リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第七十六話 暗君霹命

「《マイタケ》の鹵獲は想定外だ。騎士の資格の永久剥奪も視野に入れいていたが、どうやらその必要はないらしい」

 

 振り返ったギーマは忠誠を誓う屈強なる騎士を視野に入れていた。

 

 グランは進軍した時のまま、その岩石のように険しい面持ちの中に忠義の光を宿している。

 

「このグラン、一命にかけて汚名をそそぐ所存でございます」

 

「よい返答だ。だが……こうして名前もない村に赴いたのには理由があってな。……正直に言えば、我が方の軍備力はもう少しで拡充される、と言うところに来て弊害が出てしまった。強獣の巣穴に誰かが仕掛けたらしい。ジェム領ではない、というのが軍師であるミシェルの見立てだ。敵国がやるにしてはかなり……えげつないやり口であったと聞く」

 

 実際にミシェル・ザウ――ゼスティアの聖戦士の言によれば、強獣の骸が四散し、血の痕跡も色濃い事から強獣同士の共食いも可能性には挙がったが、それを否定する論拠として、新たなる脅威が浮上したのだ。

 

「……強獣同士が喰い合ったのでは?」

 

「それも考えたさ。だが違うと言うのが、その帰路についていた者達の証言で明らかとなった。村々を焼いて回る、とあるオーラバトラーと騎士がいると、小耳には挟んでいたがまさか我が先遣隊がそれに遭遇するとは予想もしていない」

 

 ギーマは苦味に顔をしかめる。二十数名の強獣狩りに用いた先遣隊はほとんど全滅。そして生き残った者達も手傷を負った。

 

 無論、それは敵国には割れていないが、出来るだけ資金と資材を手広く得る必要がある。少なくとも国防と強襲の要であった《マイタケ》とグランを永久に失ったと思っていたゼスティアでは余裕などなかった。

 

「……状況は芳しくないご様子」

 

「正直、そうだと言える。今ジェム領が仕掛けて来れば、危うい程度には。だが、貴様が帰ってきてくれるとなれば一騎当千だ。これでジェム領からの強襲に備えられる」

 

「ありがたきお言葉」

 

 傅いた騎士にしかし、とギーマは思案を浮かべていた。

 

「……あの少女騎士、何故わたしの事を知っていた? ジェム領で我が姿を見た者と言えば限りなく上級の騎士のはず。名のある騎士ならば必ず風評が流れてくる。だと言うのに……見た事もない少女騎士など」

 

「聖戦士なのです。あれは」

 

 グランの言葉に、なんと、と目を見開く。

 

「まことか」

 

「確認済みです。あのフェラリオ、アルマーニュ・アルマーニは相当数の地上人を召喚したと」

 

「……あの時の強襲失敗のせいで、正確な数までは割れなかった……。それが今になって効いて来るか……」

 

 事前にジェム領の地上人召喚の儀の事は忍び込ませていた密偵であるトカマクから聞かされていたのだが、その情報も当てにならなかった。まさか、即時応戦するとは思っても見ない。殺し損ねた地上人の一人が、こうして牙を剥いてくるなど。

 

「……だが、あの時の地上人だとすれば余計に分からない。わたしは一度として、生身で戦線には出ていない……」

 

 ミシェルを伴った強襲は何度かあったが、前に出るのは聖戦士である彼女の役目である。自分は後方支援型の《ブッポウソウ》で安全圏からの援護と、そして戦局を見ての早期撤退が常であった。

 

 だから、聖戦士とは顔見知りのはずがないのだ。

 

 だと言うのに、あの少女騎士の殺意には迷いがまるでなかった。まるで最初から、自分の事を敵だと認識しているかのような……。

 

「……分からぬ事は一つでも減らしたほうがいい。グラン、この村を去る際、あの者の首を刎ねておけ。禍根を残すよりかはいい」

 

「ですが、聖戦士相当ならば、捕虜として扱う手も……」

 

「余裕がないと言うのはそれもあってな。貴様が捕獲された後、こちらのエ・フェラリオを使って再召喚を行った。その結果、二名の聖戦士の召喚に成功したのだ。その者達にあてがう試作型のオーラバトラーを完全に補強するのに、材料が足りん。ゆえに強獣の巣へと仕掛けたわけだが……結果論として失うもののほうが大きく、こうしてわたしは資金繰りに奔走する羽目となったわけだ」

 

 肩を竦める仕草をするとグランは瞠目していた。

 

「聖戦士……」

 

「そうだ。しかも少女だよ。どうしてこう、引き運が悪いと言うのか……。ミシェルの時に女は扱い飽きたと言うのに。おっと、これは言ってくれるなよ。あれで恐ろしい素質の持ち主だ。怒らせたくはない」

 

「承知していますが……新たな聖戦士が二名も……。それはバイストン・ウェルに破局をもたらすのでは?」

 

「聖戦士の多重召喚はフェラリオからしてみてもタブーらしい。何度も拒んだが、我が方の戦力補強には仕方ないのだ。最終的には拷問を用いた」

 

 それもこれも、ジェム領と言う弱小国家にいつまでも手を焼いているからだ。

 

 正直なところを言わせれば、一気呵成に攻め立てて、すぐにでも城を落としてやればいい。だがそれが出来ないのは土地柄にもよる。

 

 ジェム領に強襲をかけようと思えば、隔てる国境の森を抜け、巨大なる城壁と門扉を超えるしかないのだ。

 

 他の方法で幾度か歴史上では試したそうだが、どれも失敗に終わっている。敵対国家に、真正面から挑むと言う愚策しか、この何十年では通用していない。

 

 敵も真正面からの攻めには弱いようで、幾度かはオーラバトラーの破壊にも成功しているが、敵の騎士団は思ったよりも粘り強く、圧倒的有利な戦局でも相手は覆してくる。

 

 だから、強襲からの撤退が常となってしまった。

 

 ギーマは腰かけた椅子の肘掛けを忌々しげに握り締める。

 

 こんなだから、他国の援助を受けようにも、腰の引けた領国と言う評価がついて回る。畢竟、自分の国は自分で回せと、何度も外交面ではさじを投げられてきた。

 

 オーラの適性面では勝てているのに、オーラバトラーの技術では劣り、防衛成績はいいはずなのに、奇襲では一度として成功を収めていない。

 

 ほとんどいたちごっこに近い。むしろ他国からしてみれば、どうしてその均衡が崩れないのかと不思議がられてしまう。

 

 それは次期領主としては致命的な屈辱であった。

 

「……今回の外遊、他国にオーラバトラーの支援を頼んだのだが、どこもかしこも三流以下の、《ドラムロ》の払い下げのようなものを寄越す。嘗められているのだ、我が国は!」

 

 怒り心頭に達し、肘掛けを殴りつける。それをグランは静かに諌めていた。

 

「ジェム領との間に降り立った因縁を理解している他国も少ないでしょう。理解ある支援国を募るのが、最大の道標かと」

 

「分かっているさ、クソッ! どうしてこう、連中は平和ボケを他者にまで押し付ける……! 三十年前の浄化の再現を恐れて、敵国との干渉のない国家はどいつもこいつも軍縮だ。それが平和への近道だと抜かす。整備不良の《ドラムロ》なんて、使い物にならんと整備士のミ・フェラリオがぼやくのを、どうしてわたしが聞いてやらねばならんのだ!」

 

「しかし、聖戦士二人の戦力です。使えるのでは?」

 

「……ああ、まともなオーラ力ならな。それなりに二人とも素質はある。だが……肝心なオーラバトラーがまだ剥き出しの筋肉繊維を、これから調達する段階だ。これでは勝てるものも勝てん」

 

 嘆息をついたギーマへとグランは問いかける。

 

「……して、その新型機、どのような代物で?」

 

「《マイタケ》に資源を費やし過ぎた。オーソドックスな、騎士型のオーラバトラーだ。《ゲド》を基本骨格とし、アルビノのキマイ・ラグを使って装甲の軽量化と、高機動の実現をはかった新型機。まぁ、軽くそして必要オーラ値を高く設定した、《ゲド》の発展型とでも言えばいいのか。型の名前は、確か……《ソニドリ》、と言ったか」

 

 その名前にグランが僅かに反応したのが伝わったが、彼には教えていないはずである。その対応も含めて、後で言いつける必要があるだろう。

 

「……左様でございますか」

 

「何か、含むところのあるような言い草だな、中佐」

 

「いいえ。このグラン、一命をもって、失った信頼を取り戻す所存でございます」

 

「口だけはいい。戦果で示せ」

 

「御意に」

 

 だが、本国も浮き足立っている。ジェム領との確執は明らかに、以前までよりも濃くなっているのだ。そんな矢先に、敵の騎士を捕らえたとなれば、風向きは果たしてこちらに向くであろうか。

 

「……戦局とは、如何ともしがたい代物でもある。何が優位に向くのかもな。《マイタケ》を失った分、しっかりと働いてもらおうか、グラン。連中を根絶やしにするぞ」

 

 これは殲滅戦なのだ。相手を草根の一つでも残してはいけない。禍根を残すくらいならば敵を一蹴して見せよう。

 

 グランは傅きながらも、言葉を返していた。

 

「……ですが、こちらの戦力が整っていない事を露見されればまずいのでは?」

 

「誰が整っていないと言った。既に整いつつあるのだ。それを、誰かが話でもしない限りは大丈夫だ。それに、あの騎士とフェラリオくらいなものだろう。ゼスティアの領地ギリギリまで迫っているのは。ジェム領の連中は弱腰さ。今ならば押し切って時間を稼ぐ。その間に《ソニドリ》とやらを完成させればいい」

 

「それほどの……オーラバトラーなので」

 

「持たせれば力となるのは確定だ。聖戦士を呼んだくらいだ。当てにならなくては困る」

 

「ですが、少女でしょう」

 

「そちらの同行していた騎士も少女騎士ではないか。それとも……あの乙女は違うとでも言いたいのか?」

 

 探ったギーマにグランは滅相もないと頭を振る。

 

「ジェム領も必死であると言うだけの話です。手負いの獣は最も恐ろしい」

 

「そうだな。だからこそ、徹底的だ。徹底的に潰す。それ以外を考えないでいいほどに」

 

 拳を握り締めたギーマにグランは忠義の声を出すばかりであった。

 

「我が命は主君のために」

 

「堅苦しいな。《マイタケ》の件は帳消しでもいいと言っているのだ。だがまぁ、この先の働き次第な部分もある。勝ってもらうぞ、グラン。貴様には、とことんまで、相手を殺し尽くしてもらおう」

 

 それこそがゼスティアの主が今、部下に指示すべき事柄であろう。

 

 

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