は』

 

「《ソニドリ》の特性を応用した、試験弾頭だ。相手のオーラを触媒にして何倍にも膨れ上がる。お前がオーラを使えば使うほどに、その根は機体の奥深くまで侵食し、やがては自壊する」

 

「あたしが開発したんだけれどねっ」

 

 ティマの声に《レプラカーン》が剣を払う。根を断ち切ろうとするのだが、それさえもオーラを纏っての動きだ。一度根付いた試験弾頭は敵の装甲板へと容易に沁み込み、そのまま駆動系を支配しようとする。

 

『僕は地上人だぞ! 聖戦士だって言っている!』

 

《レプラカーン》が剣を掲げ、オーラを高めた。爆発的に膨れ上がったオーラにランラは慎重に声にする。

 

「……まずいな。試験弾頭の侵食よりも相手のオーラの向上が早い」

 

「逃げるしかないよ。《マイタケ》が敵を撤退させているうちに、城内に!」

 

「いや……、こいつは容易くないぞ。……対ショック態勢に入れ! ――来る!」

 

 何が、という主語を欠いたまま、エムロードはランラの操る《ブッポウソウ》が急速に飛び退ったのを関知した。

 

 直後に猛烈な頭痛が脳内を掻き乱す。

 

「……何だ、これ。頭が……」

 

 割れそうなほどに痛い。額を押さえるエムロードに、ランラが苦味を噛み締める。

 

「……やってしまったか、これは。まずいものを招いてしまった」

 

 何を、と面を上げたエムロードの瞳に映ったのは、何倍にも巨大化した《レプラカーン》であった。

 

 赤い装甲が肉腫のように膨張し、その機体そのものでさえも空を覆いかねないほどの巨躯である。

 

 巨人のオーラバトラーにエムロードは絶句した。

 

「これは……」

 

「ハイパー化だ」

 

 静かに口にしたランラは《ブッポウソウ》を下がらせようとして、《レプラカーン》が足を踏み鳴らしたのに舌打ちする。

 

 ただそれだけの動作のはずなのに。

 

 地面を伝ったオーラの波が、《ブッポウソウ》の駆動系を完全に麻痺させていた。

 

 瞬く間に《ブッポウソウ》の内部コンソールが黒く染まっていく。完全に停止した事を確認したその時には、雨粒を蒸発させるほどのオーラの灼熱が周囲を支配していた。

 

 曇り空が《レプラカーン》を中心に渦を巻く。バイストン・ウェルの全ての現象が、《レプラカーン》へと集中していた。

 

 草原に吹くオーラの風は荒立ち、大地を流れるオーラの血脈は《レプラカーン》の血となって、その体躯を凶暴化させている。

 

 ぎらついた眼光が《ブッポウソウ》を睨んだ。

 

 エムロードはその時初めて、「恐れ」を抱いた。今まで、敗色濃厚な戦闘になってもそれでも抱かなかった恐怖。それが今、大いなる存在となって目の前に屹立している。

 

(何だこれは。何だかよく分からないが、とても気分がいい。ああ、そうか。これが……力か)

 

 空間を鳴動させる《レプラカーン》のパイロットの声にエムロードは背筋を凍らせる。

 

 バイストン・ウェルそのものになってしまったかのように、相手の声は四方八方から聞こえてきた。

 

 哄笑が空間を震わせた。

 

(とてつもない! とてつもないぞ、これは! 《レプラカーン》がお前達よりも大きいという事は! 僕が勝つという事だ!)

 

 一歩踏み出すだけで何もかもが崩壊する。《レプラカーン》を制御する様々な現象が根こそぎ外れてしまったかのようだ。

 

 その装甲から棚引く瘴気は機体をぼやかせている上に、際限なく巨大化する本体は、次々とオーラを飲み込み、溶け落ちたどこまでも赤い空が広がる。

 

「……バイストン・ウェルに……、なった」

 

 そう言うしかない。相手はバイストン・ウェルになった。そう形容するしか、今は術を持たなかった。

 

(小さい、小さいな、お前達は! そしてお前もだ! グラン中佐! 裏切り者には死を!)

 

 大型オーラバトラーのはずの《マイタケ》が今はまるで赤子のよう。《レプラカーン》に見下ろされた形の《マイタケ》であったが、その闘志は死んでいないようであった。

 

 黒い爪を立たせて戦闘姿勢に入る。

 

(勝てるって? 勝てるってお思いですか? グラン中佐!)

 

『……話には聞いた事がある。オーラの暴走現象、ハイパー化。しかしそれは、身の破滅を意味する。今すぐオーラを解け。《レプラカーン》より降りろ。そうすれば、まだ……』

 

《レプラカーン》が吼え立てる。その咆哮だけで大地が荒れくれ、竜巻がそこらかしこに発生した。

 

(何様だ! グラン中佐、貴方は摘まれるんですよ。今、この僕に!)

 

《レプラカーン》が手を伸ばす。《マイタケ》が袖口から刃を顕現させ、その指先を引っ掻いた。しかし、すぐに傷口は再生してしまう。

 

(無敵だ! 《レプラカーン》は無敵になった!)

 

 今や、胸元までの大きさだけで雲を超えている。見上げるばかりの巨大さになった《レプラカーン》が片手を払った。

 

 それだけでゼスティア城が震え、今にも崩落しそうになる。

 

 遥か遠くの大地で爆発が生じ、草原が根こそぎ焼け落ちた。

 

「……手だけで」

 

 何をしたわけでもない。ただ手を払っただけ。それだけで破壊の爪痕が激しく刻まれる。

 

(……うまく制御出来ないなぁ。でもまぁ、これが強いって事なんでしょう? これが! 強いって事じゃなくって、何だって言うんだ!)

 

『呑まれているぞ! エルム! 情けなくもオーラの甘美なる囁きに惑わされるとは……、貴様それでも誇り高きジェム領の軍人か!』

 

 グランの叱責に《レプラカーン》より声が響き渡る。

 

(うるさいんだよォッ! あんたがそんなんだから、僕がこうなった! 分からないのか、この蚊トンボ!)

 

《レプラカーン》が剣を振るい上げる。大地を割るほどの大きさ、天地を縫い止めるほどの大剣。それは罪人を罰する稲光を想起させる。

 

 確実なる死を、エムロードは予感する。

 

 自分も死ぬ。グランも、ランラも、アンバーも、ミシェルも……、みんなが、死んでしまう。

 

 どうして何も救えない? どうして、何も出来ない? どうして……、こんな時に、こんな場所に収まっている?

 

「……そうだろ。翡翠」

 

 エムロードは《ブッポウソウ》のコックピットの強制射出ボタンに手をかける。

 

 空気圧縮で《ブッポウソウ》の結晶体が弾き出された。その行動にランラは目を瞠る。

 

「……何をやっている! やり過ごせ! ハイパー化は諸刃の剣だ! 使用すれば確実にパイロットは死ぬ! ……今は静観しろ。グラン一人の犠牲で済むかも知れん」

 

 その言葉にエムロードは静かに首を横に振った。

 

「いいえ、でもボクは、それを許せない」

 

「エムロード! それは情けなくないよ! あんなの化け物じゃない! 立ち向かうほうが……」

 

「どうかしてるって? ……どうかしているのかもね、ボクは。でもさ、聖戦士って、おだてられるための条件じゃないはずでしょう。おだてられて、囃し立てられて、それで喜んでいるのなら、……それは嘘だ」

 

 結晶剣を手にエムロードは駆け出していた。空気中に充満する強烈なオーラ。敵意のオーラが渦巻き、この領域を踏み締めている。

 

 ――だが、それがどうした。

 

 相手は確かに化け物のように大きい。相手は確かに限りなく不可能に近いほど強い。相手は確かに、自分では遥かに及ばないほどのオーラ力。

 

 ――だから、それがどうした。

 

 結晶剣を正眼に構える。

 

 それをようやく視界に入れたのか、《レプラカーン》より声が響いた。

 

(白いオーラバトラーの聖戦士! 何をやっている!)

 

「……立ち向かうと決めた。それが答えだ」

 

 狂気の笑い声が大気を打ち震わせた。

 

(オーラバトラーもなしにか? まさか、その小さな、松明のように小さなオーラで、僕を倒そうとでも? そんなもので、僕に立ち向かえるとでも?)

 

「ああ。《ソニドリ》が来れば、ちょっとはまだマシな成りに見えるかもしれない。でも、ここでお前を討つのは《ソニドリ》に乗ったボクじゃない。聖戦士、エムロード! ただの一人に過ぎないボクが、お前を討つ!」

 

(狂ったか? そんなのでこの《レプラカーン》を倒せるはずがない!)

 

「倒す、倒すんだ!」

 

 結晶剣の内側よりオーラが灯火を得る。しかしそれは、目の前で爆発する炎を前にして、水鉄砲で打ち消そうとでも言うようなもの。

 

 あまりにも灼熱。あまりに常識外れ。

 

《レプラカーン》の眼窩が地上のエムロードを睥睨する。

 

「何のために来た! 何をするために来た! それはただ呼ばれたからだけじゃないはずだ! 意味があるはずなんだ、価値があるはずなんだ、そうだと信じたい! だから、ここでボクは剣を取る! ただの戦士として、刃を握る!」

 

(聖戦士など、笑わせる! そんなものはただの必要条件だ! 世界を変えるのは僕、エルムのほうだ!)

 

「……壊すのは、の間違いだろ。ちょっと力を持ったからって、思い上がるのはいい加減にしろ。お前の力が! 聖戦士のそれだと言うのならば、ボクはそれを壊す!」

 

(潰れろ! 聖戦士の成り損ないが!)

 

《レプラカーン》の剣が落ちるのは、まるで天が落ちるかのよう。地を打ち砕く稲妻。破壊の一閃が今まさに、罰する絶対者のように打ち下ろされようとしている。

 

 だが、恐れて何とする。

 

 震えて何とする。

 

 怯んで何とする。

 

 ここで――、退いて何とする。

 

 エムロードは満身より吼える。丹田に込めた声と相乗してオーラの輝きが結晶剣より乱反射した。

 

 魔を討つのは虹色のオーラ。

 

 禍々しい赤の隕石が、その小さな奇跡を打ち砕かんとする。

 

「ボクはゼスティアの聖戦士! エムロードだ!」

 

 オーラの光条が赤い怨念へと一直線に奔る。

 

(脆いだけだ! そんな希望など、消えてしまえ!)

 

 そう、消えるだけかもしれない。何もかも潰えて、何もかも終わって。

 

 それがこの「狭山翡翠」の終わりだと言うのならば。それでも受け入れよう。

 

 だが立ち向かわないのだけは嘘だ。立ち向かわず、逃げるのだけは絶対に嘘だ。

 

 それは「狭山翡翠」ではない。否、――聖戦士、エムロードのする事ではない。

 

 地は穿たれ、空は消失点の向こうに消え、大地は粉砕し、海と大地の静謐が貫いたバイストン・ウェルは、ここで消滅する。

 

 そう思えても何ら不思議はなかった。何もおかしくはなかった。

 

 ――景色が溶ける直前に、虹の皮膜が世界を覆わなければ。

 

 螺旋のようにどこまでも続く回廊。万華鏡の煌きが赤い虚飾を吸い込んでいく。

 

 その現象は空の向こう側、こことも知れぬどこかから生じているようであった。

 

 空と大地の境目が消え、《レプラカーン》の機体が薄靄に阻まれる。

 

(これは……! オーラ・ロード……!)

 

「オーラ・ロード……」

 

 どうしてだかこの時、いや、それは必然だったのかもしれないがこの時、エムロードは「彼女」の位置が分かった。

 

 一度しか見た事のないその姿でも、それは魂の基盤に刻まれた姿であったからであるかもしれない。

 

 ここへと「呼んだ」存在。コモン人の叡智を超え、神秘の域へと、その指先をかけるに相応しい妖精。

 

 それは、神域の巫女。

 

 ゼスティア城の頂上より天を指差す女性を、この時確かに見据えていた。

 

 麗しいブロンドの髪に、物憂げな水色の瞳。

 

 ローブに身を包んだその姿。空を覆う悪鬼へと、その指先が据えられる。

 

(……貴様、エ・フェラリオ!)

 

 聞こえるはずがないのに、この時、エムロードはその声を聞いていた。

 

 ――逝きなさい。その忌まわしき影は、バイストン・ウェルの外へと。

 

 城壁が浮かび上がった。無数の兵士の影が中空へと吸い込まれていく。

 

《レプラカーン》は無限に彩られた虹の孔へと飲まれようとしていた。赤い影が天空を引き裂いてもがく。

 

(オーラ・ロードを開いて、向こう側へ……! だがそれは! 先延ばしにするだけだ! 三十年前の愚かしさを忘れたか!)

 

《レプラカーン》のパイロットの声が遠くなっていく。踊るように地上の廃材が宙を舞い、それぞれが無数の軌道を描いて、空へと消えていく。

 

《マイタケ》の巨体が無重力の虜となった。まさか、あれほどの大きさのものが、と目を見開いた直後、一機のオーラバトラーが飛翔する。

 

『翡翠――!』

 

《ガルバイン》がこの現象の只中を突っ切って自分へと手を伸ばす。その手へとエムロードは触れようとして、不意打ち気味の暴風に煽られた。

 

 オーラの辻風がエムロードを地面より浮かび上がらせる。

 

 このまま虚空へと呑まれるかに思われた身体を、抱き留めたのは《ブッポウソウ》であった。

 

 再起動した《ブッポウソウ》が自分を必死に地面へと縫い止めている。

 

「……ランラ」

 

『ここで死なせるわけにはいかん』

 

「でも……、これは……」

 

『翡翠!』

 

《ガルバイン》が重力の反転した世界で飛翔能力を失い、空へと吸い寄せられる。

 

 エムロードは手を伸ばした。だがその機体は、もう赤い影と共に虹の裾野に至っている。

 

「助けなきゃ……! 《ブッポウソウ》で……!」

 

『馬鹿を言うな! これはオーラ・ロードが開いているんだ! 無闇に飛び込めばお前も呑まれるぞ!』

 

「でも……、琥珀をボクが守らなくっちゃ……! だって言うのに、こんなの……!」

 

 結晶剣を強く握り、エムロードは念じる。《ソニドリ》へと命令を遣わそうとして、それが阻害されたのを感じた。

 

 誰でもない、《ソニドリ》を押し留めるオーラの主は――。

 

「……ミシェル? 何で! 何でさ!」

 

 像を結んだミシェルに問いかける間にも空は荒れ狂う。大地が吼える。岩石が舞い上がり、森林より根こそぎ木々が吸われていく。

 

「琥珀!」

 

 叫んだ声も虚しく、次の瞬間には何もかもが静寂に落ちていた。

 

 ここにいたはずの《レプラカーン》もいなければ、敵国の奇襲兵達も。もっと言えば、善戦してくれたグランの《マイタケ》も、そして無二の友も。

 

 あまりにも多過ぎるものを犠牲にして、バイストン・ウェルは再び、均衡を保っていた。

 

 だが、それがもう戻らぬものであるのは疑いようもない。

 

 エムロードは《ブッポウソウ》の手から離れ、結晶剣の切っ先を突きつけていた。

 

 他でもない、ゼスティア城のエ・フェラリオへ。

 

 その神秘なる瞳は、悲しげに伏せられている。

 

 しかし、この殺意だけは収まりようがなかった。

 

「何をした! お前は!」

 

 ――こうするしかなかった。元はと言えば私が、彼らの命に逆らえなかった。その罪なのだから。

 

 頭の中に直接響いてくる声に、エムロードは吼え立てる。

 

「だったら、どうしてこんな……、こんな結末を……!」

 

 ――聖戦士、エムロード。いえ、狭山翡翠。貴女は知らなければならない。ここに呼ばれた理由を。その大いなる罪悪を。時空を超えた、災厄の種である事を。

 

「災厄の種……? 何を言っている。ボクを呼んだのはお前のはずだ!」

 

 ――そう、そういう事に、この時間ではなっている。でもそうではない。連綿とした時の調べの中に、貴方はいる。巨大な異端の狂戦士、その影と重なって。

 

「分からぬ事を……。琥珀を返せ! みんなを……返してくれぇーっ!」

 

 その場に崩れ落ちる。誰も守れなかった。誰も救えなかった。何一つ、成し得なかった。

 

 悔恨が熱い熱となって頬を伝い、胸を焦がす灼熱の怨嗟にエムロードはエ・フェラリオを恨む。

 

 憎い……、憎い!

 

 だからこの時、それを呼んだ事を忘れていた。それが自分の意思と繋がっている事を。それが、自分の、願いと共にある事を。

 

 エ・フェラリオへと踊り上がった機影を、エムロードは目にしていた。

 

 その手に炎熱のどす黒い剣を握り締めた、暗黒のオーラを宿したオーラバトラー。それが自分の代わりに、エ・フェラリオを断ち切ろうとしているのを。

 

「《ソニドリ》……!」

 

 振るい上げられた《ソニドリ》の攻撃は彼女を打ち砕くかに思われた。

 

 だが、それを阻んだのは横合いから放たれたオーラショットである。

 

 砲撃の主は森林から大軍を率いていた。

 

 ――漆黒の鎧に、青い結晶に包まれた眼光。忘れるはずがない。その因果を。

 

「……あれは、《キヌバネ》……?」

 

 だがどうして。どうして《キヌバネ》が――、蒼が《ソニドリ》を止めるのか?

 

 理解出来ないまま滑り落ちていく思考の表層をエ・フェラリオの声が弾く。

 

 ――聖戦士、ザフィール。いいえ、時の旅人、と銘打ったほうがいいでしょうか。

 

『分かっているのならば話は早い。我々は時のいや果てより、ここに来た。我がジェム領の軍備は……随分と様変わりはしたが、それでもここに来るまで、出来るだけ間違いの布石は打たないようにした。これが最小の間違いだけで済んだ結末のはずだ』

 

 蒼の言っている事の意味が分からない。今、何が起こっているのかも。

 

 ブロンドの髪を持つエ・フェラリオは自ら名乗っていた。

 

「私の名前はジェラルミン・ジュラルミン。エ・フェラリオとして、この戦いを調停する。いずれ起こるであろう、地上界での戦いを、私は止められなかった。何度も繰り返したこの時間の試行を、少しでもまともにするために、オーラ・ロードを開き、そして行動したのですが……、貴女がここにいるという事は」

 

『ああ。諸悪の根源を取り除きに来た。《ソニドリ》、そして翡翠。いずれ合見えるあの場所に行く前に、――わたくしはお前達を破壊する』

 

 

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