リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第六十三話 伝説継承

 

 起動キーに用いるのは、このジェム領で受け継がれてきた騎士団長の剣なのだと言う。

 

 だからこそ、二つとない品のはずだ、とザフィールは説明していた。

 

《キヌバネ》は腹腔のコックピットを抉り出された形で最奥に背中を預けている。

 

 まだ骨格段階だが、胎盤のように取られたコックピットブロックだけには反応出来るように調整されていた。

 

「元々、俺の剣を差して、セーフティを解除する――そういう仕様にしていたつもりだったんだ。これは鹵獲された時に、相手の戦力に堕ちるのを防ぐためだったんだが……偽装防止のための剣が、まさか二つあるって言う奇縁に巡り会うとは……」

 

 ザフィールは後頭部を掻いていた。研究者も渋面を突き合わせる。

 

「騎士団長の剣は偽装防止の措置が何重にも施されているんです。装飾、剣の長さ、そして刃こぼれのパターン……あらゆる面から偽装不可能な領域に達しているはずなのですが……この剣はまるで写し身だ」

 

 蒼の所持していた剣は研究者達の探究心を満足させるために使われている。もちろん、これも《キヌバネ》完成のためだと思えば何の不都合もないのだが、それでも「前の」ザフィールが使った剣を妙な観点で調べられるのは気分がいい話でもない。

 

「……あの剣の持ち主、お前じゃないんだな?」

 

 その微妙な視線の変化を感じ取ったのか、ザフィールの質問に心臓が飛び出すかと思ってしまった。

 

「……いえ、あれはわたくしの剣です」

 

「嘘が下手だな。それに、だとすればもっと妙な話だ。地上人にはそっくりそのまま他人の剣を模倣する術がある事になってしまう。しかもコモンの剣だ。この奇妙な符合にはそれなりの措置が取られるだろう」

 

 まさか極刑か、と身を強張らせた蒼にザフィールはいたずらっぽく微笑む。

 

「……冗談だ。だが、それにしたって二つとない剣がもう一つ、か。奇縁には違いない」

 

「この剣を用いて、出来る事は大きく二つあります」

 

 研究者の声にザフィールが促す。

 

「話してくれ」

 

「まず一つに、あまり無茶をさせられなかった起動キーであるこの刀剣を、試験に回すのが出来るようになった事ですね。起動キーである騎士団長の剣は厳重に守られるべきですが、こちらを使えば今まで無理だと思われていた事が多数出来るようになります」

 

「たとえば?」

 

 研究者達は蒼の剣を検分し、そして声にする。

 

「テストパイロットの選出、そして《キヌバネ》のオーラ力による出力の変動値の検出も可能です。つまり、今までよりもより高次元に、《キヌバネ》の開発を進める事が出来るようになった、というわけですね」

 

「《キヌバネ》完成までに貢献出来るって寸法か。分かりやすくっていい」

 

 ザフィールの言葉に、ですが、と研究者は声を翳らせる。

 

「……二つとないものが二つあるという事はその分、隠密性に関しては下がったと思うべきでしょう。我々の判断で申し訳ないのですが、この二つの剣を知っているのは限られた人員にすべきでしょうね」

 

 その言葉にザフィールが顎に手を添えて思案する。

 

「元々、鹵獲防止のための機構だからな。確かに二つあればまずい……か。しかし、それなりに知れ渡っているんじゃないのか?」

 

 自分は転生時に所持しているのを何名かに見られてしまっている。それだけで迂闊であったが、研究者は、いえと首を横に振った。

 

「それに関しては問題ないでしょう。起動キーの検出具合が、装飾や刃こぼれまで検出すると分かっているのは我々くらいなものです。だから、たまたま似たような剣であっても、本物だとは誰も思わないでしょう」

 

「……まぁ、確かにそうだ。似た剣を造るだけなら他の国でも出来る」

 

「左様で。では、まずは起動に関しての反応から見ましょうか。聖戦士様。まずはこの駆動部に剣を差してください」

 

 駆動部、と示されたのは鞘型の部位だ。蒼はおっかなびっくりに剣を差し込む。

 

 すると、最奥に座していた《キヌバネ》の眼窩に光が宿った。青い結晶体が煌めき、オーラの力を充填する。

 

「これは……! ザフィール騎士団長で想定していたオーラに極めて近い数値です! この数値が出るのならば……」

 

「俺は要らない、か?」

 

 肩を竦めたザフィールに蒼は、いえと首を振っていた。

 

「これは……わたくしの力とは、言えませんから」

 

 しょげた蒼にザフィールは言いやる。

 

「お前の力さ。それに、《キヌバネ》はこれから先、もっと飛べるって事が証明されたんだ。そんな顔しないで喜べよ!」

 

 背中を叩かれて蒼は困惑する。《キヌバネ》が完成しても、ザフィールが死んでしまえば意味がないのだ。

 

 だから、《キヌバネ》起動が自分からしてみれば吉兆とは思えない。むしろ、逆であった。《キヌバネ》が目覚めなければ、ともすればザフィールは戦場であそこまで苛烈に戦って散る必要性はなかったかもしれない。

 

「……何かあったって顔だな。詳しくは聞くつもりはないが、まずは一歩目だ。《キヌバネ》は聖戦士の剣でも起動出来るっていう証明だな」

 

「ええ。しかしそれだけではありません。聖戦士様の持つオーラ力はザフィール騎士団長に匹敵します。これなら、もしもの時でも……」

 

 そこまで口にして、研究者は失言だと感じたのだろう。慌てて口を噤んだのを、ザフィールが面白がる。

 

「もし、俺が戦えない状況でも、だろ? 心強いじゃないか」

 

「……すいません。そんなつもりでは」

 

「いいって事よ。俺もいつ戦えなくなるか分からん。そういう時、俺の背中を任せられる奴がいるだけ違うっていうものだ」

 

「……わたくしが?」

 

 集中した視線にザフィールが頬杖をつく。

 

「他に誰がいるって言うんだよ。写し身の剣に、それに桁違いのオーラ力、これほどの適任者もいないだろ」

 

「しかし……やはり《キヌバネ》はザフィール騎士団長を主軸に置いて設計をすべきかと……」

 

 ザフィールと同期であったと言う研究者が進言する。やはり騎士団長の名前は堅い。その名誉を傷つけるくらいならば代わりなんて持たないほうがいいに決まっている。

 

 ザフィールは別段、気にも留めていないようであった。

 

「……俺は構わないんだが、みんな、気にし過ぎだろう。そこまで神経を尖らせる事か?」

 

「……騎士団長の存在が我が方の軍の士気に関わっているのです。如何にエ・フェラリオの力で四十名以上の聖戦士を呼び出したとはいえ、彼女らは皆、素人。それに引き替え、あなたは……」

 

「あー、もう分かったよ。変に気を遣わせる事は言わないさ」

 

 それでも、どこか承服し切れていない様子のザフィールに、蒼は進言していた。

 

「……もっと専用の武装を考案してみては? 騎士団長にしか使えないような……」

 

「たとえば?」

 

 蒼は呻る。今までの時間線でザフィールのみが発動せしめた技を思い返すと、自然と行き着いた言葉があった。

 

「……オーラ斬り……」

 

 にわかにざわめく。研究者達が磁石のようにさっと引いたのが手に取るように分かった。何か、禁忌でも口にしたであろうか。慌てて取り成そうとする。

 

「……す、すいません。素人考えの言葉を……」

 

「いや、アオ。今の名前、どこで聞いた?」

 

 いやに詰めた声音のザフィールに蒼ははぐらかす。

 

「どこかで……。聞いたような気がするんです」

 

「そう、か。それは結構、バイストン・ウェルでは重要な言葉でな。三十年前……アの国にて、開発された、最初期のオーラバトラーがある」

 

「……名前を《ダンバイン》。オーラバトラー、《ダンバイン》……」

 

 何か、特別な意味を持っているかのように研究者は繰り返す。蒼はその緊張感をはかりかねていた。

 

「《ダンバイン》……。それが何か?」

 

「その《ダンバイン》に乗っていた……聖戦士。そいつが発現せしめたオーラを凝縮し、相手へと放つ切断技。それがオーラ斬りであったと、言われている。分からないのは、その戦いに赴いた人間は皆、死に絶え、伝説と噂ばかりが独り歩きしているからだ。だから、本当に《ダンバイン》があったのか、それともその聖戦士なんてものが、本当に一国の戦いに介入するほどのオーラ力であったのかも、全てが不明のまま。……そう、不明のまま、闇に葬られてもおかしくはない、物語であったはずなんだ。だが、コモンの間でまことしやかに語られる伝説の奥義を、まさか聖戦士の口から聞くなんて思いも寄らなくってな……」

 

 それでコモン人は恐れを成しているわけか。しかし、だとすれば疑問なのは、どうしてあの最終局面、ザフィールはオーラ斬りを発現出来たのだろう。

 

 その疑念が突き立ったまま、研究者は次の話題を振る。

 

「し、しかし、《キヌバネ》もなかなかにいい数値を記録しています。これなら一週間もあれば肉づけ出来るかも」

 

「痩せっぽちで骨ばっている今の状態から、少しはマシになるか?」

 

 ザフィールの問いかけに研究者達は笑い返していた。

 

「言わないでくださいよ、騎士団長」

 

 和やかな空気が包む中、蒼だけが不安に駆られる胸の内を隠していた。

 

《キヌバネ》の完成、それは即ち――あの破滅がゆっくりと、しかし静かな歩みをもって、近づいていると言う事実であったからだ。

 

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