「はい、どうぞー、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!」
あれから唯の向かった場所は綱吉の家で、迷わずインターホンを押した唯は綱吉と離れて買い物していたのだと、その途中ちょっと事件が起きて離れ離れになってしまい、ここに来れば綱吉がいるかと思ったと事実を含ませた嘘をついて、中に入れてもらった。
そして、綱吉の母、奈々からお茶をもらってお礼を言い、一息つく三人。
ちなみにリボーンは途中で、姿を消し、探そうかと思ったがひとまず二人の安全と思った唯が大丈夫と二人を説得して先に綱吉の家まで来て、流れ的にくつろぐことになった。
不安な気持ちは三人拭えないが、なんとか話題を明るいもので気持ちも明るくしようとハルが口を開く。
「そ、そういえばさっきの話の続きなんですけど!」
突然大声を出したので京子と唯はほぼ同時に驚く、しかしハルは構わず言う。
「沢村さんって、好きな人いるんですか!?」
「え、そうなの!?」
「え」
ハルの言葉に京子が唯を見て、言われた本人はポカンと口を開けている。
どうしてそんな話になったのか、本気でわからなかったからだ。
ハルは先程までの気持ちの落ち込みはどこへか吹き飛んだのか、興奮気味に唯に質問の経緯を言う。
「さっきすごく幸せそうに笑ってたじゃないですか!何を見たのかなと思ったらケーキ屋さんだったんですけど、もしかしてあのケーキ屋さんに好きな人でもいるんですか?」
いつの年代でもこういった話題を女子は好む、当然京子もこの話に興味を持って「どうなの?」と期待の眼差しで唯を見ている。
唯はさきほどのケーキ屋で自分の家庭教師を思い出していたことを思い出し、あの時かと苦笑した。
「ケーキ屋さんじゃないよ、その…でも、片思いでさ」
「なんと!私もある人に片思い中なんです!」
「いいなぁ、素敵だね」
ニコニコと穏やかな顔をする京子とお揃いですと笑うハルに唯は内心冷や汗をかく。
決してこういう話題が嫌いなわけじゃないし、自分がかかわらなければむしろからかったりしてやるところなのだが自分が関わるなら話は別だった。
なにより相手が相手だ、誰なんだと聞かれたら説明に困る。
「どういう人なんですか?」
ハルの質問に、やはり来たかと唯は緊張する。
誰なのかと聞かれなかっただけまだマシなのかもしれないと自分に言い聞かせて、遠回しに表現することにした。
「えっと…結構気難しいというか…自分の好奇心に素直な人…かな」
「好奇心旺盛ってなんだか子供っぽくって可愛いですね!」
「うん、それに人を区別しないから、一緒にいて気楽なんだ」
「人に平等に接することができるってすごいねその人、かっこいい」
「うん、あとね、意外と甘党で、私たまにお菓子作るんだけど、とびきり甘いミルクティーと一緒に食べるからギャップが、ね」
「ギャップ萌えってやつですね!たしかにそれはいいですね!」
「うん、その、あとね」
「沢村さん、その人のこと、本当に好きなんだね」
あとはあとはと、ヴェルデの好きなところを上げていこうと考えていた唯の耳に入ってきた京子の言葉に自然と俯きがちだった顔を上げて京子の方に顔を向ける。
京子と対面に座っていた唯は自然と京子の隣に座っていたハルの表情も見えてしまった。
二人の同じような表情、慈しむような優しいその眼差しに自分がどれだけ惚気たのかを理解して耳まで真っ赤にして視線を下に向ける。
それから唯は震える口から答えを告げる。
「好き、です…たとえ他の人から不快に思われるかもしれない人でも…好きです…!」
京子の言葉に答えているはずなのに、目の前にヴェルデがいるような気持ちで答えてしまった唯の顔はゆでダコのように真っ赤で、ついに顔を両手で抑えて二人から表情が見えないように隠した。
だから唯からは見えなかった、京子とハルがお互い目を合わせ唯が本気で恋をしているんだと微笑ましげに見ていることなんて。
そしてそこまで好かれている相手に会ってみたいと思っているなんて。
「青春ねぇ…」
ふと、そんな声が三人に振ってきて、まだ顔を挙げられない唯以外はその声の方に顔を向ける。
そこにはお菓子の乗った皿を載せた盆を持った奈々がいた。
自分の若い頃を思い出しているのか、懐かしげに目を細めた奈々は三人に近づいて座るとお菓子の入った皿をテーブルに置いて、一つため息を付いた。
「私もね、あの人が帰ってきて嬉しくって…ツナ君に嘘ついちゃっていたの忘れてはしゃいでだからあまり言えないけど、ツナ君にどうしてあの人のこと好きなのかって聞かれたらいくらでも話せちゃうわ」
事実似たようなことを聞かれて答えたことがあり、その時の綱吉はやはり理解できないと首を横に振っていた。
自分の夫を思い出しているのかほんのり頬を染めている奈々はそれから唯の方に少し体を近づけて唯の頭を優しく撫でた。
唯はゆっくりと両手を顔から離して奈々の方に顔を向ける。
「好きな人がいるって素敵なことよ、もちろん辛いこともあるけど、でも、その人がいる間は幸せな気持ちでいられる、その気持を大事にね」
だから恥ずかしがることはなんにもないのよ、と優しく笑う奈々に唯は泣きそうになった。
確かにその通りなのかもしれない、素敵なことなのかもしれない。
けれど、そうと思いこむにはあまりにも…。
「…はい」
ようやく出せた返事は、とってもかすれた声になってしまい。
それから綱吉達が帰ってくるまで女性陣だけで他愛ない話ばかりが広がっていったが、唯だけはその会話の中に入ることができなかった。