リゼリットが怪我を負ってから一ヶ月が経った。傷口は少しだけ良くなった。それ以上に驚いたのはシグの語学力の成長だ。この一ヶ月間、付きっきりで言葉を教えているからか、シグは段々と普通に話せる様に成ってきた。あの「とー」という可愛らしくリゼリットを呼ぶ声は変わり無いが。
「とー!」
何時もの様にシグがそう言いながら飛び込んできた。リゼリットは傷口に当たらない様に抱き抱えて頭を撫でる。何時ものリゼリットは表情が乏しく、何を考えているのか、親しい人でさえ分からないのにシグだけには笑ってみせる。
「どうした?」
「誰か来たよ!」
扉を叩く音が部屋の中に響く。
「誰ですか?」
「私だよ」
アイズの声だ。もう5度目にもなるがお見舞いに来てくれたのだろう。
「入れ」
扉が開き、アイズが入ってきて、ベッドの隣の椅子に座る。
「調子はどう」
「まぁまぁ、だ」
何時もと変わらない返答。しかしその声は強く、回復してきていることが良く分かった。
「もうそろそろで復帰出来そう?」
「そうだな」
アイズは安心した様に深く息を吐いた。そして屈託のない笑みを浮かべるシグ撫でた。
「シグちゃんも段々確り話せるように成ってきたね」
「そうか」
「うん」
沈黙。しかし決して気まずいものではなく寧ろ心地いい。この沈黙が自分等の日常なのだから。
「そう言えばこれ。リヴェリアから」
渡されたのは一通の手紙だった。封筒にはリゼリット・ハイドレンジア、という名前とアスフィ・アル・アンドロメダという名前が書かれていた。
「何?それ」
「ああ、義眼の作成依頼書だ。少し特殊な義眼を頼んだ」
リゼリットは便箋と領収書を封筒の中に入れて机の上に置き直した。
「そっちの調子はどうだ?」
「まぁまぁ」
「そうか」
再度訪れる沈黙。それを破る様にアイズは話した。
「良かった」
「?」
「リゼの調子が良くなって」
アイズは心配してくれていたのだ。アイズの他にもエイナ、ロキ、フィン、ガレス、リヴェリア、ティオネ、ティオナ、、、挙げれば切りがないがリゼリットの身を案じる者は沢山居た。少し照れ臭くなってベッドの上から手を伸ばして、乱暴にアイズの頭を撫でた。
「!!驚いた!!リゼがこうしてくれるとは思わなかった」
変な声を上げて驚き、喜ぶアイズが可笑しくなって少しだけ頬を緩ませたが、直ぐに真顔に戻った。
「シグは何時もこうして頭を撫でれば喜ぶ」
「そうなんだ。それと今、笑ってた?」
「、、、」
知らない。そんな訳は無い。有るわけがない。あれは違う。
「やっぱ笑ってた?」
「笑ってない」
「フフフフ」
可憐に笑うアイズは憎たらしい。まさかアイズにイジられることが有るとは思っても居なかった。これからは気を付けなければと思いつつ、頬を赤らめ、これも悪くない。そうリゼリットは思うのであった。
次回からは普通に行きます。訪問&~シリーズは閑話の様な物と思っていただければ。