リボンの聖戦士 ダンバイン外典   作:オンドゥル大使

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第九話 歪曲怒号敵陣

 兵士達は剣を振るえば三々五々に散る。

 

 当たる距離であっても当たらぬ距離であっても関係がなかった。むしろ、一発でももらえばそれこそ致命的とでも言うように、逃げに徹する兵士達は奇妙に映ったほどだ。

 

「兵士の数が増えてきた!」

 

 翡翠の声にティマが続く。

 

「《ソニドリ》が近いんだ!」

 

「地下室って言ったよね? まだここに来て日が浅いからよく分からないんだけれど、例えばどういう場所に地下室を設けるの?」

 

 その問いにティマは考え込んだ。

 

「うぅーん、あたしみたいなミ・フェラリオなら、オーラの高い場所かな。自然とオーラバトラーの格納庫は、滞留したオーラを放出するための通気孔があるはずなの。だから、オーラの流れさえ追えれば……」

 

 オーラの流れ。その言葉に、翡翠は立ち止まった。

 

 今まで闇雲に場内を掻き乱してきたが、オーラとやらの流れが分かるのならば、それを利用すればいい。

 

《ソニドリ》に乗った時の感覚を思い返す。あの時、自分と《ソニドリ》が一体化した時の強い共鳴を。

 

 瞼を閉じる。視野は邪魔だ。余計なものまで入ってくる。

 

 ただ感じる。オーラの滞留、その澱みを。

 

 不意に額で弾けたものを感じて翡翠は目を開けた。直後の視界には、城内に漂う虹色の光で満たされている。

 

「エムロード?」

 

「――これだ」

 

 虹の輝きが一点に集中している箇所を発見する。駆け出した自分に慌ててティマが付き従った。

 

「何だって言うの?」

 

「オーラが見えた!」

 

「見えた? 馬鹿な事を言わないでよ。ミ・フェラリオにだって、オーラの明確な流れなんて見えないのに」

 

「でも見えた! こっちの方角! オーラがまるで噴き出すみたいになっている」

 

 オーラの噴出地点へと翡翠は駆け寄っていた。地面からおびただしい虹の風圧が流れ込んできている。

 

 剣を地面に突き刺すと、隠し扉が開かれた。

 

「ウソ、本当にあった……」

 

「言ったでしょうに!」

 

 階段を駆け降りると、研究者達が密室で肩を寄せ合っていた。剣を突きつけ、周囲を見渡す。

 

「地上人か……捕らえたはずでは」

 

「悪いけれど、あんまり滞在する気はない! ここにも、元の場所にだって!」

 

 剣で脅すと、研究者達は命惜しさに退いていく。部屋の最奥にあったのは、白いオーラバトラーであったが、《ソニドリ》と同一ではなかった。

 

「あたしの《ソニドリ》が! 無茶苦茶だよ! こんな大型のコンバーターを付けて! それに癖が悪い! 目元まで隠してある!」

 

 確かにティマの言う通り、剥き出しであった眼球部位には緑色に輝く結晶が備え付けられていた。背部には足元まで伸びる長大な甲殻がある。その下に翅が隠れている形であった。

 

「《ソニドリ》……なんだよね……?」

 

「ここまでなっちゃったらもう別物! って言いたいけれど、乗るしか!」

 

「分かってる!」

 

 胸部の結晶体に触れると三枚に開き、操縦席が覗く。幸いな事に操縦席は弄られていなかった。

 

 鞘に収まった結晶剣を掴むと、《ソニドリ》の内部神経伝達が脳内へと直接、語りかけてくるようであった。

 

 ――間違いない。この機体は《ソニドリ》だ。

 

 確信を新たにした翡翠は《ソニドリ》へと意識を飛ばす。内部で弾けた思惟が骨格を伝導し、《ソニドリ》の白い躯体が軋んだ。

 

「行こう! 《ソニドリ》!」

 

 叫んだ途端、《ソニドリ》が咆哮し、瞬間的に飛翔する。その速度は前回の比ではない。重圧に押し潰されるかに思われたが、内部に襲ってくる過負荷は思いのほか小さかった。

 

《ソニドリ》の腕が腰に備え付けられた武器を掴む。

 

 神経伝達が行われ、翡翠の脳内へと武器の使用方法がダイレクトに与えられた。

 

「オーラショット……、これなら!」

 

 射撃武器が装備され、照準が視界の中に浮かび上がる。迫った天井にティマが悲鳴を上げた。

 

「ぶつかるわ!」

 

「やらせない!」

 

 引き金を引くイメージを脳内で描くと共に、発射された弾丸が天井を打ち砕いた。炎を上げ、焼け落ちた天井を突き破り、《ソニドリ》がさらに高空へと飛翔を遂げる。

 

「……驚くべき事に、すごく素直で扱いやすい……」

 

 その言葉にはティマがいきり立って反発する。

 

「ウっソだぁー! 絶対致命的な欠陥があるんだから!」

 

「でも、《ソニドリ》自身も、今の状態がベストみたいだけれど……」

 

 濁すとティマは腕を組んで鼻を鳴らした。

 

「あたしが整備してないのに最善なんて!」

 

 ごもっともな意見ではあったが、翡翠は《ソニドリ》を城砦から逃れさせようと翅を出させる。

 

 高速振動した翅が空域を離脱するための速度へと達しようとした。

 

「……このまま、帰れるのかなぁ」

 

「どこをどう来たのかは分からないけれど、大体の地理は頭に入ってる。森林を抜ければすぐだよ!」

 

 今はティマに任せるしかない。そう思った直後、肌を粟立たせるプレッシャーの波に翡翠は直感的に機体を止めていた。

 

 慣性で機体が流れたお陰が、地上からの対空砲撃が刺さる直前であった。

 

「……危なかった」

 

 胸を撫で下ろすティマに翡翠は続け様の攻撃を予見する。

 

「次、来るよ!」

 

 城壁から出現したのは茶色のオーラバトラーであった。ティマが叫ぶ。

 

「《ゲド》なんて! 蹴散らしちゃって、エムロード!」

 

「だから、ボクは翡翠だってば!」

 

《ゲド》と呼ばれたオーラバトラーが抜刀する。《ソニドリ》に出来るだけ距離を取らせようとするが、地上展開する《ゲド》の残存部隊が滑空砲に点火し、飛び回る《ソニドリ》を狙おうとする。

 

「狙いがつけられない!」

 

「一旦降りるしか!」

 

 だが、と《ソニドリ》の眼下で既に待ち構えている《ゲド》の数は尋常ではなかった。

 

「ウソ……何これ。三十機以上……、度を越している! こんなに《ゲド》がいたって、パイロットが……」

 

 しかし、どの機体も正常に動いているように映った。言ってしまえば地を埋め尽くさんばかりの甲殻の兵士は全て敵――。

 

「……勝てない勝負だと思う?」

 

「正直。でも、《ソニドリ》なら! あたしの《ソニドリ》とエムロードなら出来るよ!」

 

「……翡翠だって。でも、その意見は同感! 敵と出会い頭に斬りつける!」

 

 オーラショットを腰に直し、《ソニドリ》に剣を構えさせる。肩口に装備された鞘から黒い剣が抜き放たれた。

 

 同時に操縦席で結晶剣を引き抜く。内側から拡散したオーラの輝きが乱反射し、《ソニドリ》の持つ剣に神経を埋め込んでいく。

 

 黒い剣が弾け、内側から虹の皮膜が張った。

 

 雄叫びと共に追撃してきた《ゲド》へと剣閃を見舞う。《ゲド》はまさか剣の余波が飛んでくるとは思っていなかったのか、その一撃を振るった一閃で受け止めるが、余剰衝撃波が《ゲド》の茶色い装甲を焼き切った。

 

 火達磨になった《ゲド》が急速に高度を落としていく。

 

「見たか! これがあたしの《ソニドリ》!」

 

 ティマの声に応じる前に地上の滑空砲が火を噴く。地表ギリギリまで高度を落とし、《ソニドリ》が疾走した。

 

 敵オーラバトラーの刃をかわし、その腕へとカウンターの一撃を浴びせる。断ち切られた腕が舞い、青い血が迸った。

 

 敵の砲手がこちらへと狙いを定める。二機の《ゲド》が砲身を固め、もう一機の《ゲド》が松明を手に点火しようとする。

 

「させるか!」

 

 左手にオーラショットを握り、翡翠は瞬間的に照準を合わせた。発射された弾頭が松明の《ゲド》へと突き刺さり、その胸部を突き破った。力なく倒れた《ゲド》の松明から炎が燃え移り、一瞬にして隊列を混乱のるつぼに落とし込む。

 

「やった! これで《ゲド》部隊は迂闊に攻撃出来ない!」

 

 ティマの歓声に比して、翡翠は肩を荒立たせていた。これほどまでの集中、今までの剣道の試合でも経験した事がない。

 

 加えてこれは竹刀による打ち合いではなく真剣による殺し合い。

 

 集中力の消耗が行き着く先は自然と導き出される。

 

「エムロード? 《ソニドリ》の高度が下がっている。何? どうしたの?」

 

 顔を覗き込んでくるティマへと言葉を返そうとして、刹那、全身に圧し掛かったプレッシャーに、翡翠は剣を掲げていた。

 

 操縦席に虚像の剣が発生し、結晶剣と激しく打ち合う。火花が散り、《ソニドリ》は地面へと衝突していた。

 

 粉塵が舞う中、敵の声が通信網に響く。

 

『騎士団長! 《キヌバネ》で出られるほどでは!』

 

『いや……、一機にここまで押し込まれるとなれば相当だ。《キヌバネ》の一閃、耐えられるはずもない。確実に――殺した』

 

 その冷たい声に翡翠は瞬間的に目を見開いていた。

 

 溢れ出たオーラが逆巻き、《ソニドリ》の白い主翼が逆立つ。

 

 立ち上がったばかりではなく、オーラを噴出させる《ソニドリ》と対峙したのは、黒い騎士であった。

 

 甲殻系統は《ソニドリ》と同じようなものだが、青く輝く結晶を胸元と眼窩に宿している。

 

『……《キヌバネ》の一撃に耐えた? なかなかにやる。地上人のオーラバトラーだな』

 

「ちょっと! エムロード! どうしたの!」

 

 息を獣のように荒立たせ、敵を睨む自分をティマは意識の外で何やら叫んで呼びかけている。

 

 だが、今はそのような声に頓着する間さえも惜しい。

 

 何故ならば――眼前に佇むのは完全なる敵であったからだ。

 

 迷いのない太刀筋が叩き込まれた時点で、一瞬で理解出来る。

 

 相手は、殺すつもりで打ってきた。先の岩石オーラバトラーのような攻撃とも違う、無論、今もどこかうろたえて戦局を見据えている《ゲド》部隊とも、まるで。

 

 相手は、本物の剣士だ。

 

 その予感に翡翠の戦闘神経がささくれ立ち、呼応した《ソニドリ》が主翼を広げ、緑色の眼光を注いでいた。

 

 敵が、漆黒の敵が、こちらを見据え、言い放つ。

 

『ああ、そうか。……怖いんだな、わたくしの、《キヌバネ》が』

 

 言い当てられた羞恥だけではない。これは喰い合いだ。そう断じた神経が《ソニドリ》を奔らせた。

 

 剣を突き出した形で《ソニドリ》が瞬間的に敵へと肉迫する。その速度、今までの比ではないはず。

 

 しかし、右腕の神経と同調した刃はこの時、完全に受け止められていた。

 

 剣ではない。敵の鉤爪のような二本の指で、であった。

 

「白刃取り……!」

 

『未熟』

 

 断じた声の冷たさはそのままに下段より振るい上げられた刃を、《ソニドリ》は後退して回避する。

 

 しかし、その剣筋は一本調子ではない。すぐさま直角に折れ曲がった剣が《ソニドリ》を叩き潰そうとする。

 

 おかしいと感じたのは、その威圧だ。

 

 大きさは《ソニドリ》と変わらないはずなのに、敵機の迫力は明らかに倍か、あるいはそれ以上。

 

 気圧される、という感覚に翡翠は意識の奥底で思い返していた。

 

 この剣の持ち主を。

 

 記憶の中に漂う、剣の故郷。刃の辿る道標の先にいる人間――。

 

 目指し続けた、憧れの断崖を。

 

 振るい上げられた刃に翡翠は覚えず呟いていた。

 

「蒼、先輩……?」

 

 そのようなはずがないのに、どうしてだろう。この時、地上世界で邂逅した、最強の使い手と、眼前の漆黒騎士がだぶったのは。

 

 しかしその一瞬、相手の太刀筋が緩んだ。

 

『……まさか、翡翠、か?』

 

 ハッと気づくのと、ティマの声が劈く現世へと呼び戻されたのは同時。

 

《ソニドリ》は足の爪を立てて機体に制動をかけさせる。刃が振るわれ、それをこちらの剣が受け止めていたのは反射的なものであった。

 

「エムロード! どうしたって言うの!」

 

「……本当に、蒼先輩、なの……?」

 

 通信域に滲んだ疑念に相手の声が応じていた。

 

『まさか、翡翠……。あなたも、オーラ・ロードを潜っていたなんてね』

 

「どうして……、どうしてこんなところに……」

 

『それはこちらの台詞でもあるんだけれど、聞いている暇はない様子』

 

 敵オーラバトラーが薙ぎ払い攻撃を見舞ってくる。《ソニドリ》に受け止めさせたが、あまりの剣圧に武装が吹き飛んだ。

 

 右腕に電撃的に走った激痛に、翡翠は意識を持っていかれそうになる。それでも一線を保ったのは、目の前の敵が自分のよく知る人間だと、確信したからであろうか。

 

「蒼先輩……。行方不明って……だって」

 

『あっちではそうなっているの。でも、もう関係がないよね。だってわたくしは、ここで生きると決めたんだから!』

 

 漆黒の騎士が瞬時に接近する。《ソニドリ》が翅を振動させて風圧を生み出したが、それを児戯とでも断じるかのような一撃の重さに翡翠は呻いた。

 

「どうして……、どうして!」

 

『話し相手を! 探っているわけでもないでしょう!』

 

 横合いからの剣筋を《ソニドリ》が片腕で受け止めるが、斬、と言う無慈悲な響きと共に肘から先を切り落とされる。

 

 痛みはない。だが限りなく無為な喪失感のみがある。

 

「……何があったって……」

 

『だから、お喋りに来たわけじゃ……!』

 

 空間を飛び越えたような踏み込み。これも習い性だ。蒼の十八番である。相手の懐へと一気に飛び込み、そのまま――。

 

「薙ぎ払う奴を!」

 

 オーラショットを盾にして一閃を防ぎ切るが、せっかくの武装が断ち切られてしまった。引火する前に手離したのは正解だろう。

 

 右手を失い、武器まで失った《ソニドリ》に勝ち目はない。

 

『こちらの踏み込みが浅かったか。あるいは、もう慣れた? わたくしの踏み込みを』

 

 剣を突きつける漆黒のオーラバトラーに翡翠は歯噛みしていた。

 

「何で……何があったんですか!」

 

『語って聞かせるほどの話でもない。敵ならば斬るのみ!』

 

 敵が一気に肉迫し、《ソニドリ》の胸部へと打突を見舞おうとする。

 

 その時、火線が不意に咲いた。

 

 敵が後退する。周囲の《ゲド》が色めき立った。

 

『敵襲?』

 

 城下町へと爆雷を投擲したのは、見覚えのあるオーラバトラーであった。

 

「《ブッポウソウ》……。ミシェル?」

 

『さんをつけなさい、エムロード! 加勢に来たわ!』

 

《ブッポウソウ》だけではない。《ドラムロ》と呼ばれていた機体が二機ともう一機、小型のオーラバトラーが随伴している。

 

 一機の《ゲド》が飛び込み、《ドラムロ》の包囲陣を蹴散らした。剣を所持した《ゲド》が《ドラムロ》を翻弄し、重火器がそれぞれ互いを撃ち抜く。

 

『遅い、脆い! 随分と小さいな、新型のオーラバトラー。もらったァっ!』

 

 剣を振るい上げた《ゲド》へと、その小さなオーラバトラーが行った事は少ない。篭手に装備した火器を掃射し、《ゲド》の視界を一瞬だけ眩惑させる。その際に生じた隙を逃さず、《ゲド》の側面へと回り込み、小刀を《ゲド》の腹腔へと叩き込んだ。

 

 そのまま返す刀の勢いを殺さずに振るい上げられた足首より、刃が顕現する。仕込み刀が《ゲド》の首を掻っ切った。

 

 青い血飛沫が舞い、《ゲド》がその場に突っ伏す。

 

 一瞬の出来事に誰もが唖然とする中で、漆黒の機体からの声だけが明瞭に響いた。

 

『小さいが、あのオーラバトラー。強いな』

 

 紫と黄色を基調とした小型オーラバトラーが《ゲド》部隊を睨む。気圧されたように《ゲド》が退いていく中、ミシェルの声が響き渡った。

 

『こちらに合流なさい! 《ソニドリ》を回収するわ!』

 

 しかし、と翡翠は敵部隊の中心にいる漆黒の騎士を見やる。

 

「蒼、先輩なんですよね……」

 

『最早分かり合えぬ』

 

 飛翔した漆黒のオーラバトラーに続き、《ゲド》部隊が撤退に入る。それを好機と見たのか、ミシェルの駆る《ブッポウソウ》が城下町に火を放った。

 

 ごうごうと燃え盛る火の手を潜り抜け、《ソニドリ》を走らせる。だが、翡翠は飛び去っていく漆黒のオーラバトラーを視界の端に入れていた。

 

「……何で、こんな事。……こんなのって……」

 

「エムロード。泣いているの?」

 

「うるさいっ! ボクは翡翠だ!」

 

 言い捨てた言葉を仕舞う間もなく、《ブッポウソウ》が《ソニドリ》の後ろへと潜り込む。

 

『驚いたわね。《ソニドリ》がまるで生まれ変わっている……』

 

「ジェム領の連中、勝手に改造して! あたしの《ソニドリ》なのに!」

 

 訴えかけるティマに比して言葉数が少ないのだと思われたのだろう。ミシェルが問いかける。

 

『……エムロード。どうしたの?』

 

「……何でも、ない」

 

『ミシェル、帰投しなければ余計な被害を出す。今は撤退に専念しろ』

 

 ギーマの言葉にミシェルは舌打ちする。

 

『ジェムの城下町に入るまでビビッていたくせに』

 

『聞こえているぞ! わたしは慎重に行けと言ったんだ! 《ガルバイン》を危険に晒してまで!』

 

《ガルバイン》、と呼ばれた機体はギーマの操る《ブッポウソウ》に追従していた。

 

 女性を思わせる細身のデザインに、紫と黄色が入り混じった独特の色彩をしている。

 

「……あのオーラバトラー……分かんないけれど、メス……だよね?」

 

「オーラバトラー自体に性別はないけれどね。でも、メスっぽいし、それに《ドラムロ》よりもちっちゃいなんて……。どういう技術を使ったわけ?」

 

『《ゲド》を改造したのよ。《ソニドリ》のデータも使ったけれどね』

 

「やっぱりそうか。ミシェル達だけじゃ造れないもんね」

 

『悔しいけれどその通り。優秀なメカニックが要るのよ』

 

 ティマをおだててどうするつもりなのだろう。翡翠は《ガルバイン》と呼ばれた機体を眺めていた。

 

「ちょっと可愛いかも」

 

「でも、あれ……強いよね。オーラとか、プレッシャーとか……」

 

 誰が乗っているのだろう。窺っていたその時、不意に通信を震えさせたのは意外な人物の声であった。

 

『翡翠! よかった、生きていて!』

 

「琥珀……。どうしてあんたまで? ミシェルの機体に乗ってるの?」

 

 その間違いを正すように、並走するミシェルの《ブッポウソウ》が前を指し示した。

 

 まさか、と翡翠が息を呑む。

 

「その……オーラバトラーに?」

 

『すごいんだよ、これ。あたしみたいなのでも動かせちゃう! 分からないもんなんだね、オーラ適性とかいうの!』

 

 声を弾ませた琥珀は先ほどまで血で血を洗う戦闘が行われていたなどまるで度外視したようであった。

 

 何かが少しずつ、歪み始めている。

 

 それが何なのか、まだ明瞭に説明する口を自分は持たなかった。

 

 

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