リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第五十五話 剣劇舞踊

 

 踏み込みは浅く。かといって敵影を捉えた瞬間の斬り込みは何よりも深く。

 

《ゲド》が前衛を務める先輩騎士の《ドラムロ》の背中より躍り上がる。切り結んでいた《ブッポウソウ》が突然に膨れ上がったオーラ反応に目線を振り向けたその時であった。

 

 打ち下ろした剣を《ブッポウソウ》が受ける。その隙をついて《ドラムロ》が炸裂弾を放った。眩惑に《ブッポウソウ》の統率が乱れる。

 

『これは……目視戦闘が!』

 

『怯むな! 敵とて通信を使っている! ジャミングすれば……』

 

「そんな暇は与えない」

 

 敵をレーダーで見るのではない。オーラで見るのだ。

 

 それを心得たジェム領の部隊はすぐさま前に出ていた《ブッポウソウ》へと斬り込んでいた。剣がコックピットを引き裂き、その武装を断絶する。

 

 数機の《ゲド》が上がってきたのを敵パイロットが捕捉する。

 

『《ゲド》の編隊……! 地上人か!』

 

『オーラ強いぞ! 嘗めてかかるなよ!』

 

 敵の通信域に蒼は接触回線を開いていた。完全に虚を突かれた相手のオーラバトラーへと言葉を投げる。

 

「何もかも……遅い」

 

 背後から突き立てた切っ先がコックピットを貫いた。さらに加速度を得た《ゲド》部隊が敵《ブッポウソウ》編隊を押し返していく。

 

『こんなの……想定外だ! ジェム領はもう、地上人の編成を使いこなしたと言うのか!』

 

『撃て! 弾幕を張って敵を近づけさせるな!』

 

 敵《ドラムロ》が砲戦に撃って出ようとする。《ゲド》は装甲が脆い。そのため前に出すぎれば格好の的だ。

 

『騎士団長。《ゲド》で引きつけるのはここまでです。後は……』

 

『分かっている。引き受けよう。俺と――この《キヌバネ》が!』

 

 粉塵を引き裂き、漆黒の機体が大地を踏み締めた。その威容に敵陣営がうろたえたのが伝わってくる。

 

 青い結晶体を煌かせ、灯ったオーラの炎が頭部に収まった四つ目の動きと連動して敵影を睨む。

 

 漆黒の騎士が《ドラムロ》の火線を蹴散らし、ゼスティアの指揮官機へと肉迫していた。その速度があまりにも通常のオーラバトラーを凌駕していたためだろう。相手の通信に混乱が生じる。

 

『なんて速度……! こいつが例の』

 

「ああ。俺の《キヌバネ》だ!」

 

 払い上げられた剣閃が敵のリーダー機の両腕を切り裂き、そのコックピットへと突きつけられる。どう見ても王手の戦局。敵とて馬鹿ではないのだろう。

 

 残存部隊が撤退していく。その去り様に先輩騎士が声にしていた。

 

『張り合いがないぜ! こんなんじゃよ!』

 

『そう粋るものでもない。敵の戦力がこの程度で御の字だと思うべきだ』

 

 ザフィールの驕らない態度に先輩騎士は並走する《ゲド》へと通信を振っていた。

 

『よくやるじゃねぇか。まだ二週間だぞ』

 

『聖戦士達は素質のある者達であった。それが戦場で実感出来る。何よりも心強いじゃないか』

 

 ザフィールの言葉に統率の乱れた《ゲド》部隊を蒼は率先して導く。

 

「《ゲド》編隊! 遅れが見えるぞ! 一秒のロスも命取りと思え!」

 

『はい!』

 

 返ってきた声に先輩騎士が囃し立てる。

 

『怖いねぇ。二週間でもう指揮官の風格が出るって奴は』

 

『そう言ってやるな。アオはよくやってくれている』

 

 ザフィールのお墨付きに蒼はコックピットで拳を握り締める。この二週間で身についた力に、ようやく自信が持ててきたところだ。

 

「恐縮です。ザフィール騎士団長」

 

『かしこまるなよ。そこで気を張り詰めるのは悪い癖だ』

 

『まったくだぜ。のし上がったのはお前さ。何も誰かに気を咎められる事だってないんだ』

 

 先輩騎士とザフィールの言葉が自分の強さを裏付けてくれている。それでも、まだ、という一念があった。

 

 ゼスティアを退け続け、二週間。しかしながら勢力図は変わっていない。盤面を覆すのにはまだ圧倒的に足りないのだ。

 

「ですが……ゼスティアの侵攻は全く衰えません。何か、国力の源でもあるのでしょうか?」

 

『俺達でも分からない、資金源でもあるのかもしれない。探りを入れるのにはそろそろ時期的にも申し分ないな』

 

《キヌバネ》が戦場を後退していく。その一機に続いてジェム領のオーラバトラーは城下町へと帰投ルートを辿っていた。

 

 今に、国家繁栄の礎を築ける。そう信じて疑わなかった。

 

 ――だからなのか。それとも、それは始めから決まっていたのか。

 

「……ちょっと待ってください。あれは……黒煙?」

 

 蒼は最大望遠の先にある城下町より上がる噴煙を目にしていた。《キヌバネ》が敵の気配を感じ取り、その機動を鈍らせる。

 

『……嘘だろ。留守中に強襲なんざ……』

 

『まさか……。気を抜くな! 者共! 近くに敵が張っているはず!』

 

 そうだ。城下町に仕掛けるほどの戦力的余裕があるのならば、近づけさせない策も巡らせているはず。そう確信した刹那であった。

 

 地上人の《ゲド》部隊の一機がワイヤーにかかり、爆発の連鎖を及ぼす。

 

 しかしオーラバトラーの装甲を砕くほどではない。すぐに、これが陽動、あるいは錯乱のための作戦だと判断したのは自分とザフィール、それにジェム領の熟練騎士達だけで、クラスメイトの地上人はそうはいかない。

 

 爆発の余韻に紛れ、白い旋風が巻き起こる。

 

《ゲド》を一機、また一機と剣圧が叩き潰していく。その太刀筋に迷いはない。こちらの包囲陣を潜り抜け、痩躯の機体が《ゲド》編隊へと叩き込む。

 

『敵の新型だ! 密集陣形!』

 

 そう発した《キヌバネ》へと刃が振るわれていた。鞘から抜刀した《キヌバネ》が剣を受ける。

 

 硬直した敵機を蒼は確かに目にしていた。

 

 緑色の結晶をその装甲に宿した機体――白亜のその鎧はアルビノのキマイ・ラグを使ったのだと判別出来る。否、それ以上に、その姿はまさしく……。

 

「……あの時の、白いオーラバトラー……?」

 

 だが、何故。どうして、ここで? という疑念が突き立つ中で悲鳴が迸った。クラスメイト達の断末魔が通信に焼きつき、蒼は目をきつく瞑る。

 

 白いオーラバトラーが滑るように《キヌバネ》を切り払い、背後へと回り込んだ。

 

『……なんてぇ、速さ』

 

 ザフィールの言葉が焼きつく前に蒼は前に出ていた。《ゲド》でその太刀を受け流そうとするが、出力が段違いだ。

 

 敵機は勢いを殺さず、力任せに剣を振るい落とす。それだけで脆い《ゲド》の装甲はオーラの風に軋んだ。

 

『あまり迂闊な真似をするな! 撃たれるぞ!』

 

 ザフィールの言葉に先輩騎士を含め、ジェム領の騎士団は動きを止める。下手に射程に入り込めば次にやられるのは自分だと彼らは瞬時に判じたのだろう。

 

 だが足を止めた地上人の《ゲド》部隊は違う。

 

 彼女らに熟練の二文字はない。代わりにあるのは未熟の絶望のみ。

 

 切り裂かれ、コックピットを無残にも貫かれる。その断末魔を聞いていられなかったのか、ザフィールが《キヌバネ》を飛翔させた。

 

『貴様……っ、それでも騎士か! 無抵抗の相手に対してのその行動!』

 

 逸った剣筋を読んで敵は後退する。その動きの流麗さに蒼は直感で口にしていた。

 

「もしや……地上人?」

 

『地上人だって? あり得んだろ! そうだとすればゼスティア連中、何回オーラ・ロードを開いたって言うんだ!』

 

 先輩騎士が《ドラムロ》で援護射撃するも、白いオーラバトラーは軽業師めいた動きでそれを回避し、《ドラムロ》の直上に回る。

 

 それを《キヌバネ》が跳ねさせた切っ先で防いだ。白亜の機体は全く衰えを見せず、そのまま横払いする。

 

 舌打ちと共に《キヌバネ》が下がる。

 

『……まともな奴とは思えんな。それに、あの機体……、《キヌバネ》と同等か、それ以上』

 

 蒼はどうするべきか判断を下しかねていた。ザフィールに言うべきなのだろうか。あの機体はいずれ破滅をもたらす。ここで斬り伏せなければ。そう思う反面で、勝てるのか、という逡巡が勝る。

 

 ザフィールと《キヌバネ》でも防ぎ切れないかもしれない脅威。それを前にして、立ち竦むしかない。勝てる、勝てないの土俵に相手は立っているのだろうか。

 

『……アオ! 遅れているぞ! 剣を!』

 

 ハッと面を上げたその時には、敵機がこちらへと迫っていた。咄嗟に剣筋を上げ、刃を受け流そうとしたが、敵の出力の激しさに息を呑む。

 

 緑色のオーラが、オーラ・コンバーターより絶えず放出されている。そのオーラ密度の何という濃度か。可視化されたオーラはその機体の潜在能力を示している。

 

 ――駄目だ、と一瞬でも思ってしまった。感じてしまった。それゆえに、オーラマシンは出力を下げてしまう。

 

 パイロットのポテンシャルをもろに受けるのがオーラバトラーの弱点だ。殊に心の弱さを一度でも露呈してしまえば、その力は半減以下になる。

 

 剣を受け止め切れずに、烈風の如き敵の刃に圧倒される。《ゲド》がたたらを踏んだその時には必殺の太刀が眼前に迫っていた。

 

 あ、と声を上げる前に命は絶たれるであろう。

 

 そう確信した、その時である。

 

『アオ! やらせねぇっ!』

 

 先輩騎士の《ドラムロ》が割り込み、白いオーラバトラーの剣をその機体で受ける。半身が切り裂かれ、胴体を割られた形の《ドラムロ》が爆ぜた。

 

「……そんな。まさか!」

 

 粉砕された《ドラムロ》より断末魔が上がった瞬間には、白いオーラバトラーがその勢いに圧されている。

 

 ほんの一瞬だが、足を止めた。それを逃すザフィールではない。

 

『墜ちろォッ!』

 

 突き上げられた剣にオーラの加護が宿り、その剣閃を何倍にも拡張させた。

 

『オーラ、斬りィっ!』

 

 叩き落された一撃を敵機は受け止める。白い装甲が捲れ上がったが、深追いはしない主義なのだろう。

 

 すぐさま反転し、攻撃を受け流した。ダメージはほとんどないも同然。

 

 白亜のオーラバトラーの強襲に編隊は絶大な打撃をもたらされていた。ザフィールが《キヌバネ》の剣を仕舞わせる。

 

 それが戦闘終了の合図であったが誰も喝采しなかったのはここでの戦果があまりにも絶望的であったからだろう。

 

『……やられたな。掴まされたんだ。弱い部隊に気を引かれている隙に本隊が城下町を襲う。そいつで慌てて取って返したところを本丸であるエースで叩き落す、って寸法か。あの白いオーラバトラー……なんて強さだ』

 

 蒼はそれだけではないのを予感していた。あの機体、白いオーラバトラーはいずれ《キヌバネ》と戦い、そしてジェム領国は崩壊する。

 

 だがそんな残酷な事実、今の彼らに言えるものか。

 

 先輩騎士は死に、そしてクラスメイトの中でもオーラに長けた者達は全滅した。

 

 騎士団の名折れ、などという生易しいものではない。まさしく敗走の二文字が、自分達に突きつけられた現実であった。

 

 

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