リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第六話 奪還ノ策

 

 作戦は大きく二つ、とミシェルは口火を切っていた。

 

 卓を囲むのはゼスティアの戦士達である。誰もが皆、オーラバトラーに乗れるだけのオーラ力を備えているわけではなかったが、覚悟だけは人一倍であった。

 

 腕に包帯を巻いたギーマが問い返す。

 

「作戦? もう《ソニドリ》は破壊されているのでは?」

 

 その言葉にアンバーが目を伏せる。

 

「ギーマ、あんたデリカシーの欠片もないのね。エムロードが鹵獲されたのはあんたのせいでもあるのよ!」

 

「翌日に試すはずだった」

 

「どっちにしたって実験動物みたいな扱いじゃない! オーラ・ロードを開くにしたって、手順ってものがある!」

 

「ジュラルミンはフェラリオだ。問題はないはず」

 

「そういう物言いが、やらなくてもいい戦争を招く!」

 

 食ってかかったところで今はどうしようもあるまい。ミシェルはアンバーへと言葉を振っていた。

 

「……アンバー。私にも責任はある。でも、これはもう戦いなの。あなたのオーラ力ならば確実にオーラバトラーには乗れる。乗って、一緒に戦ってくれる?」

 

 アンバーはしかし、懐疑的な様子であった。

 

「オーラバトラー……でも翡翠みたいにうまく扱えるかどうか……」

 

「《ソニドリ》は特別なのよ。もっと扱いやすい機体がある」

 

「《ドラムロ》か? だがあれは出せんぞ。我が方の重要な火力なのでな」

 

「分かっているわ。回収した《ゲド》があるわよね?」

 

 まさか、と全員が色めき立った。

 

「あの自爆紛いの真似をした《ゲド》に? あんな旧式オーラバトラー、物になるわけがない!」

 

「それはコモンの価値観よ。地上人ならばオーラの力で適性は左右される。それに、あの機体、外装を起爆しただけで骨格自体は生きている」

 

「あのティマがいない! フェラリオなしで修復作業なんて!」

 

「ミ・フェラリオは同列じゃないんでしょう?」

 

 痛いところを突かれたのか、ギーマが絶句する。

 

「しかし、ミシェル様。《ゲド》を辛うじて修復しても、まだ難しいですよ。我が方の戦力は、《ドラムロ》五機に《ブッポウソウ》二機が関の山……」

 

「《ブッポウソウ》も、一機は中破だ。こんな状態で何が出来る?」

 

「諦めるのは早いって事だけよ。エムロードと《ソニドリ》なしで、ジェム領国を取れるとでも?」

 

 それは、とギーマもさすがに口ごもった。

 

「初陣で彼女はオーラによる斬撃を会得してみせた。伸びしろは大きいと見るべきよ。それをむざむざ、敵に手渡して、国を滅ぼす?」

 

 挑発に、ギーマが落ち着き払って応じる。

 

「だが《ゲド》だぞ?」

 

「整備班にはもう修復作業を頼んである。予備パーツはあったわよね?」

 

「あれは《ブッポウソウ》の……!」

 

「使わないのなら使わせてもらうわ。異存はないわね?」

 

 有無を言わせぬ声音にギーマを含んだ全員が押し黙った。ミシェルはアンバーの手を引く。

 

「行きましょう。少しでも早く、オーラバトラーに慣れないと」

 

「……地上人同士で」

 

 ギーマの吐き捨てるような言葉を背に受けながら、ミシェルはアンバーに囁きかける。

 

「……大丈夫よ。エムロードは死なせない」

 

「その……翡翠がすごい……この世界では強いんですよね」

 

「オーラ力は私の倍近くあるでしょうね。あの《ソニドリ》ってオーラバトラー、まともに動いた事なんてないのよ。それをいきなり動かしてみせた。それだけでも素質は充分」

 

 思いも寄らなかったのか、アンバーは目を見開いていた。

 

「そんなにすごいんですか……」

 

「格段に違う、とでも言うべきかしら。元々、地上人はコモン相手には優位に立ち回れるらしいけれど、私の場合はそれほどまでに劇的にオーラ力が開花しなかった。無論、この国ではエースのつもり。でも、あの子はもっとよ。もっと先に行ける」

 

 自分としては褒め過ぎなくらいだが事実ならばそれを隠し通す意味もない。それに、アンバーに乗ってもらいやすくなるためには少しくらいの誇張は必要であった。

 

「あたしも……出来るんでしょうか?」

 

「地上人はオーラバトラーを動かせば変わってくる。あなたもそう」

 

 格納庫へと降り立ったミシェルはまず、《ゲド》の整備状況を尋ねていた。

 

「どう? 直りそう?」

 

「外装パーツがほとんど焼けてます。これは総取っ替えですね。《ブッポウソウ》の予備パーツを使っていいのなら《ゲド》の内蔵オーラを使っての修復は可能です」

 

「元々、貯蓄しているオーラ力が強かったの?」

 

 整備班長が自分を手招く。囁いたその声にはアンバーに聞かせたくない話なのが窺えた。

 

「……乗っていたのは地上人です。死骸はそりゃ酷いもんでしたが、オーラの馴染みが違う。《ドラムロ》や《ブッポウソウ》に一から慣れさせるよりかは、同じ地上人ならば……」

 

「手っ取り早い、ってワケね」

 

 バイストン・ウェルの技術者ならばまず考えるべきはオーラの馴染みと適性。《ゲド》は元々必要なオーラ力が《ドラムロ》などに比べれば段違いである。その扱いにくさに比して戦闘能力は《ドラムロ》よりも格下。ゆえにこぞって《ゲド》など誰も使いたがらないものだ。

 

 だが今回、敵は《ゲド》を編隊レベルで使ってきた。つまり相手側には地上人クラスのオーラ力を持つ人間が腐るほどいるという事実を示している。

 

 それを加味すれば完全なる劣勢。こちらにいる地上人はアンバーと自分のみ。隠し通しつつ、エムロードの奪還を画策しなければ完全に読み負けるであろう。

 

「分かった。アンバーには」

 

「伝えませんよ。こんな事実、酷なだけでしょう」

 

 その認識には頷きつつ、ミシェルはアンバーを《ゲド》の下へと手招いた。

 

「装甲さえ継ぎ接ぎすれば、いつでも出せそうよ。問題なのは、あなたの心の話だけれど……」

 

 こればかりは拒絶されればそこまで。覚悟していたミシェルはアンバーの次の言葉に目を見開いた。

 

「……やります。やらせてください」

 

「本当に、いいの? だってこれは、あなた自身も危険に――」

 

「だって、翡翠を助けるのにはそれしかないんでしょう? あたし、翡翠のためなら、何だってやる。何だって……」

 

 何か、こちらにはこちらで窺い知れぬ闇がありそうであった。それを今、根掘り葉掘り聞く気にはなれないが。

 

「よかった。《ゲド》を改造し、乗れるようにしておくわ。その前に、ちょっと模擬戦でもどう? 私は《ドラムロ》に乗る。あなたは私の《ブッポウソウ》に乗って」

 

「……模擬戦、ですか?」

 

「いきなり《ゲド》で実戦なんて無茶よ。まずは力を見ないと」

 

 特攻させるのにも、《ゲド》だと禍根が残る。あくまで相手の自由意志に任せたという建前が欲しい。

 

「……分かりました」

 

 嘆息をつきつつ、ミシェルは手招いていた。

 

「じゃあ、これに乗って。《ブッポウソウ》はそれほど操縦の難しいオーラバトラーではないわ」

 

 胸部の操縦席を開き、一つ一つ説明する。

 

「操縦桿は一つ。操縦席はマジックミラーになっていて、通信方法は一応確立されている。それでも不安なら、これにかけて」

 

 通信端末を翳し、相手の電話番号を読み取る。

 

 地上界ではありふれた光景であったが、バイストン・ウェルでは異端のような行動だ。

 

「私は《ドラムロ》で出るわ。武器は剣だけにしましょう。そのほうが分かりやすい」

 

 相手の力量をはかるのに火器に頼るよりも剣による実際のオーラ力を計測したほうが手早いはずだ。

 

 ミシェルは《ドラムロ》へと乗り込み、息を詰めた。

 

「さぁ、始めましょう」

 

 


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